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(図表1)名目GDP成長率と長期金利の推移
デフレ脱却でアベノミクスは第二幕へ 〜米国の実質金利安政策は日本にとっても参考になる〜
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130809-00010002-wedge-bus_all
WEDGE 8月9日(金)12時18分配信
日本のデフレ脱却が現実となりつつある。6月の消費者物価指数(除く生鮮食品)は、前年同月比プラス0.4%となり、2012年10月以来8カ月ぶりにプラスとなった。
エネルギー価格上昇と電気代値上げの影響が大きく、食料・エネルギーを除く消費者物価は依然マイナス(前年同月比▲0.2%)だが、今後とも円安による輸入物価上昇やエネルギー価格上昇などから、物価は徐々に上がっていく見込みだ。
しかし、デフレ脱却といっても、インフレが主として輸入インフレによってもたらされ、実質所得が下がってしまうのでは、決して喜ばしいことではない。
これから政府・日銀にとって重要となるのは、物価が上がるにしても、輸入物価とエネルギー高ばかりによってではなく、主として所得増と需要増によって上がる方向に持っていくことだ。
このことは、いままでの何よりデフレ脱却を最優先にしてきた経済金融政策のチューニングを意味する。参院選を経て、アベノミクスは名実ともに第二幕に入る。
(図表2)消費者物価上昇率と長期金利の推移
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■米国で続いてきた実質金利安
では、政府・日銀に求められる経済金融政策のチューニングとは何か。それは、物価および名目成長率が上がる一方で長期金利を相対的に低く抑える政策対応をし、景気回復を下支えする実質金利安を実現することだ。名目成長率に対しても、物価に対してもマイナスの実質金利を実現すること、と言い換えることもできる。
実は、マイナスの実質金利は容易には実現しない。いままでの日本経済をみても、実質金利は相対的に高めで推移してきており、長期金利が名目成長率を上回ったり(図表1)、消費者物価上昇率を上回ったりした(図表2)のは限られた時期にしかない。
とりわけ、リーマンショック後の日本では、東日本大震災もあって厳しい景気状況が続いてきたし、持続するデフレの中で実質金利が低くならなかったことは容易に理解できる。
(図表3)米国・名目GDP成長率と長期金利の推移
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(図表4)米国・消費者物価上昇率と長期金利の推移
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ところが、近年の米国を見ると、マイナスの実質金利が結構実現している。長期金利は、過去15年のうち11年ほど名目成長率を下回り(図表3)、2011年5月以降12年末に至るまで消費者物価上昇率を下回っている、(図表4)。
そして、消費者物価上昇率や名目成長率よりも低い実質金利が続いた効果は大きい。企業の設備投資や家計の住宅投資が促され、より高い経済成長ばかりか金融バブル崩壊からの早期脱却やシェール革命の早期取込みなどがもたらされ、米国経済の再活性化に大きく貢献している。
米国の実質金利安の背景には、FRBが大胆な金融緩和を継続してきた中で景気が好調に推移してきたことがある。とりわけ三次にわたる量的緩和政策が、大量の資金供給と国債購入を通じて長期金利安を実現し、結果として安い名目金利と実質金利を実現した。
■日本でも久々に揃った金融緩和・好景気の両条件
図表1に見られるように、80年代以降日本でも長期金利が名目経済成長率や消費者物価上昇率より低かった時期が折々ある。
ところが、このうち、2010年と2012年はそれぞれリーマンショック後の世界的な景気落ち込みと東日本大震災後の落ち込みからの反動増の時期で、特殊要因によるものだ。
さらに、80年代後半以降も歴史的な不動産バブル期という異常な時期であり、その後のバブル崩壊や「失われた10年」の到来などに鑑みると、当時の経済金融政策を評価することはできない。
しかし、割安の資金で行き過ぎた不動産投機を起こしてしまったとはいえ、80年代後半は、金融緩和と好景気で実質金利をマイナスにし、設備投資も増えて景気が大いに押し上げた時期でもある。
足元、アベノミクスの下で、物価が上昇に転じる中で金融緩和と好景気両方の条件が久々に揃っていることは注目に値する。しかも、過剰流動性が先を争って不動産投機に動く状況にはなっておらず、金融緩和で好景気をさらに後押ししても当面バブルの心配はない。
■政府・日銀は実質金利安の実現に努めよ
もっとも、条件が揃っても、それでマイナスの実質金利が確実に持続するわけではない。確実な持続には、政府・日銀の政策努力が欠かせない。それは、長期金利をできるだけ低位に維持するとともに、名目成長率をかさ上げする努力に他ならない。
日銀については、物価目標2%達成に向けて引き続き大胆な金融緩和政策を継続することが肝要だ。デフレ脱却につれて期待インフレ率がさらに高まれば、長期金利は徐々に上昇することとなる。しかし、大量の資金供給と国債購入は国債需給を引き締まらせ、相対的に長期金利を低くすることはできる。
政府としても、消費税率を引き上げるなど財政健全化に努力して、長期金利が財政リスクに反応して上がる余地を減少させ、相対的に長期金利を低位に止めることが欠かせない。
さらに、政府としては、短期策と長期の成長戦略を組み合わせて、日本経済の名目成長率と潜在成長力の引き上げを図ることも極めて重要だ。とくに、名目成長率を早期に引き上げるには、企業活力を一段と引き上げる円安の維持といわゆる六重苦(円高、電力制約、高い法人税率、FTA参加の遅れ、硬直的な労働市場、厳しい環境対応)解消に最優先で注力しなければならない。
■アベノミクス第二幕が始まる
アベノミクスの後押しで景気は回復しつつある。しかし、いつまでも緊急経済対策、金融緩和策と円安に牽引されているだけでは心もとない。今後は、新たに生じている経済状況に即した経済政策を組み込むことが欠かせない。
しかも、大胆な金融緩和と円安だけでは、物価が上昇しても所得向上が追いつかず、悪い物価上昇ばかりがもたらされる懸念もある。
その点、マイナスの実質金利実現は、好景気維持の黄金のキーワードだ。それは、企業の資金需要を盛り上げ、国内で滞留している資金をいよいよ動かす大きな契機となる。
現在の消費と輸出中心の成長に設備投資が加われば、内需がさらに盛り上がり、物価上昇も需要に後押しされる形になる。しかも、経済成長が一段と堅調になれば、来年度の消費税率引き上げによる景気下押しを跳ね返すことにもつながる。
現在、アベノミクスの三本の矢が出揃い、デフレ脱却が実現しつつある意味は大きい。しかし、まだ通過点でしかない。それは、物価が目標の2%に至る通過点という意味でもあるが、政策重点を微調整する通過点という意味でもある。
この通過点に当たって、米国の実質金利安政策は日本にとっても大いに参考となる。日本も、マイナスの実質金利実現を目指すことで、日本経済をバランスよく復活させるアベノミクスの第二幕が始まる。
中島厚志 (経済産業研究所理事長)
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