04. 2013年8月13日 12:54:06
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【第75回】 2013年8月13日 相川俊英 [ジャーナリスト] お盆の帰省の度にひしひしと感じる「2015年危機」 過疎の発祥地・島根県に学ぶ“地元創り直し”術 お盆休みの帰省の度に感じる寂しさ 日本の過疎地域に迫る「2015年危機」 お盆休みを故郷で過ごしている人は少なくないだろう。そして、帰省の度に過疎化や衰退化が進む故郷に寂しさを感じるという人も多いのではないか。 日本の地方の窮状が深刻化している。地域経済は疲弊し、過疎化や高齢化に歯止めがかからない。なかでも深刻なのが、中山間地域である。住民の半数以上が高齢者という限界集落が一般化し、今や存続そのものが危うくなっている集落が増えている。 こうした過疎地域に「2015年危機」なるものが迫っている。地方から都市部への人口流出は高度経済成長期に始まり、以来、半世紀が経過した。この間、地元に残って地域や地場産業を支えてきたのが、昭和ひとけた世代である。 そうした世代が2015年には全員80代となる。彼らの大量引退は避けられず、新たな難問が生じると見られている。 田畑や山林の所有権の継承に伴う課題である。彼らの資産を相続する人のほとんどが都市部に居住している。地域を支えてきた昭和ひとけた世代に代わり、大量の不在地主が誕生することになる。 担い手の消滅により、田畑や山林、家屋などの維持管理は一層困難となる。また、地元の伝統文化や技、知恵といった無形の財産の喪失も不可避となり、地域の荒廃が一気に加速するのは必至だ。 厚生労働省の『将来推計人口』によれば、人口5000人未満の小規模自治体が激増し、2040年には全自治体の5分の1以上を占めるという。 人口減少が進むと同時に、居住者がいなくなる無人化地域も拡大することが予測されている。現在、日本の国土の約5割に人が居住しているが、国土審議会の『国土の長期展望』(2011年)によると、2050年までに居住エリアは約4割に減少するという。 つまり、現在人が居住している地域の約2割が将来、無人化してしまうのである。今後、無人化する地域の割合が高いのは、北海道(52.3%)と四国地方(26.2%)、それに中国地方(24.4%)である。 お盆休みに帰省したいが、故郷で迎えてくれる人がいないので断念――。そんな悲しい事例が今後、ごくありふれたものとなりかねない。故郷や地元、田舎といったものが消滅してしまう重大危機に直面している。 「過疎」という言葉が生まれた島根県 挫折を繰り返す地域活性化の取り組み 日本で最も早く人口減と高齢化の現象に見舞われたのが、島根県である。平地が少なく、県域のほとんどを中山間地域が占める島根県は、人口わずか約70万7000人。東京の練馬区の人口とほぼ同じで、「過疎」という言葉は島根で生まれたと言われている。 そんな島根県は、地域活性化の取り組みにおいても最先端を走っている。島根県は1998年に、中山間地域の問題を調査・研究し、打開策などを練る専門機関を創設した。「島根県中山間地域研究センター」(以下、研究センター)で、県内の中心部ではなく、山間部の飯石郡飯南町に設置された。地域活性化に特化した全国で唯一の公的な研究機関である。 研究センターは、実効性ある地域活性化策を積極的に提言し、かつ様々な実践活動に力を入れている。島根県のみならず中国地方の過疎地の地域づくりに協力し、成果を上げている。そうした調査・研究と実践を基に、『地域づくり 虎の巻』という本を出版している。地域活性化のいわば指南書である。 地域活性化は古くて新しい課題であり、その取り組みは失敗の歴史といっても過言ではない。各地でよく似た活性化策が実施され、一時的な盛り上がりに終わるのが、実態だ。 公共事業によるインフラ整備や企業・施設の誘致、それに特産品の開発やイベント開催が定番である。各地で同じような取り組みを行い、同じような挫折を繰り返してきたのである。 もちろん、地域の疲弊の背景には経済社会の潮流の激変がある。対症療法で簡単に活性化できるはずもなく、小さな地域の奮闘に限界があるのも事実。成果が思うように上がらず気持ちが萎えてしまい、諦めてしまう地域や住民も少なくない。こうして、地域活性化策の予算だけが虚しく消化される現実が続いている。 島根県中山間地域研究センターが提言する地域活性化策は、従来のものとは大きく異なっている。本質的な違いがあると言ってよい。外から何かを持ってくるのでも外に打って出るのでもなく、「地元の創り直し」を行うべしと主張しているのである。 規模の経済ではなく“循環の経済”へ 「地元の創り直し」を掲げる研究センター では、「地元の創り直し」とは一体いかなるものなのか。島根県中山間地域研究センターの藤山浩・研究統括監は、「中山間地域の本質は、資源や居住の“小規模・分散性”にあります。“規模の経済”ではなく、“循環の経済”に転換すべきです」と、語る。そして、「地元の創り直し」の意味と中身を解説してくれた。こんな趣旨だった。 日本は戦後一貫して、「規模の経済」を追求してきた。大規模な施設を集中的に配置し、特定の分野、産物、機能への専門化を進め、海外を含めた遠隔化した流通経路でつなぐ経済システムだ。特定の臨海部に産業や人口を集中させ、経済成長を果たしてきた。その基盤となったのが、安価な化石燃料の大量消費である。 一方、中山間地域の本質は資源や居住の「小規模・分散性」にあり、「規模の経済」を追求する社会経済システムとは相容れないため、成長路線に乗り遅れた。それだけではなく、地域の基幹産業である農林業は海外からの一次産品の大量輸入により、衰退の一途を辿ることになった。こうして中山間地域の循環・定住の構造が壊され、過疎化が急速に進んでいった。 中山間地域の過疎と表裏一体となっているのが、人口流入した都市部の過密である。住宅も「規模の経済」の論理で整備され、大規模団地がいっぺんに造られた。こうしたやり方は短期的には利益をもたらすが、長期的には高くつく。あらゆるものをいっぺんに造ってきたことのツケが回ってくるからだ。たとえば、大量に整備された住宅やインフラの老朽化問題である。 それだけではなく、より巨大なツケを抱え込んでいる。地球レベルの環境問題である。「規模の経済」を支える化石燃料の大量消費は、地球温暖化という難題を引き起こしており、「規模の経済」は複合的な重大危機に直面していると言える。 疲弊した中山間地域をどうやって再生するか。研究センターは、「規模の経済」から「循環の経済」に転換することを提言している。「規模の経済」で断ち切られた地元の人・自然・伝統とのつながりを取り戻し、地域ごとに小規模・分散的に存在する地域資源を活用する。そのために分野を横断した複合的な仕組みをつくり、ヒト・モノ・カネ・情報などを近隣で循環させる社会経済システムを構築すべきだと、訴えている。 ヒト・モノ・カネ・情報をつなげ! 地域内外を結ぶ「郷の駅」を整備 その具体策として、地域内外を結ぶ広場(拠点)の整備を提言している。過疎地域は小規模集落が分散し、しかも生活拠点がバラバラに配置されているところが多い。数少ない住民が出会う機会が少なく、不便かつ非効率である。 こうした状況を打破するため、小学校区などの基礎的な生活圏ごとに、地域内外をつなぐ様々な機能を集約して提供する広場(拠点)が必要だという。研究センターはこうした広場(拠点)を「郷の駅」と呼び、地域のヒト・モノ・カネ・情報などをつなぐ「ハブ」と位置付ける。 「郷の駅」は、域内外を結ぶ交通や物流のターミナル機能だけでなく、コミュニティや行政、商業、金融、医療、福祉、教育、文化・娯楽など、住民の暮らしを支える複合的な拠点となる。空き校舎などを「郷の駅」に転用し、将来的には地場産業や地域エネルギー、防災などの拠点としても活用すべきと提言する。少数の住民がバラバラになって生活するのではなく、つながりを取り戻そうというのである。「地元の創り直し」の拠点とするのである。 もっとも、拠点を造りさえすれば地域のつながりが回復するというものでもない。失われたつながりを新たに生み出すには、そのための組織や人材、仕組み、発想なども不可欠となる。 研究センタ―が提言するのは、「地域マネイジメント法人」と呼ぶ組織の設立だ。複合的な事業を行いながら、住民と行政をつなぐ組織で、NPO法人やコミュニティビジネス会社などをイメージしている。 こうした中間支援組織が、住民のボランティア活動や行政が担えない継続的かつ複合的な事業を展開し、つなぎ役を果たすのである。研究センターは、住民と行政、それに「地域マネイジメント法人」の三角形による地域運営を推奨している。 バスの運転手が子どもや野菜も運ぶ 地域全体に「連結決算」の仕組みを これまでの地域運営は、縦割りの補助金や行政制度を前提とするため、小さな事業がそれぞれの分野ごとにバラバラに展開されていた。担い手の少ない過疎地では無理が多く、ムダも生まれやすい。結局、成果が上がらず、頓挫してしまうケースがほとんどである。 研究センターはこうした「縦割り、年度割り、地域割り」の制度に振り回されるのではなく、地域全体で効率的かつ柔軟に事業を進められるように「連結決算」の仕組みをつくるべきだと訴えている。カネだけではなく、ヒトやモノも「連結決算」とするのである。 たとえば、農業法人の職員が福祉バスの運転手を兼任し、そのバスで子どもや出荷する野菜、新聞なども同時に運ぶといった手法である。NPO法人が「郷の駅」の指定管理を受け、図書館運営から子育て支援、有償運送まで実施しているケースもある。 こうした異なる分野を横断する「合わせ技」や「一石二鳥」を積極的に進めるべきである。そうしたことの積み重ねが、暮らしやすさの再生につながり、地域の活性化に直結するからだ。 研究センターは、中山間地域が「地元の創り直し」を行って暮らしの舞台を整えた上で、次世代の定住を呼び込むことが急務だとしている。人々に中山間地域にバランスよく「郷還り」してもらい、自然と共生する循環型の地域社会を創っていくことが求められると主張している。 |