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(2013年7月15日 Forbes.com)
中国は2009年に始まった世界不況の影響を被らずに済んだ。中国共産党の賢明な指導部は、認可の取得や裁判所の監査、土地の使用権にわずらわされることなく、インフラ整備に対する投資を増大させてきたといわれている。中国政府は、インフラへの投資をさかんに拡大し、順調な経済成長を維持してきたというのだ。
民主主義や自由主義経済の意義を疑問視する人びとは、まるで中国共産党の言いなりになったように、中国の国家資本主義を雄弁に称賛してきた。いま米国に必要なのは、中国流のやり方をもっと積極的に取り入れることだというセリフが何度も繰り返されてきた。
たしかに民主主義と自由主義経済はよく過ちを犯す。経済の順調な成長や、失業率の抑制、好不況の波の排除を約束することなど誰にもできなかった。バブルの拡大と崩壊は、1637年にオランダで起きたチューリップ投機とその崩壊以降、資本主義経済につきまとってきた。米国の住宅バブルや、欧州の金融業界とユーロ危機で政府が果たした役割について議論することはできるが、市場資本主義経済を支持しながら、バブル現象や不況とは無縁の世界を約束した人間などいたためしがない。
■旧ソ連に見る計画経済の壮大な失敗
ところが国家資本主義や一党が統制する経済を支持する人びとは、あえてこうした約束をする。かつて旧ソ連は、“科学的な計画経済”が順調な経済成長と技術革新をうながし、やがては米国を追い越すと約束した。そしていま、中国共産党の指導者たちは“中国流の社会主義”を称揚し、冷静で聡明(そうめい)な党と官僚に任せておけば、彼らがかならず正しい決定を下すと説いている。
だがそうならないことは歴史が物語っている。経済政策史上、最悪の失敗を犯してきたのは、一党独裁国家の科学的な計画経済の立案者たちだった。市場主義経済の誤算や失敗は、放置しておけばたいていは自然に修正される。誤算や失敗に対する対処を誤ったとしても、そのダメージは国家資本主義の失政の比ではない。
いくつか例を挙げてみよう。スターリンは“科学的な計画経済”によってソ連の農業を集団化しようとしたが、この政策によってソ連では600万人以上の人びとが死亡し、ソ連の農業の生産量は半世紀にわたって低迷した。かつて「世界のパン籠」といわれたソ連は農作物の輸入国に転落した。
また、1958年に毛沢東が開始した大躍進政策は、個別の農家が担ってきた中国の農業を破壊し、ついには3000万人以上の国民を餓えに追いやった。中国の農業が息を吹き返したのは、トウ小平が中国の農家を解放してから(より正確に言えば、農家が自らを解放してから)のちのことである。1953年のスターリンの死去によって、彼が提唱した「自然改良計画」はすんでのところで中止された。この計画は、こともあろうにロシアの主要河川の流れを変えることをめざしていたのである。
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それでは、科学的な計画経済の立案者たちは過去の教訓を学んだといえるだろうか? 国家資本主義を擁護する人びとによれば、たしかにこうした立案者たちはこれまで途方もない失政を犯してきたが、今後はそうした過ちを繰り返さないという。
■一人っ子政策が壊したセーフティー・ネット
だがよく考えてほしい。中国の偉大な改革者であったトウ小平は、改革開放政策が始まった1979年、一人っ子政策の開始を発表しているのである。この政策は単に非道な人権侵害であるだけにとどまらなかった。この政策によって中国は、活力あふれる若い社会から一転して、わずか30年ほどで労働供給が減少する高齢社会に変わり果てたのだ。
この結果、中国の指導者たちは高齢化した欧州並みの人口構成を抱えたまま、急速な経済成長を維持する方策を考えなくてはならなくなった。一人っ子政策は、家族の絆をよりどころにした社会のセーフティー・ネットを破壊してしまった。中国は巨額の費用をかけて、新しいセーフティー・ネットを一からつくりだす必要に迫られている。
中国の重大な過失を招いた責任は、現行の改革を支えてきた賢い人びとも含め、科学的な政策立案者たちにある。
国家資本主義を掲げるウラジーミル・プーチンは、エリツィン時代の民営化路線を排し、ロシアのエネルギー供給をふたたび国家の管理下に置く決断を下した。こうしてユコスやシブネフチをはじめとする民間の石油会社が、(ロシア連邦政府が株式を取得したのち)国営化された。またロシア最大のエネルギー会社ガスプロムもいまだに国営企業のままで、他の企業もこれにならって国営企業に留まっている。国営化後のガスプロムは欧州市場との取引が縮小し、成功の見通しのない腐敗した投資案件に資源を無駄遣いし、かつて世界有数を誇った時価総額は二束三文になった。
■2億5000万人の都市化計画に突き進む
いっぽうの中国も、一人っ子政策に匹敵する失政を犯そうとしている。底知れぬ英知の持ち主である中国の科学的な政策立案者たちは、中国の都市化のスピードが遅すぎると判断したのだ。農村部の人びとは数十年も前から都市へ移住しているにもかかわらず、政府は都市化の進捗が遅すぎると主張している。中国の指導部は、立案した都市化計画のなかで、10億人の人口の4分の1を農村部から都市部へ移住させる目標を掲げている。この早急な都市化計画は、農村部の住民の多くが都市に移っても仕事にありつけず、少なくとも自給自足で安心して生きていける大切な農村での暮らしを見捨てることはないのではないかという懸念をよそに立案された。
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人口の4分の1を都市部に移住させるという中国の計画は、下っ端の科学的計画立案者たちのあさはかな夢ではない。さきごろ国務院総理(首相)に就任した李克強がこの計画を支持しているのだ。
この計画を貫くロジックは倒錯している。農村部の住民はかなり貧しい。彼らは農業でかつかつの暮らしをしており、工業製品を買うゆとりがない。こうした農村部の住民が強制的にであれ、都市部に移住すれば、製造業や建設業で働くようになり、より多くの賃金を稼ぐようになる。彼らの稼ぎが多くなることで総需要が増え、中国は今後数十年間も、従来どおり急成長を維持できる、というのだ。
なんともでたらめな話ではないか。中国の農村部の住民たちはすでに都市に移住して、自由に建設業や製造業の仕事に就ける状態にある。もう数十年も前から、数億人もの人びとがそうした暮らしを営んできたのだ。都市でより多くを稼げれば、農村部の住民はしばしば1年の大半、農村を留守にする。製造業や建設業で、彼らは現行の相場並みの賃金を稼ぎ、すでに消費市場でほしい物を自由に購入できるようになっているのだ。
1950年代にはごくわずかだった中国の都市部の人口は、移動労働者の数え方にもよるが、総人口の半分以上を占めるようになった。それでも北京の中央政府の科学的な計画立案者たちは、この都市への移住の「自然な」スピードが遅すぎると判断している。こうしていま、10億の人口の4分の1は、望むと望むまいとにかかわらず、新設された都市への移住を求められている。おそらく移住を強制される家族は、都会での暮らしに適した技能をもっていない。こうした家族は政府がつくった集合住宅に住まわされ、かつて農村での私有地では与えられていた最低限の暮らしにはあった仕事も生活の安全も、そこではないまま家賃を徴収されるのだ。
中国の指導層は、労働者や農業従事者の収入が、居住地ではなく、各自の生産性で決まるという事実を理解できないのだろう。年配の農家の人間は都市に移住しても仕事にありつけず、工業製品を買えるだけの金すらもてなくなる。たとえ1年の一定期間だけでも都市に移住したほうが得になるのなら、農村部の人間はとっくに都市に移り住んでいるはずだ。
■「ルイセンコの種子」の過ちを繰り返すな
民主主義には、破滅を招く政策を頓挫させるだけの力がある。いっぽう中国でもロシアでも、科学的な政策立案者は民意の制約を受けることなく、自分たちが合理的と考える政策を立案できる。すでに中国では世界でも最多記録となるデモやストライキが起きている。移住が自分たちの苦しい暮らしを一段と悪化させるかもしれないと考えたら、10億人の4分の1の中国人はどのように反応するだろう?
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スターリン支配下のソ連の農業は、農作物の種子が気候に適応できるとする奇矯な学説を唱えた農学者ルイセンコによって著しく低迷した。ルイセンコの学説によれば、農作物の種子は冷凍すれば、やがて寒冷な気候のもとでも生育するという。スターリンは配下の農業政策の立案者たちに、ルイセンコの学説を踏襲するよう命じ、生育に向かない種子を、生育に向かない気候の土地に植えさせた。これもまた、“科学的な”政策立案者が招いた農業への大打撃であった。
2億5000万人を都市部に移住させるという中国指導部の政策は、多くの点で意図通りにはいかず、ルイセンコの奇矯な学説を思い起こさせる。
中国の“科学的な”政策立案者たちは、ひとつこの政策を試してみるとよい。誰が正しいかはじきに分かるはずだ。彼らが提唱する壮大な都市化計画は、抗議運動の拡大とともに廃止されるにちがいない。
ビッグ・ブラザー(権力の頂点に立つ者)はビッグ・ミステークを犯すものだ。
By Paul Roderick Gregory, Contributor
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http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2302F_T20C13A7000000/
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