01. 2013年7月30日 00:56:46
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「ペットが病気で休む」“アホ部下”は今も健在? 現代の職場崩壊の深層仕事に意味を見いだせない時代に管理職が直面する四重苦 2013年7月30日(火) 河合 薫 「どうせアイツらはやらない。だったら、バカらしいからオレもやらない。悪貨が良貨を駆逐する。理解不能を通り越して、怒りしか湧いてきません。ちょっと爆発させてもらってもいいですか?」 というわけで、今回はまずは、中小企業の部長職の男性49歳の“大爆発”からスタートです。テーマは……、「理解不能部下」、「育たぬ部下」……、「育たぬ部下に苦悩する上司」……、う〜む、問題の根本はもっとほかにあるような気がしなくもないので、とりあえずは、彼の“大爆発”からお聞きください。 「ホントに頭を抱えています。打つ手がないというか、何というか。次から次へと問題ばかり起こすし、あぜんとすることの連続です。とにかく、全く当事者意識がない。問題を起こしたとしても、まるで人ごと。平気で遅刻してくる。何かといえば、『上から目線』と上司を批判するし、ちょっと強く言ったり、注意したりするだけで、突然会社に来なくなる」 「大体、会社って、彼らが自分のスキルを磨くためだけにあるわけじゃないでしょう。なのに、『やりたいことができない』と文句ばかり言う。社会貢献をしたいという高い意識を持つのは結構なことです。でも、会社はボランティア団体じゃないので、利潤を追求するのは当たり前。それなのに、キミの給料はどこから出ているんだって怒鳴りたくなるような、訳の分からないことを偉そうに言うわけです」 言われたこと以外は一切しない部下たち 「しかも、自分のこと以外は一切やろうとしません。で、二言目には、『言ってくれればやります』って。1から10までずっと付きっきりで教えなきゃいけないのか、と言いたくなる。どうにか成功体験を味わわせてやりたいと思うのですが、言われたことしかやらないから、成功も失敗もへったくれもない。ああ、何かいろいろとつまらないことまで思い出してきてしまいました。ついでなんで、言ってもいいですか? っというか言わせてください。電話が鳴っても出ない、面談で『専業主婦になりたい』と平気で言う。あ〜〜、思い出すだけでムカムカしてきました。すみません」 「もちろん昔から、困った部下はいました。逆に言うと、今だってやる気があって、頼もしい部下だっています。でもね、今って明らかに上司を悩ませる部下の割合が高くなっている。しかも30を過ぎて40近くになっても、当事者意識を持てないヤツが多すぎる。うちのような中小企業だと、3人のうち1人がやる気を出しても、あとの2人がダメだと、やる気のある社員が、一生懸命やるのがバカバカしくなって毒されていく。悪貨が良貨を駆逐するんです。こんなふうに言いたくはないですけど、会社って彼らのためにあるわけじゃない。会社のためになるような働き方をしてくれよと。ちょっと大げさかもしれませんが、学級崩壊ならぬ、職場崩壊ですよ」 以上で、彼の大爆発は終わりです。 いやはや、あまりの勢いに、こちらもついつい笑いそうになってしまうほどでして。部下の話になった途端、ダムが決壊したかのように、出るわ、出るわ。まぁ、よほどストレスがたまっていたのでしょう。言い終わったあとは、「すみません」とひたすら頭を下げるので、何だかこちらまで申し訳なくなってしまったのでありました。 とはいえ、「今どきの若者は〜」とか、「今どきの部下は〜」と嘆くのは、年を取った証拠でもある。 以前、週刊誌の記事を手掛かりにして、当時の働き方や、上司・部下関係を調べたことがあったのだが、当時の上司たちも彼と同じように、使えぬ部下を嘆いていた。特に1989年以降、“新人類”部下の登場により、部下たちの言動にあきれる上司たちのトホホ体験は激増していた。 「ペットが病気だと言って休む部下」、「マクドナルドのバイトぐせが抜けず接客が変な部下」、「取引先から電話で、『お宅のファクス、さっきから同じものをどんどん送ってくるけど壊れているんじゃないの』と言われ、慌ててファクスを見に行ったら、新人OLが1枚の書類を繰り返し送っている。『何やってんだ、1枚でいいんだよ』と言うと、『だって何回やっても戻ってきちゃうんです』だと。壊れていたのはOLだった」などなど。 私も新人CA(客室乗務員)のときにお客さんから、「成田に滑走路は、何本あるの?」と聞かれ、「……3本くらいはあります、よね?」などと答え、先輩CAに大目玉をくらい(当時は1本しかなかった)、「世界を股にかけて働きたい! 自己実現したい!」なんて、流行の言葉をしょっちゅう口走り……。 私の友人なんぞは、バアチャンに、「あんたら自己実現、自己実現って。会社はアンタのためにあるんじゃない」と怒られた。 それでもかつては笑い飛ばす余裕もあったが… たが、当時の上司たちからは、ストレスとか、悲壮感とか、閉塞感というものは、さほど感じられない。部下の問題行動に頭を抱え、あきれながらも、笑い飛ばしている。そんな空気感が、週刊誌の紙面から放たれていた。少なくとも私にはそう感じられた。「んたく、しょうがねえなぁ〜」って感じだったのである。 「好景気の時代で、上司にも会社にも、困った部下を受け入れる余裕があった?」 「パワハラなんて言葉もなかったから、部下をその場で怒鳴り倒して、ストレスを発散していていた?」 「人数の絶対数が多かったから、問題社員もいたけど、できる部下もそこそこいた?」 「上司も部下も、時代は違えど、どちらも景気のいい時代にいるし、社会環境も今ほど年代ギャップがなかったから、そこそこコミュニケーションが取れていた?」 ちょっと思い巡らせただけでも、笑い飛ばせた理由がいくつも思い浮かぶ。 ところが、今は人間関係受難の時代。上司と部下、同僚、はたまた会社との関係も、何だかんだと小難しい。中間管理職のストレスはたまるばかりだ。 そう言えば、つい先日も、「ストレスが多い中間管理職の立場を離れて、ただの『プレーヤー』に戻りたい課長が増えている」――。といった見出しの記事が新聞に載っていた(出所はこちら)。 産業能率大が昨年12月、従業員100人以上の企業で部下を持つ課長600人をインターネットで行った調査の結果を紹介したもので、悩みを尋ねた結果は、「部下が育たない」という回答が41.8%でダントツのトップ。それも、2年前の前回調査時に比べて、12.1ポイントも増えていたのである。 さらには、今後のキャリアで「最終的になりたい立場」を尋ねると、「プレーヤーに戻る」が13.5%で、2年前の前回調査の9.6%から3.9ポイント増加。仕事の半分超がマネジメントではなくプレーヤーだと感じる人も48.2%と、前回より8.2ポイント増えていた。 「プレーイングマネジャー化が進んで自身が多忙なうえに、部下が育たず、さらには部下のメンタルへの配慮も必要で、『三重苦』のようになっている」との同大担当者の分析が報じられていたのだが、私は三重苦の上を行く四重苦だと感じている。 現代の中間管理職を襲う最大の不幸 何しろ、部下の批判を口にしたところで、部下からも、上司からも、そして、同僚からも、倍返しで反論され、正論をたたきつけられるのがオチ。 ホントは「ふざけるな!」と怒りと不満をぶちまけたいほど、ストレスがたまっているのに、それができない。言うだけ損。悲鳴を上げれば上げるほど、 “無能な上司”と見られてしまうのが、現代の中間管理職だ。 冒頭の男性は、「上司を悩ませる部下の割合は高くなっている」と指摘していたが、確かに当事者意識を持てない部下、自分のことしか考えられない人たちが増えている印象は、私もフィールドインタビュー、あるいは仕事や日常生活で若い人たちに直接接する中で感じることが少なくない。 なぜ、そうなってしまったのか? 教育? 価値観の変化? 理由は1つではないかもしれない。だが、私自身は、仕事に有意味性を持つのが難しい時代の産物が、“今どきの部下”なんじゃないかと考えている。 高度成長期、バブル時代は、誰もが「偉くなりたい」「金持ちになりたい」「いい車に乗りたい」「いい家に住みたい」と、実にシンプルな目的が働く目的になった。 年収1000万円超を目指し、ドリンク剤を片手に仕事に励む。街には、“ヤンエグ”や“青年実業家”と呼ばれた“自己実現”を手に入れている人たちがあふれ、「自分にもできそう」と夢を見た。 そんなモノに豊かさを求めた時代がいいとは決して思わないし、むしろ滑稽だと今は思う。当時の自分の写真を見ると、恥ずかしい。ブランドものを買い漁っていた自分が、ホントに恥ずかしい。ただ、いい悪いは別にして、「偉くなりたい」「金持ちになりたい」「いい車に乗りたい」という自分のための欲望が、労働意欲を向上させたのは紛れもない事実だったんじゃないだろうか(もちろん私のような浮かれたアホバカばかりではなく、堅実に生きていた人たちもちゃんといたわけだが……)。 私がまだ学生のころ、知人である年配の男性にこう言われたことがあった。 「最初はね、お金のためにみんな働く。でもね、働いているとお金よりももっと大切で価値のあるものに気づくよ」 言われたときはちっとも訳が分からなかった。だがある時「お金よりも大切な価値あるもの」らしきものに巡り合った。 それが“いつ”、どの瞬間だったのかは覚えていない。お客さんが飛行機を降りていく時に、「いいフライトでしたよ。ありがとう」と言ってくださった時のような気もするし、ちょっとしたサービスをした時にお客さんから感謝されたときだったような気もする。 いずれにしても、その瞬間はとてつもなく心地良かった。社会に自分が認められたような、ちょっとだけ成長できたような、何とも言えないあの快感。どんなにプライベートを充実させても、なかなか得ることができない満足感だったと記憶している。 その瞬間に出合えたことで、仕事そのものに「やりがい」を感じるようになったし、仕事を精一杯、やりきるのが楽しくなった。結局は今だって、その瞬間を求めて、いや、逆か。その瞬間があるからこそ、働く意味を感じることができているんじゃないだろうか。 彼らが言われたことしかできない理由 有意味感(meaningfulness)は、人間の行動の動機づけ要因であるとともに、「自分の存在意義=生きている意味」を求める人間にとって欠かせない感覚だ。 人はそこに「意味がある」と思えるからこそ、自ら進んで動く。仕事に意味を見いだせれば、前に進むためのスキルを身に着ける努力もするし、自分だけでどうにもできないことであれば、周りの力を借りながらでも何とかする。自らの限界に向き合い、格闘する。 今は有意味感を持つのが、難しい時代だ。 何しろ、右肩上がりのイケイケの時代を知らない今の若い世代は、「偉くなりたい」とも、「金持ちになりたい」とも、「いい車に乗りたい」とも思っていない。そこそこの暮らし、大切な家族や仲間がいればそれでいいと感じている。 しかも、現代の職場は高度にシステム化されていて、仕事の向こうにいる人の顔も、仕事の結果も、どちらもとても見えづらい。学校では「やりたいことを見つけろ」とキャリア教育を受けているにもかかわらず、会社に入って自分のやりたいことなど一向にできず、会社は会社で、カネカネカネ、利益利益利益、成長成長成長成長とばかりのたまう始末。景気が悪くなれば、会社を守るためにリストラをし、人よりも数字が偉い世の中だ。 こんな“仕事”に、どうやって有意味性を持てばいいのだろう。仕事におカネ以上の価値があるなんてこと自体、幻想なんじゃないかとさえ思えてしまう。それでも、人は働く意味を求めたがる。だって、自分の存在意義を持ちたいから。存在する意味が感じられないことほど、ストレスフルなことはないわけで。それが昨今の「社会貢献熱」なのかもしれないと、思ったりもする。 意味があると思えなければ当事者意識など持てないし、言われたことしかやりはしない。意味を見いだせない仕事は苦痛でしかない。「言ってくれればやります」のではなく、言われたことしかやりたくないのだ。 できる限り、最少の労力で賃金を得たい。この賃金と自分の労働力の最適化が“今どきの部下”の働き方なのだ。 でもね、理屈ではそうなんだけど、やっぱり私も上司だったら、ブチ切れるでしょうね。 だって、同じ時代に生きても、ちゃんとやっている若い人もいるし、それこそ有意味性を求めて独立したり、起業したり、社会貢献を目的にNPO(非営利組織)やらを立ち上げて格闘している人たちもいるわけで。確かに、時代やオトナたちのせいなのかもしれなけれども、キミたちももうちょっと踏ん張れよ、と。 「せめて頑張っている人のやる気を失せさせるような態度だけはやめてくれ!」と。勝手な“上司”かもしれないけれども、きっと思うに違いない。 でも、そんなこと言っていては、何1つ変わらない。部下が育つ芽を摘んでしまうことにもなりかねない。ここは1つ、会社に身を置く立場として、上司としての役割を果たさなければ、当事者であることを放棄するのと同じになる。 やはり“快感”を体験させることが大事 つまり、しんどいけれども、当事者意識のない困った部下に対処するには、彼らが「仕事に意味がある」と思える快楽を、仕事を通して経験させるしかないのだ。 そのためには、自分自身がどんなときに、うれしかったか? 何が心地良かったか? どうしてパッションが高まったか? 自分が、働いている意味、を自問し、その経験を部下にもさせる。 ただただ単純に、仕事そのものが「楽しい」とか、仕事をしている自分が「心地良い」とか、快感経験をさせるだけでいい。自分の能力を発揮できた瞬間、誰かとつながった瞬間、社会から認められた瞬間―─。そんな一瞬の心地良さを味わうことができれば、有意味性を見いだすきっかけになる。そして、ただ味わわせるのではなく、その瞬間を自覚させるために、「快感日記」を書かせるとか、「快感経験」を報告させるとか。経験=インプット→自覚=アウトプットを繰り返す。 自分のやっていることに意味があるという感覚を持てれば、それに取り組んでいる自分自身に対しても意味を見いだすことができるし、逆もまた真なりで、自分の存在に意味があるという感覚を持てれば、自分のやっていることにも意味を見いだすことができる。 とにもかくにも、まずは快感を体験させることが肝心なのだ。 それは時間も手間もかかることだし、一朝一夕にできるものでもなければ、魔法の杖が存在するわけじゃない。 でも、人は論理や理屈では動かない。心で動く。心がポっと温まる経験が、次につながっていく。その瞬間を何度でも作るのが、上司の役目なんじゃないだろうか。 そして、是非とも、困った部下に関わるしんどさを爆発できる場所や人を見つけて、ストレスをため込まないでください。大爆発してください。上司だって爆発したっていい。そんな上司の方が、よほど人間くさくていい。個人のために会社はなくとも、会社のために壊れてしまっては元も子もないのですから。 このコラムについて 河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学 上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。 |