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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130719-00010004-wedge-bus_all&p=1
WEDGE 7月19日(金)12時34分配信
アベノミクスで追い風が吹いて、久しぶりに兜町が賑わいを見せている。しかし、取引の大半は機械による自動売買で、トレーダーは海外に去ったままだ。金融機関と投資家を呼び戻し、金持ちが日本に資産を移し、日本で消費生活を楽しむ。それでこそ、本当の意味で日本経済は再成長路線に乗る。
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株の町、東京・日本橋兜町が賑わいを見せている。1年前とは打って変わり、町を歩く証券マンの表情も明るい。周囲の老舗の売り上げもうなぎ登りとか。長期にわたって株価低迷が続き、証券会社が続々廃業。兜町がワンルームマンションの町に変わりつつあったから、すんでのところで復活の兆しが見えてきたということだろう。
町の中心である東京証券取引所も今年1月、大阪証券取引所と合併。日本取引所グループが誕生した。日本の金融市場の中心として体制を整えたところへ、アベノミクスの追い風が吹いた。ご存じ、安倍晋三首相が掲げる経済政策である。昨年末に10,395円だった日経平均株価は5月には15,000円を突破、5カ月で5割も上昇した。
もちろん、兜町が潤っているのは、株価水準が上がったためではない。長年、株式市場から遠ざかっていた個人投資家などが一気に売買を再開、売買高が急増していることが大きい。実際、5月23日には日経平均が1100円も下がる急落に見舞われたが、この日の売買高は何と76億5500万株と過去最高を記録。売買代金で見ても5兆8377億円と2007年以来の過去最高となった。バブル真っ盛りの1987年3月の1日平均売買高が14億株で、バブル崩壊後は1億株台しか出来ないこともあったことを考えると、猛烈な活況ぶりだ。上場企業である日本取引所の株価自体、あれよあれよという間に3倍になったことを見ても、いかにアベノミクスが兜町を潤しつつあるかを示している。
バブル期の5倍という売買高は個人投資家が戻ってきたことだけによるわけではない。売買の仕方がこの四半世紀で劇的に変わったのだ。インターネット売買の普及でデイ・トレーダーと呼ばれる投資家が急増し、株式を長期に持つのではなく、1日の間に売買するスタイルが一気に普及した。いわゆる回転売買が激しさを増すことで、売買高が大きく膨らんでいるのだ。
さらにアルゴリズム取引と呼ばれるコンピューターによる自動売買も広がっている。株価のわずかな動きを捉えて激しく売買を繰り返すシステムである。短期的な株式売買の世界は、もはやコンピューターどうしの戦いの様相を呈している。取引所の売買システムのコンピューターとつなぐミリセカンド(1000分の1秒)の通信時間が優劣を決するようにまでなった。取引所のサーバーが置かれているデータセンター内に自社のサーバーを置くことはもとより、隣の棚に置けるかどうかまでが争われている。それがデータセンターのサービスにもなっている。
「東京は機械ばかりが跋扈する市場になってしまった」
昨年、取引所業界の専門家がぼやいていたのを思い出す。証券会社などに籍を置き、日本株を売買する日本人のトレーダーが、この4〜5年の間に兜町を見捨て、香港やシンガポールに移住してしまった、というのだ。しかも彼らはかの地で引き続き日本株の売買を続けている。
■トレーダー、資産家が日本から去っていく
なぜ、拠点を移すのか。彼らも好き好んで海外暮らしを選んでいるわけではない。最後は税制など日本の規制に行き着くのだという。有価証券取引税や所得税などコストが高く、同じ日本株を売買する際に香港などの方が圧倒的に有利になるのだそうだ。
法人税や所得税、相続税といった税金の税率はアジアの国々に比べて日本は高い。企業オーナーや資産家が日本を脱出し、相続税がない国や所得税率が低い国に移住する傾向はここ5年ほど続いていた。とくに民主党政権が資産課税を強化する姿勢を見せていたことで、その流れは一気に加速していた。
アベノミクスで国内景気がデフレから脱却しそうな気配が見えたことで、その流れが止まるかと思いきや、止まらない。むしろ景気回復でインフレになることを予想、インフレによる資産の目減りなどを懸念して、円高のうちに資産を移そうと考える人が少なくないという。当然、資産家がいなくなれば、日本株の売買にとってもマイナスだ。しかも資産家の場合、短期の売買よりも大量の株式を長期にわたって保有するケースが多い。そんな投資家が日本国内からジワジワと減っているわけである。
自民党の日本経済再生本部(本部長・高市早苗政調会長)は政府の成長戦略よりひと足早く「中間提言」をまとめた。その中には「金融・資本市場の魅力拡大(『5年以内』に世界一へ)」という項目がある。
「香港、シンガポール、上海などのアジア新興資本市場の台頭を踏まえつつ、日本の資本市場がニューヨーク、ロンドンなどとも比肩できる世界の代表的な市場としての評価を5年以内に確立する事を目指し、市場の魅力拡大に最大限努める」としている。
具体策としては「総合取引所の早期実現」「英文開示や国際会計基準の利用の拡大」「東証『グローバル300社』インデックスの創設」「資本市場の監視・監督体制の格段の強化」「REIT市場の活性化」といった政策が並んでいる。バブル期同様、世界一と肩を並べる市場に戻そうというわけだ。その心意気は必要だろう。
だが、それ以上に大事なのは、日本の資本市場に「人」が集まるような政策を取ることではないか。いくら「カネ」が集まっているといっても海外から操作されている機械の取引だけで回っているのでは、本当の意味での金融業は日本で発達しない。
バブル期に進出した世界の金融機関が東京を後にして久しい。多くが香港やシンガポールに拠点を移したままだ。こうした金融機関を呼び戻し、金持ちが日本に資産を移し、日本で消費生活を楽しむ。それでこそ、本当の意味で経済は再成長路線に乗る。
日経平均が1100円の急落を演じた際、経済界の一部からはアルゴリズム取引を規制すべきだという声が上がった。これに対して麻生太郎副総理兼財務相は「1日で株価が乱高下するのはあの機械のおかげだと僕は思っている」と述べたものの、一方的に規制するようなことはしない方針を示した。もはや世界でアルゴリズム取引が行われている以上、一国だけで規制することは難しい。それよりもむしろ、多くの金融機関や個人投資家が世界から集まる国にするにはどうすべきか。
これまで政府は、日本の製造業が国内にとどまることを奨励する目的で、「国内立地補助金」などを出してきた。ならば、国内に金融機関や投資家が留まったり、あるいは海外からやってくる場合に、税制上のメリットが生じるような制度改革をしていくべきだろう。兜町の活況を単なる一時のミニバブルに終わらせてはいけない。
磯山友幸 (経済ジャーナリスト)
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