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金融緩和を行えば必ず金利は下がると思ったら大間違いである。短期金利は金融政策によってコントロールできるが、長期になれば次第にコントロールが効かなくなる。無理に長期金利を引き下げると、後で大きな問題を引き起こすおそれが大きい。
長期金利が上昇していないことが問題
黒田東彦総裁が就任した最初の金融政策決定会合となる4月5日に、日銀は異次元金融緩和とも称される、量的・質的金融緩和政策の導入を決定した。発表文の中で日本銀行は、「イールドカーブ全体の金利低下を促す観点から、長期国債の保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加するよう買い入れを行う」とした。
長期国債の買い入れ額を拡大し、保有残高を年間50兆円増加させるペースで毎月7兆円強買い入れる。買い入れの対象も40年債を含む全ゾーンとして、買い入れの平均残存期間をそれまでの3年弱から7年程度に延長した。これによって国債の需給が逼迫して債券価格の上昇=金利の低下が起こることを日銀も期待していたし、市場でもそう予想していた人も多かったであろう。
しかし実際には、長期金利は当日0.31%という史上最低を記録した後、5月下旬には一時0.9%近くにまで上昇し、黒田総裁就任以前の水準より上昇してしまった(右図)。日本銀行が長期国債を大量に購入した結果、市場での日々の取引が少なくなり、国債を売却しようとすると価格が大きく変動してしまうようになった。このため国債の保有が手控えられるようになって、長期金利の上昇につながったと説明されている。
長期金利の上昇は異次元緩和の副作用として批判されたが、日銀が買い入れ方法を改善したり、市場も新しいオペレーションに慣れてきたりしたことによって、市場は安定を取り戻しつつあるように見える。
しかし、長期債市場が不安定化したことよりも、むしろ、物価上昇率が徐々に高まっているにもかかわらず、長期金利がたいして上昇していないことのほうが、より大きな問題なのではないか。
佐藤健裕審議委員は、7月22日の講演で「そもそも『量的・質的金融緩和』は国債市場への政策効果という点において相反する二面性を有する」と述べている。国債の需給が引き締まって金利を抑制する一方で、デフレ脱却に近づくことで上昇圧力が加わるからだ。
消費者物価上昇率が高まりつつあるにもかかわらず、金融市場が金融緩和による長期金利の低位安定というシナリオに沿って行動していることは、将来、大きな問題を引き起こすおそれがあると考える。
デフレ脱却なら短期金利は引き上げられる
デフレから脱却しても日本経済は低迷が続くので、金融緩和が永久に続くと思っている人は少なくない。民間シンクタンクの中長期見通しでも、10年後に消費者物価上昇率が1.5%になっても、ゼロ金利政策が続くという予測もある。しかし、政府・日銀が目標としている物価上昇率2%という目標が達成できた暁には、コールレートはかなり上昇しているはずだ。
日本銀行によれば、信用度の高い大企業への貸し出しが多い都市銀行の新規貸出約定金利(短期)は、2013年6月分では0.356%という低水準だ。物価上昇率が2%になってもこの金利で借り入れができるのであれば、銀行から資金を借りて原材料を購入して寝かせておくだけで必ず利益が得られる。日本銀行が短期金利を低いまま放置すれば、値上がり益を狙った投機的な需要の増加で価格上昇が起き、それがさらに投機を加速させるという悪循環に陥る。
デフレから脱却すれば日本銀行は、どこかで金利を引き上げざるをえなくなるはずだ。仮に実質金利がゼロ%という景気刺激的な政策を続けたとしても、デフレ脱却後2%の物価上昇率の下では短期金利は2%程度には上昇することになる。
長期金利は短期金利の見通しで決まる
いくつかの例外はあるものの、伝統的な金融政策は基本的には短期金利を操作し、長期金利を直接操作しようとはしなかった。金融論の教科書は、長期金利が将来の短期金利に対する予想で決まると考える期待理論(仮説)を説明している。
これは難しい話ではなくて、10年間短期金利で運用する場合と、今、10年国債を購入する場合の収益率を比べて、国債購入の収益率が明らかに低くければ、誰も10年国債を買おうとしないはずだということである。
これに従えば、長期金利には将来の短期金利の推移に対する予想が大きな影響を与えており、短期金利の将来の推移とは独立に長期金利の水準をコントロールできない。日銀が長期債を大量に購入しても、それが短期金利の上昇時期が早まるという予想を強めると、長期債に対する需要を減少させることになるから、必ずしも長期債市場の需給が逼迫するとはかぎらない。
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短期金利が当面ゼロで推移して、デフレから脱却すると2%になると仮定しよう。期待理論から導かれる10年債の理論金利は、10年間デフレが続けばゼロ、5年間後に脱却なら1%弱、今すぐデフレから脱却すれば2%になる(左図)。
グラフからは、異次元金融緩和が成功して早期にデフレから脱却できるなら、それだけ現在の長期金利は高くなるという関係が読み取れる。したがって、現実の長期金利が0.8%程度にとどまっているのは、現状では投資家の多くが、2%のインフレ目標の達成までには5年以上かかると予想していたり、最終的に物価上昇率が2%にまでは達しないと予想していたりするからだ、ということになる。
日銀が大量に長期債を購入すれば、必ず需給が逼迫して長期債の価格は上昇・長期金利は低下するというわけではなく、金融緩和政策によってデフレ脱却が実現するという見通しが強まれば、将来の金利上昇に対する確率がより高いと考えられるようになり、長期金利は上昇していくはずなのだ。
予想外に早く短期金利が上昇すれば大きな混乱に
金融市場では、政府債務の累増によって債務不履行の可能性が高まり、長期金利の上昇が起こることが懸念されている。財政破綻を懸念した金利上昇が起これば、債務危機に陥った南欧の国々のように、国債の調達金利が上昇して利払い負担が増加し、それがさらに財政破綻の懸念を強めるという悪循環に陥る。
財政再建が喫緊の課題であることは言うまでもない。しかし、ここで強調しておきたいのは、財政破綻を懸念した悪い金利上昇が起こらなくても、日本経済がデフレから脱却すれば短期金利は上昇するはずで、それを織り込めば長期金利は上昇する可能性が高いということだ。
金融市場の参加者の多くが短期金利は今後も低水準にとどまると予想している中で、予想外に早く短期金利が上昇したりすれば、市場は大きな混乱に陥るおそれがある。1980年代の米国では、短期の預金を集めて長期固定金利の住宅ローンの貸し付けを行っていた貯蓄投資組合(S&L)が、短期金利の急上昇によって、すでに貸し出している住宅ローン金利よりも預金金利のほうが高くなってしまい、逆ザヤを抱えて経営が行き詰った。
日本では低金利が続いてきたので、金利負担の小さい変動金利型の住宅ローンを利用している消費者は少なくない。この場合は、短期金利が急上昇すれば、多少の時間差はあっても、消費者のローンの返済負担が急激に重くなる。中には返済不能に陥る人たちも出てくるはずだ。
「長期金利を抑制する」という考え方は危ない
米国のサブプライムローン問題は、金融機関の経営問題として取り上げられることが多いが、住宅ローンの利用者からすれば、軽いと思っていた住宅ローンの元利支払い負担が急に高まって返済不能に陥ったという問題だ。
リスク管理の第一歩は起こりうる状況を想像することであるが、長年続いた状況が大きく変わることを想像することは難しい。日本経済が長年デフレから脱却できずにいるために、デフレ脱却で金利が上昇するというリスクを過少評価している可能性が高い。「長期金利を抑制する」という考え方は、こうしたリスクをもっと高めてしまうおそれがある。
http://toyokeizai.net/articles/-/17303
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