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7月28日 東京新聞「こちら特報部」 :「日々担々」資料ブログ
日本が初参加した環太平洋連携協定(TPP)のマレーシアでの会合が二十五日、終了した。交渉内容はベールに包まれているが、農林水産業だけではなく、懸念は医薬品や医療機器を扱う「知的財産権」などに絡んだ医療にも漂っている。とりわけ、営利主義と対極の過疎地医療に取り組んでいる医師たちは「TPPは医療崩壊を加速させる」と危機感を募らせる。現場の医師たちに話を聞いた。 (荒井六貴)
熊野灘に面した三重県熊野市の二木島町。人口は約三百人で、水産業が主産業の小さな町だ。
「せきが一向に止まらんで、夜になると、えらい(苦しい)」
「CT(コンピューター断層撮影)を撮ってもらうよう紹介状を書きましょう」
熊野市立荒坂診療所の平谷一人医師(65)は元漁業者の男性患者(86)の症状を聞き、車で一時間ほどかかる隣の御浜町の中核病院に電話した。
診療所は周辺地区も含めて唯一の医療機関。平谷医師と看護師二人で運営する。公営バスが定期的に循環し、患者を運んでいる。患者はほとんどが高齢者で一日、十五人ほどが訪れている。
患者の男性は高血圧気味で二週間に一回、通院する。「年八十万円ぐらいの年金だけで生活している。診療所がなくなったり、医療費が高くなったりしたら困るわ。死んだ方が医療費がかからなくて、国のためになるんかな」と苦笑する。
診療所は一九八〇年ごろ、開設された。平谷医師は地元出身で、十五年前に宮崎県の勤務医から転身した。前任者が辞めてしまったため、親族に依頼されたのだ。
木造二階建ての診療所の二階は、平谷医師の自宅だ。夜中に体調を崩した高齢者から電話がくることもあり、二十四時間態勢。診療科目は内科や消化器科だが、ときにはけがの治療もする。
「三重大の医学部生たちに見学に来てもらい、へき地の医療に関心を持ってもらうような取り組みをしているが、学年が上がるにつれ、希望者は少なくなっていく」
平谷医師は体力が許す七十歳までは、診療所を続けようと考えている。それまでに後継者が間に合うかは分からない。
「田舎の医療はどこも医師不足で厳しい。TPPの影響で、医療機関が収益第一に傾けば、なり手が消えてしまう。地域の中核病院でさえ、運営が難しくなるだろう。なにより、医者の卵たちの意識が利益追求に染まってしまうのが怖い」
平均寿命が男女とも日本一になった長野県。
ただ、二〇一〇年度、七十五歳以上の後期高齢者制度の医療費(一人当たり)は岩手、新潟、静岡に次いで少ない。
これは脳血管疾患の原因の塩分を抑えるため、みそ汁を一日一杯に抑える運動など、医師らが住民とともに予防医療に尽力してきた成果だ。「予防は治療に勝る」という考えを実践してきた。
高齢化による医療費増大を抑えたい国にとっても「優等生」だが、TPPはこうした「長野モデル」を崩しかねない。
理由を佐久総合病院(同県佐久市)の色平(いろひら)哲郎医師(53)は、こう説明した。「医療機関が営利化すると、もうからないことはやらなくなる。予防するという動機づけも働かなくなってしまう」
色平医師はかつて、長野市から約七十キロ離れた南相木村(人口千百人)の診療所所長を十年間務めた。今も週一回、佐久総合病院からの派遣で診療に出向いている。
「診療所では往診もしていたが、半日で五人が限界。病院の外来だけなら、二十人は診られる。患者の人数だけでも、地域医療は効率が悪い。効率性を求められれば、大きな病院は農山村の医療機関へ医師を派遣しなくなる。『好きな人と好きな所で暮らし続けたい』という住民の思いに応える浪花節の世界だ」
一方、地域医療を支える大きな柱が国民皆保険制度だ。
「皆保険が比較的、質の高い医療をいつでも、誰でも、どこでも受けられるようにしている。医者は患者の懐具合ではなく、症状に応じた治療に専念できる」
佐久総合病院の取り組みは海外からも注目され、視察や皆保険制度の講演依頼も来るという。
「崩れそうになっている自治体財政の下、国民健康保険制度をどう保てるかは難問だ。しかし、皆保険は日本ブランドで最良のものと言われ、進行する超高齢化社会を切り抜けられるか、世界中が注目している」
TPPの影響は過疎地に限定されないと色平医師は話す。
「都市部には地方にある隣近所の助け合いが期待できない。そこで病院がなくなれば、深刻な事態に陥る」
日本を超高齢化という難関の試験に挑む受験生に例える。「それなのにTPPという賭けマージャンに加わった。賭けているのは車や食料、そして命。とんでもない」
■薬価は上昇 自由診療拡大
米国通商代表部の二〇一三年版「外国貿易障壁報告書」によると、米国は日本に対して、流通量に比例して医薬品を低価格化する制度の廃止と、新薬の価格を一定期間後も下げないルールの恒久化を求めている。
TPPでこうした要求が実現されれば、薬価は上昇。そうなれば、国は薬価と診療報酬で構成される医療費負担の抑制のために、診療報酬を引き下げるとみられる。これは病院経営を直撃する。
その場合、病院が利潤確保のため、公的医療保険の適用外で独自に値段を決められる自由診療に傾くのは当然の流れだ。
日本医師会の中川俊男副会長は「医薬品や医療機器のメーカーの利潤追求の姿勢に加えて、本体の医療機関にまで営利化が忍び寄っている。TPPはその端緒になる」と危機感を募らす。
自由診療と保険診療を組み合わせた混合診療は現在、先進医療などに限って認められている。だが、TPPにより対象が拡大されかねない。
混合診療が全面解禁されれば、国民皆保険制度が維持できていても、医療費の公的負担を抑えたい国は新しい治療法や医薬品を公的保険の適用外のままにしかねない。
支援ロボットによる前立腺がん手術は従来、保険適用外で百四十万円ほど。昨年四月から保険適用になり、約十万円になった。だが、こうしたケースも減ってしまう。
保険対象の拡大がなくなれば、患者は高額医療費の負担のため、民間の保険をかける必要に迫られる。支払い能力で医療格差が拡大していく。
中川副会長は「TPPで米国が直接、公的医療保険の廃止を求めなくても、皆保険制度は形骸化する。豪華な病院が都市にできる一方、公的医療保険の下で診療していた病院の経営は成り立たなくなる」と懸念する。
<国民皆保険制度>
日本に住民登録する人びとが何らかの公的医療保険に加入し、医療給付を受けられる制度。1958年に国民健康保険法が制定され、61年に全国の市町村で国民健康保険事業が始まった。現在、患者負担は1〜3割になっている。2010年度の国民医療費は37・4兆円で、うち国と地方の負担分が14・2兆円を占めている。
<デスクメモ> 腎臓を病んだ友人を病院に運んだ。仕事を失い、国民健康保険も滞納して、保険証がない。だから悪化しても我慢していた。実費は仲間たちで負担した。米国では16%が無保険者という。日本でも目立ってきた。TPPは現状をもっとひどくするだろう。政府がいう「日米が共有する価値観」の一部か。 (牧)
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