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物価2%上昇達成なら、実質賃金は目減りする
http://toyokeizai.net/articles/-/16074
2013年07月25日 斎藤 太郎 :ニッセイ基礎研究所経済調査室長 :東洋経済オンライン
小幅な下落が続いていた消費者物価(生鮮食品を除く総合)は2013年6月には1年2カ月ぶりのプラスとなることが確実となっている。先行きについても、景気回復に伴う需給バランスの改善、ガソリン、電気代などのエネルギー価格の上昇に加え、食料品などでも円安による原材料の値上がりを価格転嫁する動きが出始めており、上昇ペースは徐々に高まっていく可能性が高い。
このような消費者物価の動きはデフレ脱却に向けた第一歩とみることも可能だが、その一方でここにきて浮上しているのが、悪い物価上昇への懸念だ。足元の物価上昇は円安に伴う輸入物価の上昇を主因としたものであり、賃金の上昇を伴わない中で物価が上昇すれば、家計の実質所得の低下が消費の抑制につながるため、一時的に物価が上昇したとしても、再びデフレに逆戻りしてしまうというものだ。
■「よい物価上昇」と「悪い物価上昇」の違い
そもそも、「よい物価上昇」「悪い物価上昇」とは何だろうか。これらについて厳密な定義があるわけではないが、一般的には「よい物価上昇」とは、景気回復に伴う需要の拡大を反映したいわゆるディマンド・プル型の物価上昇のことを指す。この場合、企業の売り上げや収益が改善し、賃金も上昇するため、このことがさらに個人消費の増加をもたらすといった形で、物価上昇と景気拡大が持続するという好循環が生まれることになる。
一方、「悪い物価上昇」とは、主として資源価格の上昇や円安による原材料価格の上昇によって引き起こされる。企業はコストの上昇を最終製品に価格転嫁するため消費者物価は上昇するが、需要の拡大を伴っていないため売り上げや収益は伸びず、労働者の賃金も増えない。賃金が伸びない中で物価が上昇することにより家計の実質所得は目減りし、このことが個人消費の抑制、景気のさらなる悪化につながる。物価は一時的に上昇するものの、需要の拡大を伴っていないため、結局はデフレに逆戻りしてしまう。
日本銀行は2年間で2%の消費者物価上昇率を達成することを目標としているが、言うまでもなく悪い形での物価上昇は望んでいない。しかし、「よい物価上昇」という形で物価上昇率を持続的に高めていくことが果たして可能なのだろうか。
ここで、1970年以降の40年あまりの四半期データを用いて、日本、アメリカ、イギリス、ドイツで「よい物価上昇」がどのくらいの確率で出現してきたのかを見てみた。
具体的には、消費者物価上昇率が加速した局面において、需給バランスの改善と実質賃金の上昇が同時に起こった場合を「よい物価上昇」、需給バランスの悪化と実質賃金の低下が同時に起こった場合を「悪い物価上昇」、需給バランスが悪化(実質賃金は上昇)、あるいは実質賃金が低下(需給バランスは改善)した場合を「やや悪い物価上昇」として、それぞれの出現確率を求めた。
■「よい物価上昇」が起きる確率は低い
結果は図表1のとおりである。特徴としてはまず、「よい物価上昇」の出現確率はいずれの国においてもあまり高くないことが挙げられる。最も低いのはアメリカの7%で、日本、イギリス、ドイツは20%台となっている。また、「悪い物価上昇」の確率はおおむね30%前後だが、すべての国で「よい物価上昇」の確率を上回っている。全体の5割前後を占め、出現確率が最も高いのが物価上昇局面で需給バランスの悪化か実質賃金の低下のいずれかが起こる「やや悪い物価上昇」である。
このように、過去40年以上の実績からみるかぎり、よい形で物価上昇率を持続的に加速させることは、非常に難しい課題であることがわかる。
次に、「悪い物価上昇」が需給バランス悪化と実質賃金低下のどちらの要因によって引き起こされているのかをみると、いずれの国でも物価上昇局面では需給バランスが改善していることが多いが、物価上昇と実質賃金の上昇が両立していることは少なく、日本、イギリス、ドイツで30%台、アメリカで10%程度しかない。つまり、悪い物価上昇は実質賃金の低下によってもたらされている場合が多い。
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名目賃金上昇率を物価上昇局面と物価下落局面に分けてみると、いずれの国でも物価上昇局面では賃金も上昇するが、上昇率は消費者物価よりも低い。逆に、物価下落局面では名目賃金も下落するが、下落率は消費者物価よりも小さい(図表2)。このことは物価上昇局面では実質賃金が低下し、物価下落局面では実質賃金が上昇する傾向があることを意味する。
■2%の物価目標に立ちはだかる関門
安倍政権の発足とほぼ同時に底打ちした景気は、当初は期待先行の面が強かったが、ここにきて実体経済の回復基調も鮮明となっている。先行きについても、円安や緊急経済対策による景気押し上げ効果や、消費税率引き上げ前の駆け込み需要などもあり、景気は堅調に推移する可能性が高い。
問題は、消費税率が5%から8%に引き上げられる2014年4月以降も、景気回復基調が維持できるかということである。
ニッセイ基礎研究所では、2013年度中は高成長が続くことにより需給ギャップがいったんプラス圏に浮上するが、2014年度は駆け込み需要の反動減に物価上昇に伴う実質所得低下の影響が加わることから成長率は大きく低下し、需給ギャップは再びマイナスに転じると予想している。
このため、消費者物価の伸びも頭打ちになるとみているが、仮に景気低迷下でも物価上昇率が高まり続けるのであれば、これはまさしく「悪い物価上昇」ということになる。
また、消費税率の引き上げは、実質賃金の大幅な低下をもたらす可能性が高い。2014年度の消費税率引き上げ(5%→8%)だけで消費者物価は2%程度上昇するため、名目賃金を2%引き上げなければ実質所得は目減りしてしまう。消費税率引き上げによる物価上昇分がすべて賃金に反映されれば、実質賃金の目減りは回避できるが、企業の人件費抑制姿勢は依然として根強いため、現実的には厳しいだろう。
実際、過去2回の消費税率引き上げ時(1989年度と1997年度)には、名目賃金の伸びが消費者物価上昇率を大きく下回ったため、実質賃金上昇率は前年度から大きく低下した。また、過去2回の引き上げ時には名目賃金上昇率が明確なプラスとなっていたが、今回は賃金が伸びない中での増税となるので、影響はより深刻なものとなるおそれもあるだろう。
■「悪い物価上昇」を甘受するのか
2013年3月に日銀新体制が発足してから4カ月あまりが経過したが、これまでのところ景気、物価ともに当初の想定どおりに推移しており、順調なスタートを切ったという評価ができるだろう。
ただし、消費税率の引き上げが予定されている2014年度には正念場を迎える可能性が高く、場合によっては、景気(需給バランス)の悪化と実質賃金の減少を伴う典型的な「悪い物価上昇」に陥るリスクも否定できない。
もともと、過去の実績からみて、日本に限らず、需給バランスの改善と実質賃金の上昇がそろった形で物価上昇が加速するという「よい物価上昇」を続けていくことは困難である。さらに、消費税率引き上げ時期を含む2年間でこれを実現することは、至難の業と言ってもよいだろう。何が何でも2%の物価目標を達成するということであれば、初めから「悪い物価上昇」を甘受する覚悟が必要かもしれない。
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