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2013年 07月 19日 14:01 JST ロイター
田中泰輔 ドイツ証券 チーフ為替ストラテジスト(2013年7月19日)
アベノミクスの失敗は「日本再生のチャンス喪失」と言って過言ではないが、幸いにして安倍政権は依然、順風に乗っている。
21日の参院選では自・公連立与党の勝利はほぼ確実視されている。どの党が勝つかのワクワク感が乏しいため、投票率は低いだろう。投票率が低いと、組織票、固定支持票を多く持つ自・公はますます有利と見られる。
6月に米国を訪問した時、当地の短期投資家は「アベノミクスや日本株の話はもう聞きたくない」という雰囲気だった。5月下旬からの日本株とドル円の急反落に巻き込まれ、へこんでいた。一方、ロングオンリー投資家は相対的にポジティブだった。「日本株は、安倍相場第一弾ほど勢いはなくとも、まだ第二、第三の山があると見るのが自然」と話すと、即座に賛同を得た。
米国経済の回復が続く限り、ドル円が上昇軌道にとどまるとの見方は妥当だ。米景況改善の追い風を受けてもなお継続される日銀の異次元緩和は相応に円安作用を発揮するはずである。
6月後半以降、市場の世界的な神経過敏に小康の兆候が出ると、ドル円は100円前後の水準を回復した。相場の上昇トレンドにおいて3―4割の反落は「健全なる調整」として普通に起こりうる現象である。
ただしこの時は、株安と新興国の動揺と円高の悪循環を見て、日本投資家の多くが買い出動を躊躇(ちゅうちょ)した。その後早々に相場が回復したため、90円台半ばで買い損なった彼らは、再び押し目買い意向をくすぶらせている。その支えもあって7―9月に102―103円を回復すれば、続く3―6カ月間で105―110円が射程に入ると見る。さらにその延長線で2015年に120円に至ると想定している。
安倍相場の初期数カ月の円安・株高は、それ以前の5年に及ぶ円高トレンドに沿って積み上げられたポジションの修正によって加速した。来る数カ月には、アベノミクスがファンダメンタルズの改善と円安・株高軌道との調和をとるべきステージへ移る。
もちろん、その軌道はいまだ盤石ではないし、警戒すべきリスクもある。このうち、米金融緩和の縮小・解除、中国の信用収縮リスクについて「基本観」を確認しておこう。
<米QE縮小・解除は「通過儀礼」>
米国の量的緩和(QE)縮小への観測が高まると、リスク資産・通貨に動揺が生じる。しかし、これを相場トレンドの下方屈折とは見なすべきではない。米景気の自律回復過程では、金融緩和の終了、そしてリスク資産の一時調整は「通過儀礼」と言える。
むしろ(誤解を恐れずに言えば)QE縮小過程でこそ金融緩和効果が発現しやすい面がある。QEは、金利を0%付近に下げてなおマネーが動かない(緩和効果が出ない)金融麻痺への対応措置である。そしてQE縮小・解除は、経済情勢が改善し、マネーが動意づきつつあるからこそ行われる。
日銀が06年にQE解除に向かう時、一部で金融引き締め効果による円高への懸念が喧伝された。しかし実際にQE解除が進んでも、ブタ積み資金が残留し、実質金利が超低水準にとどまった。この過程で、金融緩和効果の顕在化として円キャリーが活発化し、円安が加速した。
米経済の回復がいっそう鮮明になり、連邦準備理事会(FRB)のQE縮小が引き締め効果を発現させるものではないことを確認するにつれて、新興国・資源国市場は落ち着きを取り戻そう。この時、堅調トレンドのドルよりも、異次元緩和の拡充が続く円が「キャリー通貨」として広く認知されていくと見ている。
<中国は「一応大丈夫」が基本観>
一方、中国経済の先行き不安は、展開次第では円安見通しに対する最大のリスクの一つになりうる。円は債権国通貨として内外景況の悪化時に上昇しやすい。アベノミクスでの円安は、米自律回復で世界も回復軌道にとどまる場合のみ実現しうる。もっとも、中国の国内総生産(GDP)成長予想は今年7.6%、来年8.5%と想定している。「米国も中国も大丈夫、日本はアベノミクスで円安継続」が筆者の基本観である。
確かに、シャドー・バンキングなど中国で膨張した信用の収縮リスクは懸念される。07年、FRB議長がサブプライムの最大損失を1000億ドルとしたが、到底それでは済まなかった。金融問題は悪循環的に容易に増殖しうる。
中国ではさらに「中進国の罠」がこれに重なる。経済発展と共に市民の価値観が多様化し、政治的不満が噴出しやすい。余剰労働力の一巡で賃金上昇によるインフレ体質が現れやすい。インフレになると貧富格差の最下層の憤懣(ふんまん)が暴発しやすい。インフレに対処すべく、金利や為替の上昇に柔軟性を持たせると、規制と管理に抑えられた体制が揺らぎかねない。
中国での信用リスクと「中進国の罠」を併せて勘案すると、ひび割れたダムの決壊のように、突然、体制が動揺するリスクも排除されないように思える。ただし、高成長の果実はこれまで支配層による統治体制の強化に投下されてきた。中国は政策発動の裁量性が高く、危機回避の可能性が引き続き優勢と見ている。今サイクル局面で、中国の体制がいきなり動揺するかの危機観をメインシナリオにはしていない。
なお、順当に中国経済が持ち直す場合でも、同国のインフレは悩ましい。この点で、アベノミクスの異次元緩和は中国にとってけっして心地良いものではないだろう。
<「ドル復活」下で円キャリーへシフト>
筆者の「基本観」をもう一度整理しよう。まず繰り返すが、米国経済の自律回復が進む過程で、FRBによる金融緩和解除が株式や新興国のリスク資産・通貨の動揺を呼ぶことは「通過儀礼」である。米回復基調を前提とする限り、ドルの堅調は続き、株価は次第に底固さを増す。欧州は債務問題の圧迫は続くが危機を回避、中国・新興国は何とか持ちこたえ、資源価格は緩やかに支持され、そしてアベノミクスは円安と共にトラックを走るだろう。この筆者の基本予想について、現時点で変更の必要はないと考える。
ドル円は7―9月中に100円台に踏みとどまり、市場は次第に105―110円を視野に入れると見ている。ユーロの年末予想も1.20と、対ドルで劣勢である。基調はドル高、円安、ユーロ安。ユーロ円相場の重心は132円付近であまり動かない見込みだが、1年に1、2回、数カ月毎に上下に比較的大きく振れる展開が想定される。
新興国・資源国での緩慢な景気回復、不均衡やインフレなどのリスクは留意される。これらの通貨の対ドル相場は全般的により中立的に見直した。その中で、最近急落した豪ドルや南アフリカ・ランドは一部失地回復し、米回復の恩恵を受けやすいメキシコ・ペソは基調しっかりと見込む。「ドルの復活」を中心テーマとして、ドル対比で底固いと見込まれる高金利通貨群を、円キャリーとセットにして物色買いする動きが次第に広がると見ている。
*田中泰輔氏は、ドイツ証券のグローバルマクロリサーチオフィサーでチーフ為替ストラテジスト。日本長期信用銀行、クレディ・スイス、野村証券などを経て、2011年11月より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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