06. 2013年8月20日 05:04:14
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「財政赤字」のからくりを知ろう2013年8月20日(火) 永濱 利廣 財政の健全度を表す指標の1つに基礎的財政収支(プライマリーバランス)がある。公共事業や医療、年金給付などの政策にかかる経費を毎年の税収や税外収入でどれだけ賄っているかを示す。バブル崩壊後の景気対策などで1990年代から収支は赤字が続いているが、政府は2015年度に2010年度に比べて赤字を半減し、2020年までに黒字にする目標を掲げている。 基礎的財政収支は基本的に景気変動に応じて変化するが、財政政策の裁量によっても左右される。そして、景気循環で変動する「循環的要因」と財政政策の裁量で左右される「構造的要因」に分けられ、現実のGDP(国内総生産)が潜在GDPと等しくなれば「循環的要因」がゼロと定義される。つまり、潜在GDPが実現した場合の財政収支が構造的財政収支となる。 しかし、政府の「経済財政白書」で財政収支の要因分解を見ると、ネット利払い費を除く基礎的財政収支のほとんどが構造的要因となっており、循環的要因よりも構造的要因の方が循環的に動いている。これは、基礎的財政収支をうまく要因分解できていないためだと考えられる。 財政収支の要因分解(経済財政白書) (出所)内閣府 ではなぜ、財政収支の要因分解は、現実を表していないのだろうか。それは名目GDP成長率が1%変化したら税収が何%変化するかを示す「税収弾性値」が現実よりも低く想定されているためである。 「経済財政白書」では、名目GDP成長率に対する税収増加率の比率を示す税収弾性値は0.65〜1.75程度とされている。一方、過去の税収弾性値の実績からトレンドを抽出すると、1990年代後半から急上昇し、2012年度は3.3以上あることがわかる。さすがに3.3の税収弾性値が持続可能とは思わないが、政府の想定している税収弾性値は低く見積もられすぎており、基礎的財政収支の要因分解を正しくできていない可能性が高い。 我が国の税収弾性値 (出所)内閣府、財務省 ではなぜ1990年代後半から税収弾性値が高まったのだろうか。 背景には、日本がバブル崩壊に伴うデフレ不況を経験したことがある。つまり、資産価格の下落は企業を借金返済に走らせ、それが国内需要を萎縮させてデフレに引きずり込み、税収悪化を増幅させたからである。しかも、我が国では資産価格の下落局面で「時価会計」を導入したため、資産価値下落による評価損や実現損が企業収益を直撃し、税収がGDPの落ち込みをはるかに超えて減少したのである。 理由はこれだけではない。デフレの継続から欠損法人の割合が90年代半ばから高まったために、企業の法人税が激減したことがある。これが、名目GDPが悪化すると税収が大きく落ち込んだ理由である。 しかし、景気回復が持続すれば利益計上法人の納税額が増えることに加えて、これまで税金を払ってなかった企業も税金を払えることになる。つまり、欠損法人の割合が低下して以降の税収弾性値は、安定していた90年代前半までの値より高く見積もらなければならない。 「循環的赤字」が3割以上を占める こういう議論がある。「『経済財政白書』によれば、基礎的財政収支のうち約3分の2が構造的赤字だ。これだけ財政政策の裁量で赤字が生じているのだから、経済成長が財政赤字に及ぼす影響は大きくない。歳出削減をうまく行えば財政赤字は減らすことができる。増税によって税収が増えれば、歳入も増えて財政の問題が解決する」。 しかし、先に筆者が抽出した税収弾性値を用いて、基礎的財政収支を要因分解すると、1990〜2011年度の累計赤字のうち32%は需要不足に伴う「循環的赤字」が占めている。一方、構造的な赤字は30%に過ぎないことは、日本の財政赤字は循環的な要因も大きく、財政を緊縮すれば自動的に財政再建が達成されるとの見方が困難であることを意味している。 財政収支の要因分解(筆者推計) (出所)第一生命経済研究所 財政再建計画を作成する際に、意図的に高い成長率や税収弾性値を前提とすることもできる。必要な歳出削減策や増税額を小さく見せかけることもできる。しかしこのような計画では、財政政策運営への国民や金融市場の信頼感を損なうことになろう。同時に、妥当な水準を明確に下回る税収弾性値を想定しても、今度は必要以上の歳出削減や増税を実施することが必要になる。 仮に、公共サービスを過度に削減して国民に負担を強いたら国民生活は足を引っ張られることになろう。従って、財政構造改革は、妥当な税収弾性値の議論を深めた上で進めるべきである。そうしないと1997年度の二の舞を演じることになりかねない。 増税でも財政構造改革が頓挫した1997年 2012年度の基礎的財政収支は50兆円以上の赤字である。日本の財政は、持続性が困難な状況にあり、赤字解消のために歳出削減や増税が必要であることは明らかである。しかし、現在のようにデフレからの脱却途上での増税は、税の大幅な自然減収につながりかねない。また、消費税率の引き上げが実際に経済に及ぼす影響は、引き上げの方法や実施する時の経済の状況によって異なる可能性もある。 1989年度に3%の消費税が導入されたときには、バブル景気の真っ只中で好景気が続いていた。さらに、この時は消費税の導入といった増税と同時に物品税廃止といった減税も実施された。このため、実質的な家計への負担増は小幅であった。89年度は消費税の導入により5.4兆円の増収となった一方、物品税の廃止により税収が3.5兆円減少したため、最終的な家計の負担増加額は1.9兆円程度にとどまった。消費税を導入しても消費の好調が持続し、経済全体に目立った悪影響は及ぼさなかった。 一方、1997年度には消費税率が2%ポイント引き上げられた。この時はバブル崩壊後の停滞から景気が一時的に持ち直しつつある時期だった。これにより、消費税の税収は前年比で5.2兆円増加した。さらに、同時期に特別減税の打ち切りにより2兆円程度、年金・医療保険改革で1.5兆円程度の増税が実施され、家計全体では合計で約8.6兆円もの増税が実施された。しかし消費税引き上げ後には、アジア通貨危機や金融システム不安、年金不安の高まりなども重なった。 このため消費者心理が急速に悪化し、消費の低迷により景気が大きく悪化した。この時期の物価は、導入前のデフレの状況から、一時的に消費税引き上げ分の転嫁は進んだが、その後はより深刻なデフレに陥ってしまった。 消費税引き上げ年度の家計負担(兆円) (出所)財務省、厚生労働省 このように、消費税の増税が景気に及ぼす影響は、導入時の景気や所得の状況によって大きく異なる。すなわち、橋本政権時の1997年には景気が底割れし、増税にもかかわらず財政構造改革自体が頓挫してしまった。つまり、消費税収は増えたが、それ以上に法人税や所得税が減ってしまったのである。 日本経済がデフレに陥っている限り、増税のみでは財政再建は成り立たない。今後、政府には景気動向を慎重に判断し、景気拡大と財政再建を両立させることを期待したい。 消費増税+補正予算が現実的な選択 特に今回の消費増税については、主に@予定通り引き上げ、A予定より小刻みな引き上げ、B見送り、の3つの選択肢が想定されているが、見送りについては国債格下げリスクが高いことから、賢明な選択とはいいにくいだろう。となると、@かAということになるが、実際に内閣府の最新マクロモデルの乗数を用いて、経済成長率への影響を試算すると、やはり@では悪影響が甚大になることが予想される。ただ、経済への影響が軽微と試算されるAについても、POSの対応など事務的なリスクが指摘されている。となると、現実的には@に今年度の税収上ぶれ分を財源とした補正をセットにしたものか、AもしくはAに小幅な補正を加えたものに落ち着くことが予想される。 いずれにしても、国際公約として消費税率を上げることを目的化するのではなく、2015年度にプライマリーバランスを半減する方の国際公約を達成するために、最も効果的な判断が求められるといえよう。 消費増税の経済成長率への影響 (出所)内閣府マクロ計量モデル乗数より筆者試算 このコラムについて 永濱利廣の経済政策のツボ
アベノミクスの登場で経済政策から目が離せなくなりました。政府や日銀の動き方次第で仕事や暮らしは大きく変わります。独自の経済分析に定評のあるエコノミストが、常識や定説にとらわれない経済政策の読み解き方を伝授します。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130813/252234/?ST=print
国民会議の社会保障改革は小手先の策しかない 2013年8月20日(火) 田村 賢司 消費税は社会保障に使う目的税として引き上げも議論された。しかし、肝心の改革は、社会保障制度改革国民会議が最近出した報告でも小粒なものに留まる。民主党政権時代、厚生労働副大臣も務めた大塚耕平・参院議員に、自公両党主導で進む今の社会保障改革の課題と民主党の対応を聞いた。 (聞き手は主任編集委員 田村賢司) 消費税引き上げの判断時期が次第に迫る。だが、消費税収を使う側の社会保障改革は進まない。社会保障制度改革国民会議の報告は出たが、小粒で抜本的とは見えない。 大塚 耕平(おおつか・こうへい)氏 1959年10月生れ。日本銀行を経て2001年、参院選で初当選。現在、3期目。内閣府副大臣、厚生労働副大臣を歴任。税・財政、厚生労働の政策通として知られる。(写真:清水盟貴) 大塚:官僚が行った下準備をベースに有識者が現状肯定的な改革案を箔付け的に議論したという感じだ。例えば年金は今の制度が本当に持続可能なのか。それが“幻想”なのはみんな分かっている。
年金資産の運用利回りを年4.1%、(保険料収入の基礎になる)賃金の上昇率を年2.5%とする前提自体、(最近10〜20年の実績を見ても)到底難しい水準で、欺瞞だといってもいい。抜本的な改革とは、例えば1つだが、今は、国民が自営業者やフリーターなどの国民年金、サラリーマンの厚生年金、公務員などの共済年金と、職業によってバラバラな制度に入っているのを変えるといったことだ。 それがどれだけ問題かといえば、我々は昨年、公的年金受給者月当たりの受給額を調べたが、ゼロから6〜7万円の人が6割を占める一方で、高い人は二十数万円にも上っていた。低い人は国民年金受給者が多く、高い方は厚生年金や共済年金の方だ。しかもこれは厚生年金基金など、厚生年金の上に乗る企業独自の給付は含めていない。それを入れれば、人によっては10倍以上の格差になるだろう。こういうところから変えていこうと考えるのが抜本改革ではないのか。 まず抜本改革を示し、現実を変える しかし、そのことと年金の持続可能性は別の問題。制度を統一しても持続性は上がらないのでは。 大塚:それはその通りだ。我々が年金制度の統一を言うことと年金制度の維持可能性が高まることは、イコールではない。それは誤解を受けていた部分だと思う。だが、まずこうした格差から解消していくような、そういう抜本的な方向に向かって進もうという決断をするということが、本来報告書に求められているものではないのか。 そうした方向を示せば、現行制度からの移行の道筋も出てくる。例えば、(高所得者の年金を減額し、低所得者への給付財源に回す)クローバック制度を実施するといったものが出てくることになる。そういうものが広がっていく。だから、大きな改革を示し、現実を変えていくということが大事なのだ。 国民会議の報告では、「70〜74歳の医療費の窓口負担を1割から2割に引き上げ」「介護の軽度者向けサービスを段階的に市町村へ移行」などの具体策も一部入った。 大塚:介護を含めて話せば、十数年前に将来の人口構成の高齢化と医療費の急速な増大がはっきりしてきた時に、介護保険を作り、それに備えることとした。 介護保険は2000年にスタートしたが、介護保険によって、それまで多くなっていた社会的入院を減らすはずだった。社会的入院とは、治療の必要はなくなっているのに介護代わりに入院を続けること。ところが、(仮に介護保険がないままとして)社会的入院が含まれて、医療費が増えていくとする推計と、現在の医療費+介護費用を比べると、現在の方がむしろ増えていると見られる。 これは、言葉は悪いが、「介護保険があるから使ってしまおう」的にどんどん使っているところがあるからではないか。つまり、介護保険を創設する際に、「医療+介護の社会保障支出は抑制される」と考えていた前提が成り立たなくなっているのだ。 そういう時に、軽度の介護を受ける人へのサービスを段階的に市町村へ移行するといった小さなことをやって改革と言えるのか。 さらに、介護保険でいくつかのサービスを受けられるようになったと言っても、最近は、それでも自宅で人生の最後を迎えるのは(家族の負担が大きくて)難しいという声も出ている。そうなると、今は政策的に減らそうとしている療養型の病院がむしろ必要になるかもしれない。 ここで重要なのは、そんな風に、かつて立てた計画が想定通りになっていないという現実を踏まえた改革を、国民会議が検討しているのかということだ。そうはなっていないはずだ。 制度改革と資源配分見直しが必要 ではなぜ民主党は社会保障と税の一体改革の社会保障分野での自公との3党協議から離脱するのか。意見を言わず、非難するだけにならないか。 大塚:社会保障改革を政治の側で議論する3党協議からは離脱するが、一体改革についての3党合意はそのまま生きている。問題は、昨年3党で合意した一体改革をどう形にしていくかだ。その時に、例えば年金で先ほど話したような年金の一体化・最低保障年金創設のようなことを言っても、自公が議論のテーブルに載せようとしない。そうであれば、議論はできないというのが今の状態だ。 社会保障費が青天井で増やせるとは思えない。議論の場から出てどう改革を進めるのか。
大塚:社会保障費が青天井で増やせるものではないということは誰にも分かっている。しかし、これだけの高齢化社会になっている。考えないといけないのは(予算などの)資源配分を、変えざるを得ないということだ。 自民党はまた公共投資を増やそうとしているが、それでいいのか。制度としては、先にお話ししたように抜本改革を行って社会保障費の抑制に努力しなければいけないが、資源配分としては自民党の進める方向はおかしいと言わざるを得ない。 社会保障と税の一体改革の中での消費税引き上げも本来は、社会保障の維持可能性を高め、充実にもつなげるためのものだ。ところが、それを飛ばして消費税を上げないと財政再建ができないという風潮を自民党は、作り上げている。 結果としてはその要素はあるが、財政再建は全体として成すべきものだ。そこを忘れてはいけない。それは訴えていく。 このコラムについて キーパーソンに聞く 日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。 |