01. 2013年8月05日 10:43:30
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“防火壁”づくりに汗する中央銀行 真夏の熱い市場を冷ませ 2013年8月5日(月) 岩下 真理 中央銀行の関係者たちは、約2カ月に1回のペース(1年のうち7月を除く奇数月。年次は6月開催、次回は9月開催)で、スイスのバーゼルにある国際決済銀行(BIS)の本部で会合を持ち、世界の金融・経済情勢に関する意見交換をしている。 6月下旬に市場の混乱が大きくなる前、6月23日発表のBIS年次報告では、「ゼロ金利政策や豊富な銀行融資、資産購入など中央銀行が実施している景気刺激策には、好ましくない副作用が伴う」、「中央銀行は時期尚早な解除によるリスクと、出口を遅らせることによるリスクのバランスを的確に計る必要がある。現在の緩和的状況が長引けば、出口での課題も増す」という見解を示していた。 自然な流れのはずだった“バーナンキ発言” このような考え方が共有されていたとすれば、6月19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後にバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長が、量的緩和第3弾(QE3)縮小の道筋まで踏み込んで説明したことは、自然な流れだったとも言える。 しかしながら、その踏み込んだ発言は「バーナンキ・ショック」第2弾として、その後、世界的な金利上昇を招いた。またFRBメンバー内でも波紋を呼んでしまった。 6月最終週以降、米国のQE3縮小観測で揺れた市場が、更なる混乱を招かぬように、各国の中央銀行たちは踏み込んだ対応に動いた。この対応の迅速さは、6月下旬の市場の混乱、具体的には米10年物国債の利回りが2.7%台まで一気に上昇したことが、当局の想定する以上のものだったことを表している(図表1参照)。 図1:日米の長期金利(10年債利回り) (出所)Bloombergより、SMBC日興証券作成 このような対応は、かつて白川方明・前日銀総裁が「中央銀行は“防火壁”である」と比喩したことを筆者に思い出させた。中央銀行たちの2013年夏は、市場の安定化に力を尽くす「防火壁づくりに汗する夏」である。 「Believe me.」から1年経過 その一方で、7月4日にイングランド銀行(BOE)と欧州中央銀行(ECB)がともに市場に新たなメッセージを発信したのはサプライズだった。 BOEはカーニー新総裁を迎えた初会合の声明文で、「フォワード・ガイダンス(金融政策の指針)」導入の検討を表明。早期の利上げ観測を牽制する構えを見せた。 一方のECBは、ドラギ総裁が会見で「ECBの主要金利が長期間にわたり(for an extended period of time)、現行水準もしくはそれを下回る水準(at present or lower levels)になると予想する」と明言。この手法をフォワード・ガイダンスと説明した。低金利政策の長期化および追加利下げの可能性を示唆することで、景気の下振れや信用不安の広がりを早めに封じ込む一手を講じた。 ドラギECB総裁はこの時点で米国金利の上昇に巻き込まれたくない姿勢を明確に示しておきたかったのだろう。それだけ、ECBがユーロ圏経済の立ち直りに慎重であることがわかる。国際通貨基金(IMF)が7月10日に発表した世界経済見通しで、2013年と2014年をともに下方修正したことは、新興国の成長減速とユーロ圏の景気後退の長期化が理由とされた(図表2参照)。 図2:IMFの世界経済見通し(実質GDP:前年比%) 11年実績 12年実績 13年 修正幅 14年 修正幅 今後の方向性 世界計 3.9 3.1 3.1 -0.2 3.8 -0.2 新興国とユーロ圏の弱さで4%は届かず 先進国 1.7 1.2 1.2 -0.1 2.1 -0.2 米国 1.8 2.2 1.7 -0.2 2.7 -0.2 財政面の影響で14年に3%届かず 日本 -0.6 1.9 2.0 0.5 1.2 -0.3 13年は日本が世界を引っ張る姿 ユーロ圏 1.5 -0.6 -0.6 -0.2 0.9 -0.1 下方修正は止まらず、停滞長期化 ドイツ 3.1 0.9 0.3 -0.3 1.3 -0.1 13年は下方修正も、14年は回復へ フランス 2.0 0.0 -0.2 -0.1 0.8 0.0 13年の停滞から、14年はプラスへ イタリア 0.4 -2.4 -1.8 -0.3 0.7 0.2 13年の落ち込みから、14年はプラスへ スペイン 0.4 -1.4 -1.6 0.0 0.0 -0.7 14年は大幅下方修正、足取りは鈍い 英国 1.0 0.3 0.9 0.3 1.5 0.0 13年は1%割れも上方修正 新興国 6.2 4.9 5.0 -0.3 5.4 -0.3 13年以降の持ち直し度合い弱まる ブラジル 2.7 0.9 2.5 -0.5 3.2 -0.8 13年、14年ともに大幅下方修正 ロシア 4.3 3.4 2.5 -0.9 3.3 -0.5 12年以降は4%割れ、下方修正止まらず インド 6.3 3.2 5.6 -0.2 6.3 -0.1 じりじりと下方修正継続 中国 9.3 7.8 7.8 -0.3 7.7 -0.6 7%台後半の安定成長へ移行 ASEAN5 4.5 6.1 5.6 -0.3 5.7 0.2 14年に向け、5%台成長持続で牽引 中東 3.9 4.4 3.1 -0.1 3.7 0.0 13年以降は3%台の成長 (出所)IMF(13年7月10日発表) *修正幅は13年4月予測との乖離、今後の方向性は、SMBC日興証券が加筆。 ドラギECB総裁が2012年7月26日の講演で、「ユーロ圏を崩壊から守るためにできることを、責務の範囲内で何でもする用意がある。信じて欲しい(Believe me.)」と発言してからもう1年以上が経過した。このドラギ発言後、ECBは2012年9月6日には新しい国債購入プログラム(OMTs:Outright Monetary Transactions)を発表。厳しい条件を受け入れた国に対して、その国債を無制限に買うというセーフティネットを整備したことにより、欧州市場でのテールリスクは大きく後退した。 その点は評価できるだろう。OMTsは稼働することなく1年が過ぎ、まだ景気持ち直しに自信が持てない状況が続いているのだ。景気とインフレ鈍化に配慮する形で、ECBは今年の5月2日に政策金利の0.25%引き下げを決定し、7月4日にはフォワード・ガイダンスの導入に踏み込んだ。この流れから、「ECBは法的条件がクリアとなっていないOMTsをできれば使いたくない」、そんな心境が透けて見えるようだ。 日米とは異なる欧州のフォワード・ガイダンス そもそもフォワード・ガイダンスとは、低金利政策の継続をコミットするための手法であり、最も早く導入したのは日銀である。 過去の事例では、物価や雇用関連統計の経済指標にリンクさせるか、時間軸を明示する形が取られてきた。具体的には、日銀であれば2001年3月の量的緩和導入時に、「コアCPIの前年比上昇率が安定的にゼロ%以上になるまで、量的緩和を継続する」とコミットした。 その後2003年10月発表の「金融政策の透明性の強化」で、コミットメントの明確化を示しながら、市場に織り込ませていった。日銀は時間軸政策の浸透に苦心しながら、かなりの時間を要したと言える。 一方のFRBは、2011年8月に低金利政策の継続について「少なくとも2013年半ばまで」と時間を明示し、2012年1月時には「少なくとも2014年終盤まで」、2012年9月のオープン・エンド方式の導入時には「少なくとも2015年半ばまで」に延長していった。 その後、2012年12月時には、「失業率が6.5%を下回る、インフレ率が2.5%を上回る」という数値目標の導入に修正した。ただし、FRBメンバーの見解が割れていることから分かるように、この数値目標はハト派の執行部の見切り発車的な決定だったように思われる。昨年12月の決定から半年以上も経過したが、QE3縮小に関してもFRBメンバーは百家争鳴であり、数値目標の考え方からこの状況は続いている。これは、カリスマ的なグリーンスパン前FRB議長とは異なり、民主主義的に意見をまとめていきたいと考えるバーナンキ議長がもたらした結果であり、彼の議長任期である2014年1月31日まで、突然の辞任がない限り続くことになると筆者は見ている。 以上のように、日米のフォワード・ガイダンスが、時間明示や経済指標にリンクされる形となっていたのに比べると、ECBの「主要金利が長期間にわたり(for an extended period of time)、現行水準もしくはそれを下回る水準(at present or lower levels)になる」との説明は曖昧な表現であり、意図的にしていると思われ、その効果は小さいだろう。 それでも、足元の欧州の長期金利はある程度低下した。問題はこの先、経済・物価見通しを下方修正する必要があった場合だ。8月1日のECB理事会では、フォワード・ガイダンスの協議に終始したとされるが、曖昧な表現を変えることなく、その内容を再確認するにとどまった。その後のドラギECB総裁の会見では、短期金融市場で浮上している利上げ観測について正当化されないことを指摘した。自らの景気・物価シナリオに対して下振れリスクとなる過度な金利上昇を抑制しつつ、景気回復の足取りが強まることを待っている時間帯と言えるだろう。次回9月発表の見通しが注目される(図表3参照)が、下方リスクが強まる場合に限り、曖昧な表現を修正する必要が出てくるだろう。 図3:ECBのスタッフ経済見通し(13年6月6日発表) 2013年 2014年 実質GDP成長率 ▲1.0〜▲0.2 0.0〜+2.2 <▲0.9〜▲0.1> <0.0〜+2.0> 消費者物価指数 +1.3〜+1.5 +0.7〜+1.9 <+1.2〜+2.0> <+0.6〜+2.0> 下段の<>内は3月時点のECBスタッフ見通し。 (出所)ECBより、SMBC日興証券作成 アクセルは緩めてもブレーキは踏まない バーナンキFRB議長は、6月19日のFOMC後の会見で、@労働市場の改善見通しに自信が深まることを条件に、年後半にQE3縮小を開始、A失業率が7.0%まで低下した時点では買入れ終了(2014年半ば頃を想定)という道筋を示した。ただし、QE3縮小そして停止はアクセルを緩めても、政策金利の引き上げというブレーキはすぐには踏まないと説明したが、市場は利上げを織り込む動きを見せてしまった。 6月27日には、ニューヨーク連銀のダドリー総裁、パウエル理事が火消しに回ったが、バーナンキFRB議長自らも7月10日の講演、同月17〜18日の議会証言では、QE3縮小の道筋は既定路線ではないことを強調。QE3縮小のペースは経済指標次第である点を繰り返し語ったのである。 結局、バーナンキFRB議長は6月19日の米FOMCから1カ月間かけて、FRBの政策意図を丁寧に伝えることで、市場の過度な利上げ期待を和らげたことになる。筆者は、労働市場見通しに自信を深めるには、3カ月連続で強い数字となること、加えてインフレ率の鈍化に歯止めがかかることが必要と考えている。 7月30〜31日開催の米FOMCでは、声明文に新たな文言と修正を盛り込む形で、市場を動揺させたくないFRBの努力が感じられた。声明文では、住宅ローン金利の上昇と過度な低水準のインフレという2つの足元のリスクに配慮する文言を盛り込みつつも、「経済と労働市場の見通しに対する下方リスクは、昨秋以降、後退した」との表現は変更せずに残した。FRBのコンセンサスとしては現在のインフレ鈍化は、「一時的な影響」であり、「中期的には、目標水準に向かって回帰すると想定」と見方を変えていない。また、「資産買入プログラムが終了し、景気回復が強まった後もかなりの間、非常に緩和的なスタンスが引続き適切になるとの見方」を“再確認(reaffirmed)”と表現した。結局、今後は経済指標次第であり、中期的な経済見通しに自信が深まればQE3縮小に動く、アクセルを緩めてもブレーキはすぐ踏まないという基本シナリオは変わっていない。 7月5日発表の6月の米雇用統計が労働市場の改善を示したこともあり、あと2カ月連続で強い数字となれば、最短で9月の米FOMCでQE3縮小は可能だろう。しかしながら、現時点で決め打ちできるものではなく、今後発表される経済指標の内容次第であり、弱ければ後ずれすることになるだろう。 FRB議長の後任人事報道に揺れる 足元では、米国紙でFRB議長の後任人事の有力候補として、サマーズ元財務長官の名前が浮上し、これまで最有力候補と言われてきたイエレンFRB副議長との比較が話題となっている。 サマーズ氏であればクリントン政権下でのドル高政策の印象が強いと同時に、アジア金融危機に対処した強みもある一方、金融規制撤廃を進めたことにより、その後の金融危機を招く下地を作ったとの批判もある。 イエレン氏であれば初の女性FRB議長の誕生となるが、バーナンキ議長とともに金融緩和を推進してきたハト派であり、その見解を引き継ぐとみられるため、市場には遥かに安心感があるだろう。 サマーズ氏の名前は大統領周辺から出てきたとの話や、強烈なリーダーシップの発揮が期待されている点は、元財務官の黒田東彦日銀総裁の誕生の経緯とやや似ていると、筆者には感じられた。結局は、来年の中間選挙を控えたオバマ米大統領の意向が強く反映されるものとなりそうだ。
岩下真理の日銀ウオッチング 安倍晋三政権が放つアベノミクスの3本の矢のうちの1つ、日銀の大胆な金融緩和策。財務官出身の黒田東彦総裁の下で、「量的・質的金融緩和」という未曾有の大実験が始まった。果たしてデフレを克服し、日本経済を再生することができるのか。長年、金融政策を追いかけてきた数少ない女性の「日銀ウオッチャー」、SMBC日興証券の岩下真理氏が、独自の視点で日銀の一挙手一投足を読み解く。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130730/251724/?ST=print
JBpress>海外>Financial Times [Financial Times]
世界に対して門戸を閉ざす英国 2013年08月05日(Mon) Financial Times (2013年8月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 世界を止めてくれ。英国が飛び降りたがっている――。 2012年のオリンピックは、多様性を祝う輝かしい祭典だった。ロンドンは、他の追随を許さない世界的なハブであることを示した。オリンピックに出場した自国のヒーローたち――モハメド・ファラーやジェシカ・エニスのようなアスリート――は、英国人気質が持つ新しい包容力のあるものの見方を証明した。これは当時の話だ。 あれから1年、英国の政界ではドアがバタンと閉まる音が響き渡っている。外国人に対するメッセージは悲しくなるほど単純だ。来るな、というものだ。 「外国人は来るな」 英首相、EU残留を問う国民投票を約束 17年末までに デビッド・キャメロン首相は2017年末までにEU残留の是非を問う国民投票の実施を約束している〔AFPBB News〕 デビッド・キャメロン首相率いる保守党は、英国が欧州との関与を断つことにつながりかねない国民投票を約束している。 こうした保守党内の欧州懐疑派が1つの選択肢を示した時代もあった。欧州を見限り、世界に目を向けるという選択肢だ。もはやそれもなくなった。バリケードは、ありとあらゆる人に対して築かれようとしている。旅行者、学生、企業幹部――。誰もが不法移民の志望者というわけだ。 国境警備を担当する部局である内務省は先日、政府の政策の原動力になっている性質の悪いポピュリズムの片鱗を見せた。広告用掲示板を乗せたトラックが民族的に多様なロンドンの各地域に配備された。そのメッセージは何か? 不法移民は「国に帰るか、さもなければ逮捕されることになる」というものだ。 連立政権のジュニアパートナーである自由民主党は、この取り組みは馬鹿げており侮辱的だと抗議した。首相官邸はそれにも動じず、このキャンペーンが全国的に展開されるかもしれないと述べた。 内務省は、「リスクの高い」国々からの旅行者に対し、英国に入国するために3000ポンドの預託金の支払いを求めることも計画している。その目的は「(ビザの期限を越えた)長期滞在」を抑制し、旅行者が医療を必要とする場合のコストを回収することだ、と内務省は話している。 「白人」の多い国は対象外 対象となった国は、インド、ナイジェリア、ケニア、パキスタン、スリランカ、バングラデシュだ。こうした国々は、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといった圧倒的に「白人」が多い国が免除されていることに気付いている。 もっと身近なところでは、ルーマニア人とブルガリア人の入国を制限することも政府は約束している。こうした欧州連合(EU)諸国の国民は、暫定的な制限が来年終了する時にEU域内を自由に動けるようになる。 英国のタブロイド紙は既に、多数の「給付金目的の旅行者」に関するホラーストーリーに満ちている。移民の方が英国人より福利厚生を要求する可能性が小さいことは、この際気にしないらしい。 政府は、ポピュリストたちの大衆受けを狙っている。首相は、かつて自身のトレードマークにしていた「大きな社会」の包括性を放棄してしまっている。苦境に喘ぐ英国独立党の国家主義者たちは、右派の間で保守党を出し抜いた。景気低迷と緊縮財政が国民の不満をかき立てている。キャメロン首相はかつて、英国独立党の支持者を「隠れ人種差別主義者」と呼んだが、今は彼らの機嫌を取っている。 被害妄想の空気をかき立てているのは、マイグレーション・ウォッチUKのような圧力団体だ。この組織のトップを務める元外交官のアンドリュー・グリーン氏は、今世紀後半には「白い英国人」(グリーン氏の表現)が少数派になる可能性があるとする論文を引き合いに出す。 「だから何なのだ?」と言う人もいるだろう。ファラー選手やエニス選手――1人はソマリア出身で、もう1人は部分的にカリブ人の血を受け継いでいる――が大声援を受けた時、英国が国のアンデンティティーの目印として肌の色を置き忘れてきたというのは、もっともな想定のように思えた。 2人が金メダルを取った時、彼らは「茶色い英国人」だと不満の声を聞いた覚えは筆者にはない。だが悲しいかな、そうした勝利の喜びが、イングランドのホームカウンティー(ロンドン近郊の諸州)にあるサロンバーの外国人嫌いに風穴を開けることはなかった。 正確な数字も把握できないめちゃくちゃな移民政策 英国は、理にかなった効果的な移民政策を切に必要としている。人々は、制度が公正で効率的であり、地域社会にとって不当に破壊的でないことを望んでいる。最後の労働党政権は、EU加盟後の旧共産国からの入国者の数をあきれるほど過小評価した。門戸開放政策が甘い管理と相まって移民が制御不能になったという見方が広がった。 だが、現政府にとっては、道徳の危機的状況とポピュリスト的なジェスチャーが、制度を掌握できない自らの失敗から注意をそらすものになっている。そして、非常に多くのやる気のない不適格な若者を生み出している国内教育制度の失敗に対処するよりも、移民が職に就いていると非難する方がどれだけ簡単なことか分からない。 つい先日、英議会のある委員会は、正式な移民の数がどのみち「推測」に基づいていると話していた。出国する訪問者に対するパスポートやビザのチェックがない状態では、それもほとんど驚くには当たらない。 こうした推測によると、正味の移民の数は非常に急速に減少しているという。これは恐らく本当だろう。だが、減少は、もっぱら外国からの留学生に対する取り締まりに反応したものだ。 カナダや米国、オーストラリアといった国々は、大半が帰国するという明白な理由から、学生を永続的な移民とは見なしていない。一方、英国のビザ制度は混迷を深めており、ロンドンのヒースロー空港での入国管理は目を覆うばかりで、30万の亡命や移民の案件は未解決のままだ。 正味の移民の数を数万人台前半まで減らすという公式目標は矛盾だらけだ。この目標は、どれくらいの数の英国人が引退してスペインの太陽の下へ移住するかによって、ブラジルや米国からの入国者の数が増えたり減ったりすると想定している。ポーランド人の配管工が帰国すれば、英国はより多くのインド人技師を受け入れることができる――そしてその逆もしかりだ。 国家としての自信喪失 このような愚かさの向こう側には、はるかに大きな問題が横たわっている。英国はかつて、進歩的で開かれた国際制度の擁護者だった。今は、世界に対して、自らを恨みがましい犠牲者として定義し直している。欧州から手を引いたり、移民を禁止したりしようとする動きは、国家の自信が崩壊していることを物語っている。 そして、その経済的結末は壊滅的なものだろう。まともな考えを持った、例えば、中国、インド、ブラジルの一体どんなビジネスリーダーが、彼らがEUにアクセスするのを拒み、自国の人々を歓迎されない客だと言っている国に投資するだろうか? 英国は今まさに飛び降りようとしているかもしれないが、それでも世界は回り続けるのだ。 By Phillip Stephens |