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流動性の罠に陥っている場合、金融政策は無力である。デフレを克服しようとしてもお金が市場に出回らないからどうしようもない。このような時、ケインズは財政政策が有効であると主張した。ケインズはもと数学科出身である。無限等比級数の和を使って公共投資の効果を示す。これが乗数理論である。
例えば、10兆円の公共事業を行う。この金が労働者の賃金となる。ある人の賃金が10万円であり、その8万円が衣食住に消費されたとすると、限界消費性向は0.8となる。これは賃金増加による消費の割合を示している。また貯蓄が2万円だとすると、限界貯蓄性向は0.2になる。全労働者の限界消費性向を0.8とみて、波及効果は次の計算式を使う。
α×1/(1-C)
ここでαを10兆円の投資とする。限界消費性向Cを0.8とすると、波及効果は5倍になり、即ち50兆円である。
日本の場合、公共事業の波及効果は高度経済成長の時代にはみられたが、今日ではほとんどみられない。効果がなければそのまま財政赤字になる。バブル崩壊後、公共事業を行ったが、そのつけが莫大な財政赤字となっている。1000兆円の多くが公共事業による。
その効果のない公共事業で景気を回復しようとしているアベノミクスは、同志社大学・浜矩子先生の言葉でいえば、アホノミクスである。高度経済成長時代、即ち50年前の理論であるから浦島太郎と言われている。
では、なぜケインズの公共事業の効果がでないのか。ケインズが間違っていたのであろうか。いや、そうではない。ケインズは正しかったが、悪用されただけである。ポイントは消費性向にある。いくら公共事業を行っても消費に回らなければ波及効果がでない。例えば、極端な例で限界消費性向Cを0とすると、α×1=αになる。つまり、国債を発行して調達した公共事業費がそのまま移転しただけとなる。波及効果が出ない。
現在、公共事業は大手土木建設や中小土木建設が担当する。これは現在存在する土木建設業であり、社員は失業者ではない。会社の仕事が増えて利益が出てもすぐに賃金が上がるわけではない。仮に給与30万円の人の賃金が1万円上がったとしても、それは消費されず貯蓄に向かうことが多い。だから消費性向は小になる。
では、この場合、すべて失業者で工事を担当したとしよう。平均賃金が20万円であり、16万円が消費されたとすると、消費性向は0.8になる。そうであれば、10兆円投資されたとき、限界消費性向が0.8であるから、ケインズの理論通り50兆円の効果がでる。
ケインズの理論通りにいかないのは、既得権益をもつゼネコンその他の中小土木建設業が工事を独占しているからである。景気は回復せずそのまま財政赤字になる。バブル崩壊後、政府は土木建設業を救済するために公共事業を行った。国債による国の借金がそのまま移転したのは、このような事情による。
現在、政府は日銀に大量の国債を買わせ、そのお金が公共事業に向かっている。これは経済学の悪用である。なぜなら、国民全体の経済発展ではなく、自民党の政権地盤であるゼネコンや中小土木建設業に利益を与えているからである。
ケインズは大蔵官僚であり、まじめな学者であった。公共性に徹した人で、経済理論を国民全体の利益のため、即ち不況克服のために活用しようと考えた。悪用されるとは夢にも思っていなかった。イギリス紳士の理論が日本に来ると、泥まみれになってしまう。現在、ケインズ政策が効果を出さないのはケインズの責任ではない。日本の政治家の責任である。いずれアベノミクスの公共事業はそっくり財政赤字となり、国債発行残高は1500兆円に近づく。
財政政策には、公共事業と社会保障がある。公共事業に波及効果がなければ、次は社会保障である。一般に、社会保障は波及効果を生み出さないといわれるが、これは誤りである。そのことは、波及効果が限界消費性向の大きさに依存していることを考えるとすぐわかる。失業者に仕事を与えると波及効果が大であるように、低所得者の所得を上げるとそのまま消費性向が大になる。
例えば、現在低賃金である介護保険の報酬を上げると、介護士の賃金が上がる。これはすぐ消費性向を上げる。
また、最低賃金を上げると消費が増える。もともと低賃金であるから増えたお金はほとんどが消費に回る。
最低保障年金を設けると、年金の受給額が増えて、消費が増える。老後の生活が心配なくなると、貯蓄を消費に回す。現役世代の貯蓄も減り、消費が増える。
このように社会保障の充実または低所得者への支援は国民経済へ好ましい影響を与えるが、現在の政府は社会保障に冷たい。生活保護法の適用を厳しくしようとしている。既に受給額を下げた。年金改革の姿勢もみられない。最低賃金を上げるふうでもない。
首相のブレーンとみられる人たちは正社員の雇用規制を緩やかにし、正社員を非正社員並みに解雇できるようにしようとしている。
極めつけは最低賃金を撤廃するという考えだ。大義名分としては国際的に同一賃金にするということであるが、実質は発展途上国の賃金に合わせるということである。
これでは国民の不安は増すばかりだ。
アベノミクスの第2の矢の一つである公共事業は財政赤字に繋がる可能性が高い。もう一つの社会保障も後退している。この二つに裂けた矢はいずれ折れる。
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