02. 2013年8月13日 15:22:09
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1人当たりGNIが150万円増なら平均給与は162万円増に給与増には労働生産性の向上が必要 2013年8月13日(火) 中塚 恵介 「1人当たりGNI(国民総所得)は10年後には150万円以上増加する」。これは、アベノミクスの成長戦略の中でも特に注目されている目標の1つである。13年6月の骨太の方針では以下のように掲げられている。 今後10年間(2013年度から2022年度)の平均で、名目GDP成長率3%程度、実質GDP成長率2%程度の成長を実現する。2010年代後半には、より高い成長の実現を目指す。その下で、実質的な購買力を表す実質国民総所得(実質GNI)は中長期的に年2%を上回る伸びとなることが期待される。1人当たり名目国民総所得(名目GNI)は中長期的に年3%を上回る伸びとなり、10年後には150万円以上増加することが期待される。 しかしながら、そもそも1人当たりGNIとは何を指しており、それが150万円以上増えるというのは具体的に何を意味しているのかという素朴な疑問に対しての説明は、現時点ではやや不足しているように思われる。そのため、例えば、「1人当たりGNIが150万円増ということは、4人家族であれば600万円給料が増えることになる」といった誤解がみられることもある。 これに対するよくある解説としては、GNIは、就業者の賃金などからなる雇用者報酬だけでなく、企業の所得にあたる営業余剰・混合所得なども含む概念である。そのため、1人当たり名目GNI増の全額が賃金に回るわけではなく、給料の伸びも平均すると1人当たり150万円には達しないはずだ、というものがある。ただ、この回答も、給料がどの程度伸びる見込みなのかという点については明らかにしていない。 そこで、以下では(1)この目標は賃金(平均給与)が150万円以上増えることとどう違うのか、(2)GNIにおける名目と実質の違いは何であるのか、(3)物価が2%上がるとすると150万円という目標はむしろ控えめではないか、という3つの疑問について、それぞれ考えてみることにしよう。 平均給与も10年後には150万円以上増えるのか? 1人当たり名目GNIが150万円以上増加するということは、平均給与が150万円以上増えることと同じとみていいのか。それぞれの指標の過去の推移を確認することで、この問題について考えてみることにしよう。 まず、1人当たり名目GNIと平均給与の推移をみると、どちらも右肩下がりの傾向があるという点では共通しているが、伸び率は1人当たり名目GNIよりも平均給与のほうがやや低いことが分かる。例えば、2004〜06年の1人当たり名目GNIはプラスの伸びが続いているのに対し、同時期の平均給与は減少している(図1)。 図1 1人当たり名目GNIと平均給与の推移:平均給与は減少傾向 (備考)内閣府「国民経済計算」、総務省「人口推計」、国税庁「民間給与実態統計」による この伸び率の差は、(1)分子である名目GNI、民間給与総額の違いと、(2)分母である総人口、給与所得者数の違いの両方がそれぞれ関係している(注1)。 (注1)1人当たり名目GNIとは、国民が受け取る所得の総額を示す名目GNIをその時点の総人口で割ったものである。また、平均給与は、民間における給与総額(給料・手当及び賞与の合計額)を給与所得者数で割ったものと定義される。 1点目の名目GNIと民間給与総額の違いとは、名目GNIは民間給与総額よりも対象範囲が広いため、時期によっては動きが異なっていることである。名目GNIは、(1)民間から政府までを含む全ての就業者の賃金などからなる「雇用者報酬」、(2)企業の取り分となる「営業余剰・混合所得(注2)」、(3)建物や設備などを代替するための費用にあたる「固定資本減耗」、(4)商品・サービスの価格を変動させる消費税、関税、補助金などの「生産・輸入品に課される税及び補助金(控除)」、(5)海外からの報酬や投資収益などからなる「海外からの純所得」の5項目からなる。 その中でも、営業余剰・混合所得は2000〜04年に増加傾向となるなど、雇用者報酬とは異なる動きをしており、それが伸び率の差の一因となっていることが分かる(図2)。 (注2)混合所得は個人企業の取り分を指しており、事業経営者などの労働報酬としての側面もあることから、営業余剰とは区別している。 図2 名目GNIの推移:雇用者報酬とは異なる動き (備考)内閣府「国民経済計算」より作成 2点目の総人口と給与所得者数の違いについては、総人口はあまり変動がないのに対し、給与所得者は景気の動向によって大きく増減していることが挙げられる。 総人口は日本国内に居住するすべての人口を示すのに対し、給与所得者は、各年12月31日現在で民間の事業所に1年以上勤務している従業員または役員を対象としている。例えば景気拡大期には給与総額に加えて給与所得者も増加する傾向にある。特に、2005年以降は給与所得者が増加傾向にあったため、平均給与の伸びは1人当たり名目GNIよりも低く抑えられていた。 それでは、1人当たり名目GNIが10年後に150万円以上増加するとした場合、平均給与は今よりもどの程度高くなるのであろうか。 まず、分子の民間給与総額は、名目GNIから推計することができる。これは、過去のデータをみると、名目GNIのほぼ半分(50%)は雇用者報酬であり、雇用者報酬の8割弱(77%)が民間給与総額とほぼ等しくなる(注3)という安定した関係があるためである。以上のような従来の関係が変わらないという前提を置くと、次のようになる。 2022年の名目GNI(657兆円)(注4)×50%×77%=2022年の民間給与総額 ここから、2022年の民間給与総額は約252兆円と推計できる。 (注3)雇用者報酬には健康保険や厚生年金等への企業の負担金が含まれるため、給与総額よりも若干規模が大きくなる。 (注4)2022年の1人当たり名目GNI(=2012年の1人当たり名目GNI385万円+150万円=535万円)×2022年の総人口(1億2281万人(国立社会保障・人口問題研究所「平成24年1月 出生(中位)死亡(中位)推計結果」))=657兆円 次に、給与所得者数については、将来の生産年齢人口(15〜64歳)の減少と労働参加率(労働人口/生産年齢人口)の上昇が与える影響をそれぞれ織り込む必要がある。 まず、日本の生産年齢人口は1995年をピークとして減少を続けており、2022年の生産年齢人口は2012年と比べると10%程度減少し、7241万人になると見込まれている。 一方で、労働参加率は上昇傾向にあり、生産年齢人口に対する給与所得者数の比率は1980年には42%であったのが2011年には56%に上昇している。労働参加率は今後も過去と同様に上昇を続けると仮定した場合、2022年には生産年齢人口に対する給与所得者数の比率は60%に達する。その結果、給与所得者数は7241万人×60%=4368万人となると見込まれる。これらの結果を用いると、2022年の平均給与は576万円となり、2012年と比較して162万円程度増加することとなる(注5)。 (注5)2022年の民間給与総額(252兆円)/2022年の給与所得者数(4368万人)=2022年の平均給与(576万円)。なお、労働参加率が2011年以降上昇しないと仮定した場合、2022年の給与所得者数は4066万人に落ち込むため、平均給与は619万円となり、2012年と比較して201万円程度増加することとなる。 平均給与が162万円以上増えることとほぼ同じ 以上の結果から、1人当たり名目GNIが150万円以上増加するということは、平均給与が162万円以上増えることとほぼ同じと見込まれる。つまり、1人当たり名目GNIが150万円以上増加する場合は、平均給与についても、ほぼ同じだけ増える可能性が高いことが分かる。 これは、逆に言えば、成長戦略で掲げる1人当たり名目GNIの150万円以上増を達成するためには、平均給与が今よりも160万円程度高まるよう、労働生産性を向上させていくことが必要となることを示唆している。この20年余りで平均給与が50万円程度落ち込んだことを踏まえると、成長戦略はかなり意欲的な目標を掲げているともいえるだろう。 GNIにおける名目と実質の違いは何か 成長戦略では、「実質GNIは中長期的に年2%を上回る伸びとなることが期待される」としており、1人当たり名目GNIだけでなく実質GNIの伸びについても着目している。ここでは、GNIにおける名目と実質の違いを整理することで、このように書かれた狙いについて考えてみよう。 まず、名目GNIと実質GNIには、国民経済計算における「実質」と「名目」の定義の違いがある。「実質」は、価格変動の影響を除去した値であり、「名目」とは、実際に市場で取引される時点の価格で評価した値である。つまり、先ほどの目標は、GNIは価格変動の影響を取り除いたベースでも年2%を上回る伸びとなる見込みであることを意味している。 また、実質GNIは、交易利得・損失を含めているという点も名目GNIとは異なってくる。実質GNIは、実質GDP(国内総生産)に海外からの純所得に加えて交易利得・損失を足したものである。交易利得・損失を加えるのは、交易条件(輸出物価と輸入物価の比)の変化によって実質所得が変化することを考慮する必要があるためである。 例えば、交易条件が改善する(輸出物価の伸びが輸入物価よりも高くなる)場合、交易利得が生じる(同じ所得額でもより多く買うことができる)ため、その分だけ実質GNIは増加することとなる。 ここで、過去の実質GNIの推移をみてみると、実質GDPおよび海外からの純所得は拡大しているが、2006年以降は交易損失が続いており、それが実質GNIを押し下げている(注6)ことが分かる。これは、日本は輸出価格の上昇が抑えられる傾向があり、輸入価格について原油の高騰などで上昇した際に交易損失となりやすい傾向にあることが挙げられる。 これは韓国においても同様であり、同時期に交易条件が悪化している。その一方、欧米諸国は輸入価格の上昇に合わせて輸出価格が上昇しており、交易条件は安定している(世界経済の潮流2011-1)。 (注6)なお、実質GNIは基準年からの変化率に着目した指標であり、交易利得・損失については、日本のSNAの現行の基準年である2005年にゼロとなるようになっている。そのため、次回の基準改定で2011年基準となった際には2011年における交易利得・損失がゼロになり、それより以前の年はプラスの交易利得が生じると見込まれる。 つまり、実質GNIについて年2%を上回る伸びとするためには、実質GDPや海外からの純所得に加えて、輸出財について価格以外の要素で差別化を図り、付加価値をつけることで、交易条件を好転させることが重要であることが分かる。 図3 実質GNIの推移:2006年以降は交易損失が実質GNIを押し下げ (備考)内閣府「国民経済計算」より作成 2%の物価上昇では150万円の目標は控えめ? 最後に、物価が想定どおり2%上がるとすると、150万円という目標はむしろ控えめではないか、という点について考えてみよう。 これは、実質GDP成長率2%程度の成長となり、かつ物価が2%上がるとするのであれば、毎年4%近く名目所得が上昇することになるので、10年後の所得額はもっと増えるのではないか、という考え方である。物価(消費者物価指数)が2%上昇したとすると、GDPデフレーターはどの程度の伸びとなるのか、検証してみよう。 まず、消費者物価指数(CPI)と名目GDP/実質GDPで算出されるGDPデフレーターの最近の動きを比較すると、GDPデフレーターの方が大きく落ち込んでいることが分かる。 図4 GDPデフレーターとCPIの推移:GDPデフレーターはCPIより低位 (備考)総務省「消費者物価指数」、内閣府「国民経済計算」より作成 この乖離は、それぞれの指標の対象の違いによって生じたものと考えられる。つまり、消費者物価指数は家計消費に対象を限定している一方で、GDPデフレーターは家計消費のほかに民間投資なども対象となっている。 例えば、民間投資はIT関連財への投資が含まれており、これらの財は価格が大きく下落することから、その影響を受けやすい。このため、GDPデフレーターの変化率の方が、消費者物価指数より低くなる傾向にある(注7)。 (注7)総務省「消費者物価指数に関するQ&A(回答)G-8 消費者物価指数とGDPデフレーター(内閣府)が乖離していると聞きますが、それはなぜですか」より。 そこで、消費者物価指数と民間最終消費支出デフレーターの動きを比較すると、デフレーターの伸びは消費者物価指数よりも若干低めとなるものの、ほぼ同じ動きとなる。過去の実績をみると、例えば消費者物価指数が2%上昇した場合は、民間最終消費支出デフレーターは1%程度上昇する傾向にある。 図5 CPIと民間最終消費支出デフレーター:ほぼ同じ動きを示す (備考)総務省「消費者物価指数」、内閣府「国民経済計算」より作成 以上のような相関関係を他のデフレーターについても確認したうえで、消費者物価指数が2%上昇した場合のGDPデフレーターを推計すると、民間最終消費支出を中心としてGDPデフレーターが1%程度上昇することが分かる。そのため、名目GDP3%、実質GDP2%を目指すという方針には大きな齟齬はない。つまり、物価が想定どおり2%上がるとすれば、150万円という目標はそれに沿っており、妥当なものであるといえる。 消費者物価指数が2%上昇した際のGDPデフレーター(注8) 民間最終消費支出を中心に1%程度上昇 需要項目 寄与度(%) 民間最終消費支出 0.762 政府最終消費支出 0.192 公的固定資本形成 0.115 民間住宅 0.067 民間企業設備 0.043 在庫品増加(民間・公的) 0.002 GDPデフレーター 1.181 (備考)総務省「消費者物価指数」、内閣府「国民経済計算」より作成 (注8)1995年から2012年までの国内需要のデフレーター(民間最終消費支出、民間住宅、民間企業設備、民間在庫品増加、政府最終消費支出、公的固定資本形成及び公的在庫品増加)について、同時期の消費者物価指数を用いて相関関係を計算。その結果から、消費者物価指数が2%上昇した場合の各デフレーターを推計。これらのデフレーター推計値を2012年の実質GDPに対する各項目のウェイトを用いて積み上げると、GDPデフレーターは約1.2%上昇するとの結果が得られる。 ただし、原油などの輸入品価格が上昇している場合、消費者物価指数はその分だけ上昇するのに対し、輸入品価格の上昇が輸出財などに転嫁されない場合は、GDPデフレーターは下落することになる(注9)。そのため、輸出財に輸入品物価の変動を転嫁できるよう、価格面以外での差別化を進めていくことは、名目GDP3%の成長を達成するためにも必要となるといえるだろう。 (注9)仮に1995年から2012年までの全てのデフレーター(前述の国内需要の各デフレーター及び輸出、輸入)を用いて同様の手法で計算すると、輸入デフレーターが大きくマイナスに寄与することから、消費者物価指数が2%上昇した場合であっても、GDPデフレーターは約0.1%の上昇にとどまるとの結果が得られる。 (本コラムの内容は筆者個人の見解に基づいており、内閣府の見解を示すものではありません) このコラムについて 若手官庁エコノミストが読む経済指標 内閣府の若手エコノミストがさまざまな経済指標を読み解き、日本経済や日本経済を取り巻く状況について分かりやすく分析する。多くの指標を精緻に読み解くことで、通り一遍の指標やデータだけでは見えてこない、経済の姿が見えてくる。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130805/251975/?ST=print
ロボットの雇用は守れるのか
人の雇用優先の日本、ロボット導入どこまで 2013年8月13日(火) 宇賀神 宰司 ロボットが人間の雇用を奪う── 労働力の減少や一段の効率化を背景に、産業界全体で無人化が加速している。ロボット工学の発展により、自動化システムは製造業からサービス業まで活躍の場を拡大。IT(情報技術)の進化やマイコンなどハードウエアの製造技術の進化は、ロボットの製造コストの低下にも役立っている。 かつては「高いうえに使い物にならない」と言われてきたロボットも「人を雇うよりも安上がり」になりつつある。 そこで懸念されるのが、冒頭の議論。産業革命以降、機械が人の雇用機会を奪うのではないという懸念は続いてきた。消える職業が出てきた一方で、残った職業も数多い。 今回のロボットや機械、コンピューターに仕事を奪われるというのも杞憂に過ぎないのだろうか。 興味深いデータがある。 国際ロボット連盟は2013年1月の調査で、ロボットの導入台数と失業率について相関関係を主な国ごとに分析している。この中で興味深いのは日本、米国、ブラジルの状況だ。 いずれも2000年以降の推移を分析している。米国はロボットの導入台数、失業率とも比例して増加している。ブラジルはロボットの導入が進むと同時に失業率も下がっている。 日本はどうか。ロボットの導入台数は2000年以降、実は減少している。その一方でやや増減はあるものの失業率は横ばいかやや減少とみていい。 この3つのパターンから推測できるのは、1)米国はロボットの導入により人の雇用が減っている、つまりロボットが「人間を駆逐」している。2)ブラジルは特に製造業で生産拡大のため、ロボット、人間とも雇用を増やしている。ロボットは「人間と共生」する存在だ。3)日本は長引く景気低迷で各社が設備投資を抑える一方で、雇用は守ってきた。「人間優先」。リストラの憂き目にあるのはロボットの方だ。 過度の省人化は非効率 では、実際に日本企業ではロボット化と人間の雇用維持についてどのように運営しているのか。オフィスや工場などあらゆる現場の業務を分析し、ムダを洗い出して徹底的に合理化、省力化を進めてきたキヤノン電子の酒巻久社長に話を聞いてみた。 酒巻久社長:社長就任以来、会社の“アカスリ”に取り組んできました。徹底したムダの削減です。10年以上前から経理、人事、総務などオフィスの管理部門の社員のパソコン利用状況を管理しています。業務中にゲームやネットサーフィンをしているような明らかなサボリはもちろんのこと、メールに費やす時間が長すぎる、検索ばかりをしているなど一目瞭然です。 ホワイトカラーの作業効率を上げ、パソコンの台数をむしろ減らしてきました。一方でプログラム化を進め事務作業をなるべく自動化しました。このように省力化を進めてきましたが今は、1つの段階が終了したと感じています。これ以上、生産性を上げて担当者を減らすのは難しいでしょう。 例えば新卒採用の効率化のため、人事担当者を半分に減らすとしましょう。そうすると面接などに十分な時間はさけないでしょうから極端なことを言えば、先着順で採用するのが効率的です。ですが、これではいい人材が採れないことは明白です。 「これ以上の合理化は、かえってホワイトカラーの生産性を落としかねない」と語るキヤノン電子の酒巻久社長(写真:北山宏一) 管理部門の人減らしはサービス低下につながりかねない。「転勤や福利厚生などに関する相談で人事部に行ったけれども、みんな忙しくて相手にしてくれなかった」。こんな事態になっては社員の不満が募り、組織がギスギスしてくるでしょう。むしろ、パソコンなどで自動化、省力化できた分、管理部門は社内サービスの向上に力を振り向けるべきです。人事担当者などもこれからは単に社員を管理するだけではなく、組織を活性化して社員のやる気を引き出す役割が期待されます。
社長秘書についても同じことが言えます。情報端末の発達により、スケジュールや名刺の管理は自分で簡単にできるようになりました。その点では秘書は必要ないかもしれません。ですが、私宛の電話や来客の対応では、やはり物腰が丁寧で、的確な対応ができる優秀な秘書がいるといないとでは大違いです。 人間は新たな仕事を作り出す コンピューターは記憶力では人間をはるかに凌駕します。経営者すらも、過去の延長線上で順調に業績が推移しているならば、ロボットに置き換え可能かもしれません。過去のデータを分析して最適な意思決定をすればよいからです。 しかし、実際の経営では紆余曲折があり、コンピューターは一助にはなるかもしれませんが、最後は経営者の経験と勘が必要です。決断はやはり人間が下すことになるでしょう。 日本特有の問題もあります。ロボットや機械を導入して合理化しても、その分、社員を解雇するのは現実的には不可能です。人は常に新しいテーマを探して自ら仕事を作り出していくしかありません。 求められるのは感性です。将来は分かりませんが、ロボットには今のところ感性がありませんから(談)。 酒巻社長の話から2つのことが言えるだろう。まず、ロボットにもリストラが必要なこと。「ダイエットを始めようとトレーニングマシンを買ったら達成感が芽生え、実際にはトレーニングせず一向にやせない」。こんな状況と同じでパソコンを含め、機械を導入すれば仕事が効率化すると信じていたら、実際には生産性が下がっていた。そこは厳しくチェックしてロボットから逆に人間に置き換えていく。 もうひとつは、解雇が厳しい日本の現状では、ロボットや機械ができない仕事を企業が用意する必要があることだ。また、意欲的な社員であれば、自ら「ロボットなんかに負けない」と人間にしかできない業務を探す。それは既に手がけている仕事の中にもある。酒巻社長が指摘するように、スケジュール管理しかできない秘書であれば、コンピューター化のため必要ないかもしれないが、コミュニケーション能力が高く、社長の業務を円滑に進める上で欠かせない存在になれば、十分に生き残れる。 米国などはいざ知らず、少なくとも日本ではロボットの導入が進んでも簡単に人間の雇用が奪われることはなさそうだ。「ロボットによる置き換えで、人間はより必要とされる職場へ移籍し活用する」というのが多くの企業の基本的な考えだからだ。 一方、人間の受け皿を用意することにも限界がある。雇用を守るために働かない社員を社内に滞留させ、ロボットを不当解雇する事態になれば、いずれ人間はロボットに訴えられるに違いない。 このコラムについて 記者の眼 日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。 |