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コラム:FRB議長発言は避難訓練か誤警報か=カレツキー氏 (ロイター) 
http://www.asyura2.com/13/hasan80/msg/902.html
投稿者 赤かぶ 日時 2013 年 7 月 12 日 20:37:00: igsppGRN/E9PQ
 

http://jp.reuters.com/article/jpchina/idJPTYE96B02X20130712
2013年 07月 12日 12:41 JST ロイター


アナトール・カレツキー

[11日 ロイター] - グリーンスパン前米連邦準備理事会(FRB)議長は、米国の金融政策に関して「明快なメッセージを送りましたね」とほめられた場合はいつでも、「あなたがそう考えるなら、それはわたしの発言を誤解している」という趣旨の答えを返すことを好んだものだった。だがバーナンキFRB議長は正反対のやり方が好きなようだ。

バーナンキ議長は5月22日、資産買い入れ(量的緩和)縮小の可能性に言及しながら、いつ縮小を始めるか腹案がないと認めたことで、金融市場に2008年以降では最大級のパニックを引き起こした。その後6週間かけて議長は、緩和縮小の正確なタイミングと縮小できるかどうかの諸条件について念入りに詳しく説明して、自らが招いた混乱を収拾しようと努めた。

ところがこの過程で議長はさらなる混乱と金融市場のボラティリティ拡大を生み出してしまった。今にして思えば、議長が余計なことは言わず、グリーンスパン氏流のあいまい戦術を真似していれば、世界経済に対してもっとずっと大きなプラスをもたらしてくれたであろう。

10日に公表された6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録では、緩和縮小の条件やタイミング、あまつさえ金融政策におけるいかなる変更をめぐる方向性に関して、非常に多くの意見の食い違いがあることが判明したので、緩和縮小をめぐる最近の当局者による講演や会見が、ホワイトノイズ(極めて不規則な雑音)と受け取られたのも、むべなるかなの感がある。

これはなぜ投資家が一連のすべての混乱に強く反応したのかという問題を提起している。そして最近の世界中で見られた市場の動きからすると、一通りの説明がつく。つまり、FRBの緩和縮小自体は非常に重要な要素ではないが、バーナンキ議長の発言は金融市場に対する警報の役割を果たし、世界経済において忘れ去られたり無視されていたさまざまなリスクに注意を向けさせたということだ。われわれが火災警報を耳にすれば、おのずと次の点を自問する。それは間違いの警報ではないか、または避難訓練なのか、はたまた本物の火事か、もし火事ならどこで起きているのか。

同様の疑問は、米国の量的緩和縮小についての懸念を分析する何らかのヒントになるかもしれない。米株式市場にとっては、バーナンキ議長の5月の発言が間違いの警報であったのは明らかだった。6月のFOMC議事録で確認されたように、FRBは金融引き締めを決める段階には全然近づいていなかったからだ。それゆえ米株価が議長発言前の最高値圏まで反発したのも不思議ではない。とはいえ、米株式市場の外に踏み出してみれば、緩和縮小観測は間違いの警報というよりも、避難訓練の様相が濃くなるように思われる。

世界は中央銀行が永遠に国債を買い続けることはないのだと思い出したため、長期金利は急上昇している。この考えに基づき、10年もしくはそれ以上の期間の国債に資金を振り向けている投資家は今、フェデラルファンド金利より2.5─3%ポイント高いプレミアムを要求しつつある。

経済環境が米国でその様相を呈しているように正常化するのに伴って、こうした期間プレミアムが急上昇するのはまったく自然で、かつ健全な動きといえる。しかし米長期金利の自然な上昇がもし突発的に起きたり、上昇が行き過ぎれば問題だ。だからこそバーナンキ議長は、住宅市場や米金融機関の長期金利上昇に対する脆弱性を試すことで米国のために尽力したのかもしれない。

一方で欧州、日本、英国といったより経済基盤が軟弱な地域では、各中央銀行は長期金利上昇に抵抗する必要があることをFRBによって知らされた。彼らの経済はまだ米国ほど金利上昇への備えが整っていない。欧州中央銀行(ECB)とイングランド銀行(英中央銀行、BOE)が、バーナンキ議長の避難訓練に対応して起こした行動がまさにそういったことだ。

もっとも欧米から新興国市場に目を転じると、避難訓練のたとえはあまりに自己満足に過ぎるように見える。新興国市場ではバーナンキ議長が最初に緩和縮小に触れて以来、通貨や株式、債券の相場が総崩れで、消費者と企業の信頼感も連動して落ち込んでいる。恐らくは、過去2カ月にわたる金融市場の警報は本当に危険を告げているのだろう。危険が存在するのは米国もしくは欧州ではなく新興国、とりわけ中国だ。

突如として投資家やグローバル企業の頭から離れなくなっている最大の心配は、シャドーバンキング(影の銀行)システムを規制しようとしている中国当局による締め付けが行き過ぎてしまう可能性といえる。そうなればリーマン・ショックのような金融面の大崩壊か、中国が次の成長局面で頼りにしなければならない民間の消費関連企業における惨憺たるクレジットクランチ(信用逼迫)のどちらかが起きる恐れがある。これらのリスクは、一連の文字通りの「中国のパラドックス」を浮かび上がらせる。

中国の民間企業は、輸出や重工業の落ち込みで生じた経済の穴を埋める役割が期待されている。だがこうした企業は、大手国営銀行からの融資を拒絶される傾向があるため、影の銀行システムに大きく依存している。だから中国当局が影の銀行システムを制御しようとする努力は、金融安定化には不可欠であるものの、これからの経済成長に向けて頼りになる民間企業を窒息させてしまいかねない。

中国政府としては、国営銀行に融資先をインフラ、不動産、輸出業者から消費関連の民間セクターに強制的に転換させることで、こうした問題を克服しようとするかもしれない。ただ、金融システムの統制主義を強化して民間市場経済の成長を促すという点には明らかに矛盾がある。そんな矛盾からうかがえるのは、中国の共産党支配に基づく資本主義が限界に達しつつあるのではないかという憂慮すべき可能性だ。

中国はこの30年の諸改革においてこうした数々の矛盾の解決に成功しており、今度もうまくいく公算は大きい。それでも、国営企業と銀行が支配する投資主導の経済から、民間企業主体の消費主導経済への移行を進めようとする中で、中国の経済モデルに根本的な不具合が起きることは、世界経済が現在直面している最大のリスクだろう。

ユーロ解体と同じく、これは蓋然性は低いが発生した場合の影響は甚大だ。それに比べればFRBが自らの金融政策に関して決断を下すか下さないかなどは脇道の問題にすぎない。最近の市場の動きから判断すると、投資家はこうした結論にたどりつきつつある。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。


 

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コメント
 
01. 2013年7月14日 01:26:45 : mHY843J0vA
ゼロ金利下におけるインフレ予想と家計支出の関係
:マイクロデータによる分析
2013年7月12日
一上響*
西口周作**

全文掲載は、英語のみとなっております。

全文 [PDF 568KB]
http://www.boj.or.jp/en/research/wps_rev/wps_2013/data/wp13e11.pdf
要旨

標準的な理論モデルによれば、ゼロ金利制約下では、インフレ予想が高まるほど、家計支出水準が引き上げられるはずである。もっとも、米国のマイクロデータを用いた最近の実証研究では、こうした関係は支持されていない。本稿は、低金利が長く続いている日本のマイクロデータを用い、様々な要因をコントロールした順序プロビットモデルを推計した。その結果、インフレ予想が高い回答者ほど、家計支出が1年前と比べて増えたと回答し、先行きは減らすと答える傾向が示された。これは、標準的モデルの結論を支持するものである。また、そうした関係は、資産家とシニア層で、相対的に強いことを示唆する結果も得られた。

キーワード
インフレ予想、サーベイデータ、金融政策、ゼロ金利制約、日本

* 日本銀行企画局 E-mail : hibiki.ichiue@boj.or.jp
** 日本銀行企画局 E-mail : shuusaku.nishiguchi@boj.or.jp


02. 2013年7月14日 01:37:57 : mHY843J0vA
CPIとGDPデフレーターにおける乖離について -家計消費デフレーターとCPI-
2013/07/12

小巻 泰之
日本大学経済学部教授 ニッセイ基礎研究所客員研究
 

基礎研レポート2013年07月12日 http://www.nli-research.co.jp/report/nlri_report/2013/report130712-3.pdf
■要旨

金融政策で消費者物価指数(以下、CPI)の変化率は重要な政策変数として注目されている。特に,日本銀行による「量的・質的金融緩和」の導入によりCPIへの注目は高まっている。

物価指標については従来からCPIの他、GDPデフレーターが注目されてきた。これら2つの代表的な物価指標であるCPIとGDPデフレーターは、捕捉範囲や作成方法の違いから、両統計には乖離があることが知られている。CPIとGDPデフレーターを比較すると、2000年以降、概ねCPIは種々のデフレーターの上方に位置している。また、2007年7-9月期以降CPIが上昇(下落)する局面で種々デフレーターは下落(上昇)するなど、全く異なる動きを示している。さらに、対象範囲が最も近い国内家計最終消費デフレーター(以下、HDCデフレーター)とCPIでさえも、デフレと言われる期間において概ね0.77%程度(2002年1-3月期〜2012年1-3月期の平均)乖離している。

両統計の乖離は、一見、1%を下回る些細なものとみることができるが、リーマンショック前後の一時期を除けば、概ねCPIの変化率は±1.0%の範囲で推移しており、この乖離は決して小さなものではない。事実,両統計の乖離は、これまでも金融政策の変更や決定で、「GDPデフレーターがマイナスであるのに、CPIがプラスだけで政策変更しても良いのか」といった議論がみられてきた。

両統計の乖離は、総務省資料や土肥原・他(2006)等で指摘されているように、(1)ウエイト、(2)指数算式、(3)対象範囲及び概念の違い、等から生じているとされている。一般的には両統計の乖離は所与として物価及び経済動向が判断されることが多く,乖離原因を詳細に検討した先行研究は多くない。そもそもCPIとHDCデフレーターは異なる尺度により物価動向を測っているのであろうか。物価動向などに関する異なった情報を得ることができるのであろうか。

他方、両統計の乖離は、ウエイトや指数算式を合わせれば縮小するのであろうか。特に、CPIの指数算式をパーシェ型に変更すればHDCデフレーターとの乖離は縮小するのであろうか。

本論では,両統計の乖離原因を明確にすることにより,両統計の乖離が前提(所与)として物価動向などが分析されている現状についての適否を検討する。

本論で得られた乖離の原因をまとめると以下の通りである。形態別消費データを用いた試算が可能な2007-2012年の乖離全体1.09%の内、0.60%程度は説明可能である。具体的には、

@ HDCデフレーターとCPIで変動が異なるのは「住宅・電気・ガス・水道」、「家具・家庭用機器・家
事サービス」、「娯楽・レジャー・文化」及び「その他」の4分類。残りの8分類でCPIとHDCデ
フレーターを比較すると、ほとんど同じ動きとなる。

A 指数算式の影響が強いのは価格下落率の大きい耐久財に限定される。両統計の耐久財における単純
な変化率の乖離は2.59%である。耐久財のウエイト(CPI5.5%、国内家計最終消費デフレーター9.5%、
2005年基準)を考慮すると、耐久財における両統計の差異は0.44%程度となり、乖離全体の半分程
度を占める。

B 仮に、CPI の作成で HDC デフレーターの変化率を利用した場合でも、両統計には 0.24%程度の乖
離が残る。この乖離はウエイトの差異が原因であり、指数算式の影響は 0.20%程度といえる。価格
下落率の大きい IT 関連商品は比較的若い単身世帯が IT 関連消費を牽引していることから、全世帯
のウエイトを用いるHDCデフレーターではCPIより下落幅が大きくなる可能性がある。

C 持家の帰属家賃の変化率はCPIの方が常に0.92%程度高い。CPIでHDCデフレーターの持家の帰
属家賃の変動を用いれば、CPIを0.15%程度下方に移動させる。なお、ウエイトの水準(CPI14.2%、
HDC デフレーター16.1%、2005 年基準)は大きいものの、両統計の差異は小さくウエイトの影響
はほとんどない。

その結果、CPI全体(再構築及び推計)とHDCデフレーターとの比較については、

D 種々の平仄を合わせた両統計の比較を行うと、形態別消費で耐久財のみ連鎖方式を用いると未調整
で1.09%の乖離が0.45%程度(2007-2012年平均)までと大きく縮小している。特に、2008年に見
られた輸入物価が高騰した時期はほとんど一致した動きとなる。

E 耐久財については、連鎖ラスパイレス方式CPI(試算値)とHDCデフレーターの動きとほぼ一致し
ており、ラスパイレス方式CPIの有効性が確認できる。

F 直近の国勢調査(2010年調査)によれば、単身世帯(若年層)がさらに増加している様子がうかが
える。これらの階層は価格下落の大きいIT関連商品の購買層であり、今後とも、CPIとHDCデフ
レーターの乖離を拡大させる要因となろう。

CPIとHDCデフレーターとの乖離(平均-1.09%)は、@指数算式(-0.20%)、Aウエイト(-0.24%)、
帰属家賃の推計方法(0.15%)を調整すれば、CPIとデフレーターの乖離は-0.45%程度i
まで縮小が可能であり、時期によってほぼ一致している。両統計は同じ家計消費の物価動向を表現していると考えられる.

特に、乖離の主因とされる指数算式の影響は乖離全体の 21%程度しか説明できず、仮に CPI の指
数算式をパーシェ型に変更したとしても、HDCデフレーターとの乖離は0.9%程度残存することを意
味している。つまり、CPIは上方バイアス、デフレーターは下方バイアスとする指数算式の違いを乖
離の主因とする見方は十分とはいえない。
2つの代表的な物価指標の乖離を比較検討することはCPIによる物価動向の判断を整理する上でも
重要であると考える。そこで、本稿に続く小巻・矢嶋(2013b)では、 GDPデフレーターとCPIと
の乖離における残りの問題点として、金融サービスなどCPIでは非消費支出扱いとなっている項目や,
輸入ウエイトの取り扱いの差異が両統計に与えるウエイト面の影響の他,パーシェ型及びラスパイレ
ス型連鎖方式における指数算出方式の影響について問題を検討する。

i
この数値は2007-2012年のデータにウエイト及び帰属家賃などの調整した試算CPIと連鎖デフレーター(公表値)との期間平均である.


03. 2013年7月16日 04:01:23 : niiL5nr8dQ
コラム:FRB次期議長に託される緩和出口の視界不良=鈴木敏之氏
2013年 07月 12日 19:43 JST 記事を印刷する | ブックマーク | 1ページに表示 [-] 文字サイズ [+]

7月12日、三菱東京UFJ銀行・シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏は、目下話題となっている引き締め方向の米金融政策は、経済状態の改善を背景に来年の中間選挙で勝利を目指すオバマ大統領の意向と整合しない可能性が出てくると指摘。提供写真(2013年 ロイター)
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鈴木敏之 三菱東京UFJ銀行 シニアマーケットエコノミスト(2013年7月12日)

来年1月31日に、バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長の任期が切れる。オバマ大統領がバーナンキ議長を再指名し上院が承認すれば、法律上はさらに4年の任期を得られる。しかし、大統領も議長本人も現時点でその再任の意向を明確にしていない。

大統領は、議長退任をほのめかす発言も行っている。このため、市場参加者は議長交代を視野に入れて、行動しなければならなくなっている。

当然、最も関心が高いのは、誰が次期議長に指名されるかだ。イエレン現FRB副議長、サマーズ元財務長官、ガイトナー前財務長官、ファーガソン元FRB副議長、コーン元FRB副議長の名前があがり、そしてバーナンキ議長が3期目の指名を受ける可能性もあるというのが、いわゆる下馬評である。

<大統領の意向と整合しない可能性>

さて以下に述べるように、今回の人選が持つ意味合いは非常に大きく、誰が指名されるかで話は終わらない。

第一に、2期目の中間選挙を過ぎれば通常レームダックであるとはいえ、オバマ大統領は来年の中間選挙で下院の優勢を回復できないと、「実績の乏しい大統領」で終わってしまいかねない。中間選挙に勝利し議会を取り戻し、残りの2年でめぼしい実績をあげるには、経済状態をできる限り改善する必要があり、そのためにはFRB次期議長の人選は最も重要な選択になる。目下話題となっている金融緩和の縮小、出口政策、金融政策の正常化という引き締め方向の政策は、オバマ大統領の意向と整合しない可能性が出てくる。

第二に、議会の承認の審議中に、大きな政策変更をしなければならない可能性があることは、前々回のグリーンスパン議長からバーナンキ議長への交代時、そして前回のバーナンキ議長の再任時とは異なる。

グリーンスパン議長からバーナンキ議長に交代した際は、0.25%ずつの利上げをしていた最中で、市場の誰もが次の連邦公開市場委員会(FOMC)での政策を読み切っていた。次期議長が誰かということだけで、当座の政策が変わることを想定する必要はなかった。前回のバーナンキ議長の再任時は、まだ危機対応が手を抜けない状態であり、同一人物でもあるので、やはり政策変更は懸念ではなかった。

しかし、今回は緩和縮小を決断しなければならない時と、米議会による次期議長の承認審議が重なりかねない。緩和縮小の決断は次期議長の指名前になされるかもしれないが、次期議長が議会で縮小の進め方、正常化の進め方を述べている最中に市場が大きく動揺すると、承認が円滑になされない可能性がある。

また、承認時の議会での次期議長候補の発言が、地に足のついたものでないと、承認後、就任後の正常化の進め方が制約されてしまう。もしかしたら、承認時に公聴会で言った正常化の進め方が、大きく意見の割れているFOMCの意向と合致せず、議会に表明したことと異なる政策を迫られることに、新議長は悩むことになるかもしれない。

<見えない候補者たちのアジェンダ>

第三に、万一の時の金融緩和の方策について、アイデアの有無が問われることである。国際通貨基金(IMF)は、9日に発表した世界経済の見通しで、4月の数字を下方改訂した。13年に3.3%成長との従来予想を、3.1%成長に引き下げた。米国の見通しについては、13年を1.9%から1.7%に、14年を2.9%から2.7%に引き下げている。米国のインフレ率は、デフレが警戒されるほどに低下している。

今、市場は量的緩和第三弾(QE3)縮小を当然と見切っているが、そこまで確信できるほど経済は強くないかもしれない。ここで、新議長は大きな課題に直面する。もしかすると、米国の潜在成長力は低下しているかもしれないが、物価上昇率が低下している以上、余剰労働力、経済の余剰供給能力が存在すると見られ、何らかの金融緩和のアイデアを持っていなければならないということだ。

金利はゼロ、QEは有効性こそあるものの弊害が大きいとしてバーナンキ議長は撤退を迫られている。将来にわたってゼロ金利を続けることを表明するフォワードガイダンスが、結局のところ採用可能な緩和策となる。しかし、フォワードガイダンスは、強めたり弱めたりすることが困難な政策である。何か大きなショックがあったときの対応手段でもない。

バーナンキ議長は、証券購入(QE)と、フォワードガイダンスの二本柱でやってきたが、今のFOMCでは追加的なQEは難しくなっている。次期議長は革新的な追加緩和のアイデアを持っていなければならないが、その点は、失望に終わるかもしれない。

さらに、もしも多くが予想する通りイエレン副議長が新議長として指名されると、副議長が空席になる問題が起きる。副議長は、政策の方向づけを左右する要職である。コーン氏が副議長であったがゆえに、バーナンキ議長は、なかなかインフレ目標を取り込みきれなかったとされる。イエレン副議長が議長指名を受けた場合は、誰が副議長になるかという不透明感が広がることになる。

最後に重要なことを言い添えれば、次期議長の人選で最大の注目点は、その人物の持つ金融政策に関する「アジェンダ」である。バーナンキ議長は、自己の専門分野での主張通りに恐慌を回避させ、インフレ目標も導入した。バブルについては、収縮後は金融緩和で対処する、いわゆる「FEDビュー(後始末戦略)」に沿った政策を進め、今日の雇用の回復、住宅市場の回復をもたらしている。これも持論の実践である。

経済博士号を持ち、米国の中央銀行制度に携わった経験のある人物を次々に登用して、恣意で動かしにくい仕組みも構築した。議長として、アジェンダはやり終えている。グリーンスパン前FRB議長は、徹底して自由な市場、経済を求めた。欧州中央銀行(ECB)のトリシェ前総裁は、物価安定を確保して任期を終えた。

中央銀行総裁は、アジェンダを実行する人たちなのである。このため次期議長がいかなるアジェンダを持っているかが重要なのだが、候補たちにパンチのきいたアジェンダが見当たらない。オバマ大統領が次期議長を指名し、そのアジェンダが判明したところで、市場参加者は今後の経済の見方を変えなければならないだろう。

*鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行市場企画部グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。
 


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