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竹中平蔵(たけなか・へいぞう)
慶応義塾大学教授 グローバルセキュリティ研究所所長
1951年生まれ。一橋大学卒業後、日本開発銀行、大蔵省主任研究官、ハーバード大学客員准教授などを経て現職。2001〜2006年、小泉内閣において 経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣、総務大臣などを歴任。ワールド・エコノミック・フォーラムのファウンデーション理事会メンバー。アカデミーヒルズ理事長、公益社団法人日本経済研究センター研究顧問、(株)パソナ取締役会長、(財)森記念財団都市戦略研究所長などを兼務。経済学博士。
竹中平蔵「アベノミクスは100%正しい」安倍政権の経済政策を占う
http://toyokeizai.net/articles/-/15884
2013年07月20日 佐々木 紀彦 :東洋経済オンライン編集長
7月21日に投開票を迎える参議院選挙。その大きな争点となるのが、経済政策である。安倍政権の成長戦略をどう評価すべきか?参院選後に何がポイントとなるのか。安倍内閣の産業競争力会議メンバーである竹中平蔵氏に話を聞いた。
■ダボス会議の参加者は、安倍首相を絶賛
――世の中では「アベノミクスバブルは終わった」という議論もささやかれていますが、ここまでの安倍政権の経済政策をどう評価しますか?
アベノミクスは、理論的には100%正しいと思います。最近私は、「TINA」という言葉をよく使いますが、これは英国元首相のサッチャーの言葉です。TINAとは「There is no alternative」の略、つまり「これ以外の方法はない」という意味です。
ただ、これが本当に実現できるかどうかはわかりません。これは政治の強い決意をもって実行してもらわないといけない。「アベノミクスが正しいかどうか」を議論するよりは、「アベノミクスが本当に実現できるかどうか」を議論するほうがいいと思います。
今年のダボス会議では、参加者は皆、安倍さんを絶賛していました。「彼の言っていることは正しい」という意見です。この間、経済学者のジョセフ・スティグリッツやアダム・ポーゼンと内閣府で会議を行いましたが、彼らも同意見でした。「安倍首相の言っていることは正しいので、きちんと実行してほしい。それに尽きる」ということです。
デフレを解消しようと思ったら、これは貨幣的現象ですから、金融を緩和しないといけない。財政については、短期には需給ギャップを埋めるけれども、長期には財政再建が必要になる。そして、経済を成長させるためには、規制改革を進めなければなりません。これらは否定しようがないことです。まさしく、There is no alternativeですよ。繰り返しますが、問題はこれを実現できるかどうかです。まだ道のりは、そうとう遠い状況です。
近頃の株の乱高下について一言申し上げておくと、日本の株価は昨年6月が底で、今年の5月までに83%も上昇しています。バブルの1980年代後半でも、年平均の上昇率は60%ぐらいです。ところが、それを上回るペースできたため、みんなが「これは上がりすぎる。どこかで利益を確定させたい」と思っていたわけです。ちょうどそこに、アメリカの金融の出口の話が出てきて、調整が起きました。これはひとつのプロセスだと思います。一連の動きが示しているのは、金融政策の効果がいかに大きいかということです。
――実行は未知数ながらも、安倍政権はスタートダッシュには成功したということですね。
そうです。起承転結でいうと、「起」はグッドスタートで、「承」はディベロップメントです。現在、出されている成長戦略は100点満点からはほど遠いですが、今までの成長戦略より、はるかに内容があります。
これから問題になるのは「転」、つまり、ターンです。この評価は、参議院選挙後に安倍首相がどれだけ本気で改革を加速させることができるかによって決まります。「転」がうまくいくかに応じて、「結」が決まってきます。
――改革が成功するかどうかは、参院選で自民がどれだけ議席を獲得できるかに左右されますか。それともより重要なのは、安倍首相の意志ですか。
意志だと思います。選挙ですから、やってみないとわかりませんが、事前の世論調査からすると与党は強い。自民党の支持率40%、内閣支持率70%、こんなことは今までありません。
だから、問題は選挙の後です。ポリティカルキャピタル(政治的資本)という言葉がありますが、それを安倍首相がどう使うのか、どのようにポリティカルキャピタルを配分して、どういう順位で改革を実行していくのか。総理大臣になっても360度敵に回すことはできませんので、やっぱりどこかに集中してやらないといけない。
郵政民営化を担当しているときに面白いと思ったのは、ある厚生分野のドンが私のところにやってきて「私は厚生についてはこういう意見をもっていて、竹中先生とは違う。でも、郵政は応援しますから」と言ったことです。ある分野で意見が違う人でも、ほかの分野では手を組むことができるわけです。
――誰を敵に回し、誰と手を組むか。その駆け引きが重要だということですね。
その設定が戦略的アジェンダですよ。その意味で小泉元首相は優れていました。今回、安倍政権は、デフレの克服をアジェンダとして掲げていますが、これは成功しています。ですので、その次のアジェンダをうまく作ってほしいと思います。
――次のアジェンダの柱となるのはどの政策でしょうか。
基本的に、改革の大玉、いわゆる、岩盤規制と呼ばれるものがあります。その中から、何をやっていくかです。それを突き崩す装置として、特区はうまく使ってほしい。特区で実績を上げて岩盤規制を壊していくのが、ひとつのやり方です。
数え方によりますが、岩盤規制の数は5〜10程度です。だから、年間2つずつ岩盤規制を壊すという目標を決めてやっていけばいい。2つであれば、360度敵に回すことはないので現実的です。3〜5年の長期政権を築いて、毎年2つくらいやっていけば、ほとんどの問題は片付くことになります。
たとえば、農業に対する株式会社の本格的参入や混合診療の導入などを実現するひとつの方法として、そういうやり方があると思います。
■本当に必要なのは総理の思い入れ
――改革のセンターピンは何によって決まりますか?
これも総理の意志です。なぜ郵政民営化がセンターピンになったかというと、小泉元総理が強い思い入れを持っていたからです。当時、「郵政民営化はそんなに重要か」と思った人もたくさんいましたが、「小泉さんがそこまで言うならやろう」ということになったわけです。だから、本当に必要なのは総理の思い入れだと思いますね。
安倍首相は、憲法改正に思い入れがありますし、それは重要なテーマです。ただし、当面は経済政策に力を入れて強い基盤を作ってから、憲法改正に取り組んでほしいと思います。
今のところ安倍首相は「この秋は成長戦略実現国家だ」と言い切っていますし、ポリティカルキャピタルを引き続き改革に使う方向です。そこには本当に期待したいと思います。
――産業競争力会議の政策への影響力はどの程度あるのでしょうか?
会議で決まったことは閣議決定されますから、決定されたことに関しては決定的な影響力があります。ただ問題は、まだ改革の大玉がないことです。
楽天の三木谷さんは産業競争力の評価を100点満点で75点と評価していますが、いい線をいっていると思います。なぜ100点から遠いかというと、法人税減税といった大玉が入っていないからです。しかし、今までのような、通り一遍の40〜50点の成長戦略よりは画期的です。戦略特区も入っているし、コンセッション(インフラ運営権の売却)も入っています。100点と50点の中間として、75点というのは的確な評価です。
これからのポイントは、どうやって残された課題を解決していくか、そして、どんな形で改革実現をフォローアップしていくのか。産業競争力会議に続く後継組織のあり方は、まだ発表されていません。
――これから、安倍首相が族議員らと戦っていく中で、最大の応援団となるのはどの集団でしょうか。
小泉さんを見ていて思ったのは、最大の応援団は世論だということです。ただ、世論とメディアはあきらかに違います。
――産業競争力会議が提案した「解雇ルールの明確化」について、メディアが「解雇の自由化」「解雇を原則自由に」と誤解を招くような表現で伝えたことを批判していました。
あの改革は、メディアと経済界が潰したようなものです。面白いことに、メディアの批判をすると、メディアの人は必死に言い訳してくる。批判ばかりしている人間は、自分が批判されるとすごく弱い。
ほかに規制改革の例でいうと、世界銀行の規制環境ランキングで、日本は2000年には40位でしたが、2006年には28位まで上がりました。そのときに「行き過ぎた規制緩和だ」とメディアがあおって、全部規制改革を潰してしまった。その結果、直近のランキングでは47位にまで落ちています。この改革はメディアがつぶしたんですよ。
もうひとつの問題は経済界です。今回、産業競争力会議で、「企業を強くするためにコーポレートガバナンスの強化が必要だ」と提案したところ、企業自身がそれを拒んできました。経済界は「政治はしっかりしろ」「決断できない政治」とさんざん批判してきましたが、自らに火の粉が及ぶと突然、抵抗勢力になる。自分たちが強くなることを拒んでいるわけです。
■学校の公設民営ができれば面白くなる
――東京に国家戦略特区を作るという政策もインパクトが大きい話です。
それが実現できるかは総理の意志、官邸の意志、特区担当大臣のやり方にかかっています。これは間違いなく使えるツールです。これをどれくらい本気で使うかです。
たとえば、公設民営学校の解禁(公立学校運営の民間への開放)の議論が、早くもワーキンググループを通してできるようになりました。これは岩盤規制です。今まで10年間実現できなかった岩盤規制のひとつが、特区ワーキンググループの議論を通して、4週間でできるようになりました。
学校の公設民営ができれば面白いと思いますよ。たとえば、「港区のこの学校は徹底したグローバル教育をやる」ということも可能になります。グローバル教育において、日本は韓国に徹底して差を開けられています。韓国には、英語だけで授業をして、毎年アメリカのアイビーリーグに数十人も送り出す高校もあります。今の日本ではそんなことは考えられないですよ。
――成長戦略では、今後10年で世界大学ランキングトップ100に日本の大学を10校ランクインさせるという目標も掲げられています。
それにはそうとう努力がいります。私も大学の中にいて思うのは、大学のシステムの中にはマネジメントという概念がないことです。あくまで自治なのです。つまり自分のことは自分で決めると。そんなのダメに決まっていますよ。
■戦後の悪夢を引きずる日本
――リーダーがいくら頑張っても変えられない。
そうです。リーダーが頑張っても今のシステムでは変えられない。慶応でも、塾長にはそんなに権限が与えられていません。重要なのはマネジメントなのです。
この問題に限らず、日本の問題はすべてそうです。いまだに戦後の悪夢を引きずっています。
たとえば、株式会社が農業に参入できないのも、昔の大地主と小作の悪夢があるからです。そうした関係を復活させないために、農業委員会を置き、いまだに企業の進出を認めないわけです。大学も、戦中に軍部が学問の自由に介入してきた悪夢から、外部には力を持たせないよう自治を貫くことになった。不動産についても、借地借家法で借り手の権利が強く守られているのは、旦那さんが兵隊にとられて留守を守っている奥さんと子どもが困らないようにするためだったわけです。
そうした権利を守るのはもちろん必要です。ですが、客観的な情勢は当時とは変わっています。食料が決定的に不足している時代と違い、今は世界中からすばらしい食料が入ってくる時代です。そこは時代背景に合わせて法律を柔軟に変えていかざるをえないですよ。
――成長戦略を実のあるものにするためには、事業を興す人がいないといけません。そうした変化の主体となるのは、外国人や若者でしょうか。
日本経済の規模は今も500兆円もあります。大きい経済です。これを動かすには、枠組みを変えなくてはいけません。その柱となる枠組みが3つあります。
ひとつ目は法人税の引き下げ。これは決定的に重要です。これは特区でどうにか風穴を開けたい。
2つ目は、日本で遊んでいるおカネの運用。つまりは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)です。この年金運用機関には、110兆円の資産があります。シンガポールやノルウェーは同じような性格の資金を30兆円運用していますが、30兆円の運用をするのに1000人のプロフェッショナルが携わっています。一方の日本は、110兆円を71人で運用しています。つまりは、運用していないも同然で、国債を無条件に買っているわけです。そこにぜひ風穴を開けたい。
今回の成長戦略には、公的な資金のあり方、運用の仕方について根本的に議論する委員会をつくると記されています。第12回目の産業競争力会議の席では、安倍首相自身がGPIFに言及しました。これはすごいことです。
■経済界が改革を邪魔している
最後に、もうひとつ残されたテーマが、移民です。移民というと、一般の方々は直感的な反発を持ちますが、オーストラリアやアメリカの例を見ても、成長戦略を議論するときには必ず最初に移民が出てきます。これは当たり前の話です。
日本は2050年までに、3200万人の人口がなくなります。3200万人というとカナダの人口です。この国から、カナダの人口がいなくなるわけです。2030年を超えると毎年100万人がいなくなります。100万人というと、私の出身の和歌山県の人口です。ひとつの県が毎年なくなっていきます。ちゃんとした労働力を加えていかないと、それだけの人口減少には耐えられません。
私が教え子の女性に「何が欲しいか」ときくと、まず「メイド」と答えます。メイドがいれば、女性が仕事に専念できますし、女性の職業参加率も高まるはずです。移民の問題は今回突破できませんでしたが、どこかで向き合う必要があります。今すぐ移民を入れようという話ではないですが、少なくとも議論は始めないといけません。
――最近は、若い人たちの間で、起業ブームが起きています。変化の主体として若い人にも期待が持てそうです。
そうだと思います。その際に重要なのは、日本は開業率も低いけれど、廃業率も低いということです。なぜ廃業率が低いかというと、成績の悪い企業や能力のない社長が居座っているからです。それを追い出すシステムがありません。
これは、英語で言うとメタボリズム、新陳代謝ですよ。英語で、We should increase metabolism というと、「太ったほうがいい」という意味だと思う人も多いですが、これは「新陳代謝を高めよ」という意味です。それをやるために、やっぱりコーポレートガバナンスが大事です。
ところが日本の企業は、独立した社外取締役をほとんど置きません。欧米はどこの国でも、取締役会の過半数は社外取締役とするよう何らかの形で義務づけています。しかし日本では、それを法律で義務づけようと提案したとたんに、経済界が反対しました。だから私は、改革を邪魔しているのは経済界だと思いますよ。
(撮影:尾形文繁)
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