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米中G2時代に日本は存在感を保てるか!? 「米中戦略・経済対話」に見る中国のアジア太平洋政策
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36414
2013年07月15日(月) 近藤 大介 :現代ビジネス
「ニュータイプの大国関係を築く」---習近平主席の対米外交の方針に沿って、中国政府の数百名もの要人たちが、ワシントン入りした。
第5回「米中戦略・経済対話」が、7月10日、11日の両日、ワシントンで開かれた。これは、ブッシュ政権の2006年から始まった「米中戦略経済対話」を、オバマ政権時代になってさらに拡大したものである。文字としては「戦略」と「経済」の間に「・」を入れたにすぎないが、これには大きな意味がある。
それまでは代表を一人ずつ置いて、すべて一緒くたにして表面的に議論していたものを、「戦略(外交)部門」と「経済部門」とに分け、それぞれに代表を置き、より突っ込んだ実務責任者同士が一気に議論できる場としたのである。中国はこれに「軍事部門」も入れて3部門制にしようと提案したが、アメリカは却下している。
こうして新たな体制となった「米中戦略・経済対話」は、米中G2時代を象徴する枠組みとして、アメリカ発の金融危機の影響が収まらなかった、2009年7月27日〜28日に、ワシントンで第1回が開かれた。続いて、2010年5月24日〜25日の第2回北京大会、2011年5月9日〜10日の第3回ワシントン大会、2012年5月3日〜4日の第4回北京大会と開催された。今年は3月に中国で10年ぶりの政権交代が行われたことで、やや遅れて7月の開催となったのである。
アメリカ側は、ケリー国務長官(夫人の緊急入院で初日のみ参加)とルー財務長官以下、14省庁の大臣級が、中国側は汪洋副首相と楊潔虎国務院以下、16省庁の大臣級が参加した。4代表とも今回が初参加である。いわば、北京の国務院が、丸ごとワシントンに引っ越してきた様相を呈したのである。
■衝突せず、対抗せず、相互に尊重し、提携してダブルウィンを得る
今回は、6月7日、8日にオバマ・習近平の8時間会談から1ヵ月を経て、この時のトップ対談の「決定」が、どう実務者に降りてくるのかということが注目された。2大国のトップが、2日間で8時間以上も話し合っていながら、アメリカの同盟国のはずの日本にも、その詳細はまったく伝わってきていなかったからである。その意味で、今回の米中対話は、2大国の真意、とりわけ情報公開の少ない中国の真意を確認するという場でもあった。
まず第一に、先月の米中首脳会談で、習近平主席は、「今後アメリカとニュータイプの大国関係を築く」と述べたが、これが具体的に何を意味するのかは不明だった。しかし今回、楊国務委員は、「ニュータイプの大国関係とは、不衝突(衝突せず)、不対抗(対抗せず)、互相尊重(相互に尊重し)、合作共赢(提携してダブルウィンを得る)関係である」と定義付けをしたのだった。
これは先月、習主席が述べた「中米は、太平洋を挟む東西の2大国家であるから、友好関係を築いてアジア太平洋地域の発展の牽引役を果たすべきだ」という論理を、より具体化したものだ。
楊国務委員はまた、習近平時代の新たな中国のアジア太平洋政策の3原則についても言及した。
@不挑事(挑発しない)、也不怕事(だが恐れもしない)
A以和平為基調(平和をもって基調とし)、以合作為渠道(提携をもってルートとし)、以共赢為目標(ダブルウィンをもって目標とする)
B共同安全(共に安定を守り)、共同発展(共に発展する)
これは、尖閣諸島問題について照らし合わせてみると分かりやすい。中国側の論理で言えば、「釣魚島(尖閣諸島)は、わが国の固有の領土であるから、監視船などを日々繰り出すことは、自国の海域を警備しているだけであって、日本に対する挑発には当たらない」。そして、「日本が中国を脅威とみなす防衛白書を承認したことについて猛烈に抗議し、日本を恐れていないことを示威する」。こうしたことは、日本にとってみれば十分、挑発行為なのだが、中国側の論理ではそうはならないのである。
さらに中国側の論理を言えば、「原則のAとBに照らして、釣魚島の共同開発も含めた平和的提携の道を提案しているのに、日本側が無視している」ということになる。これは、「尖閣諸島は日本固有の領土であり、領土問題は存在しない」とする日本政府の見解とは大きく異なる。
■米中相互投資時代のカギを握るTPPとシェールガス
さて、米中戦略・経済対話に話を戻そう。経済担当代表の汪洋副首相も、注目すべき発言をした。まずは、今の米中関係に対して、「山重水複疑無路、柳暗花明又一村」(山水が複雑で、道が途絶えたかに思えるが、暗い柳と明るい花の先にまた一つ村が見えた)という中国の古い言い回しで表現した。
その上で、両国間の貿易は5年前、2008年の3,337億ドルから2012年には5,000億ドル近くまで伸びた。また、今年1月〜5月までの統計を見ると、アメリカの対中国投資(昨年は514億ドル)は、前年同期比で22.6%増加し、中国の対アメリカ投資(昨年は51.5億ドル)は、同じく76%も増加していると述べたのだった。
これは、米中間の貿易が、単純にアメリカ企業が中国市場に投資するという時代から、相互に投資する時代へと変化してきていることを示している。
中国で海外進出する企業は、大型の国有企業が多いので、アメリカでは「中国共産党の手先」と見られ、投資や買収案件を阻止されることが多い。これにはアメリカ側の言い分も十分成り立つので、一朝一夕には解決が難しいが、このところ中国企業の対米投資が倍々で増えていっているのは事実だ。この国有企業の問題が解決されれば、1980年代の日本企業のような対米進出ラッシュとなる可能性を秘めている。
経済分野においては、あと二つ、私が注目していた点があった。
一つは、貿易自由化の問題である。現在、東アジア地域では、TPPとRCEPという二つの自由貿易の枠組みが進行中だ。前者は、アメリカを中心とした自由貿易体制、後者は、中国を中心とした自由貿易体制と呼んでいいだろう。これらをどうマッチングするかという問題である。
中国は、TPPへの参加の可能性を匂わせているが、それには国有企業の民営化という高いハードルがあるので、なかなか難しい。だが、RCEPよりTPPの方が、一歩先を行っている感があり、少々焦り気味なのである。今回も、自由貿易の重要性を強調しながらも、TPP参加問題に関しては、表明はしなかった。
もう一つは、シェールガスの問題である。アメリカは、シェールガス革命に沸いているというのに、世界最大のエネルギー消費国の中国は、蚊帳の外に置かれている。それは、中国大陸の地下にはシェールガスが豊富だという調査報告があるにもかかわらず、中国が採掘技術を持っていないからである。それで今回、中国はアメリカの技術で中国大陸でシェールガスを採掘してほしいと願い出たわけだ。
これはアメリカにとっても好都合である。なぜなら第一に、アメリカ企業にとって、大変有望な新たな輸出産業になるからである。第二に、中ロ友好を絶ち、エネルギー大国ロシアの相対的国力を弱めるという戦略上の利点がある。つまり、「積極的に検討に値する課題」なのである。
しかし、シェールガスを巡る米中協力が進めば、日本の立場は微妙である。まず、中国市場では、ライバルのアメリカ企業が伸長するから、中国の日系企業の勢力が相対的に弱まる。次に、尖閣を巡る日中対立で、アメリカはますます日本無視を決め込むようになるだろう。
その他、サイバー問題やスノーデン問題で、アメリカは中国に抗議した。中国は、スノーデンに関しては、完全に中国及び香港の法律を遵守したと開き直り、サイバー問題に関しては、国連を通じた全世界的規模で解決を図るべきだと述べた。「困った問題は国連に回せ」というのは、中国外交の鉄則である。なぜなら、国連には54ヵ国が加盟するアフリカ連合という強い味方が控えているからだ。
■日本は「米中戦略・経済対話」の分析を!
さて、全体的に見れば、今回の第5回米中戦略・経済対話は、互いに「新体制」を慎重に模索し合っている感じがした。アメリカからすれば、習近新政権が進む方向性に対して、まだ結論を下していないというところだろう。
折りしも中国では、高度経済成長の限界が見え、経済危機説まで飛び出している。これに対し李克強首相はこのほど、アベノミクスに対抗してリコノミクス(英語名:Likonomics、中国語名:李克強経済学)を打ち出した。
リコノミクスの「3本の矢」は、穏増長(安定した成長)、促改革(改革の促進)、調結構(システムの調整)だ。秋の共産党の重要会議である「3中全会」で詳細を発表する予定だが、そこまで中国経済の成長が持続するのかという悲観論も出ている。アメリカは秋まで待ち、習近平体制の「品定め」をしようということだろう。
ともあれ、日本としては「オバマ・習近平8時間会談」の詳細な解釈を行う意味で、今回の米中戦略・経済対話の分析を行う必要があるだろう。
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