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『ニューズウィーク日本版』2013年7月30日号に掲載されたニーアル・ファーガソン(ハーバード大学歴史学部教授)の「どこに消えたかアメリカンドリーム」という論考である。
小見出しが、「社会:均等な機会と個人の努力によつて成功できるはずのアメリカで所得格差が固定化している理由は」というものだが、格差が拡大し、階層の固定化が進んでいる現実は書かれているが、理由にあたるものは書かれていない。
階層固定化の原因や理由が示されることなく、
● 「アメリカは不公平で、しかも社会的流動性を欠く国になった。おかげで経済の回復が遅れ、現在の金融政策も社会的洗動性の低下をさらに悪化させている。これぞリベラルな高福祉政策の生んだ弊害ではないか」と脈絡が希薄な問いかけがなされている。
● 「不公平と社会的流動性にはもちろん関係がある。しかしリベラル派が主張するように、平等でないから社会的流動性が低くなるというわけではない」というのも、平等というのは社会が階層分化していないことを意味するから支離滅裂の説明と言える。(平等社会は社会的流動性がないか低いもの)
● 「ペンシルベニア州でもこんな事実が明らかになった。2人の子を持つシングルマザーがパート仕事に就くと、年収2万9000ドルに加えて、合計2万8327ドルの福祉給付を受けられる。一方、フルタイムで年収6万9000ドルの仕事に就くと1万1955ドルの税金を取られて、手取りはパートより低くなる」というのは、福祉政策の設計に欠陥があるという話であって、それ以上の何かを意味するものではない。さらに言えば、「年間では1万3560ドル。これは国の最低賃金である時給7.25ドルでフルタイムで働いた場合の収入に、2000ドル足りないだけだ」という記述に照らせば、パートタイムで年収2万9000ドルというのは破格の稼ぎであり、極めて特殊な例を持ち出していると言える。
現状のアメリカは、フルタイムで年収が1万5千ドルそこそこだとか月収が10万円足らずといったワーキングプアが増大している。
米国の“景気の回復が遅れ”ている最大の理由は、このようなワーキングプアが増加していることである。
● 「アメリカでは障害者給付の受給者も増えている。80年代半ばには人口の1.5%強にすぎなかったが、現在は3.5%近くに達している」・「障害者給付の受給者が増えた理由は何か。実際に30年前より健康状態の悪い人が増えている可能性もある。だがそれより、以前なら障害者に分類されなかった程度の人々が、収入は多少増えても苦労の多いワーキングプアになるよりも、無職のまま福祉給付で暮らすことを選ぶようになつたと考えるほうが真実味がある」という説明を行っているが、「苦労の多いワーキングプアになるよりも、無職のまま福祉給付で暮らすことを選ぶようになつたと考える」ことで障害者給付が受給できるようになるとしたら制度欠陥であろう。
障害者社給付の増加については、アフガニスタン・イラクに膨大な兵力を投入して侵攻と長期軍事占領を行ったのだから、障害者給付の受給者が増大するのも当然だと言える。
● 「議会予算局(CBO)によれば、政府が医療部門に費やしている予算はGDPの約5%。人口の高齢化という現実を考慮すると40年代までには倍増する見通しで、若者の負担は大きくなる一方だ。
シンクタンクの都市問題研究所(ワシントン)によれば、現在、政府が若者のために割いている支出は全体の約10%。これに対し、子供と関係のない公的年金や高齢者・障害者・低所得層向け医療保険への支出は全体の41%を占めている。1人当たりの公的支出は、高齢者が子供の2倍だ」という部分も、子ども向けが不足しているのなら充実すべきであり、高齢者や障害者などとの“比較”をして云々しても意味がない。
単刀直入に言えば、公的医療費支援は、患者のためでもあるが、医療機関のためでもある。
貧乏人が医療機関を訪れなくなるか無料の慈善医療施設にいくようになれば、営利の医療機関は利益を減らしてしまう。これは、日本の高齢者医療の自己負担問題にも通じる話である。低中所得層が税金を負担する割合が増加すれば、医療機関や医師たちのために、低中所得社が相互扶助しているとも言えてしまう。
年金の問題も、年金が支給されていることで経済社会の循環が維持されている。現役世代の賃金のある割合は年金など福祉給付に支えられているのである。
問題は税金から支給されている福祉給付であるが、それは、税の負担をどういうバランスで行うのかという観点で解決を図るべきテーマである。
ファーガソン教授は、「本当の問題は貧富の格差ではない。深刻なのは、今のアメリカで社会的流動性が失われていること」だとまとめているが、もっとも深刻な事態は、底辺層の実質所得ないし生活水準が上昇せず切り下がっていることである。
我慢ならない人も多いだろうが、上位1%の人々が、総資産の35%(金融資産に限れば約42%)を占めていてもかまわないのである。
国民多数派の実質所得ないし生活水準が少しずつ上昇するならば・・・・
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『ニューズウィーク日本版』2013年7月30日号
P.44〜47
「どこに消えたかアメリカンドリーム」
社会:均等な機会と個人の努力によつて成功できるはずのアメリカで所得格差が固定化している理由は
ニーアル・ファーガソン(ハーバード大学歴史学部教授)
でかいことのできる国、それがアメリカだ。イーロン・マスクはそう言った。そう、確かに彼は今の時代にアメリカンドリームを体現している。
南アフリカで生まれたマスクは、90年代にカナダ経由でアメリカに移住。ペンシルベニア大学で経済と物理の学位を取得した後、3つの「人類の未来を変え得るテーマ」に取り組むためにシリコンバレーヘ。その3つとはインターネットにクリーンエネルギー、そして宇宙だ。
実際、マスクはオンライン決済会社の「ペイパル」と電気自動車の「テスラモーターズ」、宇宙開発の「スペース]」を起業し、3つの目標を達成した。現在42歳で資産は推定24億ドル。有言実行である。
だがマスクのような成功者1人の背後には、才能あれども機会に恵まれない若者がひしめいている。アメリカはこの数十年で格差社会になつたと、誰もが感じている。先の大統領選では共和党候補ミット・ロムニーが「所得税も払っていない」と切って捨てた貧しき人々が、総人口の1%にすぎない超富裕層を打ち破ったのだった。
しかし本当の問題は貧富の格差ではない。深刻なのは、今のアメリカで社会的流動性が失われていることだ。
アメリカとヨーロッパで人々の社会意識を比べてみると、今まではアメリカ人のほうが、不公平さに対する許容度が高かった。それはアメリカが「誰でも上に行ける」社会であることの証拠でもあった。
しかし状況は変わり始めた。アメリカは不公平で、しかも社会的流動性を欠く国になった。おかげで経済の回復が遅れ、現在の金融政策も社会的洗動性の低下をさらに悪化させている。これぞリベラルな高福祉政策の生んだ弊害ではないか。
なのに保守派はこの点を指摘せず、逝にオバマ陣営からは「1%の富裕層」と決め付けられ、選挙で惨敗を喫した。
ウインストン・チャーチル元英首相はかつて、左派は横並びの行列を好み、右派は縦に伸びるはしごを好むものだと語っている。名言である。実際、民主党の政策は福祉給付や失業手当の申し込みに行列する国民を増やし、そうした人々を国への依存に閉じ込めてきた。
共和党陣営はもう一皮、福祉給付をカットするだけが保守主義ではないことを国民に伝える必要がある。給付を減らすことで依存体質を捨てさせ、「はしご」を登るようにさせる。それが保守思想の本質だ。
不公平と社会的流動性にはもちろん関係がある。しかしリベラル派が主張するように、平等でないから社会的流動性が低くなるというわけではない。
アメリカこそ階級社会
まずは不公平の話から始めよう。アメリカでは2000年代半ばに、ごく一部の人間に資産が集中するようになった。F・スコット・フィツツジエラルドの『グレート・ギャツビー』の舞台である1920年代と同じだ。当時の上位1%の富裕層の平均所得は他の層の約30倍。この差は08年の金融危機でやや縮まったが、今は元に戻っている。
こうなった原因は、金融危機を受けてFRB(米連邦準備理事会)が資産価格の押し上げを主要な政策目標にしてきたからだ。結果、アメリカの資産の大半は富裕層に集中した。今は上位1%の人々が、総資産の35%(金融資産に限れば約42%)を独占している。先進国でこんなに富が集中しているのはアメリカとスイスだけだ。
政府は株式市場を金融危機以前のレベルに戻したが、経済回復の成果はそこそこだった。だが金持ちを、そして彼らの子供たちを、より金持ちにすることには素晴らしいほど成功した。
クレディ・スイス銀行の調査では、昨年の世界の億万長者約1000人のうち、約3分の1がアメリカ人。彼らの30%弱は親譲りの資産家だ。この率はイギリスを上回る。
これはアメリカが社会的流動性を失ったことを示す例の1つにすぎない。ドイツ労働研究所の調査では、社会の下から5分の1の所得階層に生まれ育ったアメリカ人男性の42%が、成人後も同じ階層にとどまっている。イギリスは30%、フィンランドは28%だ。下位5分の1から上位5分の1に上るアメリカ人男性は13人に1人。イギリスやフィンランドは8人に1人だ。
所得格差が比較的少ない北欧諸国では、上昇するのもアメリカより簡単だろう。しかしイギリスは昔ながらの階級社会のはず。なのに今では、アメリカのほうが露骨な階級社会になろうとしている。
アメリカンドリームも過去の夢になりかけている。ビュー・リサーチセンターによると、上位5分の1の所得階層に育ったアメリカ人の60%弱が成人後も上位5分の2にとどまり、下位5分の1の60.4%も下位5分の2にとどまっている。
これがチャールズ・マレーがベストセラー『階級「断絶」社会アメリカ』(邦訳・草思社)で鮮やかに描き出した現代のアメリカだ。マレーが「知的エリート」と呼ぶ富裕層は約150万人。彼らやその子供たちは一流大学に通い、同じ階層と結婚し、高級住宅街に暮らす。
貧困地区では高卒がせいぜいだし、未婚の母に育でられる子が増えている。男は病気のために働けなかったり、無職だったり、パート仕事だったりする。犯罪は多く、受刑率も高い。
要するにかつての黒人社会の現象が、トレーラーパークやサブプライム危機で寂れた住宅で暮らす白人貧困層にはびこつている。その地区で生まれたら死ぬまで、あるいは刑務所に送られるまで、そこから脱出できないのだ。
しかし、福祉政策だけで貧困から脱出できないのは、ヨーロッパを見れば明らかだ。
ペンシルベニア州でもこんな事実が明らかになった。2人の子を持つシングルマザーがパート仕事に就くと、年収2万9000ドルに加えて、合計2万8327ドルの福祉給付を受けられる。一方、フルタイムで年収6万9000ドルの仕事に就くと1万1955ドルの税金を取られて、手取りはパートより低くなる。
増え続ける著者の負捏
アメリカでは障害者給付の受給者も増えている。80年代半ばには人口の1.5%強にすぎなかったが、現在は3.5%近くに達している。
受給者の年齢層も(以前のように)高齢者中心ではない。約6%は45〜54歳だ。給付額は平均で1カ月当たり1130ドルで、年間では1万3560ドル。これは国の最低賃金である時給7.25ドルでフルタイムで働いた場合の収入に、2000ドル足りないだけだ。
障害者給付の受給者が増えた理由は何か。実際に30年前より健康状態の悪い人が増えている可能性もある。だがそれより、以前なら障害者に分類されなかった程度の人々が、収入は多少増えても苦労の多いワーキングプアになるよりも、無職のまま福祉給付で暮らすことを選ぶようになつたと考えるほうが真実味がある。
しかも障害者給付を2年受給していれば、メディケア(高齢者医療保険制度)の受給資格が与えられる。つまり国の最も高コストな福祉制度の受給者がさらに増えることになる。
議会予算局(CBO)によれば、政府が医療部門に費やしている予算はGDPの約5%。人口の高齢化という現実を考慮すると40年代までには倍増する見通しで、若者の負担は大きくなる一方だ。
シンクタンクの都市問題研究所(ワシントン)によれば、現在、政府が若者のために割いている支出は全体の約10%。これに対し、子供と関係のない公的年金や高齢者・障害者・低所得層向け医療保険への支出は全体の41%を占めている。1人当たりの公的支出は、高齢者が子供の2倍だ。
経済学者のフリードリヒ・ハイエクは1960年代、福祉国家の究極の末路について注目すべき予想を記している。「20世紀の終わりに引退する大部分の人々は、若い世代の施しに頼ることになる。そして最終的には道徳ではなく、警察や軍を構成するのが若者たちだという事実が大きな決定力を持つ。自活できずに若者に依存し続ける高齢者は、強制収容所に入れられることになる可能性が高い」
その予想どおり、2000年までにべビープーム世代は自分たちの年金のために上昇を続けるコストの負担を、若い世代に期待するようになった。
だが若者の反応については、ハイエクの予想は外れた。高齢者を強制収容所にぶち込むどころか、彼らが「従順な犠牲者」となつているのが現状だ。
この不可解な「従順さ」は、社会的流動性が低下したもう1つの主な理由によって説明できるかもしれない。
それは教育の弱体化だ。生徒1人当たりへの支出額が実質的に3倍になつているにもかかわらず、アメリカの中等教育は弱体化している。
シンクタンクの外交問題評議会によれば、17〜24歳の国民の4分の3が、身体的条件を満たしていない、犯罪歴がある、あるいは教育レベルが不十分という理由で軍の入隊資格を満たしていない。国際比較では現在、15歳の数学力でアメリカは真ん中あたりだし、OECD(経済協力開発機構)による国際学習到達度調査(PISA)の最近の結果も惨憺たるものだ。
実力主義社会はどこへ
だが真の問題は、裕福な子供と貧しい子供の格差だ。
アメリカでは4〜5歳の時点で既に、最貧困層の家庭に育った子は、最富裕層の家庭の子に比べて学力に21.6カ月の遅れがある(カナダの場合は1.・6カ月)。
日常生活に必要な読み書きができない15歳の割合は、カナダの10.3%に対しアメリカは17.6%。社会的な階級が最も高いグループの家庭の子は、最下層グループの家庭の子に比べて大学進学率が2倍だ。
こうしたなか、アメリカのエリート教育機関が良家の子女のためのフィニッシング・スクール(社会に出るための教養や作法を教える学校)というかつての役割に逆戻りしつつあるという、気掛かりな兆候が見られる。
アメリカン・コンサーバティブ誌の発行人ロン・ウンツは昨年12月の記事の中で、アイビーリーグの入学政策に不可解な例外が多いと批判した。
例えばアジア系の学生に注目すると、ハーバード大学では90年代半ば沈降は一貫して新入生の約16%だ。コロンビア大学では93年の23%から2011年には16%以下に減っている。
だが国勢調査によれば、18〜21歳のアジア系住民の数は同時期に倍以上に増えている。ナショナル・メリット・スカラシップ(アメリカ人を対象とした奨学金制度)の準資格者の28%はアジア系の学生だし、成績のみを基準に入学選考を行っているカリフォルニア工科大では、学生全体の39%がアジア系だ。
アイビーリーグの入学選考担当者たちの判断にも、それなりの理由があるのかもしれない。単なる学力以上の何かを追求すべきだという考え方も、正しいのかもしれない。
だが彼らの意図がどうであれ、「多様性」を追求することで、かつてアメリカが誇った社会的流動性がますます低下していく可能性は否定できない。知的エリートの富裕層が絶妙なタイミングの寄付によって子孫に有利な取り計らいを行っているなか、入学選考をめぐる謎の鍵が「優遇」制度だという仮説もまた否定できない。
ハーバード大学の教授として、私はこうした傾向に不安を覚える。イ一口ン・マスクと違い、私は金儲けのためにアメリカに来たのではない。私のアメリカンドリームは「豊かになること」ではなかった。この国に来たのはアメリカの実力主義社会を信じたからだし、オックスフォード大学にいた頃よりも「特権によって入学した学生」は少ないだろうと信じていた。だが今は、大きな疑念を抱いている。この国は本当に「でかいことのできる国」なのだろうか。
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