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http://jp.reuters.com/article/jpchina/idJPTYE96B02X20130712
2013年 07月 12日 12:41 JST ロイター
アナトール・カレツキー
[11日 ロイター] - グリーンスパン前米連邦準備理事会(FRB)議長は、米国の金融政策に関して「明快なメッセージを送りましたね」とほめられた場合はいつでも、「あなたがそう考えるなら、それはわたしの発言を誤解している」という趣旨の答えを返すことを好んだものだった。だがバーナンキFRB議長は正反対のやり方が好きなようだ。
バーナンキ議長は5月22日、資産買い入れ(量的緩和)縮小の可能性に言及しながら、いつ縮小を始めるか腹案がないと認めたことで、金融市場に2008年以降では最大級のパニックを引き起こした。その後6週間かけて議長は、緩和縮小の正確なタイミングと縮小できるかどうかの諸条件について念入りに詳しく説明して、自らが招いた混乱を収拾しようと努めた。
ところがこの過程で議長はさらなる混乱と金融市場のボラティリティ拡大を生み出してしまった。今にして思えば、議長が余計なことは言わず、グリーンスパン氏流のあいまい戦術を真似していれば、世界経済に対してもっとずっと大きなプラスをもたらしてくれたであろう。
10日に公表された6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録では、緩和縮小の条件やタイミング、あまつさえ金融政策におけるいかなる変更をめぐる方向性に関して、非常に多くの意見の食い違いがあることが判明したので、緩和縮小をめぐる最近の当局者による講演や会見が、ホワイトノイズ(極めて不規則な雑音)と受け取られたのも、むべなるかなの感がある。
これはなぜ投資家が一連のすべての混乱に強く反応したのかという問題を提起している。そして最近の世界中で見られた市場の動きからすると、一通りの説明がつく。つまり、FRBの緩和縮小自体は非常に重要な要素ではないが、バーナンキ議長の発言は金融市場に対する警報の役割を果たし、世界経済において忘れ去られたり無視されていたさまざまなリスクに注意を向けさせたということだ。われわれが火災警報を耳にすれば、おのずと次の点を自問する。それは間違いの警報ではないか、または避難訓練なのか、はたまた本物の火事か、もし火事ならどこで起きているのか。
同様の疑問は、米国の量的緩和縮小についての懸念を分析する何らかのヒントになるかもしれない。米株式市場にとっては、バーナンキ議長の5月の発言が間違いの警報であったのは明らかだった。6月のFOMC議事録で確認されたように、FRBは金融引き締めを決める段階には全然近づいていなかったからだ。それゆえ米株価が議長発言前の最高値圏まで反発したのも不思議ではない。とはいえ、米株式市場の外に踏み出してみれば、緩和縮小観測は間違いの警報というよりも、避難訓練の様相が濃くなるように思われる。
世界は中央銀行が永遠に国債を買い続けることはないのだと思い出したため、長期金利は急上昇している。この考えに基づき、10年もしくはそれ以上の期間の国債に資金を振り向けている投資家は今、フェデラルファンド金利より2.5─3%ポイント高いプレミアムを要求しつつある。
経済環境が米国でその様相を呈しているように正常化するのに伴って、こうした期間プレミアムが急上昇するのはまったく自然で、かつ健全な動きといえる。しかし米長期金利の自然な上昇がもし突発的に起きたり、上昇が行き過ぎれば問題だ。だからこそバーナンキ議長は、住宅市場や米金融機関の長期金利上昇に対する脆弱性を試すことで米国のために尽力したのかもしれない。
一方で欧州、日本、英国といったより経済基盤が軟弱な地域では、各中央銀行は長期金利上昇に抵抗する必要があることをFRBによって知らされた。彼らの経済はまだ米国ほど金利上昇への備えが整っていない。欧州中央銀行(ECB)とイングランド銀行(英中央銀行、BOE)が、バーナンキ議長の避難訓練に対応して起こした行動がまさにそういったことだ。
もっとも欧米から新興国市場に目を転じると、避難訓練のたとえはあまりに自己満足に過ぎるように見える。新興国市場ではバーナンキ議長が最初に緩和縮小に触れて以来、通貨や株式、債券の相場が総崩れで、消費者と企業の信頼感も連動して落ち込んでいる。恐らくは、過去2カ月にわたる金融市場の警報は本当に危険を告げているのだろう。危険が存在するのは米国もしくは欧州ではなく新興国、とりわけ中国だ。
突如として投資家やグローバル企業の頭から離れなくなっている最大の心配は、シャドーバンキング(影の銀行)システムを規制しようとしている中国当局による締め付けが行き過ぎてしまう可能性といえる。そうなればリーマン・ショックのような金融面の大崩壊か、中国が次の成長局面で頼りにしなければならない民間の消費関連企業における惨憺たるクレジットクランチ(信用逼迫)のどちらかが起きる恐れがある。これらのリスクは、一連の文字通りの「中国のパラドックス」を浮かび上がらせる。
中国の民間企業は、輸出や重工業の落ち込みで生じた経済の穴を埋める役割が期待されている。だがこうした企業は、大手国営銀行からの融資を拒絶される傾向があるため、影の銀行システムに大きく依存している。だから中国当局が影の銀行システムを制御しようとする努力は、金融安定化には不可欠であるものの、これからの経済成長に向けて頼りになる民間企業を窒息させてしまいかねない。
中国政府としては、国営銀行に融資先をインフラ、不動産、輸出業者から消費関連の民間セクターに強制的に転換させることで、こうした問題を克服しようとするかもしれない。ただ、金融システムの統制主義を強化して民間市場経済の成長を促すという点には明らかに矛盾がある。そんな矛盾からうかがえるのは、中国の共産党支配に基づく資本主義が限界に達しつつあるのではないかという憂慮すべき可能性だ。
中国はこの30年の諸改革においてこうした数々の矛盾の解決に成功しており、今度もうまくいく公算は大きい。それでも、国営企業と銀行が支配する投資主導の経済から、民間企業主体の消費主導経済への移行を進めようとする中で、中国の経済モデルに根本的な不具合が起きることは、世界経済が現在直面している最大のリスクだろう。
ユーロ解体と同じく、これは蓋然性は低いが発生した場合の影響は甚大だ。それに比べればFRBが自らの金融政策に関して決断を下すか下さないかなどは脇道の問題にすぎない。最近の市場の動きから判断すると、投資家はこうした結論にたどりつきつつある。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。
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