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値上げ成功でも、喜べぬ鉄鋼業界の憂鬱 価格是正の好機だが、中国の動向が影を落とす
http://toyokeizai.net/articles/-/16801
2013年08月04日 小河 眞与 :東洋経済 記者
長らく製品市況の低迷にあえいできた鉄鋼業界に、値上げの季節がやってきた。
新日鉄住金は7月下旬までに、トヨタ自動車との間で2013年度上期(4〜9月)の自動車用鋼板の価格を値上げすることで合意した。12年度下期(12年10月〜13年3月)に比べ、1トン当たり1万円(1割)の値上げとなったもよう。自動車用鋼板の値上げ決着は2年ぶりだ。
主原料である鉄鉱石の価格は、13年1〜3月期の1トン=103ドルから13年4〜6月期は同137ドルまで上昇。もう一つの主原料である原料炭も同期間に165ドルから172ドルに上昇した。そこに円安が拍車をかけ、原料コストは大きく膨らんだ。
一方、自動車メーカーの14年3月期業績は、円安を追い風に大幅増益が見込まれる。こうした顧客側の状況変化もあり、原料価格の上昇を製品に転嫁したい鉄鋼メーカーの悲願が2年ぶりに受け入れられた。
値上げの動きは自動車向けだけではない。電炉最大手の東京製鉄は、鉄筋に使われる異形棒鋼など建設向け鋼材の価格を、8月契約分から1トン当たり3000円(5%前後)引き上げる方針を打ち出した。
東北復興需要に加え、公共事業も増加。アベノミクス効果でマンション着工も拡大傾向にある。東鉄の今村清志常務は「需要増加の足音が聞こえる。来月以降も期待できる」と、さらなる値上げに含みを持たせる。
鋼材値上げを後押しするのは、原料動向や国内需要だけではない。中国の市況好転も追い風になった。
近年、中国では地方の中小鉄鋼メーカーが野放図な増産を繰り返し、慢性的な供給過剰が続いてきた。6月には鋼材価格が4年ぶりとなる安値水準まで下落。引きずられる形で日本の鋼材市況も低迷が続いた。
だが、7月に入ると中国の状況は一転。18日までの段階で異形棒鋼は前月比2.1%、熱延鋼板は同1.5%上昇。底打ちの兆しが見える。
背後にあるのは、流通在庫の減少だ。鋼材価格のあまりの下落によって採算が悪化した現地の鉄鋼商社はメーカーからの仕入れを手控え、在庫圧縮に動いた。3月には過去最高の2200万トンまで積み上がった流通在庫は3カ月連続で減少し、6月には1690万トンまで圧縮された。
■秋以降は中国で市況悪化も
ただ、流通在庫の減少に対し、生産量は一向に減っていない。3月以降の粗鋼生産量は過去最高水準の6500万トン前後に張り付いたまま。これは日本の年間消費量に匹敵する。一方、現地需要の伸び幅は生産量に比べると小さい。
また、7月の市況反転は毎年夏場に多く行われる定期改修に伴う、一時的な現象だと指摘する声もある。「夏にいったん減少した在庫も、定期改修が終わると再び増加し、市況が悪化するという流れが、ここ数年は定着している」(業界関係者)。例年どおり、市況が再び悪化に向かえば、中国鋼材が日本国内に流入し、改善に向かい始めた建材市況に冷や水を浴びせるおそれもある。
そもそも、自動車用鋼板の価格交渉において、製品に転嫁できたのは原料上昇分の一部だ。原料価格の上昇幅は鋼材1トン当たり1万5000円程度。1万円の値上げでは取り戻しきれていない。新日鉄住金の14年3月期経常利益は前期比4倍弱の3000億円となる見通しだが、リーマンショック前の07年3月期に新日本製鉄1社で稼ぎ出した5976億円と比べると、なお低水準だ。
今後は電機や造船などとの価格交渉が大詰めを迎える。これらの業界は、自動車以上に海外勢との競争が激しい。さらなる価格是正をどこまで進められるか。2年ぶりの朗報も手放しで喜ぶ余裕はない。
(週刊東洋経済2013年8月3日号)
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