http://www.asyura2.com/13/hasan81/msg/226.html
Tweet |
http://toyokeizai.net/articles/-/15777
2013年07月19日 加藤 出 :東短リサーチ代表取締役社長 :東洋経済オンライン
BIS(国際決済銀行)の今年の年次報告書(6月公表)は、中央銀行が金融緩和策を継続すればするほど、モラルハザードが強まって、出口政策の困難度はますます大きくなっていくと警告していた。昨年までの同報告書も緩和策の危険性に警笛を鳴らすものだったが、今年は一段とそのトーンが強まった。日本銀行が今年4月にFRB(米国連邦準備制度理事会)を上回る超緩和策を開始したことがBISの危機感を強めているのだと思われる。
日銀やFRBが行っている緩和策は、本質的には経済の病巣を治療することはできず、モルヒネ的な痛み止め効果によって「時間を借りる」ことしかできない。バランスシートを修復する時間、財政再建に取り組む時間、生産性向上のための改革の時間を、中央銀行が緩和策で稼いでいる間に、政府や民間がそれらに取り組む必要がある。
しかし、実際のところは、BISが懸念するように、「チープマネー」は「変化よりも現状維持を容易にする」。借りた時間が上手く利用されなければ、副作用が膨らんで行く恐れがあるため、注意が必要である。
■海外ヘッジファンドは、日本に対して醒めている
最近、海外のヘッジファンド関係者と話をしていると、「日銀は量的質的緩和策から脱出できないのではないか?」という見方が増えてきているように感じられる。巨額の国債を購入する政策が続くと、政府・議会はそれに慣れてしまい、単にインフレ率が目標の2%に達したらやめられるというものではなくなってくる恐れがある。政府の財政赤字が減って、国債発行額も減って来るという”幸運”がないと、日銀は国債買入れを減額できないだろう。
それでもヘッジファンドが「日本買い」のスタンスを続けているのは、将来は財政などに大問題が発生する恐れは認識しつつも、短中期的観点で割り切れば、エマージング市場に投資することが流行りの時代がいったん終わったこともあって、日本はまだ魅力的に見えているということなのだろう。
日銀は7月の金融政策決定会合で、景気の現状認識を一段階引き上げた。2014年、2015年のGDP(国内総生産)とCPI(消費者物価)上昇率の予測は、おおよそ、4月時点と変わらなかった。やや下方修正した委員もいたが、日銀幹部はそれを「誤差の範囲」と見なしている。
今回の景気回復への流れは、従来型の典型的な「輸出増→生産増→企業収益増→家計所得増」というパターンとは異なり、家計のマインドの好転が先行しているのが特徴である。しかし、いつまでも「気分」だけで経済を引っ張ることはできない。それゆえ企業部門の回復と所得増による消費の持続を実現させなければならないと日銀政策委員会は考えている。
中国経済に関して日銀は、近い時期にハードランディングが顕在化するとは見ていない。しかし、中国の現政権は、目先の成長よりも構造調整を進めようとしている。他のエマージング経済も、FRBの資産購入策減額観測に伴う資金流出や資源価格下落などによって元気がない。欧州経済にも元気を期待することは難しい。頼みの綱は米国経済であり、となると、円安ではあっても、日本の輸出数量の伸びは全体としては限られそうである。
■市場にショックを与えずに、QE縮小が進められるのか
しかしながら、日銀は先行きの景気改善とインフレ率上昇のシナリオを当面維持する予定でいるようだ。海外経済が失速しない限りは、10月に発表される次の中期経済予想(展望レポート)でも、2015年度にインフレ率はおおよそ2%に達するとの予想を繰り返すと思われる。その大きな理由のひとつに、弊害が少ない追加緩和策の選択肢が、もはやほとんど残っていないという現実がある。
日銀が”願望”通りに追加緩和策を避け続けられるか否かは、バーナンキFRB議長が市場にさらなるショックを与えないようにいわゆる”QE3”(月850億ドルの証券購入策)の縮小を進めていけるかどうかにかかっている。
5月下旬以降、QE3の縮小観測に伴って、米モーゲージ30年金利は劇的に上昇した。こういった動きがもし米国経済を冷え込ませると、日本政府は、日本で来年4月の消費税引き上げ後に起こりうる、駆け込み需要の反動減の打撃をより心配するようになり、日銀に追加緩和策を強く要求するだろう。
また、QE3の縮小がエマージング経済からの資金流出を激しくして、それらの経済が不安定化させると、それも日本経済にとってリスクとなりうる。
ニューヨーク市場の一部の参加者からは、「バーナンキ議長のレームダック化が始まったのではないか?」という声が聞こえ始めている。バーナンキが6月19日の記者会見で予想外に前のめり的にQE3縮小プランを述べたのは、来年1月末の自分の退任を美しくするために、スケジュールを逆算して考えるようになった可能性があるかもしれないと彼らは見ている。「さすがのバーナンキも”やりっ放し”で去って行くことへの躊躇があるのでは?」という推論である。
■FRB議長交替の来年はイベントリスクも
そういった観点でいえば、市場に安心感を与えられるような次期FRB議長人事をオバマ大統領が発表できるか否かは今後非常に重要である。ちなみに、ブッシュ前大統領がバーナンキをグリーンスパン議長の後継者として指名したのは2005年10月24日だった。
なお、過去を振り返ると、FRB議長が交代した年、あるいはその翌年には、市場が大きく動揺するイベントが何度か発生している。例えば、ボルカーからグリーンスパンに代わった年(1987年)にブラック・マンデーが起きた。グリーンスパンからバーナンキに代わった翌年夏に欧州のインターバンク市場でパニックが生じ、それ以降、米国のサブプライム問題が深刻化していった。議長交代期にはそれまでの「ウミ」が現れやすくなる傾向があるのかもしれない。来年以降はしばらく要注意と言えるだろう。
上海インターバンク市場で6月に勃発したクレジット・クランチ(信用危機)は、シャドーバンキングを拡大させ、かつ短期資金調達に傾きすぎた流動性管理に問題がある銀行に、金融当局が「お仕置き」を与えようとして市場への資金供給を絞ったことがきっかけだった。
逆に言うと、2008年9月にリーマン・ブラザーズが破綻した時のニューヨーク市場や、1997年11月に北海道拓殖銀行や山一証券が破綻したときの東京市場で発生したフリーズとは本質的に異なっていた。ニューヨークや東京のケースでは、債務超過状態の金融機関が多数いるのではないかという恐怖感が市場で強まり、信用リスク懸念から短期金融市場で資金が流れなくなった。今回の中国はそうではなく、流動性の問題だった。それゆえ、中央銀行が資金供給を始めたら短期金利は急低下を見せた。
また、消費は減速を見せているものの、「バブル破裂」という事態にはまだ至っていない。インターネット販売が急速に増えており、消費における比率はもはや米国を上回っていると言われている。しかし、それは中国の消費統計には含まれていないため、実際の消費は統計よりもう少し良いのではないか、という声も聞こえる。自動車販売は好調であり、6月の乗用車販売台数は、BMWは前年比44%増、フォードも同44%増、アウディは同34%増、ポルシェは同18%増だ(日本はトヨタを除くとマイナス圏で苦戦)。
■中国政府のバブル潰し政策の影響を注視
中国で不動産価格の本格下落が始まれば、シャドーバンキングが信用供与している非効率なプロジェクト(地方政府の不動産投資プラットフォームなど)が急速に不良化し、システミックリスクが顕在化するだろう。しかし、現時点では中国の大半の都市の住宅価格は(当局の牽制にもかかわらず)まだ上昇を続けている。5月の100都市住宅価格は前月比プラス0.81%(12か月連続の上昇)、前年比はプラス6.9%だった。
英エコノミスト誌が書いているように、中国の「表の銀行」は当局に厳しく監督されている。おそらく、「表の銀行」は1990年前後の日本の銀行ほどのレバレッジを効かせた無茶な融資は行っていないだろう。中国の当局は銀行の預金金利と貸出金利のスプレッドが過度に小さくならないように維持し、銀行が稼げる状態を守ってきた。
一方、1990年前後の日本の銀行は、金融自由化によって利益が稼げなくなったために、無謀な不動産融資を拡大させた。それゆえ、中国当局は今のうちに、シャドーバンキングの暴走を抑えたくて、先月のような「お仕置き」を「行儀が悪い」銀行に加えようとした。
それは方向性としては正しい政策だが、そういったバブル抑制策を当局がどこまで行えるかは、中国の今後の雇用情勢にかかってくる。失業が増加すると、成長を下押しさせ得るバブル抑制策の継続は難しくなる。また、成長率が急に落ちると、資金繰りが苦しくなる不動産関連業者が増えたり、不動産価格に対する人々のユーフォリアの剥落が急激に起きたりして、ハードランディング起きる恐れがある。
中国政府が難しいバランスをとりながら不確実性があるバブル対策を行っていけるかどうか注意してみて行く必要がある。
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。