04. 2013年7月19日 01:38:20
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【第355回】 2013年7月19日 ダイヤモンド・オンライン編集部 消費増税こそ参院選の隠された重大争点 実施するもリスク、先延ばしするもリスク 21日の参院選まで、後2日となったが、ネット選挙解禁の話題を除けば、論戦は一向に盛り上がってこない。安倍政権の信任投票といった性格となっている。こうなってしまった最大の要因は、野党が不甲斐なく明確な争点を設定できなかったことにある。それは一方で、本当に争点とすべきことが、選挙後に先送りされてしまったためでもある。例えば、財政再建しかり、年金・医療などの社会保障改革しかり、原発と日本のエネルギーの将来像しかりである。 ここでは、国民の生活に直結する財政再建と消費増税問題を考えてみよう。なぜなら、消費増税を行う場合も、先延ばしする場合も、ともに大きなリスクを伴うからだ。(ダイヤモンド・オンライン編集長・原英次郎) 消費増税の結論は先送り 安倍政権が実行するアベノミクス=3本の矢は成長重視の政策である。経済成長率が高まれば税収が増え、財政再建が容易になるというシナリオのうえに立っている。その一方、日本の財政状況は先進国中で、最悪であることは周知のとおり。政府の債務残高は対GDP比で、2012年末214%、13年末には224%になると見込まれている。ちなみにアメリカは110%(12年末)、財政状況が悪いと言われるイタリアでも127%(同年末)と、我が国よりずっと低い。 2012年8月に成立した消費税増税法によって、消費税率は、14年4月に5%から8%へ、15年10月には10%に引き上げられることになっている。ただ、その附則で経済の状況を勘案して増税を停止できるとなっているため、安倍首相は景気の動向を見て、10月に消費税率を引き上げるかどうかの最終判断をするとしている。 政府が6年ぶりに出した「骨太の方針」でも、「国・地方のPBについて、2015年度までに2010年度に比べ赤字の対GDP比の半減、2020年度までに黒字化、その後の債務残高の対GDP比の安定的な引き下げを目指す」と、財政健全化の目標は掲げた。だが、選挙が終わった後に「中期財政計画」を策定するとして、これから経済成長、増税、財政の姿がどうなるかついて、具体的な姿は示されなかった。いずれも消費増税についての判断を先送りした形だ。 PBとはプライマリーバランス、基礎的財政収支のことで、経常的な経費を税金など収入でどれくらい賄えてるいかを見る指標である。家計になぞらえれば、食費や光熱費、教育費などを給料でどのくらいカバーできているかということ。PBが黒字なら家計(財政)を維持するために、新たな借金を重ねる必要がなくなる。 消費増税は景気後退のリスク では、消費増税を実施した場合、しなかった場合の影響はどうか。骨太の方針では具体的な数字を入れた計画は示されていないので、財務省が今年3月に示した「平成25年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」をベースに考えてみよう。 同試算によれば、名目GDPの成長率が3%、歳出(支出)は削減の手を打たず自然増、消費増税は予定通り行うというケースA−1では、PBは13年度▲23.2兆円、14年度▲20.7兆円、15年度▲17.5円、16年度▲13.2兆円となる。3%成長でも歳出に手をつけなければ、15年度のPB目標達成は難しい。歳出の伸びをおさえるケースB−1 では、PBは13年度▲23.2兆円、14年度▲19.1兆円、15年度▲15.8兆円、16年度▲11.7兆円となり、PB目標は達できそうだ。 高齢人口の増加に伴い自然増に任せていれば、社会保障費だけで毎年、歳出は約1兆円ずつ増える。歳出の伸びを抑えるということは、社会保障費の増加分のカットに踏み込まざるを得ず、国民に痛み伴う改革をお願いしなくてはならない。にもかかわらず、その痛みについては、与党・自民党は全くと言っていいほど触れていない。 さらに大きな問題は、消費増税を実施した場合に、景気の腰折れ、つまり成長率の低下が起こる可能性である。13年度は財政出動や円安の効果、消費増税前の駆け込み需要などで、高い成長率が実現できるだろう。しかし、消費税率が引き上げられれば、少なくとも成長率は落ちる。税は景気動向に遅れる傾向があるので、14年度の税収は増えるだろうが、それ以降が問題だ。増税によって景気が腰折れすれば、消費税率を上げても、税収が予想通りには伸びず、かえって財政状況が悪化する可能性がある。 増税先延ばしは財政不信リスク 「安倍首相の本音は消費増税は先延ばし」。ある経済財政諮問会議のメンバーがこう述べる。 では、消費増税を先送りした場合はどうか。その影響を試算したのが表である。先送りは成長重視路線だから歳出は自然増のケースA−1を使い、消費税率1%で2兆円と想定して、消費増税をしない分の税収を減らしている。その額は14年度は2兆円×3%=6党円、15年度は6兆円+2兆円×2%×半年分=8兆円だ。その場合のPBは13年度▲23.3兆円、14年度▲26.7兆円、15年度▲25.5兆円、16年度▲23.2兆円で、PB赤字は減らない。別の見方をすれば、PBの赤字を縮小させるには、3%を上回る4%、5%という高い成長率を実現しなくてはならないということになる。 出典・注:財務省『平成25年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算』平成25年3月を基に、日本総合研究所作成。消費税収は平成23年度の決算額が10兆1946億円であったことに鑑み、1%当たり2兆円相当と仮定して、消費増税を行わない場合の税収を試算 もっとも、骨太の方針では名目GDP成長率3%程度、実質成長率2%程度を目標に掲げる一方で、日銀はインフレ目標を2%に置いている。名目成長率は実質+インフレ率だから、本来なら目標とする名目GDP成長率4%程度となるはず。政府の目標数字も矛盾している。
消費増税を先延ばしする最大のリスクは、国債価格の下落=長期金利の上昇だ。試算でわかるように、歳出改革を行わず消費増税を先延ばしすれば、3%程度の成長では財政収支はほとんど改善しない。つまり、政府が消費増税を先延ばしすることで、財政再建に消極的だと受け止められれば、国債が売られて長期金利が上がり、景気に悪影響を及ぼす。異次元金融緩和で日銀が国債を買い支えても、それには限界がある。膨大な借金を抱えているだけに、金利上昇は利払いの増加も招き、財政再建の道が遠のく。 消費増税を予定通り実施する場合は、景気の腰折れとそれによる税収低迷というリスクがある。一方、先延ばしする場合は、財政に対する不安から、国債が売られて長期金利があがり、それを通じて景気が減速するというリスクが伴う。ことほど左様に、経済成長と財政再建を両立させるのは難しい。 対案を示せなかった野党 だからこそ、各政党は経済成長、歳出削減、増税をいかに組み合わせて、日本経済と財政再建の将来図を描くのかを提示しなければならないはずだ。しかし、各政党の公約はそれに応えるものになっていない。政策として整合性があるのは、ある意味でみんなの党だけだ。アベノミクスを一層推進し、消費増税を凍結して、成長で財政再建を図ると首尾一貫している。日本維新の会は、みんなと同じくアベノミクスをより徹底することを掲げる一方で、消費増税には賛成で、成長重視か、財政再建重視か不明だ。 一方、自民、公明、民主の3党は昨年、消費税増税法を成立させたトリオだけに、消費増税自体を選挙の争点にすることを避けている。共産党、生活の党、社民党、みどりの風は消費増税に反対だが、それに代わる財政再建の道筋がよくわからない。 アベノミクスは壮大な社会実験であるだけに、リスクも大きい。これに対して、地道ではあっても、国民生活に混乱をもたらすリスクが低いと予想される政策の組み合わせが提示できるはずである。だが、現状を見るにつけ、有権者はその選択肢を見出すことができない。今回の参院選がアベノミクスの信認投票となり下がってしまった所以である。 http://diamond.jp/articles/print/38996 |