http://www.asyura2.com/13/hasan81/msg/209.html
Tweet |
日本はまだ入口に入ったにすぎない(日銀の黒田総裁、撮影:尾形 文繁)
来年は1ドル=110円前後になっても驚かない FRBと日銀の「出入口戦略」が、円安を促す
http://toyokeizai.net/articles/-/15664
2013年07月18日 高島 修 :シティグループ証券チーフFXストラテジスト :東洋経済オンライン
6月11日の定例会見の際、日銀の黒田東彦総裁は、FRB(米国連邦準備制度理事会)の出口戦略について問われ、「日本の場合、まだ入口に入ったばかりである」と答えた。この一言が持つ意義は重い。そう、FRBは出口に向かい、日銀は入口に入った。いや、日銀が入口に入ったからこそ、FRBが出口から出られるのである。FRBと日銀は一体となって出入口戦略を遂行する。これは円安示唆的なポリシーミックスである。
■新興国ブームから、北米ブームへ
過去数カ月、新興国市場が動揺している。筆者が思うに、その端緒は今春、3月にNYダウが、4月にはS&P500指数が史上最高値を更新したことである。2010年代後半はエネルギー革命を核とする北米ブームを控えている。これは1990年代後半のニューエコノミー論に相当するような、世界の一大投資テーマとなるだろう。
一方で、いま振り返ると、1990年代後半は世界的に危機が多発した時期でもある。94年のメキシコ危機に始まり、97年はアジア通貨危機。98年には日本の金融危機、ロシア危機、LTCMショックと続き、それが99年のブラジル危機に発展。変動相場制に移行したレアルの下落は01年のアルゼンチン危機の遠因になった。
ITブームとFRBの高金利政策が世界から投資資金を米国に引き寄せ、それが通貨制度や金融システムが脆弱だった国からの資本逃避を招いたのだ。99年に誕生したユーロ圏から米国への投資が急増したのも同じ構図で理解できる。アメリカの幸せは世界の幸せとは限らない。
それは2010年代後半にも当てはまろう。中国やブラジルなど新興国時代を象徴する国の株価が冴えない中で、今春、米株価が史上最高値を更新したのはその最初の前兆だったのではないか。
奇しくも、ほぼ時を同じくする今年4月、英米系格付け会社フィッチ・レーティングスが中国の格下げを発表。シャドーバンキング問題の深刻さを理由として挙げた。リーマン危機後、先進国がデレバレッジ時代に突入する中、中国などの新興国はレバレッジ拡大期に入った。だが、フィッチはその中国でのレバレッジ拡大が行きすぎたと警告したのだ。中国に限った話ではなかろうが、新興国のレバレッジ拡大が逆回転する(債務圧縮を強要される)時期に転じたのだろう。
米国株の史上最高値更新と中国の格下げ。今春に起こったこの2つのエピソードは、新興国ブームが北米ブームに切り替わっていく象徴的な出来事だったのではないかと思う。
■日銀の量的質的金融緩和の効果
さて、ここで浮上するのが、なぜ米国の株価は「今春に」史上最高値を更新したのか、という疑問である。筆者はその答えは黒田日銀の誕生であると思う。今春と言えば、2月下旬に黒田総裁が決定的となり、4月上旬には量的質的金融緩和の導入に至った時期である。目下、円債市場などの混乱はあるものの、黒田日銀の金融緩和の狙いが円市場金利の低下と本邦投資家の海外投資を促し、為替レートを円安に誘導すること。その結果、円高デフレの悪循環を断ち切ることにあるのは明らかだった。
4月上旬に量的質的金融緩和が導入された際、筆者のところには海外投資家から問い合せが相次いだ。彼らはそれをバズーカ緩和と呼び、日銀が年60〜70兆円ペースで供給することを決めたベースマネーがそのまま海外に流出するかのような幻想を抱いていた。しかも、近年存在感を高めた個人投資家のイメージが強いのだろう、ジャパンマネーと言えば、高金利を求めて新興国に殺到するに違いないと思い込んでいたようだった。
だが、現在、日本国債の主な保有者は銀行や生損保、年金などの機関投資家である。リスクテイクに積極的な個人投資家とは異なり、日本の機関投資家は世界でも最も保守的な投資家層の一つだ。首尾よくポートフォリオ・リバランスが生じた場合も、投資資金は新興国へ流入するのではなく、まずは円債から米国債などの主要国債券市場にシフトすると考えられる。
その際、当初は為替ヘッジ付きで、円安効果は乏しいかもしれない。だが、そこで可能になるのが、FRBによる出口戦略である。FRBの資産購入額の減額、更には将来的に資産売却が行われる際に、日銀の緩和を受け、日本から流出するジャパンマネーが米債券市場を支える。その結果、金融引き締めに伴う米市場金利の急激な上昇を押さえ込むことが期待されるからだ。
実は、同じことは、2004年からのFRBの引き締め局面でも見られた。その頃、拡大する世界的な国際収支の不均衡を背景に、アジアを始めとした経常黒字国からの外貨準備マネーが米債券市場に流入。米市場金利の上昇を押え込んだ。当時、FRB理事だったバーナンキ議長はこれを「世界的な貯蓄余剰論」と呼んだ。ただ、今回のFRBの利上げ局面では、むしろ自国通貨の下落に伴って、新興国は通貨防衛のための米ドル売り介入(米国債売却)さえ行う懸念がある。そこで期待されるのがジャパンマネー、というわけだ。
■来年は再びドル高、1ドル=110円前後に
このように考えると、黒田日銀の金融緩和とそれに伴う円安を米政府・財務省が黙認しているのもうなずける。今春、黒田日銀が誕生する中で、NY株が史上最高値を更新したのは、市場がFRBの出口戦略の成功を確信した瞬間だったといっても良い。
ところが、一つ誤算があった。日銀の大胆すぎる金融緩和を受け、予想以上にリスク選好が強まり、円金利が低下するどころかむしろ上昇してしまったことだ。こうなると、本邦投資家は米債市場に流出するどころか、国内に滞留してしまう。こうした中でFRBが出口戦略を強行すると、米市場金利の急上昇につながりかねず、米国、ひいては世界の金融経済を不安定化させるリスクが高まる。円金利上昇・高止まりが明確になった5月ごろから米株相場の上値が重くなり、新興国市場が混乱に陥ったのも頷ける。
とはいえ、FRBの量的緩和の時にも、米市場金利は当初上昇した後、2、3カ月後に低下に転じた。経験者のFRBは円金利が今後同じような経路を辿ると予期しているのかもしれない。黒田総裁も指摘する通り、資産買入れの累積効果でリスクプレミアムが縮小してくるのはこれからだろう。円金利が低下に転じ、機関投資家を中心にジャパンマネーが米国債市場に流出しやすくなるのであれば、日米両中銀の当初の狙い通りに、日銀の大胆な入口戦略がFRBのスムーズな出口戦略を可能ならしめる。
ドル円は暫くは1ドル=95〜100円を中心に方向感を欠こうが、来年は改めてドル高円安基調に転じるというのが、中長期的な基本シナリオになる。その際、1ドル=110円前後まで上昇しても筆者は驚かない。一方、新興国市場は、現在よりは落ち着きを取り戻すだろうが、FRBの出口戦略が続く間は、長期的な上昇トレンドに復帰するのは難しいかもしれない。
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。