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「シェール革命」に冷水、米大手銀エコノミストらの違和感
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投稿者 あっしら 日時 2013 年 7 月 29 日 03:48:42: Mo7ApAlflbQ6s
 


「シェール革命」に冷水、米大手銀エコノミストらの違和感

米州総局編集委員 西村博之
2013/5/12 6:00

 米経済復活の切り札と期待される「シェール革命」。米産業界や市場の熱気が高まるなか、意外な人々が、冷水を浴びせ始めた。米国を代表する大手金融機関のトップエコノミストらが、相次いで懐疑的な見方を示しているのだ。市場も経済も熟知する彼らが抱く違和感とは――。

 今度はモルガン・スタンレーか。そんな舌打ちも聞こえてきそうだ。同社は最近、「米製造業ルネサンス――名作か、まやかしか」と題したリポートをまとめた。
 まやかし(fake)という言葉の前には、かっこ付きで頭(head)という文字が並び、「(head) fake」となっている。サッカーなどのスポーツで、自分が進むのとは反対の方向に頭を動かす、いわゆるフェイントのこと。転じて、金融市場の関係者の間では「目くらまし」といったニュアンスで使われる。
 「ルネサンス(再生)の物語を誇張して考えてはいけない」。筆頭米国エコノミストのラインハート氏は、125ページものリポートを監修した狙いを、そう語る。

 シェール革命の物語は確かにバラ色だ。堅い岩盤を縦横に掘り進むことができる掘削技術の発展により、米国内では安価な石油や天然ガスの開発が可能になった。それがまずはエネルギー分野への投資を促し、関連産業を潤す。さらにはエネルギー輸出の急拡大や、製造業の生産コスト低下を通じ、米経済全体を押し上げる――。
 そんな明るいシナリオに人々が飛びつきたくなるのは、米景気の回復が勢いを欠くなかでは無理もない。ダウ・ケミカルやエクソンモービルが相次ぎエチレンプラントなどへの大型投資を発表。株式市場では、エネルギー関連の銘柄が買われ、相場全体を押し上げる要因の一つになっている。

 国際エネルギー機関(IEA)は昨年末に米国が2017年までにサウジアラビアを抜いて世界最大の原油生産国になると予想。実際に、米国のエネルギー収支はじわじわと改善している。これが米国のマクロ経済を押し上げ、製造業をはじめとする産業をてこ入れする、との期待が膨らむのは自然だろう。
だが、そんなのはおとぎ話にすぎない、と言わんばかりの分析が相次いでいる。手がけたのは、バンクオブアメリカ・メリルリンチ、ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェースなどの名だたるエコノミスト。各社とも株式市場での主要なプレーヤーだけに、投資家に冷水を浴びせかけるような動きは意外と受け止められた。モルガン・スタンレーは、その最後尾に名を連ねた。

 同社のラインハート氏らは、マクロ経済的にみた「大きな絵」をこう描く。天然ガスや石油の生産を増やすには、新たな設備投資や労働力の確保が必要になる。今は経済全体の需給が緩んでいるから、問題なく生産を増やせる。だが数年のうちに需給ギャップが解消すると、生産増のための経済資源の確保は物価や賃金上昇で制約を受ける。そうしたなかで仮にエネルギー生産が増えても、ほかの業種などの生産を代替するにすぎない――。

 エネルギー業界という「木」を見ると、生産が増えているように映るが、全産業という「森」全体をみると、何も変わっていない、というわけだ。
 さらに、エネルギー輸出が増えると経常収支は改善してドル高の要因となる。需給ギャップ解消に伴う物価上昇と続く金融の引き締めも、ドルを押し上げる。この結果、ドルは2015年までに各国通貨に対する総合的な価値が最高で7.5%上昇するとモルガン・スタンレーは試算する。
 一方で、米製造業の生産コストに占めるエネルギー関連の費用は小さく、平均で3%程度。最も高いアルミ業界でも8%程度だ。シェール革命でエネルギー価格が下落しても、その恩恵はドル高でかき消され、米製造業の競争力は高まりにくいという。

 結果として、起きうる最悪のシナリオはエネルギー分野が、他の業種の設備投資や労働力確保の機会を奪う「クラウディングアウト(押しのけ効果)」とドル高による製造業全体での競争力の喪失だ。
1960〜70年代にかけて、石油・ガスの開発と輸出増で通貨が上昇。国内の製造業が徐々に国際競争力を失った「オランダ病」の再現だ、とラインハート氏らは指摘する。
 米国がオランダ病にかかる可能性は、JPモルガン・チェースのエコノミスト、フェローリ氏も指摘する。同社の試算では、エネルギー関連のコストが1%下がっても製造業全体のコスト低下は0.02%とほぼ誤差の範囲。ドルが0.5%上昇した場合にはエネルギー価格は26%下がらないと釣り合わない計算だという。
 では、より目先でみたシェール革命の効果はどうなのか。「マクロ経済に活力を吹き込むとの見方に、我々は懐疑的だ」と否定したのはバンクオブアメリカ・メリルリンチの筆頭エコノミスト、ハリス氏だ。
 ハリス氏はまず、鉱業セクターの国内総生産への成長率への貢献は、直近で0.2%とわずかだと指摘。しかも同分野の成長は鈍化しており、石油・ガス採掘や関連分野の月間の雇用増が月に約2000と、一年前の4分の1ほどに減ったとしている。鉱業の生産指数の伸びも、足元は2%程度で、一年前の5分の1に落ち込んでいる。

 「エネルギー価格の低下が製造業の生産を押し上げる」とのシナリオに対しても、否定的だ。米製造業をエネルギー費用が高い業種と低い業種に分け、両者の生産動向を比較。するとエネルギー価格の低下にもかかわらず、その恩恵を受けやすい前者の業種で生産が一年前より1%強も低下していた。エネルギーのコストが大きくない業種で生産が5%以上も増えたのに、だ。

 結論は「シェール革命による追い風はごくささやかで、財政引き締めに伴うショックすら埋めることはできない」というものだ。
ゴールドマンのエコノミスト、ハチウス氏も、米国の製造業ルネサンスは「魅力的な仮説だ」と皮肉り、「マクロデータを見る限り、そうした構造的な革命が進んでいる証拠はない」とバッサリ切った。
 例えば、エネルギー価格の下落で最も恩恵を受けるはずのアルミ、鉄、プラスチック、化学、肥料などの分野で特に目立った生産の拡大が見受けられないと説明。製造業の競争力強化を端的に示す輸出シェアも拡大の動きがないと強調している。

 今後、製造業は回復を続けるだろうが、「それは景気循環的な要因による総需要の増加が要因で、製造業の革命ではない」というのが結論だ。

 こうしたなか、楽観的なシナリオを示すのがシティグループだ。
 昨年、エネルギー大国として米国が浮上する利点を分析した「エネルギー2020年――新たな中東?」というリポートを発表。この春にまとめた分析でも米製造業の生産性の高さに低めのエネルギー費用と原材料の強みが加わることで、米製造業は中国などの新興国に対抗できるようになると指摘。米国への生産回帰の動きが加速するとの見方を示している。
 世界の耳目を集めるシェール革命。期待が先行した時期が終わり、ようやく地に足のついた分析が出始めた。だが原油価格を左右する国際情勢や、技術の進歩、政治動向など、先の読めない要因も少なくない。手だれの米金融機関のエコノミストらのシナリオが一気に吹き飛ぶ可能性も、この革命は秘めている。


http://www.nikkei.com/markets/column/ws.aspx?g=DGXNMSGN11013_11052013000000

 

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