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2013年7月11日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] :ダイヤモンド・オンライン
自由民主党は、参院選の公約として、「大胆な法人税減税」を挙げている。また、経済同友会は法人税率を25%に引き下げるべきだとした。
前回は、実際の企業を見ると負担率が非常に低い企業もあることを指摘した。その原因として、前回は受取配当の益金不算入措置について述べた。今回は繰越欠損について述べることとする。
■リーマンショックで翌期繰越額が約20兆円増加
繰越欠損金制度は、当該年度の益金から控除しきれぬ損失が生じたとき、それを、将来の法人税計算において損金として用いることを許容するものだ。
企業会計においては、繰越欠損を企業にとってある種の資産とみなす処置(税効果会計)が取り入れられている。
繰り越すことのできる期間は、従来は7年間であったが、2012年4月から9年間になった。ただし、繰越控除前の所得の80%が限度とされた(中小法人は、従来どおり100%)。
受取配当の益金不算入措置の影響は年度によってあまり大きく変動しないのに対して、繰越欠損金の額は、経済情勢によって大きく変動する。とりわけ、リーマンショック後には、製造業において巨額の繰越欠損が生じた。
図表1に示すように、以前から、繰越欠損金の当期控除は10兆円台であり、翌期繰越額は、70兆円台でほぼ一定していた。
ところが、リーマンショックの影響で08年度に巨額の損失が発生し、この年度の翌期繰越額が90兆円を超えたのである。つまり、20兆円ほど増えたことになる。
その後、毎年度10兆円程度が取り崩されているが、繰越額は80兆円程度で不変だ。
2011年度においては、繰越欠損金の当期控除額は9兆7069億円で、翌期繰越額は76兆436億円となっている。
■法人税の課税ベースが毎年度4分の1ほど縮小
上で見たように、まだ巨額の繰越残があるので、今後かなりの期間にわたって、法人税の課税ベースは、毎年度10兆円程度縮小することになる。
他方で、国税庁「会社標本調査」によると、2011年度における申告所得金額(利益計上法人の利益)は、33.9兆円だ。
したがって、繰越欠損制度がなかったとすれば、黒字企業の利益は40兆円を超えていたはずである(繰越欠損は、黒字会社においてのみ用いられているものと仮定)。
この制度はそれを4分の1ほど縮小していることになる。これは、かなり大きな影響だ。
業種別に見ると、図表2のとおりだ。欠損金の額を所得金額と比較すると、製造業において、欠損繰越の比重が高いことがわかる。
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■欠損の繰越は正当化できるか
前回述べたように、「法人税は単年度でなくある程度の期間の平均的な利益に課税されるべきだ」との考えに立てば、欠損の繰越は正当化できる制度である。
ただし、個人に対して認められていないことを考えれば、無制限に正当化できるわけでもない。
また、一般の人々の感覚とも合わない場合が多い。
不良債権処理による損失の発生で、金融機関が長期にわたって法人税を負担していなかったことには、さまざまな批判が生じた。
製造業の輸出産業の利益が、リーマンショックによって激減し、この数か月で円安によって急増したことに関しても、欠損繰越制度は、問題を提起する。
この場合の欠損は、経営の失敗ではないにしても、経済情勢への不適応の結果として生じたものである。
他方で、円安による利益は、経営努力の結果ではなく、棚からぼたもち的に生じたものだ。
ところが、輸出関連企業の多くは、リーマンショック時に巨額の損失を発生させているから、現在でも巨額の繰越欠損金を保有していると考えられる。こうした事情の下では、円安による利益は、課税されないままで終わってしまうことになる。
他方で、円安によって損害を被っている企業や個人もおり、政府はその一部(飼料価格の上昇や漁船用燃料価格の上昇)に対しては、すでに補助を決定している。
こうした状況を考えると、円安による利益増に対しては、繰越欠損による相殺を認めないか、あるいは制限することが考えられてもよいのではないだろうか?
■税率引き下げより課税ベース拡大が必要
法人税は、法人の利益に課税している。これは、法人税を、個人所得税の先取りと考えているからだ。法人の所得は、配当、株式値上がり益、役員報酬など、何らかの形でいずれ個人に帰属するから、こうした制度がとられている。
しかし、法人税の課税標準が利益であることは、法人の行動にさまざまのバイアスを与える。個人所得税についても、原理的には同じ問題があるのだが、その程度は、法人の場合のほうがはるかに大きい。
法人の経済活動のためにはさまざまな公共サービスが必要であり、これらの利用コストとして法人課税をするという考えのほうが、われわれの日常感覚に合っている。つまり、受益者負担としての法人課税である。
こうしたことを考慮すると、つぎのような方向での法人税改革が必要である。
(1)税率を引き下げるのでなく、課税ベースを拡大する。
(2)経済情勢によって大きく変動しない指標を課税ベースとする。
(3)法人税制が法人の活動形態に影響を与えないことが望ましい。
こうした方向に沿う一つの方法は、外形標準課税の導入である。これは、すでに事業税に一部取り入れられている。
日本の法人所得課税のGDP比は低い
日本の法人税負担が重いと言われるのだが、GDP(国内総生産)に対する法人所得課税の比率を見ると、図表3のとおりであり、日本はG7・アジア諸国のなかで、もっとも低いグループに属する。
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なお、表には示していないが、消費課税負担との比較においても、法人所得課税の負担が日本の場合に格別重いとは言えない。
イギリス、イタリア、カナダ、そしてアジア諸国は、日本より法人税率が低いにもかかわらず、法人所得課税の対GDP比は日本より高くなっている。
これは、全体としての租税負担率の問題でもあるが、課税ベースの広さも、重要な点であろうと思われる。このように、制度上の税率の高低は、現実の負担率を表す指標としては不適切なのである。
法人税率の引き下げを志向するよりは、課税ベースの拡大を法人課税改革の柱とすべきである。
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