01. 2013年7月30日 00:54:24
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ポスト団塊ジュニアを魅了する「築20年住宅」内山博文・リノベーション住宅推進協議会会長に聞く 2013年7月30日(火) 蛯谷 敏 まずは、下の写真をご覧いただきたい。 新宿区西早稲田。築28年、66.6平方メートルのLDKの部屋を大胆にリノベーション。ニューヨークのロフトのような雰囲気を演出した内装と、コンクリートの躯体をむき出しになった開放感ある天井が特徴。リビングの一角には小上がりの和室。公園の森を見渡すくつろぎの場所となっている。 築23年、練馬区石神井台の一戸建てをまるごとリノベーション。構造の安全性と環境性能を確保した上で、内装は極力シンプル、クリーンに。暮らし方に合わせて内装に手を入れていく楽しみを残す、可変性の高い住まいを提案する。 目黒区有数の邸宅地、碑文谷。閑静な住宅街に佇む築21年の低層マンション。売りは100平方メートル超の住空間。アトリエ、巨大本棚、サンルームなど、オーダーメードにも対応。価格は9200万円から。 いずれも、築年数20年以上の中古住宅を改修し、暮らし方の提案まで加味したリノベーション住宅である。手がけたのは、数多くのリノベ物件を手がけてきたリビタ。 中古を感じさせない内装や先進的なデザイン。住みやすさを配慮した設計。手頃な値段。こうした魅力に惹かれ、リノベ住宅を購入する世帯が増えているという。「型にはまった間取りはつまらない」「趣味と仕事を両立できる自由な住み方を追求したい」…。背景には、住宅取得の主役が、ポスト団塊ジュニア世代に入り、住まいにこだわりを持つ層が増えている事情がある。マイホームといえば新築、という常識は崩れつつある。 好景気に沸く不動産市場。その追い風もあって、リノベーション住宅市場も活況を呈している。その実情を、リビタ常務であり、リノベーション住宅推進協議会会長も務める内山博文氏に聞いた。 (聞き手は蛯谷 敏) リノベ物件とは暮らし方も含めた提案 内山 博文(うちやま・ひろふみ)氏 愛知県出身。筑波大学卒業。1991年、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社を経て、96年に株式会社都市デザインシステムに入社。コーポラティブ事業の立ち上げや不動産活用コンサルティングの業務でコーディネーター、取締役、執行役員として活躍。2005年、リビタ代表取締役に就任。2009年一般社団法人リノベーション住宅推進協議会副会長に就任。2013年7月から会長。現在は、リビタの事業執行とともに、住宅市場拡大のための仕組みづくり、枠組みづくりを推進している。(写真:村田和聡、以下同) 不動産・住宅業界を5年ほど前から取材してきた印象からすると、「リノベーション」という言葉はだいぶ世の中に浸透してきた気がします。数年前は、「リフォーム」と混同されることも多かったですよね。
内山:そのあたりは、だいぶ認知されてきたかな、という印象はありますね。私の印象では、最近のメディアさんの捉え方は、リフォームが「家を取得している人が改修すること」、いわば機能改善であり、リノベーションは「住宅取得者が購入する物件そのもの」といった感じです。 我々はちょっと違う定義をしていて、リノベーションとはハードである物件にとどまらず、それを購入した方の暮らし方、すなわちソフトの部分も含めたパッケージだと考えているのですが、世間にリノベーションという言葉が認識されつつあるのは間違いないと思います。 私が7月から会長を務めさせていただくことになったリノベーション住宅推進協議会にも、その変化は確実に表れていまして、3年前の発足当時は100社程だった加盟企業の数が、現在は380社にまで増えています。当初は、東京や大阪といった大都市の会社が加盟するケースが多かったのですが、今は、地方都市にも広がっていて、地域ごとに30社くらいが集まってリノベーション住宅を広めている感じですね。 供給する業者側の裾野は広がっているわけですね。 内山:考えてみれば、当たり前の話なのですが、リノベーションというのは、どこか1つの業界だけでは絶対に完結しないんですよ。中古住宅を再生するとなると、建築事務所、建材メーカー、ハウスメーカー、不動産会社など、関係する領域が多岐に渡ります。だから、裾野が広がりやすく、興味を持つプレーヤーの数はどんどん増えていくと思います。 最近の傾向としては、マンションデベロッパーさんが、一部リノベーション事業にシフトしようとする動きも見られます。これも、新築志向が根強い住宅業界の中では、特徴的な変化ではないでしょうか。 琴線に触れるものは惜しみなく消費 そういった変化を引き起こしている要因は何なんでしょう? 内山:いくつか要因はあると思いますが、まず大きいのは消費者の嗜好の変化ですよね。いわゆるポスト団塊ジュニア世代の人たちが、住宅を購入する年代に突入したということです。これは一般論として言われていますが、経済成長期に幼少時代を過ごした彼ら、彼女らは、物資的欲求がある程度満たされています。だから、「いつかはマイホーム」といった従来の住宅神話が成り立ちにくいという事情があります。 その代わり、自分の琴線に触れるモノには、惜しみなく消費します。感動したり、共感したりする商品やサービスには、大金でもパッと使ってしまう。それは、住宅であっても同じです。それが、新築か中古かというのは、あまり関係ないという人も少なくありません。 リビタでも、リノベーション住宅を購入する人たちは、何らかのこだわりを持っている方々が多いですよ。自律的というか、主体的というか。自分の意志で住み方を決めたいという印象を受けますね。 インターネットで情報がどんどん手に入れられる時代ですから、自分なりにこだわった暮らしをする人は、暮らす場所や暮らし方を広い選択肢の中から選べるリノベーション物件に流れている、という傾向はあると思います。中古は必ずしも、古くてダサいものばかりではないということを理解されているんですね。 3つに分かれる住宅取得層 もう1つ、感じるのは収入面での変化です。現状、リノベーションの購入層は価格帯によって3つほどのヤマがあります。間取りが3LDKのいわゆるファミリー物件だと、2000万円前後に1つのヤマがあって、4000万円前後にもう1つのヤマがあります。最近ではこれらに加えて、1億円超のところにヤマができつつあります。 2000万円の層は、もともとは住宅取得をあきらめていた世帯が多いんです。収入的に、ローンを組むのも厳しかったのが、中古のリノベーション物件が登場したことで、ちょっとがんばれば住宅が購入できるようになったわけです。 4000万円前後の層は、先に触れたポスト団塊ジュニア世代の消費傾向が一番表れているのですが、本来新築物件を購入できるところを、あえてリノベーション物件を選ぶ人たちです。中古を購入して、ある程度の費用をかけて、思い切り自分たちの理想とする暮らし方を追求するんですね。こだわりや知的好奇心の高い層だともいえるかも知れません。 個人的に興味深いのが、最近できつつある1億円超の層です。これには昨今の住宅販売事情が関係しています。人気のある住宅地の新築で、100平方メートル以上の広い面積の物件って、めっきり出なくなってしまったんですね。そもそも土地がなかったり、手頃な価格に抑えて利益を確保しやすくするために、面積を犠牲にしたりと、理由は様々なのですが、その一方で「広い家に住みたい」という人がいるのは確かなんです。そこで、広い面積を持つ中古物件をリノベーションして販売するというケースは、増えています。リビタでも数件扱いましたが、今のところ高額価格帯にもかかわらず、人気が高いんですよ。 盛り上がりはまだ足りない 話しをうかがっていると、リノベーション住宅市場は活況になってきたという印象も受けます。 内山:そう言いたいところですが、個人的にはまだまだ盛り上がりは足りないと思っています。中古住宅の流通において、いくつか構造的な問題が解決されていないからです。 例えば、中古住宅取得時の税金です。新築の場合に比べて、かかる税金に差があるんです。分かりやすいのは、不動産取得税です。土地を買って、一般的なファミリー向けの新築マンションを作って販売する場合は、業者にはこの税金はかかりませんが、私たちが中古物件を取得すると、それを数カ月後に再販する場合でも、支払わなければなりません。 最近は少しずつ改善しつつありますが、実績の少ない会社が扱う場合、住宅ローンでも、新築とリノベーション物件では、金利や借り入れ年数が違うことがあります。中古物件であっても、リノベーションすることで耐震性能が確保されている住宅も増えているのですが、単純に築年数で金利や借り入れ年数、税制の優遇が決まったりと、私たちから見たらまだまだ理解されていないな、と感じる点は多々あります。 先ほどの消費者の話しに戻りますが、結局、住まいに対するこだわりが高い人ほど、こうした情報を入手しているので、支払う税金やローンでの優遇を比べると、「やっぱり新築の方がいいか」となってしまうわけです。制度の影響で中古住宅取得に二の足を踏んでいる人はかなりいると思いますね。 もう1つ、冒頭の話と少し矛盾しますが、リノベーションという言葉の認知度はまだまだだと思っています。いわゆる、一般的な住宅取得層の方々にまでは浸透したとは考えていません。
例えば、住まい探しをする時に、普通はネットから入りますよね。ところが、大手の住宅検索サービスは、まだ「リノベーション住宅」といった検索条件を指定できるところはないんです。新築のモデルルームや住宅展示場に行けば、絶対に新築を勧めるわけですから、メディアへの露出も含めて、リノベーション物件を知る接点はもっと増やさなければと思っています。 最近は、景気浮揚感が高まって、不動産市況が再び動き出しています。景気回復自体はいいことですが、個人的に懸念しているのは、新築物件の供給が過剰になることです。どんどん在庫が積み上がって、急に景気が減速すれば、過剰在庫の住宅は結局、安値で叩き売られることになります。すると、そのしわ寄せは、中古住宅市場を直撃します。まるで、リーマンショック直後の不動産市況と同じです。いつか見た風景ですよ。 住宅ストック活用に直結する問題 日本の住宅ストック活用問題などを考えると、リノベーション住宅の推進は不可欠ですよね。 内山:国内人口が減っていく中で、既にある住宅をどうしていくかという問題は、日本全体にとっても課題です。最近では、リノベーション住宅推進協議会も、国土交通省などからこの点についてヒアリングを受けるようになりました。 日本の空き家問題は、本当に深刻な状態です。今は、集合住宅にスポットが当たりがちですが、実は、戸建てこそリノベーションが求められています。例えば総務省の発表では、東京都の共同住宅は103万、戸建て住宅は約150万あるんですが、そのうち中古住宅成約数は、マンションが1万3210件に対して戸建て住宅は2768件と圧倒的に少ないんです。 そこで、リビタでも戸建てのリノベーション住宅にも取り組み始めました。やってみて分かったのは、戸建ての再生も、手法を確立さえできれば、現在価値の低いものであっても、合理的に再価値化できるということです。 冒頭に紹介した練馬区石神井台の一戸建てがいい例ですが、実はユーザーにとっては手頃な価格で理想の暮らし方ができる一戸建てを購入できるチャンスでもあります。ですから、住宅業界も消費者の方も、既成概念にとらわれずに積極的に戸建ての再生分野にも興味を持っていただきたいですね。もしかしたら、より豊かな暮らしにつながるかもしれないですから。 結局は消費者が気に入ってくれるかどうか 役所の危機意識はひしひしと感じます。住宅政策も、従来は局や課が縦割りで住宅ストック活用を議論している印象がありましたが、今は連携して取り組むという意志を感じます。最近では金融庁といった他の省庁も参加してこの問題に取り組むようになってきています。 国交省は2012年3月に、「中古住宅・リフォームトータルプラン」を発表しました。その中に、「2020年までに中古住宅流通とリノベーション市場を20兆円に倍増する」という、具体的な数値目標が盛り込まれています。この数値目標を達成するための具体的な施策が、これから動き出していく予定です。 ただ、最後はやっぱりエンドユーザーがリノベーション住宅を気に入ってくれるかどうかですから、民間企業としては、政策の変化を期待しつつ、切磋琢磨してよい住宅を作っていくしかないと思っています。 リノベーションというのは社会的課題を解決するための手段でもあると思って、取り組んでいきたいと思いますね。 このコラムについて キーパーソンに聞く 日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。 |