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日系企業も多数く入居する上海市内の高層オフィスビル群。華やかな外観とは裏腹に、中国の「労働契約法」の規定で事実上、人事権を行使できずに経営麻痺に陥った日系企業が続発している(河崎真澄撮影)
中国の「労働契約法」規定で人事権喪失!? 経営麻痺に陥る日系企業
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20130714/frn1307141456001-n1.htm
2013.07.14 夕刊フジ
【ダイナミック上海】
これまで中国で日系企業が巻き込まれる労使トラブルといえば、賃上げや待遇改善の要求を掲げたデモやサボタージュが大半だった。ところが最近、日系企業の組織運営まで、やすやすと麻痺(まひ)させる予期せぬトラブルが続発。中国ビジネスの難しさを改めて突きつけている。
■事実上の乗っ取り
「事実上の乗っ取りだ」。化学分野のある日系企業幹部は声を震わせた。十数年前の中国進出時に採用し、その後メキメキ頭角を現した日本留学経験のある中国人スタッフは現在、上海法人で副総経理(副社長)まで上りつめている。信頼を寄せた男だったが、第三者からの指摘で、契約にからみ邦貨換算で少なくとも数百万円の裏金が渡った疑惑が浮上。地方工場の管理部門に配置転換の上、上海法人の営業や経理、財務の人事制度を抜本改革しようとした。
ところがその副総経理は管理職に昇進していた中国人スタッフほぼ全員を集め、配置転換や制度改革を撤回しない限り従業員全員によるストに入ると経営側に迫ったという。「ストで銀行や税務署、顧客とのやりとりなどすべてを停止されると、中国事業が立ち行かなくなり、場合によっては契約先から契約不履行で訴えられる」と弁護士と相談の上で判断し、結局、不正を働いたはずの副総経理の処分や制度の改革を見送った。
その後の調査で中国人管理職の大半が不正な裏金ルートにからんでいたことが分った。日本人幹部は、「脅迫に屈したも同然」と悔しさを募らせる。
地元弁護士によると、こうした新手の労使トラブルは「労働契約法」が施行された2008年1月から徐々に浸透し始めたという。労働契約法では、従業員採用時に労使が結ぶ書面による雇用契約は、どちらか一方の意向だけでは変更できない。社内処分などの配置転換、降格や減給も従業員側が拒否すれば法的には認められなくなる。
■労働契約法のくびき
日本国内では企業内の人事権の行使が、組織運営上、重要なカギを握るのに対し、中国では事実上、経営側が人事権を喪失したと同じだ。前述のようなケースは、上海で日系企業の中国人総務スタッフが定期的に開いている情報交換会などで直ちに伝わるといい、「中には他の日系企業で経営側が折れた手口を悪用する例もある」(地元弁護士)ため、日系企業の経営者には警戒感が広がっている。
電子部品メーカーでは、中国人従業員2人が本人の不注意で数百万円もする自社商品を破損させ、会社に損害を与える事故を起こした。1人は始末書にサインし、もう1人はサインを拒否。その後、この2人は3度に渡って同じ破損を繰り返し、業を煮やした会社が2人を解雇したところ、2人が別々に不当解雇と会社側を訴えてきた。
裁判所の判決では、「労働契約法」に基づき、始末書を書いた従業員は非を認めたので解雇は正当。しかしサインを拒否したもう1人は非を認めていないので解雇は不当という判断が下され、誰もがアッと驚いた。判決後、その企業の従業員はだれも始末書にサインしなくなったというオチもついている。
■日本人まで不正に加担
日本人の経営側が加担したと疑われるケースもある。精密機械大手の上海法人では、中国人の若い女性財務部長に学歴詐称と財務当局に提出する資格証明の偽造疑惑が表面化したが、逆にこれを日本人の副総経理が握りつぶしたという。女性財務部長へは減給処分だけで終わったが、この問題を指摘した現地採用の管理職は逆に、解雇処分までチラつかされている。解雇処分は「労働契約法」で回避できても疑惑は残る。「財務部長を巻き込んだ粉飾決算の恐れがある」とささやかれている。
有能な中国人スタッフを関連会社に転籍させ、管理職に昇格させようとしたところ、契約先変更になるとして割り増し退職金を要求された電機メーカー、虚偽とみられる診断書をタテにした中国人女性従業員の長期にわたる“病欠”でも給与は払い続けねばならない中堅貿易会社など、あの手この手でカネをひねりだそうとする従業員は増殖中だ。同時に裏金ルートなど何らかの不正に手を染める日本人管理職も増えているという。
反日デモが吹き荒れた昨年秋以降、日系企業を標的にしやすい険悪な空気が中国に横溢(おういつ)している。信頼できる有能な中国人の管理職や従業員が過半であることも事実だが、ひとたび問題が起きれば「信頼していた人物なのに」では済まされない事態が起きる。多くの日系企業は脇が甘く、振り回されやすい問題が根底にある。事実上、人事権を行使できず、組織の粛正もできない中で、それでも数字を上げろと日本の本社から要求される異常な事態は今日も続く。(上海 河崎真澄)
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