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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130814-00010003-wedge-bus_all
WEDGE 8月14日(水)12時22分配信
GPIFは、120兆円の資産を有する世界最大の投資ファンド。しかし、インフレ期待が高まる中でも、デフレマインドから脱却できない。インフレになれば連動して年金受給額も増えるので、おカネが不足することになる。巨大ファンドが運用姿勢を見直すことが、日本経済の再興には不可欠だ。
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デフレから緩やかなインフレへ。安倍晋三首相が主導する経済政策「アベノミクス」が、大きく世の中のムードを変えつつある。過去20年近くにわたって日本社会にはデフレが浸透し、人々の意識もいつの間にかデフレが前提になっていた。物価が上がるという現象を実体験として持たない世代が、社会の中堅層にまで達しつつある。
50歳以上の人なら、子供の頃、小遣いをもらうと郵便局や銀行に貯金した経験を持つに違いない。利息が付いて貯金額が増えるのを楽しみにしていたものだ。一方で、欲しいモノの値段も上がった。どんどん貯金して、利息が付かなければモノは買えない。そんな日常があった。
ところが、最近の子供たちは小遣いをもらっても、平気で勉強机の引き出しに入れておく。利息などたかが知れているから、銀行に行くだけ面倒だ。焦ってモノを買わなくても、明日は値段が下がる。逆に言えば、放っておけばおカネの価値は上がるのだ。
そのデフレマインドが最も浸透しているのが、資産運用の世界。それも長期間積立金を預かる年金運用の世界だろう。何せ、デフレならば、どんなに金利が低くても国債で運用するのがベスト。現金で持っていたとしても目減りすることはない。株式や不動産、外国資産などで運用すれば、ことごとく損をする。おカネの価値が高まれば、モノの値段は下がるからだ。もちろん為替も強くなるから、外貨建ての資産はどんどん目減りする。これがデフレの世界だ。
一見、資産を持っている人には、楽な世界だが、働いて日々おカネを得ようという人には大変だ。デフレが続けばいずれ給料も下がる。会社が儲からないので雇用も増えない。このままデフレが続いたら経済全体がぶっ壊れてしまうというのがアベノミクスを支える人たちの危機感だ。
さて、今後はインフレになっていくとすれば、資産運用、とくに年金運用のスタイルは変わる必要が出て来る。これまでは「増やす」ことよりも「減らさない」ことで十分だったものが、今後はインフレ率以上に増やすことを求められる。特に今の年金制度では、インフレになれば、それに連動して年金受給額も増えるので、きちんと運用で資産を増やせなければ、おカネが不足してしまう。そのツケは年金掛金を支払う若者や税金を払う国民に回る。
実は、アベノミクスの3本目の矢である成長戦略「日本再興戦略」に、こんな一文が盛り込まれた。
「公的・準公的資金について、各資金の規模・性格を踏まえ、運用(分散投資の促進等)、リスク管理体制等のガバナンス、株式への長期投資におけるリターン向上のための方策等に係る横断的な課題について、有識者会議において検討を進め、提言を得る」
明記はされていないが、ここで想定されているのはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の見直しである。GPIFは3月末で120兆4653億円の資産を運用する、規模では世界最大の投資ファンドだ。ところが全体の60%を日本国債など国内債券に回しており、国内株式にはわずか13%しか投資されていない。日本が成長するという前提に立った資産構成になっていない、とも言える。アベノミクスは成長戦略で、この年金資産を有効活用し、経済の成長につなげれば、年金受給者に大きくプラスになる、という発想を取り入れようとしたのである。
■長期間の運用にもベンチャーは最適
日本経済再生本部の議論では、GPIFの資産の一部をベンチャー企業に投資すべきだという意見が出た。日本を「起業大国」にするきっかけをGPIFが担うべきだ、というわけだ。「米国カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)などは、資産構成の1つにベンチャー投資を加えており、長期的な運用利回りの向上に役立っている」と元UBSグローバル・アセットマネジメントの社長で、投資人材の教育ベンチャーを立ち上げた岡村進氏も言う。長期間運用するという年金資金の性格からみても、ベンチャー投資は格好の投資先だというのだ。
現在、日本のベンチャー・キャピタル(VC)の市場規模はおよそ1兆円と言われる。仮にGPIFの資産の1%が振り向けられるだけで、規模が2倍になる。米国ではインフラファンドやVC、再生ファンドなどへの投資資金の流入額の半分は年金基金の資金だという。巨額の資産を抱えて国債に投資しているのでは、宝の持ち腐れだ。
ところが、これに真っ向から反対したのが年金制度を運用する厚生労働省だった。「積立金の運用は、専ら被保険者のために、長期的な観点から、安全かつ効率的に行う」という厚生年金保険法や国民年金法の規定から、“高リスク”のベンチャー投資に年金資金は回せない、というのだ。
年金を計画通りに払えればよく、運用利回りを上げるためにリスクを取る必要はないということだろう。制度上、実質的な運用利回りは年1.1%となっている。名目の賃金上昇率を上乗せするのが「実質」という意味だが、デフレだと賃金下落分を差し引くことになる。2011年度までの9年間で制度上の運用利回りは0.58%で良い計算で、この間のGPIFの利回りは2.42%だったから十二分に責任を果たしている、というわけである。
だが制度維持と言っても、現実には、保険料負担は年々上昇、17年には18.3%(会社・個人負担合計)になる。この負担の重さが非正規労働や無年金者を増やしているという指摘もある。さらに、基礎年金の国庫負担も2分の1に引き上げられた。年金利回りが高くなれば年金財政問題が大きく改善するのは当然である。
実は、GPIFの見直し問題は政治を舞台に長い間、議論されてきた問題だ。08年には経済財政諮問会議のグローバル化改革専門調査会が組織の独立性や専門性、透明性を確保するよう求める内容を報告書に盛り込んだ。運用を担う専門性の高い内外の金融人材を活用する仕組みづくりを求めたのである。その後、民主党政権下でも、厚労省に「GPIFの運営の在り方に関する検討会」などが置かれ議論された。民主党は行政刷新会議で、独立行政法人改革を進め、GPIFについては、独法ではなく固有の法律に基づいた法人に改組する方針が閣議決定された。それが再度の政権交代によって、凍結されている。
安倍内閣が閣議決定した「日本再興戦略」では、「有識者会議において検討を進め、提言を得る」とされているが、「本年秋までに結論」という期限が付いている。そこでどんな方針が示されるかは、今後の日本経済に大きな影響を与える。デフレから緩やかなインフレへと経済の前提を変え、巨大ファンドが運用姿勢を見直すことが、日本経済の再興には不可欠だろう。
磯山友幸 (経済ジャーナリスト)
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