06. 2013年8月22日 11:24:46
: niiL5nr8dQ
JBpress>海外>アジア [アジア] 韓国政府を悩ます「増税反対、福祉拡充賛成」 税制改正案に大ブーイング、大統領の一喝で大幅修正 2013年08月21日(Wed) 玉置 直司 朴槿恵氏が韓国大統領選に出馬表明 朴槿恵(パク・クネ)現大統領は「福祉の充実」と「増税はしない」を公約に掲げて選挙を戦った〔AFPBB News〕 2012年末の大統領選挙で当選した朴槿恵(パク・クネ)現大統領は2つの政策を掲げていた。「福祉の充実」と「増税はしない」だ。 急速に高齢化が進む中で「福祉の充実」は待ったなしだが、その財源をどうするのか。政権発足から半年近く。満を持して発表した税制改正案だが、世論の大ブーイングを浴びてわずか4日で修正する羽目になってしまった。 2013年8月8日、玄旿錫(ヒョン・オソク)経済副首相兼企画財政相は「2013年税法改正案」を発表した。各種の所得控除を大幅に縮小し、これによる税収増を低所得層に対する「子供手当て」の財源など福祉拡充に充てようという計画だった。 発表とともに、すさまじい批判が巻き起こった。年間給与所得が3450万ウォン(1円=11ウォン)という中所得者以上にとって実質的に増税となるため、「福祉拡充のための増税はしない」という大統領公約に反するとの理由からだ。 「中間層に対する税金爆弾」批判にも「増税ではない」 発表翌日の新聞各紙は、「増税案」を厳しく批判した。メディアの批判は特に「中間層を狙い撃ちにした政策」という点だった。「中間層に対する税金爆弾」という表現を使ったメディアも多かった。 翌日の9日。趙源東(チョ・ウォンドン)大統領府(青瓦台)経済首席秘書官が韓国記者の間に姿を現した。前日の経済副首相の説明を補足して、批判を和らげるのが狙いだった。 趙首席秘書官は、丁寧に税制改正の中身を説明して理解を求めたが、記者たちから「増税は公約違反」と詰め寄られると、こう反論した。 「税の項目を新設するとか、税率を引き上げるということはなく、これは増税ではない」 このひと言に、メディアはさらに反発した。 メディアの論調は「増税は公約違反ではないか」という点に集中していた。そこへ「税負担は増えるが増税ではない」という説明では、火に油を注いだようなことになってしまった。 では実際いくらくらい税負担が増える計画だったのか。「中央日報」によると、500大企業の平均年俸である年間5890万ウォンの給与所得者の場合、税負担額は212万ウォンから219万ウォンに7万ウォン増える。大企業の部長級である年所得8000万ウォンの場合、486万ウォンから576万ウォンへと90万ウォン増えるという。 基礎年金の拡充や4大疾患に対する公的保険拡充など朴槿恵大統領が掲げている「福祉拡充策」に対しては大統領在任期間中の5年間で135兆ウォンもの費用が必要になる。 福祉の拡充に対しては国民的なコンセンサスがある程度できているが、問題はそのコストをどう負担するかだ。大企業の部長級で年間90万ウォンの負担ということは、見方によってはそれほど無理な負担とも言えまい。だが、「増税はしない」が公約だったと言われると、国民も考え込んでしまわざるを得ない。 メディアの嵐のような批判報道もあって、世論は次第に硬化していく。 原理原則にこだわる大統領がわずか4日で法案撤回 週明けの8月12日月曜日。青瓦台で開かれた首席秘書官会議。朴槿恵大統領はこう発言した。 「庶民経済が厳しい状況で、庶民や中間層の軽い財布をさらに薄くしてしまうようなことは政府が推進すべき庶民のための経済政策の方向ではない。この部分に対しては原点に戻ってもう一度検討してほしい」 発表からわずか4日間での軌道修正だった。 この日、最も忙しかったのは玄旿錫経済副首相だ。朴槿恵大統領の「原点から再検討を」という指示が出る前後に、午前中と午後の2度にわたって与党セヌリ党の幹部会と議員総会に呼び出され、強く「善処」を求められた。 「朴槿恵大統領は、原理原則にきわめてこだわるスタイルだ。一度決めたことは、多少の反対があってもたじろがずに進める。一度政府が発表した重要政策をわずか4日間で変えるということは、よほど強く『これはまずい』と考えたのだろう」。韓国紙デスクはこう説明する。 実際、「朝鮮日報」は8月17日付1面トップ記事で「世論調査機関・韓国ギャラップによる大統領の職務遂行に対する支持度が、1週間で5ポイント低下して5%になった」と報じた。 税法改正案発表を受けて、特にホワイトカラーや中間層の支持率下落が大きかったと報じている。 驚かされたのは、朴槿恵大統領が「原点からの再検討」指示を出した翌日の13日には、政府と与党が共同で「修正案」を発表したことだ。 今度の修正案では、実質的に税負担が多くなる年間給与水準を3450万ウォンから5500万ウォンに引き上げた。年間給与所得が5500万ウォンから7000万ウォンの給与所得者の実質的な税負担増も大幅に抑制した。修正案に対してはなお、野党が反発しており、国会審議でさらに修正される可能性もある。 政府にとって手痛いのは、修正案によって当初計画に比べて税収が年間4400億ウォン減少することだ。 景気後退による税収減少が追い討ち そもそも135兆ウォンもの「福祉予算」をどのように調達しようとしていたのか。 政府の青写真はこうだ。所得控除の縮小や公共投資の圧縮などを通して84兆ウォン、非課税措置の縮小で18兆ウォン、地下経済の摘発などで27兆ウォン――などだった。 税法改正案が修正に追い込まれた上に、もう1つ韓国政府にとっては好ましくないニュースがある。景気後退で税収が落ち込んでいるのだ。 2013年1〜6月の税収は92兆1877億ウォンで前年同期比9%減となった。9兆ウォンほど税収が減少したことになる。特に法人税は同16%減の21兆4338億ウォンにとどまった。 韓国は日本を上回る速度で少子高齢化が進んでいる。一方で、年金や医療制度など社会の「セーフティーネット」の整備は遅れ気味だ。 朴槿恵氏が、「効率・成長重視」から「国民の幸福」や「福祉充実」を重点政策に掲げ、これが支持されたことも社会構造が急速に変化しているためだ。 ただ、今後天文学的に増えることが確実な財源を「地下経済の摘発」や「公共投資の圧縮」などで賄うことは到底不可能だろう。 くるくる変わる経済政策の争点 「増税なき福祉拡充などあり得ない。国民の高い支持率がある政権初期に、早めに国民を説得してある程度の増税に対する合意を得ることが必要だ」。ある大学教授はこう語る。ただ、こと「増税」が争点となると、正論であってもすんなり合意を得られるわけにはいかない。 税法改正案については4日間で修正したが、「増税しない」という約束を、朴槿恵大統領がすんなり「修正する」とも言えないだろう。 つい1カ月前まで、韓国の経済政策を巡る争点は「経済民主化か経済活性化か」だった。8月になったとたん、今度は「福祉か増税か」だ。韓国のニュースはいつもあっという間に変わってしまうのだ。 |