03. 2013年7月17日 01:29:08
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【第883回】 2013年7月17日 週刊ダイヤモンド編集部 中国の外貨準備に変調の兆し 日米金利の不安定化要因に米財務省にとって国債の最大の「得意先」となる中国の動向には、神経をとがらさざるを得ない Photo by Hiroshi Tanaka 拡大画像表示 3兆4426億ドル(約344兆円、3月末時点)もの資金を抱え、世界最大の「ファンド」ともいえる中国の外貨準備に、変調の兆しが見え始めた。 世界経済の牽引役だった新興国の成長に陰りが見え、世界のマネーが先進国へと逆流する中で、中国においても資金流入が急速に縮小。2012年には、中国の資本・金融収支が14年ぶりに168億ドル(1兆6800億円)の赤字となった。 中国国家外為管理局は、4月初めに公表した12年版国際収支報告書の中で、「さらなる資本の流出を排除できない」との見解を示している。 海外から中国への資金流入が細った結果、起こったのが10年以上にわたって膨張していた外貨準備高の頭打ちだ。 2000年代後半以降、外貨準備高は毎年40兆円前後にも及ぶ猛烈な勢いで拡大。世界全体の外貨準備高の3割を占めるまでに膨張していたが、12年は前年の3分の1にも満たない13兆円の増加にとどまった。今年に入っても、増加ペースは鈍いままだ。 中国が売る米国債の不気味 中国の外貨準備の変調は、米中長期国債の売買にも見て取れる。4月の動向を見ると、中国は2カ月連続の売り越し。国債をはじめ米財務省証券を最も保有しているのは中国で、1兆2649億ドル(126兆円)。2位は日本で1兆1003億ドル(110兆円)だ。 中国はこれまで、世界各国からの資金流入に伴う通貨高を抑制するため、人民元を売ってドルを買う為替介入を繰り返してきた。その結果、介入を担う中国人民銀行の外貨準備高は、10年前に比べ実に11.5倍にも膨らんでいる。 為替介入に伴って購入した資産の多くは、米国債などドル建ての資産だ。外貨準備のうち6割強がドル建て資産とみられている。 つまり、中国の外貨準備の頭打ちは、米国債をこれまで一貫して買い支えてきた「巨人」が突如として消え、金利が不安定化することを意味する。 6月の第3週に、米長期金利が0.4%以上も急上昇(国債価格は下落)し、週間としては過去10年で最大の上げ幅となったのは、米連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和の縮小観測という要因に加えて、外貨準備を抱える中国人民銀行が、「米国債を整理し始めたことも影響している」と読む市場関係者は少なくない。 そもそも、中国はドル資産以外に外貨準備の運用先を多様化する動きを、以前から強めている。今年初めには、外貨準備の多様化を推し進める専門組織を、外貨管理局内に設置した。 今後、中国の外貨準備が縮小に向かい、加えてドル資産への配分を減らすことになれば、米国債の売り圧力が一段と強まるのは必至だ。そうなれば米長期金利は上昇スピードを強め、さらには連動性の高い日本の長期金利の上昇にもつながるリスクがある。 折しも、「影の銀行(シャドーバンキング)」問題をはじめ、高成長を続ける中国経済のひずみが顕在化する中で、外貨準備の変調は、日本にとって決して対岸の火事ではない。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 中村正毅)
米経営者の報酬に株主の厳しい視線 年5200万ドルは妥当か The Economist >>バックナンバー2013年7月16日(火)1/1ページ このエントリーをはてなブックマークに追加はてなmixiチェックFacebookでシェアする 3 印刷ページ 米医療系卸大手マッケソンのCEOの年間報酬額は、5200万ドル(約52億円)――。株主からは厳しい視線が寄せられている。だが、同氏はCEOを14年務め、時価総額を4倍以上拡大させた。実績に見合う報酬額とはいかほどなのか。
米国の医療品及び医療機器の卸大手、マッケソンでCEO(最高経営責任者)を務めるジョン・ハマグレン氏にとって今年は実入りが多い年だ。3月までの1年間の報酬額が計5200万ドル(52億6400万円)と、前年の4600万ドル(46億5600万円)を大幅に上回ったからだ。
しかし、モノ言う株主たちが不満を募らせていることを考えると、あの派手な衣装とパフォーマンスで一世を風靡したピアニスト、故リバラーチのように、いかに批判されようとも最終的にカネがもらえればいいということになりそうだ。彼らは今月後半に開かれる年次株主総会で、役員報酬に対してだけでなく、ハマグレン氏の再任の是非を問う株主投票についても「ノー」を投じるように促している。 この運動を展開しているのは、労働組合「勝利のための変革」の年金ファンドで、同ファンドはハマグレン氏の報酬パッケージはS&P500種株価指数の対象になっている企業の中で「最も法外に高い1つ」と断じている。中でも今回決まった報酬に関する契約で、彼の年金額が2420万ドル(24億4900万円)にも上ることを問題視している。ハマグレン氏の年金総額は今や1億5900万ドル(160億円)も積み上がっており、あらゆる現役経営者の年金額をも上回っているからだ。 マッケソンの役員報酬について昨年は、株主の63%しか承認しなかった。機関投資家は通常、経営陣に関する株主投票については反対票を投じようとはしないが、この数値は機関投資家を含め多くの株主が、同社の役員報酬については大きな不満を持っていたことを示している。米シンクタンクのマンハッタンインスティチュートによれば、米上場企業売上高上位250社において株主提案が過半数の支持を得られたケースは今年の場合、現時点ではまだわずか7%に過ぎない。これは2006年以来の低い値だ。しかも250社のうち株主投票で役員報酬が否決されたのはわずか2社だ。 時価総額を3倍以上に引き上げてももらいすぎか マッケソンは批判に対して、現金で支払う報酬額を減らしたり、株式オプションを行使する際の条件を厳しくするなど報酬体系を見直していると反論する。そして、役員たちの報酬が長期的な株主価値をもたらすことにつながるよう設計していると強調する。例えばハマグレン氏の場合、報酬の92%を業績連動にしているという。 確かに、同社の業績を考えると彼の報酬は常軌を逸したものではない。少なくともやや寛大な企業の報酬としては一般的と言えるだろう。 彼の年金にしても14年以上に渡り蓄積してきたものであり、一般の大企業経営者の水準に沿ったものと言える(経営者の在任期間は大抵、彼ほど長くない)。2013年に報酬の年金額部分が急増したのは、保険計理士による想定金利が変更されたことが大きい。 ハマグレン氏が2001年3月にCEOに就任した時、マッケソンの株価は27ドル(2733円)だった。それが今や4倍以上の115ドル(1万1600円)に上昇している。この間、S&P500種株価指数は40%しか上昇していない。 マッケソンの時価総額は190億ドル(1兆9200億円)増大したが、ハマグレン氏の受け取ってきた報酬は合計してもその約3%にしか満たない。 多くの人から見れば、いかに業績を改善させたとしても、これほど莫大な報酬額を正当化することはできないだろう。要求の厳しい投資家からすれば、ハマグレン氏の報酬は妥当なのかもしれない。そして、他の莫大な報酬を受け取っている経営者たちにもハマグレン氏のような業績を弾き出して欲しいと願っているのだろう。 ©2013 The Economist Newspaper LimitedJun. 29th, 2013 All rights reserved英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
第288回】 2013年7月17日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] それでも変だよ、公的年金運用! 前年度は過去最高益だが 積立金の取り崩しが続くGPIF
はじめに、GPIFのホームページから、「【参考資料】年金積立金管理運用独立行政法人の中期計画(基本ポートフォリオ)の変更」と題する、公的年金資産の運用検討資料をダウンロードしてみてほしい。 先般の公的年金の運用方針の変更を決めた検討過程で、使われた資料だ。いくらか探しにくい場所にあるが、ホームページに載っている。これが、今回の拙稿で取り上げる話題の中心だ。 厚生年金と国民年金の積立金は、通称「GPIF」こと年金積立金管理運用独立行政法人によって運用されている。GPIFはざっと120兆円の資産を運用する世界最大級の機関投資家だ。 日本の公的年金は、確定給付の企業年金のように、個々の加入者の将来給付に必要な積立金が確保されている積立方式ではなく、現役世代の年金加入者から集めた年金保険料を受給者世代に支払う賦課方式だが、賦課方式のわりには大きな積立金を持っていて、積立金が一種の余裕として機能するのと同時に、積立金の運用益を年金財政に活用しようとしている。 さて、この積立金の運用は、2012年度(2013年3月末が年度末)にあって、アベノミクスの金融緩和による円安と株価上昇の効果で、約11兆2000億円の利益が出た。利回りは10.23%であり、これは、公的年金の積立金が独立して運用されるようになった2001年以降の最高記録だ。慶賀の至りである。 しかし、2012年度には4.3兆円が年金の支払いに充てるために取り崩され、運用資産額の純増は約7兆円に止まる。今後、しばらく積立金の取り崩しは続くし、運用が常に昨年度のように好調なわけではない。昨年の好結果を喜ぶとしても、「安心」にはほど遠いように思われる。 リスク資産の配分を増やす方針へ 基本ポートフォリオ変更の影響 さて、現時点で巨額の資産を国民から預かっている以上、GPIFは運用にベストを尽くすべきだ。このことは当然であり、筆者も含めて、誰も反対しないだろう。そのGPIFが、先月、年金積立金の運用にあたって定めていた「基本ポートフォリオ」の変更を発表した。 基本ポートフォリオとは、「国内債券」「国内株式」「外国債券」「外国株式」「短期資産」といった大まかな資産種類(アセット・クラス)に対する標準的な運用資金配分比率を定めたもので、これが変更された。 変更内容は以下の通りだ。 ・「国内債券」 67%→60% ・「国内株式」 11%→12% ・「外国債券」 8%→11% ・「外国株式」 9%→12% (※「短期資産」は5%で変化なし) 相対的にリスクが小さい「国内債券」を減らす一方で、いわゆるリスク資産への配分を増やす方針変更だ。 GPIFの運用資産は120兆円ほどあるので、1%の変更でも計画通りに運用を変化させると、1兆円を超える売買が発生する。ちなみに、日銀が4月4日の通称「異次元緩和」で発表したETF(上場型投資信託)による株式買い入れ予定額が1年で1兆円であるから、これよりも効果が大きい。 もっとも、「国内株式」「外国債券」「外国株式」の3資産はいずれも昨年来の円安・株高で時価が成長しており、計画の変更に先んじて運用の実態が変化しているから、新たな「買い」が直ちに市場に発生するわけではない。 しかし、基本ポートフォリオでの配分が小さいままだと、「リバランス」(資産配分のバランスを整える売買)によって「売り」が発生するのではないかという圧迫懸念が、市場関係者に生じる。基本ポートフォリオの変更が意味を持たないわけではない。 また、公的年金の積立金の一部を代行運用している厚生年金基金(一昨年度末で残高約17兆円)では、この代行運用部分(資産の3分の2以上あると推定される)について「GPIF並」の運用利回りが必要な仕組みになっているので、GPIFの基本ポートフォリオ変更は、彼らの運用にも影響を与える。 加えて、GPIFの運用方針の変更を受けて、地方公務員や国家公務員などの年金を運用する共済年金でも運用方針の見直しを行う公算が大きく、これらについては、まだ何も決まっていないが、リスク資産への資金配分ウェイトが増加する可能性が大きいのではないかと「予想」しておく(注;筆者は、国家公務員共済組合連合会の運用委員会の委員だが、上記は個人的な「予想」だ。同連合会では運用方針の変更を決めてはいない)。 確定給付企業年金(45兆円)、企業年金連合会(10兆円)、さらには個人が運用する確定拠出年金(5.5兆円)などの資金がどう動くかについて、確かなことは言えないが、相場の好調に加えて、GPIFのリスク資産増の方針変更の影響を受けて、リスク資産への配分が増えるのではないかと、「予想」できそうだ。 国内債券の期待リターンは3.0% そもそも前提条件が変ではないか? さて、いよいよ冒頭でダウンロードしてもらった参考資料を見てみよう。いわゆる「識者」が、120兆円の資産運用の重責を踏まえながら検討に用いた英知の結晶なので、一国民としても個人投資家としても、興味深い資料だ。 1ページ目には、平成24年10月の会計検査院の指摘を踏まえて、厚生労働省より「基本ポートフォリオについて定期的に検証を行い、必要に応じて見直すよう」要請があったことが記されている。 役所の要請がなくても、運用機関としては、運用方針を随時見直して、必要があれば変更するのが当たり前ではないかと思われるが、まあいいだろう。 投資家として最も興味深いのは、個々の資産クラスにおける「期待リターン」だろう。「期待リターンの検証」というタイトルが付いたページを見てみよう。 まず、変更後も60%のウェイトを占める最大の資産クラスである「国内債券」を見る。 期待リターンの構成要素は、「期待リターン=長期金利」であるとし、期待リターンを3.0%としている。この推計方法としては、「イールドカーブから将来の長期金利水準を推計」として、推計結果に対して「将来の長期金利水準は長期的には2.5%〜3.0%と推計され、期待リターンGPIFはこの範囲内にあり妥当」と述べている。 現在の金利が期待まで上がる過程で 債券価格の下落に伴う大損失が発生 読者は、これらをどう思われるか。 ちなみに、現在の長期国債利回りは、10年債で0.82%、20年債で1.72%、30年債でも1.85%だ。アベノミクスの効果を信じて、将来のインフレ率の上昇を予想するのはシナリオとしてあり得るものの1つではあろうが、必ずそうなるとは限らない。 それよりも重要なのは、資産の運用は現在も含む当面の期間について現実に行われるものだということだ。現状では、長期国債、あるいは超長期国債でも上記のような利回りにしかならないのだ。 また、現在の金利が、たとえば3%まで上昇する過程では、債券価格の下落に伴う大きな損失が生じるはずだ。年利3%で幸せに運用できるのは、その後の話だ。 基本ポートフォリオが長期を想定した運用計画だとしても、現状では不可能なリターンを前提条件として「これで運用できるとしよう」としてお金の運用を考えるのは、不誠実ではないだろうか。 一般常識で考えてみよう。他人のお金を預かって運用しなければならないときに、不確実性を伴うが好都合な将来の予想利回りと、現実に運用可能と思われる程度の利回りと、2つの想定利回りがあるとしよう。この場合、楽観的な予測よりも、より厳しいほうの利回りを前提条件として運用方法を考えるのが、普通のやり方ではないか。 率直に言って、筆者は現時点で「国内債券」の運用利回りを3%と想定するような人を信用して、自分のお金を預けたいとは思わない。国民の大多数も、そうではなかろうか。 続いて、現在限りなくゼロに近い利回りでしか運用できない「短期資産」の期待リターンは、1.9%とされている。これは、長期金利3.0%から過去の長短スプレッドの平均である1.1%を引いて求めたものだとされているが、こちらも現実的に運用可能な利回りでは全くない。 その他の資産の期待リターンは、「国内株式」が4.8%(長期金利3.0%+長期金利スプレッド1.8%で決めたらしい)、「外国債券」が3.2%(短期金利+リスクプレミアム1.3%)、「外国株式」が5.0%(短期金利1.9%+リスクプレミアム3.1%)となっている。 これらの数字にもツッコミどころはあるが、前提条件の「嘘」がわかりやすい「国内債券」と「短期資産」の2つで十分だろう(合計で全体の65%にもなる)。 非現実的な厚労省の計算 「嘘」の理由と弊害 それにしても、学者に実務家も加わった「識者」たちが、このような明らかにおかしな前提条件を基に公的年金の運用を考えるのは、なぜなのか。 筆者の推測を言うと、厚労省による年金財政の検証条件と辻褄を合わせるためだろう。 厚労省は、年金積立金の運用に関して一定の前提条件を仮定して年金財政について計算し、「これで大丈夫だ」という結果を得ているが、この条件が非現実的なのだ。 そして、GPIFの運用委員会が非現実的な前提で基本ポートフォリオをつくり、これで年金財政の前提条件に合致した運用が可能であるかのような体裁を整えることで、公的年金制度全体の嘘が追認される仕掛けになっている。 当たり前のことだが、年金財政についての計算に使う想定利回りは、運用の実情(リスクを勘案してなお現実的に目指すことができる期待リターンなど)を踏まえたものであるべきだ。 「国内債券の期待リターンが3%」「短期資産の期待リターンが1.9%」といった前提条件は、おとぎ話の「裸の王様」が自分では着ていると思っている架空の着物のような、たちの悪い冗談だ。 年金積立金は裸では困るし 厚労省は王様ではない 運用について知らないふりを続ける嘘つきなら、「“長期の”運用が前提だから、これでいいのだ」と言い張るかも知れない。 しかし、運用計画を立てる際の「期間」をどの程度の長さに想定するかは、ポートフォリオで可能な調整速度を基に考えるべきものだ。 現実のポートフォリオは、前提条件の変化に合わせて変化させることがある程度可能であり、たとえば「5年以上そのまま」といった前提条件の下に、まして現実にあり得ない平均リターンを想定して運用計画を考えるべきものではない。GPIFの資産は確かに巨額だが、債券でも株式でも年間に数兆円程度の増減は可能だ。 嘘の弊害は、年金運用と年金制度の両方に及ぶ。GPIFにプロフェッショナルな運用人材が必要であるとか、公的年金資産をもっと有効に運用すべきだといった意見(しばしば金融業者を儲けさせるための意見だが)を語る前に、年金運用の議論の前提にある明らかな「嘘」を排除することが大事なのではないだろうか。 年金積立金は裸では困るし、厚労省は王様ではない。 http://diamond.jp/articles/print/38862
第22回】 2013年7月17日 田中 均 [日本総合研究所国際戦略研究所理事長] 米中韓の関係強化で変わり始めたアジア情勢 ポピュリズムの克服に求められる「政治の決意」 近年、いずれの国においても高揚するナショナリズムを背景に勢いを増すポピュリズムが、外交に大きな影響を及ぼす傾向にある。外交は現実を踏まえて冷静で緻密な国益計算の上に成り立つべきものだが、はたしてポピュリズムを乗り越えることができるのであろうか。どの国においても政治の決意が試されている。
米中首脳会談に象徴される 東アジアの構造変化 現実を踏まえた戦略を 日本は、中国の台頭による東アジアの構造変化と中国リスクの大きさという現実を踏まえた戦略を、講じていかなければならない。 日本が直視すべき東アジアにおける構造変化とは、どのようなものだろうか。まず、中国の台頭とともに、米国にとっての中国の重要性は圧倒的に高まった。かつて米国の最大の経済的パートナーとして日本が占めていた地位(米国の貿易総額に占める割合や財務省証券の保有高など)は、中国にとって代わられている。 留学生の数も1990年代は日本が圧倒的に多かったが、今や中国は20万人近く、日本は2万人を数えるに過ぎない。中国系や韓国系などのアジア系米国人の人口は拡大しているが、唯一減少しているのは日系アメリカ人の人口である。 先月、習近平国家主席とオバマ大統領の初の首脳会談が、8時間にわたりカリフォルニア州サニーランドで行われた。米中間では首脳会談のみならず、戦略経済対話が国務・財務長官レベルで行われ、間断なき対話が続けられている。 日米のような同盟関係とは質的に異なると言っても、今や米中は世界で最も重要な二国間関係であることは認めざるを得ない。また、オバマ民主党政権は共和党政権、とりわけブッシュ政権のような、価値を尊重し同盟国関係を優先する政権とは異なり、実務重視の政権であることも理解しなければならない。 韓国もこうした東アジアの構造変化に、敏感に対応をしている。朴槿惠大統領は就任後、米国に次いで中国を訪問先に選び、中国重視の姿勢を示した。韓国にとってみれば、中国は最大の貿易パートナーであり、将来的にもそうなのだろう。 北朝鮮問題も様相を変化させてきている。中国は北朝鮮に対する姿勢を変えつつあり、国際社会と歩調を合わせ、北朝鮮に対して非核化のために圧力をかけるという方向性が見えてきている。この問題で中国の態度を変えたことが、中韓関係の距離を縮めたことも間違いがない。さらに、韓国は今や米中韓の戦略対話を熱心に推進するようになっている。 ASEAN諸国も、国によって中国との距離は異なるが、おしなべて中国との経済相互依存関係は強固である。南シナ海の問題もあり、中国の覇権主義的行動に対する警戒心は強いが、安全保障面で米国を東アジアに引き込んだことが安心感に繋がっており、中国を敵視していくという政策はとるべくもない。 経済の減速をはじめとする 中国の統治リスクと 大国主義の目覚め 同時に、我々は中国が多大な短期的及び中長期的な統治リスクを抱えていることも、認識すべきである。 短期的にはまず、経済の停滞が生じるのだろう。中国は過去10%を超える経済成長を達成したが、現在の五ヵ年計画では目標が7%に引き下げられている。4−6月期のGDPの伸び率は前年同期比7.5%と2四半期連続で伸びが鈍った。圧倒的に大きな所得格差がある中国では、成長率が7%を下回れば分配政策が困難となると言われる。不良債権問題も深刻である。 このような経済的困難が、社会問題に対する不満の引き金となる恐れもある。環境は劣化し、食品安全に対する懸念も大きい。中産階級が増えていくほどに、生活の質の問題が重要となる。そして、習近平政権が最優先課題に挙げる汚職問題。 ソーシャルネットワークが普及した中国では、政府による情報がコントロールされようとも、国民の不満が大衆運動に繋がっていく可能性は高い。そうなっていけば、共産党における路線対立・権力争いも激化するだろうし、ナショナリズムの矛先が外国に向くという可能性も存在するのだろう。 中長期的な構造問題、すなわち民主化的な改革が進んでいかないといった問題や、少子高齢化で生産年齢人口が減っていくなどの幾多の課題は、中国の情勢が中長期的にも流動化していく可能性を孕んでいる。 日本国内においては、外交の最大の課題たるべき「台頭する中国とどう向き合うか」という問いに対する答えのコンセンサスはない。中国の急速な経済成長と政治・軍事・経済的影響力の急速な増大を前に、国内では日中友好の雰囲気は急速に衰えた。 政権交代を実現した鳩山首相は、米国と一定の距離をおくと共に、東アジア共同体の掛け声のもとに中国との関係強化の動きを見せた。しかし、尖閣問題が日中関係を大きく損なった。 民主党政権の崩壊後成立した安倍政権では、共産党一党独裁政権への懸念は強く、民主主義的価値観を重視する外交として、ASEAN、豪、インド、欧州などとのパートナーシップの強化を重視する。 中国のナショナリズムは、どちらかと言えば大国主義への目覚めと言えるかもしれない。中国では日清戦争の敗北から100年間余を屈辱の歴史とし、日本をGDPで追い越した2010年は重要な意味合いを持つ。習近平主席が述べる「新型の大国関係」や「中国の夢」といった概念も、根底にはそのような大国主義の思いが色濃く存在し、警戒心を持たざるを得ない。 一方で、日本のナショナリズムは、失われた20年を経て国力が低下していくことへのフラストレーションと、表裏一体なのかもしれない。「主権や領土について主張を強めるべきだ」「他国に遠慮ばかりしていてはいけない」という論議も強くなっている。 主張すべきは主張するのは当然のことであるが、これがポピュリズムに陥ると、外交プロセスの中で日本が強い主張をしていることを国民に示すという方に重点が置かれがちである。外交は結果をもたらさなければ意味はなく、そのためにはプロセスについても、相手を過度に追い込むことがないような配慮も必要な場合がある。 TPPなど日本の抱える 難しい外交課題 国際主義に則り国民の説得を 日本の今後の外交課題は、国民を説得し、結果をつくるにあたり極めて難しい課題が多い。たとえば、TPPは関税撤廃を基本原則とする以上、コメなどの農業産品も交渉対象とせざるを得ない。 各国と交渉をまとめるためには、自由化について相当な覚悟がなければならないが、農家を含む農業関係者を説得することが必須となる。思い切った農業改革も進めていかなければならないだろう。 TPPは経済的意義と同時に、戦略的な意義も大きい。TPPが目的とするところは、自由主義経済体制の高度なルールを確立させるところにある。 知的所有権保護や投資、あるいは政府調達の透明なルール、さらには国営企業が民業圧迫とならないルールづくりなど、中国などの国営企業を通じて国家の介入が強い国家資本主義とは異なるルールの確立であろう。ポピュリズムを脱し、国際協調主義の路線が主導することができるかの試金石となる。 北朝鮮問題でも、中国の態度の変化は非核化を前提とする交渉の道を開くことになるかもしれない。その際には、日本はこれまで掲げてきたように、拉致、核、ミサイル問題の包括的解決のための交渉をしていかなければなるまい。 尖閣諸島の問題も、日中のナショナリズムが対決するというような事態は両方が避ける努力をしなければなるまい。尖閣諸島の主権問題で日本が譲歩する余地はないが、緊張状態を平常に戻すために冷静な考慮を必要とするのだろう。 歴史問題や憲法改正 日本の拠って立つ 国家像の明確化が必要 外交は究極的には、指導者がどういう国家像を持つかによっても大きく変わる。特に日本の場合には、戦争を日本自身で総括することがなかったこともあり、政治家個々人の歴史観は異なる。 しかしながら、村山談話は日本政府の歴史認識として総括され、その後20年近く歴代内閣によって継承されてきた。したがって、村山談話自体も歴史として尊重されるべきだろう。 憲法を時代の要請に合わせて改正しようという動きは十分理解できるが、憲法のどの部分をどう変えていくのが時代の要請なのかということをはっきりと示すことが、国民的議論を活発化するためには必要だろう。 外交を能動的に進めていくためにも、日本が拠って立つ場所を明確にする必要がある。東南アジア諸国の有識者たちは、日本を尊敬するのは、戦後70年の日本のはたしてきた役割の故であるという。 日本は平和憲法に基づき、一発たりとも海外で銃を発射することはせず、戦後25年で世界第二の経済大国に上り詰め、世界で有数の技術大国となり、世界で有数の格差の少ない国をつくり、厳しい環境問題を克服し、政治的紐のつかない援助で途上国の国造りに貢献した。日本は圧倒的に質の高い国であり、東南アジア諸国のモデルである。 こうした日本に対する海外の評価を、大事にするべきではないか。今後日本が時代の要請に合わせた変化をしていくとしても、戦後70年の歴史から断絶するべきではないだろう。このような歴史の延長上に、日本の国家像を構築していくことが求められているのではなかろうか。
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