02. 2013年7月24日 15:11:37
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【第1回】 2013年7月24日 中野晴啓 [セゾン投信株式会社 代表取締役社長] 投資信託の闇歴史。 昔は「ゴミ箱」と呼ばれていた! 今、日本で個人が買える投資信託は全部で3376本。しかし、その中で「今、手元にお金がなくても個人が安心して資産を作れる投資信託」は、3376本中、たった9本だけだった!個人投資家の味方であり、金融業界を20年以上見続けてきたプロである、セゾン投信・中野晴啓社長が上梓した『最新版 投資信託はこの9本から選びなさい』の中から、内容を抜粋してご紹介します。投資信託は不幸な生い立ち? 証券会社の「道具」として使う商品だった 皆さんは、個人が投資信託を購入した場合の平均保有年数というのはどのくらいか、ご存知ですか? 何と平均でたった2.3年です!非常に短くて驚きませんか?これは一体、どういうことなのでしょうか。 そもそも投資信託という運用商品は、長期の資産形成を図る目的で作られているものです。 そうであるのにもかかわらず、2年とちょっとで、せっかく買った商品を手離してしまうのです。長い期間、投資信託を保有することで資産をふやしていくという「長期投資」を強力にお勧めしたい私にとっては、非常に暗澹たる結果といえます。 多くの投資信託の保有がこのように短期に終わってしまうのは、これまでの長い歴史のなかで、日本の投資信託は単なる手数料稼ぎの道具、つまり販売する金融機関が儲けるための商品としかみなされて来なかったからだと思います。 もっと言うと、日本の投資信託の出生そのものに、大きな問題があったともいえるでしょう。 戦後、日本の投資信託制度が整備されたのは1951年に現在の投資信託法(投資信託及び投資法人に関する法律、当初は「証券投資信託法」)が整備されてから。なぜこの制度ができたのかというと、当時、財閥解体によって停滞していた国内株式市場を活性化させるためでした。つまり、国策として投資信託が誕生したのです。 以来、国内金融市場、株式市場が停滞するたびに、投資信託が市場活性化の切り札として利用されてきました。 市場活性化の切り札、 手数料を稼ぐための「投資信託」 たとえば国債や社債のみを組み入れて運用する「長期公社債投信」というファンドは1961年に誕生しましたが、その誕生の理由は、高度経済成長のなかで、社債を発行して資金調達を試みた企業に、設備投資の資金を供給するのが目的と言われています。 1980年に誕生した「中期国債ファンド」は、日本が高度経済成長から安定成長に移行していくなかで発生した税収不足をおぎなうため、国が大量に発行した中期国債への資金供給を目的に設定されました。 最近注目されているETF(上場投資信託)や、REIT(不動産投資信託)なども、元をたどれば、低迷続きの国内株式市場、不動産市場を活性化させる目的で制度が整えられ、誕生してきたのです もちろん、目的は国策でも、結果的に個人投資家のメリットになれば何の問題もありません。今、世界中の人々が多大な恩恵を受けているインターネットだって、元をただせば軍事技術の民生化だったのですから。 しかし、証券会社を中心とする販売金融機関は、国策のために作られたさまざまなファンドを売ることによって多額の手数料収入がもたらされたことから、投資信託が自分たちにとって、とても儲かる商品だということに気づきました。 そうなると、投資信託を販売する証券会社は、次々に自社の系列である投資信託会社(投信を設定して運用する会社)を設立し、自分たちが手数料をかせぐための投資信託(ファンド)をどんどん設定するようになったのです。 そして、そのうちに多額の手数料を稼ぐだけでなく、証券会社が自己売買によって損をこうむって、売るに売れなくなった株式を、系列の投資信託会社が運用しているファンドに入れ込むという、とんでもない行為も横行するようになりました。今から十数年前、投資信託のことを、業界関係者は「ゴミ箱」と言っていたものです。 さすがに、今はルールが整備され、自己売買で損をこうむった株を投資信託に付け替えるというような無法行為は行われなくなりましたが、それでもファンド=手数料稼ぎの道具、という側面は色濃く残っています。 その結果、日本の投資信託といえば、目先のブームに乗って個人が買ってくれそうな商品性のものばかりが設定され、ブームが去ると解約が相次ぎ、短命に終わってしまうということが繰り返されてきました。 そう、それは「窓口」で「おすすめを買わされ」、そのお勧め商品の旬が終わって、基準価額が下がり始めると「乗り換えさせられる」からなのです。販売する金融機関は何度も売買してもらったほうが、購入時手数料が入ってくるわけですから、「長期投資」なぞ勧めるはずはないのです。 残念ながら、これが真実です。 アメリカの投資信託は1934年設定で 今でも人気がある商品も健在 しかし、日本では不幸な生い立ちの投資信託でも、基本的な商品性自体は、とても優れたものです。 大勢の個人から少しずつ資金を集めて、その資金で世界中のさまざまな資産に分散投資するという仕組みは、個人が長期的な資産形成をするには、非常に適しています。 また日本では「危ない」イメージがつきまといがちな投資信託ですが、投資の先進国であるアメリカでは、投資信託といえば「長期投資」です。 例えば約80年前の1934年に設定された『アメリカン・ファンズ・インベストメント・カンパニー・オブ・アメリカ」(ICAファンド)という株式ファンドがあります。戦争や大不況、多くの金融危機などを乗り越え、設定以来、なんと79年間で平均利回り(複利)は12.05%。最初に1万円預けていれば、現在は8008万円になっている計算です。 この投資信託は、今も資産残高が4.6兆円近くあるメガファンドで、アメリカの純資産残高ランキングのベストテンにも入っています。これこそ、長期投資の王道だと思いませんか? 日本には資産作りに適した よい投資信託がほとんどない! 私は1987年に社会に出てから、20年以上、資金運用の仕事に携わり、機関投資家としてさまざまな商品が設計され、販売されているのを見てきました。 日本の投資信託は、今に至るも、なかなか個人の資産形成に貢献できる商品には少ないというのが、私の正直な感想です。 今回の著書で、私は長期投資のプロとして、この先行きが不安な時代、なんとか資産を作りたいと思っている人に、お勧めの投資信託を選んでみようと思いました。 公平な視点で、現在、設定・運用されている投資信託から長期投資にふさわしい条件を当てはめてみたのです。 すると、驚くべきことに、そのスクリーニングによって長期投資に適していると思われるファンドは、今現在、存在している3376本の中で、たったの9本しかありませんでした。 お勧めできる投資信託がたった9本。これだけでも、いかに日本の投資信託業界の現状が、お粗末であるかが分かろうというものです。しかし、逆説的に考えれば、たった9本なのであれば、選ぶのもきっと簡単です。 投資信託は「長期投資」に向いたものを「自分で」選べば、必ず大きな資産をつくることができる優れた商品です。 何も知識がなく、金融機関の窓口に行ってしまうと、彼らは販売のプロであって、投資信託を運用しているプロではありません。ですから、あなたの資産運用にとって有利な商品を進めてくるとは限らないのです。 販売のプロである金融機関の販売担当者は、どうしても長期投資向きではない、自分たちの「売りやすい商品」や、その時期の「販売目標にある商品」を勧めてくるケースが多いのです。 何も知識がないまま、金融機関へ行って、窓口のお勧めを買うことだけは、絶対にやってはいけません。 次回は7/31更新です。 中野晴啓(なかの はるひろ) セゾン投信株式会社 代表取締役社長。公益財団法人セゾン文化財団理事、NPO法人「元気な日本を作る会」理事。1963年東京生まれ。1987年明治大学商学部卒、クレディセゾン入社。セゾングループの金融子会社にて資金運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金の運用のほか、外国籍投資信託をはじめとした海外契約資産等の運用アドバイスを手がける。その後、(株)クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年セゾン投信(株)を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代中心に直接販売を行っている。また、全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にするための活動を続けている。『運用のプロが教える草食系投資』(共著・日本経済新聞出版社)、『20代のうちにこそ始めたいお金のこと』(すばる舎)、『30歳からはじめる お金の育て方入門』(共著、同文館出版)、『年収500万円からはじめる投資信託入門』(ビジネス社)ほか多数。 |