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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130716-00000002-sasahi-ind
週刊朝日 2013年7月19日号
オバマ米大統領は気候変動対策について6月25日に演説し、「米国は世界を先導できるという確信がある」と語った。この自信の背景には、シェールガスがある。石油や石炭と比べると温室効果ガスの排出量が少ないからだ。こうも言った。「米国は世界最大の天然ガス生産国としての地位を強化すべきだ」。
シェールガスとは、地下にある頁岩(けつがん=シェール)の層にたまった天然ガスのことだ。硬い岩盤層で、1970年代の石油危機のころから、うまく掘れないかと試行錯誤が続けられた。それが、水と化学薬品を注入して圧力をかけ、岩にひびを入れて掘り出す新しい技術が開発されるなどして、生産が軌道に乗った。頁岩層は米国では国土全域に広がり、「掘れば出てくる」とすら言われている。2011年には米国の天然ガス生産量の3分の1をシェールガスが占めるほどになった。だからオバマ大統領は自信満々なのだ。
その結果、天然ガスはとにかく安くなった。100万BTU(英国熱量単位=天然ガスなら25立方メートル、以下同じ)あたりで、08年夏には13ドルを超えたが、このところ4ドルを割り込んでいる。
これに飛びついたのが日本だ。11年の東日本大震災によってほとんどの原子力発電所が止まり、火力発電に頼りきっているからだ。11年度、燃料とする天然ガスの消費量は前年より3割近く増えた。
日本の電力会社が買う液化天然ガス(LNG)の価格は17ドルほど。これに対して、米国でシェールガスを買って液化し、タンカーに積んで日本に運んできても12〜13ドルほどに抑えられるという。震災後2度目となる電気料金の値上げが視野に入る電力会社にしてみたら、渡りに船だろう。
シェールガスさえ活用できれば、火力発電に寄りかかっていても、電気料金の値上げを避けられるだけではなく、ひいては脱原発の「切り札」に――。「シェールガス革命」という言葉も飛び交う「バラ色の未来」が描かれた。すでに日本の商社やガス会社などが米国のガス田の権益を買った。
オバマ政権は、その夢を後押ししている。5月16日にシェールガスを管轄するエネルギー省の新長官の人事が上院で承認されると、早くも翌日にはシェールガスを日本向けに輸出する計画のひとつを初めて許可した。英国・インド向けに続いて3件目の許可だ。
「輸出すれば、採掘会社、設備会社、海運会社などで幅広く雇用が増えます。オバマ大統領は、来年11月の中間選挙で勝つのに失業率を下げるシェールガスをうまく使いたいと考えたのでしょう」(三菱東京UFJ銀行ワシントン駐在員事務所の寺澤英光所長)
しかし、どうも様子がおかしい。北米では、シェールガスの生産量が大きく落ち込んでいるわけではないが、ガスを掘り出す機械の稼働数が減っているのだ。今年に入ってからは半年間で2割ほど落ち込んだ。
専門家の話をまとめると、この変調には、主に二つの理由がある。「価格」と「環境」だ。
「価格」とは、安さを売りにするシェールガスが皮肉にも天然ガス価格を引き下げすぎたことだ。シェールガスの生産には5〜7ドル程度かかるといわれる。それが4ドル以下でしか売れないのだから、「掘れば掘るほど赤字」(商社幹部)なのだ。4月には米国のある採掘会社が資金繰りに行き詰まって破綻した。
もともとシェールガスならぬシェールオイル(頁岩層にある原油)を求めて採掘したら、一緒に天然ガスも出てきた。こうした場合に限っては、原油価格が高いので原油と天然ガスを合わせてようやく採算がとれる状況のようだ。
「5〜7ドルぐらいまで上昇しないと、持続的な発展は難しいでしょう。米政府も、生産量の増加は価格上昇に比例すると見ています」(みずほ銀行産業調査部)
そこで輸出だ。オバマ政権が日本向け輸出を許可した背景には、価格引き上げのねらいもあると見られる。米国内で天然ガスの消費量が大幅に増えるとは考えにくいからだ。
といっても、手っ取り早く局面を打開するには至らないようだ。輸出に望みをかけるなら申請を次々許可してもよさそうだが、エネルギー長官は、ケース・バイ・ケースで考えるという発言に終始している。
「エネルギー省は、許可申請を却下したくありませんが、許可した企業に破綻されるのも避けたい。審査に時間をかけるしかないのです」(前出の寺澤所長)
さて、変調の二つ目の理由は「環境」だ。
先ほど、シェールガスを採掘する際には水と化学薬品を注入すると紹介した。化学薬品というのは塩酸、潤滑剤、界面活性剤などで、これらが周辺の地下水に悪影響を及ぼすのではないかと懸念する声がある。
実際に米国では、人口が密集する東海岸のニューヨーク州やニュージャージー州などで、この手法による採掘が禁止された。
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