02. 2013年7月19日 01:24:25
: niiL5nr8dQ
中国「7.5%成長」のツッコミどころ統計局トップが中国版「ニコ生」出演で示唆する一段の減速 2013年7月19日(金) 張 勇祥 7月15日。中国は2013年4〜6月期の実質GDP(国内総生産)伸び率を7.5%と発表した。 地方政府の債務危機やら、短期金利の上昇やら、鉄鋼業など素材産業の惨状が伝えられる中、悪くない数字を「持ってきた」。 辛うじて、つじつまが合わないこともない。GDPの過半を占める資本形成(設備投資や住宅投資を足し合わせたもの)は2割伸び、それだけで1〜6月期の成長率を4.1%押し上げた。6月にマイナスに転じた輸出の成長率への貢献度は0.1%だ。 中国政府が「景気の減速を甘受している」というのは間違ってはいないが、一方で急減速も望んでいない。中央政府の予算による公共投資は10%台後半の高い伸びが続いており、むしろ必死に景気を下支えしている。 それでも、多くの人は感じたのではないか。「本当に、中国経済はそんなに強いの? 鉛筆、舐めてない?」 国家統計局も、そのようなバツの悪さを感じたのだろう。翌16日、統計局トップの馬建堂局長が新華網(新華社のウェブサイト)でインタビューを受けた。この様子は動画で配信された。日本で言えば「ニコニコ生放送」出演といった趣だ。最後にはネットで寄せられた質問にも答え、(中国政府が良くやる手だが)親近感の演出にも腐心したりした。 この番組で馬局長が強調したのは、 35年も高度成長を続けてきたのだから、ある程度の鈍化は当たり前 だけど、当面はしっかり成長できるだろう 統計は真面目に作っているからガタガタ言うな の3点だろう。最後は、実にやんわりとした言い方だったが。 インタビューの結果、もう少し待たないと発表されないようなデータもいくつか出てきた。弱音に近い発言もあったし、中国経済は悪くないと強調するための数値が、実は頭を抱えたくなるような内容だったりもした。なので、ごく断片的にだが、馬局長の発言を読み込んでいって、ツッコミを入れてみたい。 つじつま合わない失業率 「上半期、都市部の就業者は725万人増えた」 「農民工(出稼ぎ労働者)は1億7000万人で、前年同期より444万人増えた」 「毎年700万人の大学卒業生が労働力として加わってくる」 「大・中都市の失業率は5%前後で安定している」 中国が社会の安定を保つために重視する就業問題。少し前まで8%の経済成長を掲げていたのも、経済のパイを広げて仕事を増やす必要に迫られていたためとの見方が有力だ(今は農村からの出稼ぎが減り始めたので、何が何でも8%の成長は必要ない、という解釈にもつながる)。 農民工の数は推計のはずで、結構、ブレも大きいだろうが、仕事の数が足りてないように見える。農民工は昨年の6月末との比較だから、昨年7〜12月に田舎から出てきて仕事を見つけることができた人を差し引く必要があるかもしれない。それでも新しく生まれた就業者(725万人)と大学の卒業生(700万人)がほとんど同じ数字だから、失業者は増えているはずだ。 中国の失業率は調査対象が都市部に限られ、かつ失業保険に加入している都市戸籍を持つ人だけをカウントしている。工場労働者は足りないが、ホワイトカラーやショップ店員は余っているという風情だろう。都市部の可処分所得の伸びは6.5%にとどまっているのだ。大・中都市の失業率だと断っている点も気になるところだ。 「2012年の労働年齢人口(16歳から60歳までの人口)は9億2200万人で、1年前より205万人減った」 「60歳以上の人口は1億9700万人で、人口に占める割合は14.3%だ」 「都市化率(都市に住む人口の割合)は52.6%だが、先進国は軒並み70%を超えている」 人口ネタが続いて恐縮だが、足元の景気や就業環境を説明する際には労働力(ここでは農民工)の増加を挙げていたが、インタビューの中程では、このようなコメントが出てくる。ここから先の人口予想は識者によって差があるが、2020年には労働年齢人口は9億人を割り込み、2025年には、さらに3000万〜5000万人ほども減少する、というのが一般的なイメージだ。 この過程で仕事不足は解消されていくだろうが、人件費が下がるわけではないし、社会保障の問題も深刻になる。解決策がないことはなくて、その1つは諸外国と同様に65歳まで働ける制度を作ることだ。 農民工は都市に定住する者もいれば、歳をとって前ほど稼げなくなると土地のある農村に帰る人も少なくない。農村戸籍の人は都市部にいても何の社会保障も受けられないから、Uターンの動機はより強い。高齢化、社会保障といった問題に手をつけるなら、農村と都市の戸籍が分かれている現状にも、いずれ手を入れざるを得ない。 高齢化が急ピッチで進む中、都市化がこれまでと同じペースで進むかは、正直に言ってよく分からない。馬局長は70%を1つの目安にしており、これは大雑把に言って、あと2億人ほどは都市人口が増えてもおかしくない計算になる。 馬局長は「農村に住む人の支出は年6000元、中小都市なら1万2000元、大都市なら1万8000元」と都市化のメリットを強調していたが、高齢化と都市化、プラスの要因とマイナスの要因のどちらが強く出るかは細かく見ていかないといけないだろう。 「7%まで減速」と予防線 「2010年の『12次5カ年計画の建議』では、成長速度の目標を7%とすると明確に示している 「今年の下期は、努力すれば(通年で7.5%という)成長の目標を達成できる」 10、11日に開かれた米中経済戦略対話。中国の楼継偉財務相が、「2013年のGDP伸び率が7%になる可能性があると発言した」と伝えられた。これが本当なら、下期の成長率は6%台にとどまっても不思議ではないことになる。 では、馬局長による「公式コメント」はどうか。使い分けが堂に入っているが、さりげなく「期待値」を下げようとしている。 12次5カ年計画は、その名の通り5年分の計画で、現行の計画は2011〜15年がその期間だ。いきなり公の場で決まるわけではなく、発言に挙げた様な「建議」を大きな会議で決議するなど、いくつかのステップを踏んでいく。馬局長の発言は、今年はともかく、いずれは7%に近づいていくことも中国当局は織り込み済みだ、という意思表示なのだろう。 いきなり6%台にまで落ち込むかはともかく、下期も成長率は緩やかに減速するというのがメーンシナリオだ。あくまで、中国が発表する数字を信用した上での議論だが。 「6月末、製造業の設備稼働率は78.6%にとどまった」 「2009年、米国のGDP1万ドル当たりの石油消費は1.92トンだが、中国は7.68トンに上る」 「同じく2009年、中国が世界のGDPに占める割合は8.6%だが、石炭消費は62%を占める」 「環境への国民の要求が高まっていることを考えても、過去のような2ケタ成長は不可能だ」 もう1つ傍証を加えると、馬局長は今回のインタビューで、景気の現状がそれほど芳しくないことを示す数字をいくつか挙げている。その1つが設備の稼働率で、中国全体で8割を切っている。在庫もまだ増えているようだから、需要が力強さを欠いたままでは、さらなる生産調整を迫られることになる。馬局長も「生産能力は過大だ」と明言していて、構造調整に伴う景気の下振れ圧力は避けられないと予防線を張っている。中国全体で省エネが進んでいないこと、環境にかけているストレスが非常に強いと述べていることも、この文脈だろう。 ここまで読み進めると、公表するGDP伸び率を7%程度まで下げていきたいという意思が伝わってくる。そして、実態はもう少し弱くても不思議はない。中国は数字を「盛る」ことを厭わないが、とはいえ何らかの説明がつく範囲でしかできないのも確かだ。8%成長を掲げて、実際には2ケタ成長を果たしていた時代は終わったのだ。 最後に。GDP発表に関するインタビューなので仕方ない部分もあるが、シャドーバンキングについては一言も触れなかった。中国の政策担当者の振る舞いを忖度するに、何か方針のようなものが定まっていれば、話していた可能性はかなり高い。まだ、どう着地するかは正式には決めてないのだろう。とすれば、今、中国が軟着陸させようとしている「7%成長シナリオ」(繰り返しになるが、一応、信用するとして)に、大きなリスク要因が残っていることになる。 このコラムについて 記者の眼 日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
ついに世界の半分を超えた中国の石炭消費量
景気低迷で国内石炭産業は淘汰の嵐 2013年7月19日(金) 北村 豊 2013年6月12日、毎年恒例の国際石油資本“BP p.l.c.”(以下「BP」)による「エネルギー統計レポート2013年版(“Statistical Review of World Energy 2013”)」が(以下「レポート」)発表された。これは2012年における世界のエネルギー需給状況をとりまとめたもので、世界の現状を知る上で最も信頼性が高い資料の1つと考えられている。 レポートによれば、2012年における一次エネルギーの全世界の消費量は石油換算で124.8億トンであり、その内訳は、石油41.3億トン(33.1%)、石炭37.3億トン(29.9%)、天然ガス29.9億トン(24.0%)、水力電気8.3億トン(6.7%)、核エネルギー5.6億トン(4.5%)、再生可能エネルギー2.4億トン(1.9%)であった。 このように、一次エネルギーの三役は石油、石炭、天然ガスであり、これらの消費量の合計はエネルギー消費量全体の87%を占める。その消費量の順位は長年にわたって不動で、2012年も取り立てて新しい変化はなかった。 世界の石炭の半分を飲み込む中国 今年のレポートの中で最も注目されたのは、中国の石炭消費量であった。2012年における世界の石炭消費量が石油換算で37.3億トンであるのに対して、中国の石炭消費量は18.73億トンで、その比率は50.2%となり、初めて中国の石炭消費量が世界消費量の半分を超えたのであった<注1>。レポートによれば、中国の一次エネルギーの消費量は石油換算で27.3億トンであり、その内訳は、石油4.8億トン(17.6%)、石炭18.7億トン(68.5%)、天然ガス1.3億トン(4.8%)、水力電気2.0億トン(7.3%)、核エネルギー0.2億トン(0.7%)、再生可能エネルギー0.3億トン(1.1%)であった。 <注1>2011年における中国の石炭消費量は18.4億トンで、世界消費量に占める比率は49.4%であった。 そこで、上記のレポートで中国の石炭について世界における位置付けを確認してみると以下の通りである。 (1)確認埋蔵量:1145億トン(世界第3位、世界総量の13.3%)、ちなみに第1位は米国の2373億トン(同27.6%)、第2位はロシアの1570億トン(同18.2%)。 (2)生産量<石油換算>:18.3億トン(世界第1位、世界総量の47.5%)、ちなみに第2位は米国の5.2億トン(同13.4%)、第3位はオーストラリアの2.4億トン(同6.3%)。なお、生産量は2011年比で米国が7.5%減であるのに対して、中国は3.5%増、オーストラリアは4.2%増となっている。米国の生産量減少は米国内におけるシェールガス開発の影響と思われ、2012年における米国の天然ガス生産量は前年比4.7%増となっている。 (3)消費量<石油換算>:18.7億トン(世界第1位、世界総量の50.2%)、ちなみに第2位は米国の4.4億トン(同11.7%)、第3位はインドの3.0億トン(同8.0%)。上述のように、中国の一次エネルギー消費量に占める石炭の比率は2012年が68.5%であったが、その前年の2011年は69.3%であり、従来から70%前後で推移している。 なお、中国政府“国家統計局”の統計によれば、中国の“原煤(原炭)”生産量は、2011年が35.2億トンで前年比8.7%増、2012年が36.5億トンで前年比3.8%増であった。「原炭」とは、採掘されたままの石炭で、岩石層の混入により品質が不安定であるため、選別処理を行って品質を向上させたうえで商品炭として出荷するが、石炭の生産量は原炭ベースで計算される。 国内炭が輸入炭に価格競争で負ける さて、その生産量と消費量がともに世界第1位である中国の石炭を取り巻く環境に異変が起こっている。2013年7月11日付の全国紙「第一財経日報」は、「3億トンの輸入石炭が衝撃を与えた真相:国際輸送より高い国内運賃」という表題の記事を掲載した。その概要は以下の通り。 【1】今年の夏に“中煤能源”と“中国神華”という中国石炭業界の二大巨頭が巻き起こした新たな値下げの潮流はすでに業界全体に蔓延し、同業他社は応戦を強いられている。石炭価格は値下げがさらなる値下げを呼び、目下のところ下げ止まる兆しすら見えない。この背景にあるのは、国産石炭(以下「国産炭」)の需要が容易に好転しないだけでなく、輸入石炭(以下「輸入炭」)の衝撃も見くびってはならない。 【2】中国の2012年の輸入炭は史上最高の2.9億トンで、35億トンを超す国産炭の生産量と比べて規模は大きなものではなかったが、それが2012年から始まった国内市場をかき回し始めた。輸入炭は数量だけみれば大局に影響を与えるものではなかったが、その価格の安さが軽視できない「てこの効果」を生み、国内市場に衝撃を与えた。 【3】輸入炭の65%は沿海部の発電所に供給されている。2012年には華東や東南の沿海地区で、輸入炭が石炭消費量に占める比率は25%前後であったが、今年(2013年)の第1四半期は32%にまで達した。どうして輸入炭が国産炭の生存空間を圧迫することが可能なのか。それは輸入炭の最終コストが国産炭のコストよりも低いことにある。たとえ17%の“増値税(付加価値税)”が課せられても、輸入炭の価格が依然として国産炭より安いのは、主として輸入税、輸送コストおよび生産コストの低さに起因している。 【4】“中国海関(税関)総署”のデータによれば、中国は2011年に1.8億トンの石炭を輸入し、初めて日本を抜いて世界一の石炭輸入国となった。2012年には2.9億トンの石炭を輸入し、世界一の座を維持した。2013年に入ってもこの趨勢に変化はなく、1〜6月累計の石炭輸入量は1.58億トンで、前年同期比13.3%増となった。今年の1〜5月における中国が輸入した石炭の供給源である上位4カ国は、オーストラリア(3343万トン)、インドネシア(3109万トン)、ロシア(1110万トン)およびベトナム(687万トン)であった。なお、2013年1〜6月累計の中国による石炭輸出量は408万トンであった。1〜6月の石炭輸入に要した金額は146億元(約2336億円)であるのに対して、石炭輸出で稼いだ金額は6億元(約96億円)で、同期間における石炭の貿易収支は140億元のマイナスであった。 【5】2008年の世界金融危機以来、西側諸国および日本などの先進国の経済が程度は異なるものの下降に転じた。この影響を受けて、2009年の国際市場における石炭の需要は弱まり、石炭が供給過剰となったことから、石炭の海上運賃も大幅に下落した。2009年6月を例にとれば、「動力炭」の国内外値差はトン当たり約90元(約1450円)であり、「コークス炭」の国内外値差はトン当たり約320元(約5100円)であった。 【6】今日に至るも輸入炭の価格は依然として優勢を保っており、7月10日時点で河北省秦皇島港における環渤海地区の「動力炭(発熱量5500キロカロリー)」の平均価格はトン当たり592元(約9500円)であった。これに対して、同じ発熱量5500キロカロリーのオーストラリア炭は、ニューキャッスル港から船積みして中国の広州港渡しの価格が81ドル(約8100円)であった。これに17%の付加価値税を加えれば95ドル(約9500円)になり、上記の国産石炭「動力炭」の価格と同じになる。しかし、秦皇島から広州港まで「動力炭」を海上輸送するとなれば、トン当たり33.3元(約533円)の運賃が必要となり、その分だけ国産炭の価格は高くなる。 【7】さらに憂うることは、中国の炭鉱に比べて海外の炭鉱の機械化率の高さ、採掘効率の高さ、人件費および管理費が全て中国国内より優位にあることである。オーストラリアの炭鉱では坑口にシャワー室すらなく、労働者は退勤したら服も着替えずに車を運転して帰宅する。また、どこの炭鉱も管理員は少ししかおらず、基本的には事務棟もなく、中国の施設と比べると、その差は歴然である。このように比較すると、中国国内の石炭生産コストは国外、とりわけ先進国とは比べようがないほどに高い。中国国内の石炭生産コストは急速に上昇しており、人口ボーナスの消失にともない、人件費の上昇はもはや止めようがなくなっている。英国のコンサルタント企業「ウッドマッケンジー(Wood Mackenzie)」が2012年に発表した報告によれば、中国の生産コストは世界のどこの国・地域に比べても上昇が速く、中国の石炭領域における労働力コストは2011年に13%上昇したが、オーストラリアの上昇率は8%であった。 【8】総じて言えるのは、中国国内の石炭生産コストが高過ぎることである。“中国神華”以外の同業他社の大部分は小規模炭坑で採掘コストが非常に高く、広州渡しの価格ではどうしてもオーストラリアやインドネシアからの輸入炭よりも高くなる。さらに、人民元の対米ドルレートが徐々に高くなるにつれて、国内炭の価格競争力はさらに低下することが予想される。 石炭依存の中国で在庫が積み上がっている 2012年9月17日に山西省太原市で開催された石炭関連のフォーラムで、“中国煤炭(石炭)学界”副会長兼秘書長の“姜智敏”は「科学技術の進歩に依拠して、石炭工業の科学発展を推進しよう」と題する講演を行ったが、姜智敏は2002〜2011年の10年間における中国の石炭産業の発展について次のように述べている。 (1)全国の石炭生産量は、2002年の13.8億トンから2011年の35.2億トンまで増大し、10年間で21.4億トン増えて、2.55倍となった。 (2)一定規模以上<注2>の石炭企業は、2002年に2812社だったが、2011年には9016社となり、10年間で6204社増え、3.2倍となった。 <注2>「一定規模以上」とは、2010年末までは年間営業収入が500万元以上を指したが、2011年1月に改定されて2000万元以上となった。 (3)その他の数字: 【企業総資産】2002年:4815億元 → 2011年:4兆282億元 (8.4倍) 【工業総生産】2002年:1981億元 → 2011年:2兆2109億元 (11.2倍) 【営業収入】 2002年:1961億元 → 2011年:3兆2594億元 (16.6倍) 【利益】 2002年:84億元 → 2011年:4343億元 (51.7倍) 2011年までの10年間における石炭産業の発展は輝かしいものであったが、2012年になると中国国内の景気低迷を受けて状況は一変した。国内総生産(GDP)の実質成長率は前年(2011年)の9.3%から7.8%へと大きく縮小したが、景気低迷による電力需要の減少や製造業の不振は石炭産業にも大きな影を投げかけ、全国各地で石炭の在庫量が史上最高を記録し、石炭価格が下落を続けた。 2010年を例に取ると、中国の石炭消費量は32.2億トンだが、そのうち49.3%に当たる15.9億トンは発電用として使われ、中国の発電量の76%は石炭火力発電によって占められていた。また、石炭は化学原料の42%を占め、民用エネルギーの30%を占めていた。ところが、これを2009年の日本の例で見ると、石炭火力発電は発電量全体の18%に過ぎず、化学原料用の石炭は皆無に近く、民用エネルギー用の石炭はゼロであった。それほどまでに石炭に依存している中国で石炭在庫が積み上がっているという事実は、景気低迷を象徴している以外の何物でもなく、その現象は2013年7月初旬の現在も続いているのである。 2010年時点における中国と米国の石炭産業を比較した資料<注3>によれば、両国間には下表のような相違があるという。 <注3>2012年4月12日付で「中国出口信用保険公司」のサイトに掲載された「中国石炭工業の数字的解読」という論文、ただし執筆者名は不詳。 2010年における中国・米国の石炭産業比較 原炭生産量 炭坑数 就業者数 中国 32.4億トン 11,000カ所 650万人 米国 11.5億トン 1,400カ所 13.5万人 苦境に陥る石炭産業 中・米両国の原炭生産量の差は約2.8倍であるから、米国の就業者数を単純に2.8倍してみると37.8万人となる。炭坑数の違いを無視して、米国と同じ効率で原炭を採掘するならば、中国の就業者数は37.8万人で済むはずだが、実際はその17.2倍の650万人が働いているのが現実である。中国の石炭産業が苦境に陥れば、650万人の就業者の生活に問題が発生する。2013年5月の日本全体の就業者数は6340万人であるから、その約10%に相当する中国の石炭産業就業者数は膨大な人数であるが、現時点で彼らはすでに苦境の中にある。 2013年1月29日付の“国際煤炭網(ネット)”は、「2012年に一定規模以上の石炭企業は1500社減って6200社になった」と報じ、石炭企業の合併再編によって石炭産業の集中度を継続的に高めていると伝えた。石炭企業の大手8社による生産量の合計は全体の30.2%となり前年比で3.2%増大したという。こうした合理化によって採掘効率は上昇し、炭坑事故率は低下するだろうが、多数の就業者が切り捨てられることは想像に難くない。 一次エネルギー消費の70%前後を石炭が占める中国にとって、その比率を引き下げて、一次エネルギー消費構造の抜本的改善を図ることは容易なことではない。たとえ、石炭火力発電を主因とする大気汚染が広く国内を覆って国民の健康を害しようとも、ひたすら経済成長だけを追求してきた経済至上主義の看板を掛け替えることは一朝一夕にできることではないのである。それでは、中国に取って最善の道は何なのか。 2012年に「中国の石炭消費量が世界消費量の半分を超えた」という事実を踏まえて、その隣国である我が国は、この命題を中国とともに考える必要に迫られている。このまま放置すれば、中国の大気汚染は越境して我が国にも多大な影響を与えかねないからだが、すでに多数の中国人の呼吸器系疾患の患者が日本の病院へ押しかけて来ていることも頭の片隅に置いておくべきだろう。 このコラムについて 世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」 日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。
【第130回】 2013年7月19日 姫田小夏 [ジャーナリスト] 知られざる中国シャドーバンキング問題の一側面 20万社を数える鉄鋼専門商社に連鎖破綻リスク浮上 中国経済の減速で、好況下では明るみに出ることがなかった不法ビジネスが、徐々に表面化している。
それは多額の利ざやが望める投機的ビジネスにおいて顕著であり、その1つの典型例が不動産売買である。不完全な法律、法規、曖昧な権利関係を巧みに利用し、巨額のマネーがこの市場に入り込んだ。 デベロッパーの資金調達のみならず、中小企業のセカンドビジネス、個人の資金を集めてのマネーゲーム、こうした不動産投資に資金を提供してきたのは、いわゆる「地下金融」といわれる「影の銀行」の存在である。 不動産だけではない。「影の銀行」は鉄鋼の世界をも支配していた。中国では昨年来、鉄鋼業界の連鎖破綻が取り沙汰されている。 20万社を数える鉄鋼専門商社 福建人が独占し特殊な業界を形成 上海の宝山鋼鉄(かつての宝山製鉄所)につながる街道沿いに、鉄鋼製品を扱う商社がある。筆者は図書館に通うため、週に数回、この店の前を通る。うす汚れたガラス窓からは室内の様子が丸見えだが、薄暗い部屋の奥に人の気配はない。エントランスも固く施錠されたままだ。 「景気悪そうだな」と思っていた矢先、引っ越しが始まった。今年3月のある日、店内は珍しくざわついていて、部屋の中から事務機器やサンプルを持ち出す姿が見られた。そしてこの鋼材商社は、すっかりもぬけの殻となった。 新聞に「不良債権」という見出しが目立つようになったのもこの春頃からだった。4月、中国銀行業監督管理委員会(銀監会、日本の金融庁に相当)が「2013年経済金融形勢通報分析会」なる会議を開催したという記事は「ここ数年の銀行融資の増加は、数年後には違約という形で表面化するだろう。ある一部の地区と業界において、すでに不良債権は顕在化している。危ないのは鉄鋼商社、造船、太陽電池業界だ」と静かに警告していた。 あの街道沿いの商社は、移転ではなく倒産だったのだ。その原因は、資金繰りの悪化であり、昨今、上海の空気をよりいっそう重くしているのは、この鉄鋼専門商社ともいえる。 鉄鋼専門商社は、中国全土に20万社はあるだろうと言われている。それが集中しているのは上海だ。上海には中国最大の鉄鋼所である宝山鋼鉄があるが、そこからの仕事を独占的に請け負う専門商社が、特殊な業界を形成している。 経営者は福建省出身者で固められ、上海人はおろか外国資本もこのコミュニティには入ることができない。地元上海人は「彼らは贈賄で成長し、地元上海から産業を奪った闇の集団」と白い眼で見るが、取引金額は大規模であり、実際、上海の好不況を占う経済指標にもなっている。 国有企業や上場企業が「又貸し」 中小の鉄鋼専門商社の資金調達ルート 振り返れば、2008年、中央政府が4兆元の財政出動を行ったことで、中国の不動産市場は息を吹き返した。このとき、鉄鋼専門商社は鋼材を買い占め、値上がりを待った。つい数年前まで、銀行の得意客と言えばこの鉄鋼専門商社だったのもこうした経緯からであり、融資総額の50%がこうした鉄鋼専門商社向けという支店もあると聞く。 その一方で、国有企業や上場企業が「第二の銀行」と化し、鉄鋼専門商社に貸し込むという現象が見られるようになる。彼らは国有、あるいは大企業であるという信用力で銀行から借り入れを起こし、商業銀行には振り向いてもらえない中小の鉄鋼専門商社に貸し付けた。 中国ではこうした行為を俗に「托盘」(托盤、お盆・給仕用トレーの意)と呼んでいる。市場が下落しないように、あるいは資金不足などを補うなどを理由に、資金の流れをスムーズにさせるために「支える」ことを意味する。 この「托盘」行為は不法行為とされるものの、実は鉄鋼業界に限られた話ではない。中国政府系の大手商社幹部の唐逸さん(仮名)は次のように語る。 「うちのグループ会社も、ノンバンクビジネスをやっている。電話一本で数十億元を借り入れ、お金を必要としている中小企業に融資していますが、これも托盘と言えるでしょう」 銀行からは6%で借り入れ、それを16〜22%で貸し付ける。利幅は10%超、「本業よりも儲かる」(同)のだと言う。 これは借り手の中小企業にとっても都合がいい、とコメントする中国人もいる。 「銀行のような厳しい審査はしませんから。担当の部長に挨拶に行けば、それで融資が下りるんです」 これがいわゆる「シャドーバンキング」の一面である。 倉庫の中に在庫はあるのか? 多額の融資を引き出す詐欺的手口 好景気の時は、借りる側も貸す側も、最後には「返済」という形でつじつまを合わせることができた。しかし、鉄鋼製品が売れなくなった2012年以降、鉄鋼業界は問題が続出し、手の施しようのない危機的状態に陥っている。 そのひとつが、抵当権をめぐる問題である。貸出に際して債権者は鋼材そのものに抵当権を設定するのだが、そもそも「倉庫の中に在庫があるのかどうか」が問題となったのである。 鉄鋼製品をめぐるトレードでは、国有企業が中小の鉄鋼専門商社に資金を貸し出す際、担保を設定した動産を、借り手のものでも、貸し手のものでもない「第三の倉庫」に預けることになっている。 ところが、借り手は「もっと借りたい」ばかりに、「第三の倉庫」の管理人をカネで買収し、在庫証明の数字を水増しさせる。極端な話、500トンしかないものを1000トンと書かせて、さらなる融資を引き出す。まさに詐欺的行為だ。 また、この表面上は「第三者が管理する」倉庫も、蓋を開けてみれば、実は借り手当事者(トレーダー)の倉庫だったというケースもある。自分の倉庫であることがバレないように、別の人物の名義を使って倉庫を作るのである。融資元である国有企業の在庫管理を遠ざけようという目論見だ。その結果、複数の抵当権が設定された「同一の鋼材の山」が多数出現することになる。 さて、国有企業も「騙されっぱなし」というわけではない。彼らもとっくに鉄鋼専門商社が「怪しい」ことに気づいている。だが、簡単にこの商売(高利貸し)をやめるわけにはいかない。そこにはこんな理由があった。 「国有企業にとっての高利貸し業は、“寝ながら稼げる”実においしい商売。そう簡単には手放せない心理がある。もっとも、この心理はもうひとつの原因から来ているのです」(前出の唐さん) 彼によれば、「一目置かれる国有企業といえども、“国有稼業”も楽じゃない」と言うのだ。というのも、国有企業は国務院の特設直属機構、国有資産委員会にしっかりと管理され、毎年の目標達成を強制される。クリアしなければクビが飛ぶ。「そのためには儲かる商売でなければならないのです」(同)。 儲かる商売とは、すなわち「高利貸し」を意味する。「利益を叩き出すためにはそれが違法かどうかは問わない。逆に目標を達成すればボーナスがドカンと出る。そのため、まずいとはわかっていても、この高利貸し業から手を引くことはできないのです」と内幕を語る。 銀行も「鋼材」が不良債権化 想像以上に根が深いシャドーバンキング問題 08年の財政出動で一時的に潤った鋼材市場だが、2011年中頃を境に様相が一変する。背景には欧州を中心とした外需の低迷、国内はマクロ調整策による不動産市場の減速などの要因がある。行き場を失った鉄鋼製品の在庫は、2012年には史上最高の1億トンにも積み上がった。 この時期、中国の多くの地区で高利貸し業が破綻した。今年5月の当コラムで取り上げたとおり、中国では温州など一部の地域で不動産価格が頭打ちとなり、高利貸しから借りた資金の返済に四苦八苦する企業が続出した(第126回「温州経済の不動産バブルは破綻 中国全土に飛び火する可能性も」を参照)。 往生したのは鉄鋼専門商社も同じだった。このとき鋼材価格は下落する一方で、商社が商売をまとめても、その価格は工場出荷額を大きく割り込んだものとなっていた。資金繰りは悪化、2012年秋には、宝山でも裁判所や銀行による差し押さえの紙が貼られる鋼材の在庫の山が出現した。 不良債権問題を取り上げる記事も増えた。地元メディアは民生銀行をクローズアップし、その杜撰な融資を次のように指摘した。 「民生銀行のすべての支店が行った鉄鋼専門商社に対する貸付は300億元、そのうち168億元が上海地区に集中する。訴訟案件も増えている。鉄鋼専門商社に対する銀行の訴訟案件は今年3月18日からの1ヵ月で209件にも上り、民生銀行はそのうち20の案件を抱えている」 中国ではここに来て、「金融改革」という言葉がよりいっそう強調されるようになった。問題の所在は、「シャドーバンキング」という「政府の監督の目が届かないのをいいことに、銀行経営の枠外で、カネを集め貸し付ける」という“悪しき慣習”にある。 だが、アンダーグラウンドなカネの動きを取り締まるだけでは解決には至らない。「シャドーバンキング撲滅」と言ったところで、中小企業への融資の道が確立されない限りは、それはいたちごっこで終わってしまうためだ。 しかし「リスクが大きい」といわれる中小企業に対して、誰がカネを貸すのか。しかも、中国の場合、相手は詐欺行為も厭わない“不法分子”である。上海には「こうした不法分子を生み出す社会構造にも問題がある」と断じる金融専門家もいる。 金融改革は必要ではある。だが、あまりの根の深さに、再び“棚上げ”にされてしまうことは想像するに固くない。 |