03. 2013年7月18日 01:46:34
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パラダイムシフトを見極める株価のライン 日銀短観に見る景気動向 今回の日銀短観は大きく改善しました。大企業製造業DIは、前回の−8から+4に、さらに先行きでは+10と足元から6ポイントの改善が見込まれています。また、大企業非製造業では、足元、先行きともに+12と好調を保っています。 さらに年度の想定為替レートを見ると、3月調査の85円台から91円台に変わってきています。これは、企業が13年度3月の業績見通しを1ドル=85円で立てていたものが、91円に変更し、業績に対して約6円上ぶれする可能性があるということです。なおかつ現在為替相場はそれよりもさらに円安水準で推移しているので、その傾向が続いて1ドル=100円台を保てれば、更なる上ぶれ余地が残されていることになります。こうしたことで、外国人も日本株に対して関心が高まっていると言えます。
この想定為替レートを業種別に見てみます。今回一番円安に見ているのが木材・木製品で96.37円です。一方、業務用機械は87円台と非常に厳しく見ています。実際に円安が進めば、この業種に関しては他業種よりも利益が膨らむわけです。もちろん実際の売上が伸びないといけませんが、為替によって業績が上振れする可能性があるので注目です。その他、鉄鋼、窯業・土石、電気機械、自動車も厳しく見ていて、90円台を想定して業績見通しを出しています。個別企業のレートを調べる必要がありますが、業種によって差があるので、どこが一番恩恵を受けるのか考えるのに役立つと思います。 続いて、企業の設備投資については、これまで前年度比−2%でしたが、今回は+5.5%へと改善し、年度が変わって大企業を中心に景況感がよくなってきていることが伺えます。これが改善されないと給料は上がらないので、景気に大きく影響を与えることは明らかです。 しかし中小企業をみると、まだDI、設備投資ともにマイナス圏です。中小企業製造業DIは前回の−19から−14に改善しており、先行きは改善が見込まれているものの、依然としてプラスにはなっていない状況です。設備投資も前回よりは改善するものの、マイナス圏に留まっています。 グラフで確認すると、大企業も中小企業も右肩上がりになっていることがわかります。また、どちらも改善が目立つのは非製造業で、製造業よりもグラフは上になっています。非製造業は国内の需要が多いので、景況感を見ますと国内の方が良いことが分かります。製造業は海外でものを売る割合が多く、これまでの円高の影響が響いていると思われます。過去のグラフを見ると製造業の方が上になっている時期もあります。今後製造業が非製造業を上回る形になれば、給料も上昇してくる可能性が高まるでしょう。 さらに、実績と予測の差を表したグラフで、上振れ、下振れの度合いを確認してみると、大企業は製造業、非製造業ともに上振れており、上振れ幅も拡大しています。中小企業は製造業がほぼ変わらず、非製造業は上振れしているものの、どちらも前回調査よりも伸びは縮小しています。次回9月調査ではどうなるか注目です。 その他の国内の景気を示す経済指標も併せて分析すると、実感はまだ伴っていないものの、全体的には景気は改善傾向であり、給料にも反映されるような企業景況感の改善が見えてきていると言えます。 パラダイムシフトを見極める株価のラインとは? 日経平均株価の日足チャートを見ると、5月23日の高値から6月13日の安値までの半値戻し、1万4179円23銭を既に上回りました。今後は61.8%戻しの1万4595円38銭まで戻れれば、まだ高値をうかがうチャンスがあると判断することができます。週足チャートを見ると、13週移動平均線を上回って推移していることが確認でき、この状態で行けば次の高値に近づく可能性が出てきていると言えます。 日足チャートで、株価を波に例えたエリオット波動を使って分析してみます。大きく下げた波をA波、戻した波をB波、もしそこからまた下落した場合、その波をC波と呼びます。調整が始まると、あっさり下げ止まる場合もありますが、3つのN字型の波を作ってから下げ止まるということも考えられるのです。その場合、起点になっているのは、昨年11月の党首討論当時の安値であり、そこから高値までの半値押しである1万2281円、さらには、61.8%下げた1万1416円が目処になってきます。そうなった場合は、期待だけで上昇し、その期待がはげ落ち、4月の日銀金融政策決定会合の時の水準を下回っているわけなので、金融緩和も効かず、円高にもなっている可能性がありますが、その時に下げ止まる水準として憶えておくと良いと思います。 最後に、月足で日経平均を見てみます。高値を結ぶと、実は長期の下降トレンドの中にあることが分かります。ITバブルの高値、リーマンショック前の高値、二つを結んだ線の延長上に今回の高値があるのです。日本の株価は、過去、ITバブルで期待が高まったとき、小泉構造改革で期待が高まったときに高値を付け、その後、実態が伴わずに下げていったのです。また、最近の波動を見ると、高値は切り上がり、安値は切り下がるという拡大波動を形成していますが、その上限を超えたところから株価は押し返され、また内側に入ってきているのです。つまり、テクニカルで見ると、依然として長期の下降トレンドの中にあるということなのです。 高値を結んだラインを抜けて上昇すれば、本当に日本のパラダイムシフトが起こり、下降トレンドから脱し、1万8000円や2万0000円が現実に視野に入ってくるということなのです。高値のラインを抜けるかどうかが重要なわけですが、このラインは下降しているので、もし株価が横ばいを保てれば、時間が経つほど上抜けしやすくなると言えます。時間をかけて待つのか、本当の意味で日本の改革が始まり、名実共にパラダイムシフトを遂げて株価が上抜けていくのか、今、重要な局面にあることを頭に入れて投資を考えるべきだと思います。
講師紹介 ビジネス・ブレークスルー大学 資産形成力養成講座 講師 株式会社インベストラスト 代表取締役 IFTA国際検定テクニカルアナリスト 福永 博之 http://www.ohmae.ac.jp/ex/asset/column/20130717_130057.html
JBpress>日本再生>日本経済の幻想と真実 「超55年体制」に回帰する政治 何が政治の「失われた20年」をもたらしたのか 2013年07月18日(Thu) 池田 信夫 1993年6月18日、宮澤内閣の不信任案が可決され、国会が解散された。保守合同から38年間続いてきた「55年体制」の終わった瞬間だった。私はその光景を、NHKの中継車の中で見ていた。歴史の歯車が大きく回る音を聞いたような気がした。 それから20年、紆余曲折を経た末に、日本の政治は55年体制に戻ろうとしている。いや、あのときはまだ社会党のいる「1.5大政党体制」だったが、今度の選挙では、自民・公明が両院で過半数になり、民主が10議席台のほかはみんな1桁になりそうだ。こうなると審議拒否などの国対政治も利かない自民党独裁の「超55年体制」だ。なぜこんなことになったのだろうか。 小沢一郎氏とともに迷走した政治 その大きな責任は小沢一郎氏にある。1993年に自民党を割って新生党をつくったときの彼は、著書『日本改造計画』で中曽根内閣以来の「小さな政府」路線を継承し、英米でサッチャーやレーガンの進めていた「保守革命」を日本でも進める方針を掲げた。 政府や企業に頼らないで「自己責任」で生きるという彼の政治哲学は、自民党政権の崩壊後の日本のビジョンとして鮮烈な印象を与えた。『日本改造計画』には所得税を下げて消費税を10%に引き上げると書いてあったのだ。 そして彼の狙い通り自民党政権を倒して細川内閣ができたところまでは、彼の政治手腕は高く評価されたが、「国民福祉税」が党内の反対で失敗したあたりから挫折が始まった。 小沢氏の最大の失敗は、94年に細川内閣が崩壊したあと、社会党を追い出し、自民党の右派と連携して政界再編をしようとして、野党に転落したことだろう。これが結果的には自民党と社会党の野合した奇怪な政権を生み出し、政治の混迷が始まった。 その後の新進党でも創価学会と分裂し、組織力のない野党を辛うじて支えてきた公明党を自民党の側に追いやったため、新進党が分裂したあとの野党は自民党に対抗する組織を持てなかった。公明党は、結果的には少数与党になった自民党を補完し、「擬似55年体制」を維持する勢力になった。 それでも自由党の頃までは、かつての「新自由主義」路線を維持する政策的な一貫性があったが、1998年に自民党と連立して失敗してからは少数党に転落し、政策も迷走し始めた。多数派工作のために民主党と連携し、かつて否定した社民路線に転換したのだ。 当時の民主党は組織力も資金力もなかったので、小沢氏の政治力に期待して自由党と合併したが、党内では小沢氏は「左派」に転じ、子ども手当などのバラマキ福祉を打ち出した。これは民主党のマニフェストの目玉になったので、選挙に勝つことが最優先という小沢氏なりの考え方だったのかもしれない。 しかし2009年に念願の政権交代を果たす直前に、小沢氏が検察の捜査で代表を辞任せざるをえなくなり、鳩山由紀夫氏をダミーとして使おうとしたことが失敗だった。鳩山・菅と続いた政権の迷走によって民主党の信用は失墜し、ついに20年前よりひどい状態に戻ろうとしている。 失われた成長という合意 こう振り返ってみると、日本の政治の「失われた20年」は、実に不幸な偶然のめぐり合わせだった。その最大の原因は小沢一郎氏の判断の誤りだが、彼の挫折の背景には、国民の合意が失われたという時代の変化がある。 終戦直後から田中内閣の頃までは、豊かな社会を築いてその果実を多くの人に分配するという合意があった。このため自民党政権にも求心力があり、よくも悪くも野党の存在は問題にならなかった。企業でもそうだが、業績が順調なときは経営者は誰でも務まるのだ。 しかし以前の記事(「急速な高齢化で日本は『逆高度成長』に」)でも紹介したように、70年代から日本の成長率は下方屈折し、80年代の資産インフレは実態から大きく乖離したバブルだった。 1870〜2003年の日・英・米の1人あたりGDPの推移(縦軸は対数目盛) これが崩壊した90年代は、いわば成熟した普通の先進国になる「正常化」だったのだが、日本はそれにふさわしい政治の転換ができなかった。ちょっと景気が悪くなると「景気対策」に巨額の予算を投じ、財政出動が限界に達すると、今度は「デフレ脱却」と称して日銀がカネを配り始めた。
日本の成長率が低下している最大の原因は、生産年齢人口が毎年0.7%減っているからで、財政・金融政策で是正することはできない。日本には成熟経済にふさわしい政府支出の縮小と負担の適正化が必要なのだ。 それは80年代以降、多くの先進国が経験したことだが、日本だけは一貫して財政支出を増やし続け、政府債務も中央銀行の債務も(GDP比で)主要国で最大だ。 高度成長の夢から覚めない国民 明日は今日より豊かで、雇用が維持されて幸せな家庭が守れる時代は、残念ながら20年前に終わったのだ。それなのに昔と同じ成長を求めようとするから、政府や日銀に大きな負担がかかり、結果的に民間の経済活動が停滞する。 そして負担を求める政治家は嫌われ、小沢氏のようにバラマキに回帰してしまう。安倍晋三首相も「今後10年で1人あたり40%」という成長率の目標を掲げている。政治家を甘やかし、政治を劣化させているのは、いつまでも高度成長の夢から覚めない国民なのだ。 55年体制は、経済が順風満帆で、政治家がどんな舵取りをしても誰もが豊かになった時代だった。圧倒的多数の与党が野党の要求を聞いて国民に富を分配するだけで政治は務まった。 しかし今その時代に戻ることは、風のない海で航海をするに等しい。全員の意見がまとまるまで何もしない安倍政権は、風の吹くのを待っている船長のようなものだ。今は円安という風が吹いているので何とかもっているが、この風がやんだらどっちを向いて進めばいいか分からない。 そうしている間にも、政府債務という重荷は年々増えてゆく。船が重荷に耐えられなくなるのも、そう遠い将来ではない。それを日銀に背負わせても、同じ船の中で荷物を動かしているだけだ。 さいわい日本には高度成長期の蓄積がまだ残っているので、風まかせでもしばらくは航海できるかもしれない。しかし風が止まり、船が重荷に耐えきれなくなったとき、針路を示せる政治家はいるのだろうか。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38251
村上尚己「エコノミックレポート」 脱デフレとメディアの変化〜参議院選挙を控えて〜 週末に投票を迎える参議院選挙も終盤を迎えているが、安倍政権が発動したアベノミクスの是非を巡り各党が論戦を繰り広げている。7月17日日経新聞では、与党が参議院で過半数を獲得するのが確実と報じられている。 脱デフレを目指した金融政策の大転換が、アベノミクス発動という格好で、政治(=国民)の後押しで実現した。それが金融市場における超円高修正と大幅な株高、そして企業利益、消費回復をもたらし、そして労働市場の回復にも繋がる兆しもみえてきた。 アベノミクスに対しては、自称評論家による陳腐な説明、あるいは一部政党が唱えるような懐疑的な批判も目に付く。ただ、先に挙げたような過去8ヶ月で起きた変化を国民が正しく認識していることが、アベノミクスへの一定の評価をもたらし、それが参議院選挙の情勢に大きく影響しているのだろう。 こうした中で、脱デフレと経済正常化を目指すアベノミクスについてのメディアの論調も少しずつだが変化している。具体的に、脱デフレつまり経済がインフレへと正常化することについて、徐々に冷静に妥当な議論が行われるようになった。 例えば、白川前日銀総裁が金融政策を行っていた2012年までは、「デフレは日本固有の病気であり治癒が難しい」という世界標準からかけ離れた珍説が流行していた。そうしたロジックを振りかざしながら、かつて白川総裁率いる日本銀行は、世界標準となっているアグレッシブな金融緩和策の採用をずっと拒んでいたのである。そうした潮流の中で、「デフレを受け入れる」というのがメディアの主な論調だった。 それが、少しずつ変わっている。例えば、アベノミクスか掲げる第一の矢「金融緩和強化」で、脱デフレ機運が高まる中で、日経新聞では「物価考」と題した連載記事が7月14日から始まった。「デフレしか知らない15歳の中学生がケーキ屋での値上がりを経験」「1997年の消費増税の翌年からデフレが本格化したこと」「最近物価上昇を想定するヒトが増えていること」などが紹介されている。 興味深かったのは連載の中の、「人口減、デフレの主因か」と題した記事で、「人口が減少してもデフレに陥っているのは日本だけ」ということが、世界各国のインフレ率と人口増加率の関係から紹介されていることだ。筆者が、2012年6月5日、13日レポートで、デフレと人口動態(働き手の数)に統計的関係がないことを述べた時には、反対に日本銀行がこの論点を強調しており「人口デフレ論」が最も輝いていた時だった。 この1年前と比べると、メディアも客観的な事実を踏まえて、日本のデフレを扱うことができるようになったのだろう。大本営の見解に擦り寄ることなく、事実を元にした冷静な議論ができるようになったことは、アベノミクスのおかげだろう。 ただ、デフレや今後訪れるであろうインフレについての未だに誤解に基づく考えが、先の日経の連載記事を含めてメディアでは根強く残っている。実際には、インフレ・デフレを決する金融政策が「物価」に決定的な影響を及ぼすのだが、そうした説明から外れて「物価」についての説明する議論である。 その典型が、本日の日経新聞の連載(先ほどは良い例として紹介したが)で取りあげている、「中国など新興国企業の供給過剰がデフレを引き起こしている」という説である。これは、身近な価格変動(一般物価と異なる)から、「物価」を考えるかねてから人気が高い説だが、実際には日本のデフレの理由としては決定的に問題がある。 一つは、新興国からの供給増加に直面しているのは、日本だけではなく米欧各国も同様であり、1990年代から米欧はインフレが続き、リーマンショックという大きな経済の落ち込みがあってもデフレには陥っていない(南欧諸国にそのリスクはあるが)。だから、日本で起きているデフレの理由には全くならない。 というのも、新興国からの供給増加で、衣料品などのモノの価格下落を引き起こす要因になったとしても、それが一般物価つまり全体のインフレ・デフレを決める要因にはならないのである。通常の経済状態なら、モノの価格が下がれば、その分のサービスなど他の消費支出に回るから、物価全体にはほとんど影響しない。だから、先に述べたように、米欧でもモノの価格は下がり気味だが、全般では日本のようにデフレにはならないのである(詳細は、拙著「日本人はなぜ貧乏になったか」をご参照)。 これらの事象から得られる結論は、経済学のセオリーが示すように、デフレをもたらしているのは、モノ(+サービス)とマネーの相対的な価値変化を決定づける金融政策に求められる。ただ、日経新聞の「物価考」で、先に紹介したように1年前と比べて改善している面もあるが、未だに「一般物価」と「個別の価格変動」を混在して、デフレインフレについて妥当でない議論が行われているのである。 アベノミクスによる金融緩和策が成功して、今後、脱デフレを果たし、物価が他国のように+2%で安定すれば、インフレ・デフレを巡る混乱した議論はいずれなくなるだろう。ただ、それまでにはまだ時間がかかるので、こうした議論もたびたびメディアで繰り返されるかもしれない。今後の日本経済の行く末を考え投資を行う上では、経済学的論拠が薄い議論に惑わされないリテラシーが一段と重要になる。
広木 隆「ストラテジーレポート」 2013年7月16日 リスクとの付き合い方 PART2
ハイスクール ハイリターン 投資の世界では「ハイリスク・ハイリターン」と言われる。高いリターンを狙うなら、高いリスクを負担しなければならない、という意味だ。このCMも、そういう「ハイリスク・ハイリターン」の関係を表したものかと思いきや、ところがそうではない。よく読むと「ハイスクール・ハイリターン」。大塚食品ビタミン炭酸飲料『マッチ』のCMキャッチコピーだ。 中学生の時に高校生になったら「屋上でパンを食べたい」「自転車に女の子を乗せて帰りたい(いわゆる2ケツ)」といった夢を持った男子が主人公。高校に入学しパンを片手に屋上を目指すが、そこには「立ち入り禁止」の看板が! 今度はもう一つの夢である自転車に女の子を乗せて下校しようとしたところ、すぐに警察官に見つかりまた失敗。乗っていた女の子は「頼まれたから(乗っただけ)」と、その場から去ってしまう。そんな落ち込んだ時にコンビニで『マッチ』を購入しようとすると、コンビニ店員役の女優でノンノモデルの波瑠が追い討ちをかけるように「夢、小っちゃ」と一言。最後は夕暮れの中『マッチ』を飲むところで「ハイスクール ハイリターン」のナレーションが流れる、というCMだ(結構、レアなのでなかなかお目にかかれない)。 そう、波瑠が言うとおり、「小っちゃい」のである。そもそも、中学時代の夢なんてリスクもリターンも小っちゃ過ぎて、「ハイリスク」でも「ハイリターン」でもない。 「ハイリスク=ハイリターン」ではない - ボラティリティ・パズル では、現実の相場の世界では「ハイリスク・ハイリターン」なのかというと、これもそうではないのである。ファイナンス理論の世界では、ボラティリティ(リターンのばらつき)をリスクと捉える。ハイリスクとはボラティリティが高いことを指す。では、そうした高ボラティリティ=ハイリスク銘柄やポートフォリオのリターンは高いのか、と言えば逆である。多くの実証研究が示すところによれば、高リスク銘柄/ポートフォリオのリターンは低かった。これは、一般に言われている「ハイリスク・ハイリターン」の考え方と矛盾することから、「ボラティリティ・アノマリー」とか「ボラティリティ・パズル」と呼ばれている事象である。 どうしてこのようなことが起こるのだろうか?ひとつの仮説は以下のようなものである。ボラティリティの高い銘柄は、投資家やアナリストからの注目が集まりやすく、将来の業績を過大に期待される傾向がある。その結果、株価が割高に評価される。そして、そもそも期待が過大なため、期待された業績が実現されないことも多く、その場合失望売りを浴びやすい。山田・永渡[2010]はこの仮説を検証している(証券アナリストジャーナル2010.12 『投資家の期待とボラティリティ・パズル』)。 小林[2012]は別の仮説をいくつか挙げている。 ・ ボラティリティの高い銘柄群を好む投機家やノイズトレーダーがこういった銘柄を割高な水準にまで買い上げてしまうので、その後のリターンは悪化しやすくなる。 ・ 運用者は競争上、高いリターンを得るためβの高い銘柄を組入れざるを得ないので、ボラティリティの高い高β銘柄は需要過多となって割高になる。 ・ 日本株の売買シェア7割程度を占める外国人投資家は、ボラティリティの高い大型株を比較的短期間にトレーディングしてサヤを抜こうとする傾向があるため、こういった、銘柄群のボラティリティは一段と上昇し、リターンは低迷しがちになる。 以上は「ハイリスク」が「ローリターン」になる理由の仮説だが、その反対に「ローリスク」が「ハイリターン」を生む理由として以下のような仮説を紹介している。 ・ 低ボラティリティの小型株は、時価総額加重型のポートフォリオにおいて相対的に配分は小さくなることに加えて、上記の投機家や外国人投資家からも相手にされにくいため、低βの特性が「無視効果(neglect effect)」を生み、相対的にリターンは高くなる。 (SMAMレター 2012/7/2 『Vol.30 日本株運用を考える 〜その2』) こうした「ボラティリティ・アノマリー」や「ボラティリティ・パズル」を利用した投資戦略として、機関投資家の間ではミニマム・バリアンス(最小分散)ポートフォリオ戦略などが執行されているが、それはあくまで対ベンチマークを上回るという意味で有効性が期待できるものであり、個人投資家が同戦略を踏襲するメリットは少ないだろう。しかし、ハイリスク=高ボラティリティ銘柄のリターンは相対的に劣るものになりがちで、高いリスクを負うことの代償は多くを期待できない、ということが学会や機関投資家の世界では「ボラティリティ・アノマリー」として常識になっていることを知るだけでも価値がある。それを理解したうえで、昨今激しい値動きになっている新興市場のバイオ株やゲーム株の投資判断を行うべきである。 ボラティリティとマーケット・タイミング 市場全体を見た時に、ボラティリティの上昇=リスクの上昇であり、それが低リターンにつながるというのは、なんとなく納得のいくところだろう。市場が急落するときに、ボラティリティ・インデックスは上昇する。これは市場が上昇基調を辿るときは比較的ゆっくりで、下落のときには激しく急変することが多いためである。端的に言えば、ボラタイルな相場というのは、相場急落局面と同義であり、当然のようにリターンは悪い。だから、「ハイリスク・ハイリターン」ではあり得ない、と直感的には思う。 繰り返し述べているように、一度相場が大きな変調をきたすと落ち着くまでに時間がかかる。最初の急落で買っても、たいてい、もう一回「引かされる」。二番底が来るのだ。相場格言通りに、「落ちてくるナイフはつかむな。床に刺さってから引き抜け」を実践したほうが堅実である。結局、実際の投資行動としてはボラティリティがある程度、落ち着くのを待ってからマーケットにエントリーするということになる。 ところが現実にはボラティリティのピークが絶好の買い場、相場のボトムであることが多いのである。5月からの急落局面を振り返ってもそうである。最初の大暴落が5月23日、日経平均が1143円下落した日だ。ボラティリティ・インデックスは27から43へ一気に急上昇した。日経平均が底入れしたのは、その3週間後の6月13日。その間、非常に荒い値動きの相場が続いたためボラティリティは高止まりし、ボラティリティ・インデックスがピークをつけたのは、株価のボトムと同じ6月13日である。 ボラティリティのピークが株価のボトム。無論、それが分かったからと言って、相場の底値を当てられるわけもない。どこがボラティリティのピークとなるか分からないからである。但し、これだけは言えるだろう。相場全体のマーケット・タイミングについては、やっぱり「ハイリスク・ハイリターン」なのだと。高いリスクを負うことの代償は、それなりにあるのだと。相場が急落し、ボラティリティ(=リスク)が高まる。そのボラティリティの最高潮のところが相場のボトムなら、そこで拾えれば大きなリターンにつながるだろう。
[ 折りたたむ ] リスクを取る価値 ちょうど1カ月前のレポート「ヘッジファンドの真実 - 投資の極意」で、ポーカー世界選手権で日本人初の世界王者となったプロポーカー師の木原直哉さんの言葉を紹介した。「悪い手札の時にマイナスをいかに少なくし、良い手札の時にプラスをいかに多くするか。リスク管理と勝機の見極めが大切」 - 投資にもつながる言葉だ。木原さんの著書『運と実力の間(あわい) - 不完全情報ゲームの制し方』を読むと、他にも投資の参考になる考え方が多く紹介されている。 「ポーカーは運と実力が半々のゲーム。半分は実力がものをいうのだから、常に実力を鍛えておくべき」 「運が向いてきているときに、きっちり運を掴み取って結果に結びつけることができるかどうか。そのために必要なのが実力で、これはしっかりトレーニングすることで伸ばすことができる」 この辺りの考え方は、前作『ストラテジストにさよならを』で僕が述べたことにつながると思う。「相場は運や偶然に左右されるところが大きい。理屈(理論)で説明ができるのはせいぜい2割がいいところである。運や偶然は人の力ではどうにもすることができない。だからこそ、人の力で突き詰められる理論が大切なのである」 また、「勝つための大原則は、最も期待値の高いプレーを淡々とこなしていくこと」と述べている点も、非常に共感できる。シナリオに賭けるのではない。シナリオの生起確率とその場合にもたらされるリターンの積=期待値で投資判断を行うのである。 そんな木原さんはこう述べている。「こうした考えで麻雀やポーカーのプレーを捉え直してみると、『これまではこういわれてきたけど、ちょっと違うんじゃないの』ということが多々あります。古いとされているセオリーは、麻雀もポーカーも、リスクをとってリターンを取りに行くことを過小評価しています」 確かに、ダウンサイド(下値)のリスクだけを見たら手が出せないかもしれない。しかし、マーケットは「ハイリスク・ハイリターン」の原則が生きている。それが取るべき価値のあるリスクがどうか、アップサイドの大きさも併せて考えることが必要だ。 こうしたことを書くと決まって、「評論家の後講釈は要らない」と文句を言ってくるひとがいる。蛇足ながら、再掲しておこう。6月20日付けレポートでは「目先の底値は、概ねつけた」「7月に入れば上昇基調に回帰する」と言い切っている。ご確認されたい。これもある意味、リスクをとってリターンを取りに行くことのひとつである。「金を賭けていないじゃないか」とクレームを言うひとも多い。お金に換算できない、大きなものを賭けている。ご想像いただきたい。
米ドルの今後の命運を握るのは? 2013/7/17 提供:SBIリクイディティ・マーケット社 米ドルの今後の命運を握るのは? ベン・バーナンキFRB議長、「量的緩和の当面の現状維持を表明」 米ドルの今後の命運を握っているキーマンと言えば、ベン・バーナンキFRB議長もその一人である。そのバーナンキ議長が7月10日の講演を通じて「量的緩和の現状維持」を表明した。量的緩和を縮小することで米ドル高の流れが強まると予想していた先週末のマーケットでは、議長の発言を受け、米ドル/円相場はニューヨーク時間から東京時間にかけて一気に100円半ばから98円半ばまで下落した。ただし、現在の米ドル/円相場は再び100円の近辺にまで戻っている。 では、バーナンキ議長はなぜ量的緩和の現状維持を決めたのだろうか。2008年リーマンショック以降、米国は経済危機から脱出するために、量的緩和による景気刺激策に踏み込んだ。そして、現在は量的緩和の主な目的である「雇用の改善」と「インフレの上昇」はある程度、その目的を果たしたように見える。 (図1 米国失業率) (出所:ブルームバーグ) ただ、疑問点も残る。まず、雇用とインフレが改善されつつあるも、勢いがすこし弱いと感じる点だ。また、このような状況の中で、もし量的緩和が縮小された場合、米国経済が自力でその勢いを増していけるかどうかも疑問である。この辺りが、バーナンキ議長が量的緩和の現行維持を決めた理由ではないだろうか。 量的緩和の行方を占う上でその尺度となる「住宅価格」 バーナンキ議長が量的緩和を継続すると発表したとしても米ドル高のトレンドは変わらない。その理由は先ほど述べたように、米国の雇用とインフレが改善されつつあり、米国経済が回復基調にあるからだ。そのため、どのタイミングで量的緩和の縮小に踏み込むかについては依然として注目が集まっている。そして、雇用やインフレとともに、米国経済の勢いを確認する上で重要になるのが「住宅関連の指標」である。 米国の住宅と言えば、自然と2008年の悪夢を思い出すように、それほど住宅問題は米国経済にとって重要なのだ。昨年の9月に実施された量的緩和第3弾(QE3)の目的は、住宅つまり「不動産市場」を活性化させることで、米国の景気を刺激することであった。具体的には、毎月400億ドル(約3兆2000億円)の住宅ローン担保証券を買い入れることで不動産価格を押し上げる。そして、不動産価格が上昇すると不動産を担保としてお金を借り、消費と投資により景気が刺激されるといった「資産効果」が最終的な狙いである。実際に、中古住宅販売件数や新築住宅販売件数を見ると確かな「上昇傾向」にあることが分かる。 (図2 米国中古住宅指標) (出所:ブルームバーグ) (図3 新築住宅販売件数) (出所:ブルームバーグ) ところが、量的緩和を縮小してしまうと、住宅価格が再び下落し景気刺激の効果が半減されるとの懸念もある。そのため、今後の住宅市場の動向には注目する必要がある。これから発表予定の住宅関連指標(下表)には、注目したい。 日付 時刻 住宅関連指標 前回 7月23日 22:00 住宅価格指数(前月比) - 5月 0.70% 7月24日 20:00 MBA住宅ローン申請指数 - 7/17 - 7月24日 23:00 新築住宅販売件数 - 6月 47.6万件 7月24日 23:00 新築住宅販売件数(前月比) - 6月 2.10% 7月29日 23:00 中古住宅販売仮契約(前月比) - 6月 6.70% 7月29日 23:00 中古住宅販売仮契約(前年比) - 6月 12.50% 7月30日 22:00 S&P/ケース・シラー総合20(前月比)-5月 1.72% 7月30日 22:00 S&P/ケース・シラー総合20(前年比)-5月 12.05% 7月30日 22:00 S&P/ケース・シラー総合20 - 5月 152.37 7月31日 20:00 MBA住宅ローン申請指数 - 7/26 - (出所:ブルームバーグ) 長期的にドル高のトレンドは変わらず 不動産市況が活性化されても、為替相場に短期的な影響を与えることは考え難い部分はあるが、先ほど述べたように不動産市況は米国経済の力強さを確認する手段であることから、長期的に為替相場に与える影響は多大である。そのため、今後、発表される住宅関連指標の結果によって、次のようなシナリオを描くことができる。 米ドル高/円安 雇用やインフレの改善、住宅価格の上昇がベースとなり、量的緩和が縮小する可能性が高まる。そして、量的緩和の縮小が始まると米国の資金の量が減少する一方、日本での資金供給量は相対的に増加するため、日米間の資金流動性に差が生じることで米ドル高が進むと予想される。 (図4 日米欧の中央銀行のバランスシート) (出所:ブルームバーグ) 米ドル高/新興国通貨安 米国をはじめとした主要国の中央銀行が、バランスシートを膨張させながら実施した「量的緩和」によって主要国では資金が溢れ出し、やがてその資金は新興国にまで流れていく。そして、その資金によって新興国の経済は成長できたうえに、それを原動力としてリーマンショック以降の世界経済を牽引する役割も果たした。しかし、米国の量的緩和が縮小しはじめると、今度は新興国に流れた資金が米国に戻り、新興国の通貨は米ドルに対して安くなることが予想される。 |