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バーナンキFRB議長、「金価格は誰も理解できない」
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kosugetsutomu/20130719-00026551/
2013年7月19日 19時3分 小菅努 | 大起産業(株)情報調査室室長/商品アナリスト
バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長は2011年、共和党のRon Paul議員から「金(ゴールド)はマネーか」と質問された時、数秒間考えた後に「違う」と答え、ではなぜ中央銀行が金を保有するのかという質問に対しては「伝統」だと回答した。金価格は様々なことを反映するために毎朝チェックしているとしたものの、金価格に他のコモディティとは違った特別な意味付けを行うことは明確に拒否した。
その後は約2年間にわたって同議長が金価格について積極的に発言することは無かったが、7月18日に上院銀行委員会で行われた議会証言後には、共和党のDean Heller議員の質問に答える形で、久し振りに金価格について自らの考えを述べている。
まず、「金は普通の資産ではない」、「投資家が災害保険として保有している」との基本認識を示している。投資用の資産というよりも、有事に対する保険としての性格を重視していることが窺える。
その上で、ドル建て金価格が年初からだけでも既に24%の急落となっていることに対しては、「多くはインフレヘッジとして金を保有しているが、実際には金価格の値動きはインフレの先行きをそれほど正確には予測していない」と説明している。
ここから更に踏み込んだ解説は行われなかったが、08年以降の金価格が、主に「金融緩和→通貨価値の喪失=インフレ」というシナリオへの警戒感から急伸してきたものの、現実にはこうしたインフレ予想が実現しなかったことで、保険ニーズが低下していることを指摘したものと考えている。
日本においても、日本銀行の異次元緩和策による紙幣増刷政策がコントロール不能なインフレを招くとの批判が根強い。ただ、量的緩和政策において先行している米国においては、インフレとは逆にディスインフレが警戒されているのが現状である。バーナンキFRB議長も今回の議会証言においてインフレ率の低下によって緩和政策の継続を迫られる可能性について言及するなど、少なくとも現段階では金価格のインフレ予想は実現していない。
また、金価格急落の理由の一つは「投資家が極端な投資結果、特に悪い結果への懸念を弱めている」結果だとして、「金保有で得られる保証の必要性が低下している」との見方も示している。ここ数年のグローバル経済は、サブプライムローン問題、リーマン・ショック、欧州債務危機、米債務問題など様々な問題に直面し続けてきたが、これらが破壊的な結果を招くテールリスクが低下していることを、金価格急落要因の一つとみているのだろう。
もっとも、議長は最後に「金価格を理解している人は誰もいない。私自身も理解しているように振舞うつもりはない」として、結局は良く分からないとの認識を示している。
■金価格は金融政策の通知表
金(Gold)は紀元前から価値の尺度として使用されてきたが、近年は金融資産としての性格も強めており、投資家によって活発な売買が行われている。
しかし、株式に見られるような純資産倍率(PBR)や株価収益率(PER)といった明確な投資尺度が存在する訳ではなく、ある時は需給理論で、ある時は国際機軸通貨ドルに対する代替通貨として、またある時は価値尺度として価格形成が行われており、特に金融市場関係者からは金価格はよく分からないとの指摘が多く聞かれる。バーナンキ議長の発言も、このような一般的な金融市場関係者の発言を代表するものと言えるだろう。
ただ、もし中央銀行家サイドの視点で金価格をみるのであれば、金価格は自らの金融政策運営に対する「通知表」としての役割を果たすものだと考えている。
金融政策が適切に運営され、通貨価値が維持され、インフレ環境が安定し、安定的な経済成長が実現している環境下においては、金価格が急騰する余地は殆ど存在しない。一方、金融政策が通貨価値を毀損したり、インフレ圧力の暴走を招いたり、経済成長を阻害するような事態になると金価格は上昇傾向を強めることになる。すなわち、中央銀行にとっては、金価格は安ければ安い程に望ましく、高ければ高い程に危険な資産なのだ。
その意味では金市場がFRBの金融政策に落第点をつけたのが11年に記録された過去最高値1オンス=1,923.70ドルであり、バーナンキ議長は明言こそしなかったが、これまでの金価格高騰を歓迎していないのみならず、強い危機感を有していた可能性が高いと考えている。そして、最近の金価格は漸くFRBの金融政策が合格点のラインに近づいていることを意味することになり、本音では金価格の急落傾向を歓迎している可能性が高い。
バーナンキ議長がいつになく金価格について饒舌に語っていることは、「金価格を理解している人は誰もいない。私自身も理解しているように振舞うつもりはない」と謙遜したものの、実際には金価格の下落傾向を歓迎している本音を垣間見せるものだとみている。
小菅努
大起産業(株)情報調査室室長/商品アナリスト
1976年千葉県生まれ。筑波大学卒業後、大起産業(株)に入社。営業本部、米同時テロ直後のニューヨーク事務所等を経て、現在は情報調査室室長。ほぼ一貫してコモディティやFX市場の調査・研究・分析業務に従事。商品アナリストとして、金、プラチナ、原油、ゴム、穀物などコモディティ・マーケットの需給分析レポートを社内外に発表中。
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