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http://jp.reuters.com/article/jp_Abenomics/idJPTYE96Q00I20130727
2013年 07月 27日 11:47 JST
国際政治学者イアン・ブレマー
かつてジョン・F・ケネディ元大統領は「危機は中国語では2つの意味からできている。1つは『危険』で、もう1つは『機会』だ」と語った。世界的な経済危機から約5年が経った今、世界の主要国がそれぞれ危機にどう対応したかをここで振り返ってみたい。
危機の中身や対処方法を評価すると、大きく3つのタイプに分けることができる。(1)危機を無駄にしないで活かした国、(2)本当の危機はなかった国、(3)危機を無駄にしている国だ。
<タイプ1:日本とユーロ圏>
まずは、本物の差し迫った危機を味わった欧州から見てみよう。メディアや債券市場がユーロ圏の迫りくる崩壊を当然視していたのは、わずか1年半前であることを思い出してほしい。ユーロ圏では当時、債務問題で主要国と周辺国の間に溝が広がり、政治的・経済的な結びつきが脅かされていた。財政協調の欠如や政治・金融政策の鈍さにくわえ、強国と弱小国のバランスが崩れ、世界最大の経済ブロックは存続の危機に追い込まれた。
しかし、ドイツからの支援と欧州中央銀行(ECB)の大胆な金融政策、そして痛みを伴う緊縮策により欧州は健全さを取り戻し、ユーロ圏崩壊の心配は過去のものとなった。抜本的な改革を経て欧州は快方に向かっている。迫りくる危機そのものが、構造的変化を促した格好だ。ただ市場からの圧力と警報がなければ、ユーロ圏の周辺国は慢心から目を覚まさなかったかもしれず、ECBがより大胆な政策に踏み出すこともなかっただろう。
日本の危機は欧州とはかなり様相が異なる。「失われた20年」でも日本は行動を起こさなかった。日本は約20年にわたって景気が低迷し、デフレと低成長と膨れ上がる公的債務の渦に飲みこまれ、世界の主要国との競争から取り残されていた。そんな日本を叩き起こしたのは一体何だろうか。1つには、日本を抜いて世界第2位の経済大国となった中国が、日本に対する挑戦を強めていることが挙げられる。有権者が感じた中国からの経済上・安全保障上の脅威が、第2次安倍晋三内閣を誕生させる原動力となった。勢いに乗る安倍首相は、一気呵成に景気刺激策の策定や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉参加に動き、アベノミクスの「3本の矢」すべてが的に命中するよう動いている。安倍首相の意欲的な計画が成功するかどうかはまだ分からない。しかし、日本が「緩やかに進む危機」を「目覚ましい機会」に変えたのは間違いない。
<タイプ2:米国と中国>
ワシントンで債務上限問題が喧しかったのはわずか2年前だ。スタンダード・アンド・プアーズ(S&R)が米国債の格付けを引き下げ、議会はこう着状態に陥り、金融市場は急落した。その後どうなったか。債務上限問題は今も政治交渉の切り札のままであり、議会は歳出自動削減の発動を回避できなかった。しかし、米国は依然として元気であり、主要株式指数は史上最高値を更新し続けている。それは、米国が経験した正真正銘の緊急事態は金融危機だけであり、米政府は2008年と2009年に、ユーロ圏と同様に難問に対処したからだ。米国は足場が極めて頑丈であるため、日本や欧州で見たような構造的な危機に陥ることはあまりない。米国が今のような低金利で資金調達できる限り、債務問題はさほど問題にはならない。その点で言えば、米国が数年前の危機を活かせなかったのも事実だ。ただ、それは危機がそれほど差し迫ったものでもなく、大きくもなかったからだと言える。指導者に変化を迫るほど、国民は追い込まれてはいなかったのだ。
中国にも同様のことが言える。中国経済のハードランディングを懸念する人は多い。経済成長の鈍化が持続不可能な失業状態を生み出し、中国の政治システムそのものが脅かされるというものだ。しかし、中国は今も安定している。成長は減速しているが管理可能な範囲であり、国家資本主義の経済モデルは非効率だが、当面は堅調さを維持するだろう。中国が経験しているのは、国家システムが差し迫ったショックに直面していない時に見られる「一時的かつ緩やかな」変化だ。中国が未来に向けて大きな課題を抱えているのは間違いない。人口動態は悪化しつつあり、国家資本主義は永遠には持たない。国民は政府の透明性向上を強く求めるようになるだろう。しかし、これらはいずれも、現段階で中国政府を危機管理モードに突入させるほど急を要する問題ではない。差し当たり中国は、諸々の問題に非効率ながらも緻密に対応していくのだろう。
<タイプ3:フランス>
最後の「危機を無駄にしている国」はフランスだ。フランスは失業率が10%を超え、低い労働生産性や財政不均衡を抱え、社会保障や年金に持続不可能な拠出を続けるなど、根深い構造的問題に直面している。フランスの歳出規模は対国内総生産(GDP)比で57%にまで達した。歳出の対GDP比は15年前にはドイツと肩を並べていたが、今ではユーロ圏でも1位を争う水準だ。しかし、フランス国民もオランド大統領も危機に本気で取り組もうとしているようには見えない。オランド氏は、フランスが真に必要としている緊縮策の多くを先送りする選択肢を国民に示して大統領に選ばれた。7月8日には「欧州の危機は終わったと理解する必要がある」と宣言した。多かれ少なかれ、それは当たっている。しかし、それこそが問題なのだ。フランス以外のユーロ圏諸国は危機をテコに構造改革に動き、ユーロ圏周辺国はすでに軌道も修正している(社会的にも経済的にも痛みを伴うコストを払ったが)。
危機管理に熟達している国もあれば、そうでない国もある。本当の危機に直面していない国もある。ただ、いずれにせよ、危機の芽を早い段階で摘み取る努力をしていれば、上のいずれのタイプにも属さないはずだ。
(25日 ロイター)
*筆者は国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社、ユーラシア・グループの社長。スタンフォード大学で博士号(政治学)取得後、フーバー研究所の研究員に最年少で就任。その後、コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所などを経て、現在に至る。全米でベストセラーとなった「The End of the Free Market」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう闘うか』など著書多数。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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