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http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPTYE97806J20130809
2013年 08月 9日 19:25 JST
佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 債券為替調査部長(2013年8月9日)
ドル円の上昇はなぜ止まってしまったのか。筆者は、大きく分けて3つの要因を指摘したい。
第一に、経験則からドル下落を招く可能性が高い量的緩和(QE)縮小の見通しが強まっていること。第二に、外国人が円売りを積極的に行わなくなったこと。第三に、日本の期待インフレ率低下と円の実質金利上昇だ。以下、順を追って説明しよう。
まず一点目。一般的には真逆に捉えられているかもしれないが、今後QEが終了に向かうのであれば、さらなるドル下落リスクは比較的高いと考えられる。ドル円は今年に入ってドルの動きに影響を受ける度合いが強まっており、これは対ドルでの円高要因となりうる。
ここ数か月間に及ぶ米連邦準備理事会(FRB)からのメッセージとスタンスは、「QEはなるべく早期に縮小するが、利上げはまだ先の話」と比較的明瞭だ。特に今週に入ってから、フィッシャー・ダラス連銀総裁、エバンズ・シカゴ連銀総裁、ロックハート・アトランタ連銀総裁、ピアナルト・クリーブランド連銀総裁と、4人ものFRB当局者が9月ないしは年内のQE縮小開始の可能性に言及している。
FRBは日銀の異次元緩和後の長期金利急騰を見て、バランスシートをさらに拡大させることに懸念を抱いているのではないだろうか。だから、QEに対しては「景気指標が改善してくれば縮小・停止」ではなくて、「景気指標が悪化しなければ縮小・停止」というスタンスなのだと思う。
QE縮小・停止は過去の経験に照らすと、米長期金利が低下し、ドル下落につながる可能性が高い。QE1、QE2とも終了後に米長期金利は下落トレンドに入った。QE終了の思惑が高まると、思惑が思惑を呼んで、金利は上昇するが、その時点で債券のショートポジションが積み上がってしまい、実際にQEが終了する頃にはポジションの巻き戻しから金利が低下し始めるのだと考えられる。ドルに関しては、QE2の時にはさほど明確な方向感は出なかったが、QE1の時は終了後に比較的大きく下落している。
今回も、ドル上昇の勢いはすでにかなりなくなってきている。名目実効レートは、前々回6月18―19日の連邦公開市場委員会(FOMC)以降4%程度上昇したが、その後の下落で上昇分のほとんどを失っている。
金利市場にはまだ前々回のFOMCの影響が残っており、2015年中の利上げをある程度織り込んだままとなっている。しかし、利上げを織り込むのは時期尚早だろう。米国では今後、財政政策の引き締めが続くと予想され、その中で簡単に金融政策を引き締めに転じることができるかは疑問が残る。
米2年スワップ金利は、前々回のFOMCを受けて上昇した分の半分強しか巻き戻していない。今後、先行きの利上げ期待後退を受けて、金利が低下し、それがドルの上値を重くする可能性は比較的高いと見る。
<外国人の円売り攻勢はストップ>
さて振り返れば、ドル円相場は昨年11月以降、ほぼ半年で30%程度急騰し、5月22日には103.74円をつけた。この急速な円安局面で円を積極的に売っていたのは、明らかに外国人投資家だった。
彼らはアベノミクスへの期待を胸に、日本のインフレ率が上昇するなら円の実質金利が下がると予想し、また景気が良くなれば国内投資家の対外投資も拡大すると見込み、円を売ってきた。しかし、7月21日の参議院選挙後も「第3の矢」はなかなか放たれず、国内投資家も本格的に為替リスクをとった形での外貨建て資産投資を行っていないことが判明し、やや失望してしまっている可能性がある。
たとえば、外国人投資家は6月中旬から7月中旬までの5週間、毎週日本株を買い越していた。その額は1.9兆円に上った。しかし、それ以降の2週間は小幅ながら連続で日本株を売り越している。参院選後に本格的な「第3の矢」が放たれることを期待して日本株を購入してきたが、選挙が終わっても何も動きがでないため、アベノミクスそのものに対する期待が後退しているのかもしれない。
外国人投資家は、アベノミクスに対する期待が大きかった時には、為替ヘッジ付で日本株を買い、円をショートにしていたと考えられるが、こうした動きは最近止まってしまったようだ。この状態が続けば、昨年11月以降のような急速な円安を期待するのは無理があるだろう。
<円の急騰シナリオは考えにくい>
最後にもう一つ付け加えれば、5月23日の日経平均株価の暴落以降、日本の期待インフレ率が低下し、その後もさほど高まる様子が見られない点にも注意が必要だ。名目金利の上昇も加わって、日本の実質金利は反発し、昨年11月以降の低下分を半分以上戻してしまっている。
そもそも急速な円安の背景には、(主に外国人投資家のあいだで)日本に対する期待インフレ率が高まったことと、それに伴って円の実質金利が急低下したことがあったと考えられることから、この変化も円安が進まない理由の一つとなっている可能性がある。
むろん、8月はもともと中旬から後半に向けてドル円が下落しやすいという季節性もあり、足元の下落もある程度はそこに起因している可能性はある。また、世界経済が大きく崩れ、投資家のリスク回避志向が一気に高まらない限り、円の急騰も考えにくい。しかし、ここで述べた3つの状況が今後も続くようであれば、ドル100円台回復は当面難しいかもしれない。
*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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