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参議院選も自民党の圧勝に終わりそうだが、アベノミクスは続くのか(昨年の衆院選、撮影:尾形 文繁)
アベノミクスに騙されるな、デフレが日本を救う
http://toyokeizai.net/articles/-/15428
2013年07月13日 柿沼 茂喜 :東洋経済 記者 東洋経済オンライン
5月23日に日経平均株価が1143円の大暴落を演じて以降、日本の株式市場の景色は一変した。アベノミクスへの期待感は剥げ落ち、株価は今なお、日本経済の本当の実力を測りかねているかのようだ。
一方、この間、中国のシャドーバンキング(影の銀行=銀行を介さない金融取引)問題が浮上するなど、外部環境は激変しつつある。中国は景気減速感も強まり、シャドーバンキングによる金融バブルが崩壊すれば、世界経済や株式市場に与える影響は、米国のサブプライムローン問題やリーマンショックに匹敵するとの見方さえ出ている。
従来から自身の著書などで、アベノミクスやリフレ政策を批判し続けてきたほか、このほど『中国自壊――賢すぎる支配者の悲劇』(東洋経済新報社)を刊行するなど、中国情勢にも詳しい異色エコノミストの増田悦佐氏に、アベノミクスの今後と株式相場の見通し、中国のシャドーバンキング問題の行方などについて聞いた。
――増田さんは、インフレと円安誘導を目指すアベノミクスを一貫して批判し、円高とデフレこそ日本にとって望ましいと主張しています。
日本ではかれこれ17〜18年もの間、デフレが続いている。だから日本はダメだ、一刻も早くデフレを克服しなければいけない、と主張する経済学者や知識人は多い。しかし、私は緩やかなデフレが続いている日本ほどいい国はないと思っている。デフレで名目賃金は下がっているが、(物価下落を考慮した)実質賃金はむしろ若干上がっている。
インフレの世の中というのは、おカネを借りられるような信用力の高い人が、おカネを借りれば借りるほどトクをする。インフレが続けば、借りたおカネの価値はそれだけ下がり、負担が小さくなっていくからだ。
デフレはその逆で、おカネを借りない方がいい。インフレのときは、自由におカネが借りられるのは政府や一流企業、金融機関のほか、個人でいえば一部の金持ちに限られ、多くの庶民は自由におカネを借りられるわけではない。つまり、インフレというのは、一部の人たちと多くの庶民とで優劣が分かれてしまう社会をもたらすのだ。
たとえば、アメリカは政策的にインフレを目指してきた国だ。その結果、(貧富の格差を示す)ジニ係数は日本よりかなり高く、主要国ではブラジルに次いで、中国と並ぶ高水準にある。
一部の金持ちへの富の集中はすさまじく、最新のデータによれば、所得上位1%の取り分が2割近くと、主要国でダントツとなっている。
一方で、ファストフード業界やレストラン・バー業界などで働く低賃金の人たちは増えている。また、インフレによって、医療サービスの価格や大学の授業料は値上がりしている。日本は人為的にインフレを起こして、こういう一部の選ばれた人だけがトクをする社会にしたいのだろうか。
――インフレを目指すリフレ派の考え方では、異次元の金融緩和で為替を円安に誘導することも、物価上昇をもたらすために重要とされています。
円安でインフレを招くというのは、バカげた考えだ。円安で輸入物価は上昇するが、それでトクをするのは、便乗値上げをできる業者に限られる。昨年秋からの円安進行で、たしかに輸入物価は上がっている。でも、過半数の業者は価格転嫁(値上げ)ができていない。
円安の結果、輸出が増えるという見方もあるが、実際はそれほど増えていない。昨年11月以降、対ドルで円は約25%下落し、他通貨に対してもおおむね10〜15%下落している。ところが、円換算の輸出額は、数%しか増えていない。現地通貨ベースの輸出額や輸出数量は減っている。
日本で生産される最終消費財は、円安で輸出が増えるような状況ではない。日本の電機メーカーがつくる最終消費財などは、技術的な優位性はほとんどなく、低廉な労働力を利用できる国でつくったほうが、競争力があるに決まっている。それを見誤った経営者が悪いのであり、いまさら円安で輸出を伸ばして生き延びようなんておかしい。
そもそも好景気のときは、インフレ、高金利になることが多かった。好景気でインフレや高金利になるのは、インフレも高金利も景気が過熱して急激に経済が悪化することを防ぐ自動制御装置だからだ。インフレにも、高金利にも景気をよくする機能はない。無理矢理インフレにして、景気をよくするという考え方はおかしい。順番が逆だ。
――自民党は国土強靱化計画で、財政支出や公共事業も拡大する方針を打ち出しています。この点についても、強く批判していますね。
公共事業を拡大すると、その恩恵を受けると見られている建設業や農業の労働生産性は下がってしまう。公共事業を増やして、非効率なことをやらせるからだ。非効率を生む最大の要因は、1966年に施行された「官公需法」の存在だ。この法律に基づき、国や地方自治体がモノを購入する際には、一定の比率以上を中小企業から購入しなければいけない。この比率は以前よりも上昇している。国や自治体は、まともな施工能力のないような中小企業に発注することもあり、当然、その中小企業は大手に丸投げして手数料だけ確保する。こうした積み重ねで非効率が生まれ、労働生産性は下がることになる。
もちろん、利用頻度が高く経年劣化したトンネルや橋のメンテナンスは重要だ。しかし、国土強靱化を口実にして、全国各地に50万人規模の都市を新たにつくるというのは、おかしな話だ。まっさらなところに新たな都市をつくるよりも、東京、大阪のような利便性の高い生活基盤をすでに備えた都市をもっと生かすべきだ。市場経済が機能してきた結果、仮に無駄な施設などをつくったとしても、結局は淘汰されて人が本当に必要とする施設が生き残ってきたのだ。それを活用すべきではないか。
■アベノミクスに期待してだまされる、大企業や知識人
――アベノミクスへの期待感から昨年11月以降、約8割も上昇した日経平均株価は、5月22日に1万5627円(終値ベース)の年初来高値を付けてから調整局面に入りましたが、6月13日の1万2445円を底値にこのところ戻り歩調です。今後の株価をどのように予想しますか。
たぶん、年内に日経平均が5月22日の高値を更新するのは、無理だろう。アベノミクスに期待しているのは、外国人投資家だけだ。彼らが昨年11月以降、日本株の上昇を支えてきた。ただ、外国人は上がり始めてから日本株を買っているので、トータルで見れば昨今の調整で損をしているのではないか。
これに対して、国内の個人投資家は賢い。主体別売買動向を見ると、個人投資家は2012年夏頃から売り越しとなっている。過去を長いスパンで見ても、国内の個人投資家は株価の動きを読みながら、絶妙な投資行動をとってきた。たとえば06年には買い越しだったが、株価が調整する直前の07年にはすでに売り越しに転じていた。
最近の各種アンケートによれば、日本人のおよそ8割は、「アベノミクスでインフレになる」と予想している。ところが、その8割、つまり全体の6割強は「インフレになると困る」と回答している。つまり、日本人の多くはリフレ政策を支持していないのだ。アベノミクスに期待して、そしてだまされているのは大企業や知識人だけであり、庶民は決してだまされていないわけだ。与党は参議院議員選挙(7月21日)に勝利するだろうが、その後はアベノミクスも、本当に日本にとって有益なのか、政策の本質が試されるだろう。(下に続く)
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