03. 2013年7月11日 08:57:15
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中国の危機対応に「次」はない 西濱徹・第一生命経済研究所主任エコノミストに聞く 2013年7月11日(木) 渡辺 康仁 世界経済を牽引してきた新興国が揺れている。経済の減速に投資資金の流出が重なり、市場は波乱含みの展開が続く。新興国の政治・経済の分析を専門とする西濱徹・第一生命経済研究所主任エコノミストに、今後の見通しを聞いた。 (聞き手は渡辺康仁) 新興国経済が変調を来しています。中国、インドなどの減速は年明け以降、ある程度、織り込まれていたのではないでしょうか。 西濱 徹(にしはま・とおる)氏 第一生命経済研究所主任エコノミスト。2001年一橋大学経済学部卒、国際協力銀行(JBIC)に入行。予算策定・資金調達のほか、アジア地域の円借款業務、アジア・東欧・アフリカ地域などのソブリンリスク審査業務に従事。2008年1月に第一生命経済研究所に入社し、BRICSやアジアをはじめとする新興国のマクロ経済や政治情勢分析を担当。2011年より現職。(撮影:清水盟貴、以下同) 西濱:新興国の経済は堅調さを保ってきましたが、世界経済の持ち直しが遅れる中で、輸出よりも内需をどう喚起するかが各国の至上命題になっていました。経常収支が黒字の国、つまり国内にお金が余っている国であれば対応しやすいでしょう。しかし、ブラジル、インドなどは押しなべて経常赤字を抱えています。ここ数年、多くの国は財政支出で需要をテコ入れしてきましたから、財政の余力も低下している。相当厳しくなっているのは間違いありません。こうした国の周辺国にも下押し圧力がかかり、連鎖的に経済が減速する流れになっています。
そこに重なったのが米連邦準備理事会(FRB)による量的緩和(QE)の縮小観測です。QEは第3弾まで来ていますから、かつてない額のマネーが新興国市場に流入していました。年明け以降、アジアの株式相場が過去最高値を更新しましたが、こうした上澄みがなければ実現し得なかったでしょう。その巻き戻しが起きたということです。 1997年のアジア通貨危機やその後のロシア危機と近いことが起きているのでしょうか。 西濱:状況としては近いと言えます。ただ、あの当時は対外債務が多く、新興国全体の信用力が乏しい時代でした。政府保証をせざるを得ず、対外債務がほぼ公的債務になっていました。さらに、アジアは通貨の信用力もなく、米ドルに対して実勢よりもかなり強い水準でペッグ(連動)していた。それを維持するために外貨準備が枯渇する状況に追い込まれました。現在は変動相場制に移行し、為替介入も基本的にスムージング以外ではやりません。構図としては非常に似ていますが、通貨危機のような状況になるかというと、それは考えにくいでしょう。 リーマンショックの後、欧州ではIMF(国際通貨基金)に救済を求める国が出る中で、アジア各国・地域は基本的に静観していました。当時とは状況が違うということを示しています。 「出口」へ動けばマネー流出に拍車の可能性 米国がQEを縮小するという観測で市場が混乱しました。実際に縮小に動いたらまた波乱が起こりますか。 西濱:米国の短期金融市場を含めて資金需給に影響が出ることは考えられます。金利が上がれば米国にお金をとどめておく誘因が増える。マネーの巻き戻しに拍車がかかる可能性はありますが、バーナンキFRB議長が早いタイミングで縮小に言及したのは、市場との対話を重視したからだと思います。 金融緩和の「出口」の時期は日米欧で違いが出てきます。日本からのマネーはどうなるのでしょうか。 西濱:日本からも相当の資金がアジアなどに向かっていました。円安の流れの中で、資金を国外に分散する動きが続いています。日銀は長い期間、金融緩和を続けると言っていますから、距離的に近いアジアには資金が入りやすいと思います。安倍政権が成長戦略でアジアを重要視していることも、この流れを後押しします。 新興国の中でも中国の今後に注目が集まっています。成長ペースの鈍化は避けられませんか。 西濱:状況はかなり変わってきています。昨年末の段階では、成長率は何とか8%はクリアできるのではないかと見ていましたが、足元の状況を見ると難しくなっています。外需が振るわないのは想定済みですが、内需の回復ペースもかなり遅いと言えます。 背景にあるのは投資の抑制です。投資に支えられてきたのが過去十数年の中国経済の流れです。2000年代半ばにGDP(国内総生産)に占める個人消費と固定資産投資の割合が逆転し、その差は開き続けています。そこを抑制しようとしているのですから、必然的に成長率は下がることになります。 シャドーバンキング(影の銀行)の膨張が金融市場を揺さぶりました。中国は日本のバブル期と同じような状況にあるのでしょうか。 西濱:似たようなところはあります。中国の政府内部でも日本のバブルとその後の不良債権処理の研究をしています。急に対処するとハードランディングになりかねないということは勉強している。ただし、共産党の組織内部の問題とも絡んできますから、一足飛びに答えを見いだすのは難しくなっています。 地方政府や国有企業のトップは共産党の幹部です。彼らは党内の序列を上げるために、自分のテリトリーをいかに成長させて、業績を上げるかということを考えています。合成の誤謬を繰り返した結果、マクロで見ると経済の過熱につながっていったのです。地方政府は独自財源が乏しく、シャドーバンキングに手を付けざるを得なかったという面もあります。税財政改革などを本気でやらないと、抜本的な解決にはならないでしょう。 シャドーバンキングはGDPの5割以上 シャドーバンキングの規模はどの程度になるのでしょうか。 西濱:公式統計では出てきませんが、シャドーバンキングを通じた融資の総額はGDP比で5割を上回るという見方もあります。ここ数年の固定資産投資の拡大を見ると、そのくらいあってもおかしくはありません。 仮に融資を一気に縮小すると影響は大きいのではないですか。 西濱:金融システムリスクも意識しなければなりません。しかし、影響を考える上で難しいのは、中国の金融市場が閉鎖的で外国人投資家が自由に売買できる状況ではないということです。その意味で、国際金融市場への影響は不透明ですね。
ただし、海外の資金が全く入っていなかったということではありません。昨年の秋口から香港など保税地域向けの輸出が異常に増え、そのバックマージンとして中国に資金が入り込んでいるという話もあります。中国当局は市場に流動性を供給するなどして軟着陸を目指す姿勢を示しています。しかし、当局のスピード感と金融市場のスピード感には差があるように思えます。市場との対話能力を強化して、当局の意図を明確にする必要があるのではないでしょうか。 中国政府はリーマンショックの後に大規模な財政支出をしました。当時と比べると対処する余力は落ちていませんか。 西濱:やろうと思えば今回まではできる。しかし、次はない、ということだと思います。IMFによると、中国の昨年末の公的債務残高はGDP比で二十数%です。これなら安全圏だと思いますが、シャドーバンキングや年金関連などの隠れ債務なども含めるとGDP比で100%に届くとも言われています。そうなると一気に危険水域です。景気が減速しても対策は打てない。ソフトランディングを模索するにしても、隘路だと思いますね。 尖閣諸島を巡る対立で、日本企業には「チャイナ・プラス・ワン」の動きが広がっています。企業は中国に対してより慎重になった方がいいのでしょうか。 西濱:消費市場としての中国の重要性には大きな変化はありません。しかし、金融市場としての中国の見方は変える必要があります。中国に片足をどっぷり突っ込んできたのを、小指をかけるくらいにスタンスを変えるべきではないでしょうか。私自身も、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国に関する照会を受けることが増えています。ASEANを軸にどうアジアを見るのか、という流れになりつつあります。 BRICSの相対化が進む可能性がある とはいえ、ASEAN各国の市場も動揺しています。 西濱:ASEANの市場もトリプル安の様相でしたが、一番厄介なのはインドネシアです。経常赤字を抱えて資金が逃げやすい状況です。通貨が安くなると物価高につながるリスクもあります。フィリピンも株安、通貨安になりましたが、GDPの1割程度が海外からの送金ですので、通貨の下落にはプラスの面もあります。中長期では国内に雇用が生まれないことが最大のネックになるでしょう。 タイも輸出依存度が高い国ですから、バーツが安くなるのは悪い面だけではありません。円安の進行で円に対してはバーツ高になっていましたが、日本から部品を輸入して組み立てている企業にはプラスになっています。日本との関係では心地良い水準ではないでしょうか。 アジアから目を転じると、ブラジルで激しいデモが起きました。新興国が抱える問題を表しているのでしょうか。 西濱:ブラジルはここ数年、潜在成長率を下回る成長しかできていません。景気が低迷すると普通ならインフレ率が下がるはずですが、いっこうに下がらない。食料品をはじめとする生活必需品の物価が下がらないからです。手続きの煩雑さや法律の複雑さなど、「ブラジルコスト」と呼ばれる中間コストの高さが物価高の底流にあります。 ブラジル景気の牽引役は個人消費や投資といった内需です。人々がお金を借りることで内需が促されてきましたが、ブラジルの銀行セクターでプレゼンスが高いのはスペイン系の銀行です。欧州の金融機関が資金を縮小しているため、銀行貸し出しも増えないという状況です。 政府は国有銀行を使った景気対策や減税など、財政に負荷がかかることばかりやっています。景気が悪いから歳入は増えず、さらに財政状況が悪くなる。市場からの信認も失い、すべてが悪循環です。政治家や公務員などの汚職の問題にメスを入れ、財政も合理化しないと国民の怒りに応えたことにはならないでしょう。 中国やブラジルなどBRICSのパワーには変化は起こりますか。 西濱:G20(20カ国・地域)にはたくさんの国がありますから、BRICS以外のところが伸びて相対化が進んでいくことは考えられます。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130710/250920/?ST=print
JBpress>海外>Financial Times [Financial Times] 中国が世界を買い占めない理由 世界経済はまだ先進国の支配的企業が牛耳っている 2013年07月11日(Thu) Financial Times (2013年7月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
西側諸国は中国に怯えている。しかし、中国の目にはこの世界がどのように映っているのかということに、西側諸国が着目することはめったにない。確かに、中国は経済の面で長足の進歩を遂げた。だが、中国人が今も目にしているのは、先進国に牛耳られている世界経済だ。 中国の視点から世界を眺めることができる数少ない西洋人の1人に、ケンブリッジ大学のピーター・ノーラン教授(中国発展論)がいる。昨年上梓された示唆に富む著作*1の中で、ノーラン教授は中国に対する大きな恐怖感の1つを取り上げた。つまり、中国が世界を買っている、という不安である。 中国は世界を買ったりしていない、我々は中国の中に入り込んでいるが、中国は我々の中に入り込んでいない――というのが、教授の答えだ。 これがどういう意味なのかを理解するには、技術進歩を原動力にグローバル経済の統合が進んだ過去30年間に起こったことをノーラン教授がどう解釈しているのかを理解しておかねばらない。 バリューチェーンの頂点に君臨する先進国の支配的企業 教授によれば、世界経済は、企業の合併・買収(M&A)と外国直接投資(FDI)による少数の支配的企業の登場により、大きな変化を遂げている。そして、そうした巨大企業のほとんどは先進国の企業だという。 新しいグローバル経済の中核には、ノーラン教授の言う「システムインテグレーター」企業が鎮座している。圧倒的なブランド力と卓越した技術力を持ち、世界中の中間層に財やサービスを提供するバリューチェーンの頂点に君臨する企業のことだ。また、これらのグローバル企業は自分たちのサプライチェーンに大きな圧力を加えており、そこでも企業の整理統合が進んでいる。 ノーラン教授は2006〜09年のデータを調べ、大型民間航空機製造業と炭酸飲料製造業には世界的な支配的企業が2社存在すると結論づけた。また移動体通信インフラやスマートフォンの分野ではこれがわずか3社であり、ビール、エレベーター、大型トラック、パソコンの分野では4社、デジタルカメラでは6社、自動車と製薬では10社だと考えた。 これらの分野では、支配的企業が世界市場で50〜100%のシェアを握っている。これ以外にも多くの産業で企業の整理統合が進み、同程度のシェアの集中が進んでいるという。 *1=‘Is China Buying the World?’, Polity, 2012 部品納入業者の間でも、これとほぼ同じシェアの集中が見受けられる。例えば、航空機製造業における支配的企業はエンジン製造の分野で3社、ブレーキで2 社、タイヤでは3社あり、座席で2社、ラバトリー(化粧室)では1社、ワイヤリング(内部配線)では1社だという。 このように主要な部品をごく少数の支配 的企業が世界中に供給するという構図は、自動車製造、情報技術、飲料製造など多くの業界で観察される。 このように、今ではグローバルな製造・販売組織が1つのシステムインテグレーター企業の傘下に入っている。 教授いわく、このシステムインテグレーター企業は「多数の重要な特性をいくつか兼ね備えているのが普通だ。特に、新しいプロジェクトの資金を調達する能力や、技術面でのリーダーシップを維持するための多額な研究開発費を調達したりグローバルブランドを開発したり、最新の情報技術に投資したり最も優秀な人材を集めたりするのに必要な資源などがそれに当たる」。 さらに、「世界の最上位企業1400社による研究開発費の合計額のうち、5分の3以上は最上位100社のものであり、これら100社はすべて高所得国の企業だ。これらの企業の研究開発が、資本主義的グローバル化の時代における世界の技術進歩の礎になっている」という。 これらの企業は諸外国、とりわけ中国に巨額の投資を行っている。その過程で、本国に由来する特徴や本国への忠誠心を失いつつある。そのため本国の政府は「自国の」企業への課税や規制がこれまで以上に難しくなっていることに気づき、企業と政府の間に緊張が生じている。だが、それでも企業は、本国に由来する特徴を持ち続けているし、本国の文化に根を下ろしたままだ。 この新しい世界に中国はどのように収まっているのだろうか? 確かに中国は大変な経済発展を遂げたが、この成功は、世界の製造業者に自国の労働者と市場を提供する用意と能力という土台の上に築かれたものだ。 対外FDI残高でも高所得国が圧倒的な存在感 そのため2007〜09年の統計によれば、中国の工業で生まれた付加価値のうち28%は外資が投資した企業によるものだった。ハイテク産業の生産高の66%、輸出の55%、そして新型ハイテク製品の輸出の90%も、外資系企業によるものだった。従って中国は、外国人が管理するシステムの重要な貢献者なのだ。 もし先進国の市民や政府がこうしたグローバル企業に疑いの目を向けているとしたら、中国の人々の視線はもっと不信感に満ちているに違いない。 中国は世界を買ったりしていない。1990年から2012年にかけて、世界の対外FDI残高は2.1兆ドルから23.6兆ドルに跳ね上がった。2012年時点で、高所得国がまだ全体の79%を占めていた。 2012年には、米国の対外FDI残高が5.2兆ドル、英国が1.8兆ドルに上ったのに対し、中国のそれは5090億ドルだった。中国のネットのFDI残高(対内FDI残高と対外FDI残高の差)はマイナス3240億ドルと、大幅な流入過多だ。2009年には、中国の対外投資の68%が香港向けとされていた。 ノーラン教授が指摘するように、「中国企業は国際的な大型M&Aで、その存在感の欠如が目立っている」。天然資源の不足を考慮し、中国はこの分野で対外投資を行っている。だが、天然資源の分野でさえ、中国の対外投資の規模は、支配的な外国企業のそれと比べると大きく見劣りする。 まだ他者のノウハウに大きく依存する中国経済 この分析は何を意味しているのだろうか? 最も重大な意義は、中国は世界的に重要な企業をまだほとんど育成していないということだ。さらに言えば、先進国の既存勢力のリードがあまりに大きいため、中国が世界的に重要な企業を築くことは極めて難しい。 従って、中国の観点からすると、中国経済の際立つ特徴は今も、他者のノウハウへの依存度の高さだということになる。そう考えると、その知識を手に入れようとする中国の必死の努力も説明がつく。もう1つ、この分析が意味しているのは、中国は「世界を買い占める」状況とは程遠いということだ。中国のインパクトに対する妄想は正当性を欠いている。 それより意味深な疑問は、企業のグローバル化がかつてないほど進んだ世界において、企業が「自国のもの」ではないことを心配することに意味があるのかどうか、だ。その答えはイエスではないかと筆者は思う。この点について中国が心配するのは妥当だ。企業は依然として国との関係を持っており、それが各社の行動を形作り、特に特定国の能力の開発における役割を形成する。 しかし、中国ほど広大な国にとっては、この点は大半の国ほど大きな問題にならないかもしれない。結局のところ、ほぼすべてのグローバル企業は恐らく、いずれ中国に包み込まれることになるからだ。グローバル企業にとって、中国は活動の中核を成すため、中国の需要から逃れることは不可能になるのだ。 実際そうなったとすれば、それは自然な統合プロセスの結果だ。世界経済の将来、そして、まさしく世界の将来にとって、世界各国がこれほど深く絡み合った状態が一段と進化することは望ましいことだ。我々は冷静さを保ち、このまま進み続けるべきだ。 By Martin Wolf
中国で6月に金利が急上昇した理由 今後の対応次第では中小企業の資金に打撃 2013年7月11日(木) The Economist 6月、国内の資金需給が逼迫したのを受けて、中国の銀行は中国人民銀行(中央銀行)の考えを必死に読み取ろうとした。銀行間取引金利が過去最高水準に急騰したなか、人民銀行がどのような対応を見せるか銀行は憶測を巡らせた。だが、人民銀行の対応は遅きに失したもので、かつ一貫性を欠くものだった。今度は銀行が自らの対応を決める番になる。
銀行間取引の金利上昇を放置 出展:ウィンド・インフォ プレス・リポート その後短期金利が低下するとともに、中央銀行の意図を覆い隠していた霧が徐々に晴れつつある。中国人民銀行が公式声明を出したこともあるが、人民銀行が6月19日に開いた内部会議の要旨を米ウォール・ストリート・ジャーナルがリークしたことにもよる。この報道によると、中央銀行は6月の月初10日間の融資急伸に強い警戒感を抱いていた。この10日の間に中国の銀行が実行した新規融資はおよそ1兆元(約16兆4900億円)に達した。これは典型的な月間融資額を上回る額だ。記事は、これほどの信用供与は「歴史上見られなかった額」と解説した(図表参照)。
人民銀行は融資が急増した要因を次のように結論づけた――一部の銀行が、景気減速を踏まえて政府が新たな刺激策を打ち出すと考え、「政府の動きに備えた」。6月20日、翌日物銀行間借入金利が25%を突破したにもかかわらず、中央銀行は手を打たなかった。この理由は、この内部会議から明らかだ。 6月の新規融資の7割は割引手形 しかしながら、中央銀行は銀行の意図を読み違えたのかもしれない。他の報道によれば、1兆元の新規融資のほぼ7割を「割引手形」が占めたからだ。割引手形は短期融資の1つで、商業活動を円滑にするため(例えば機器の販売と支払いのタイムラグを埋めるなど)に利用される。銀行は割引手形を投資商品と抱き合わせることができるし、銀行間融資の担保として差し出すことも可能だ。そうすることで、時として一連の割引手形は銀行のバランスシートから外れ、銀行が融資上限規制をすり抜けるための手段となり得る。 6月初旬に融資が急拡大したのは、こうした隠れた融資の多くが突然表面に現れたと、米メリルリンチのウィニー・ウー氏は指摘する。ウー氏によれば、監査が緩やかで、ともすれば勘定が曖昧になりがちな中小銀行の会計報告が厳格さを求められるようになったのに伴い、これらの融資が顕在化した。 ウー氏の見方が正しければ、中央銀行をかくも動揺させた一見歴史的な融資急増は、そんな大仰なものではなかったことになる。銀行は、中央銀行の指針に抗って新規に融資を実行したのではなく、中央銀行の指示に従って既存の融資を計上したにすぎないのだ。 人民銀行は6月の融資額の増加に過剰反応し、それ故に、その後の資金需給の逼迫を過小評価したのではないか。では、今回の人民銀行の動きを受けて、銀行は今後、どのような対応を見せるだろう。ウー氏は、この数週間は事態の急変に忙殺されて、その意味合いを考えるどころではなかったかもしれないと言う。だが銀行は今、長期的な影響について考えるべきだ。割引手形を利用した取り引きに逆風が吹いていることは明らかだ。加えて、2つの関連ビジネス、理財商品と銀行間取引についても再考を迫られるだろう。 中小企業のファイナンスに影響も 理財商品は主に富裕な個人投資家から資金を集め、一定の期間(しばしば6カ月未満)資金を預かって様々な資産に投資する。投資先にはよりリスクの高い資産も含まれる。この理財商品も資金需給の逼迫に拍車をかけた。なぜなら、理財商品は投資する資産よりも満期が短い場合が少なくないからだ。銀行は新しい商品が販売できるまで、満期の到来した商品を償還するための資金を、銀行間市場で借り入れて調達することが常態化していた。しかしながら当局の規制強化を受けて、今後、この種の商品は減少する公算が大きい。満期は長期化し、より流動性の高い資産で運用される傾向が高まるだろう。 同様の懸念から、他の銀行への融資も減少すると見られる。過去1年間に、中小の銀行を中心にこうした銀行間取引が急増した。これらの取り引きは時に、銀行のバランスシートから資産を外し、預貸比率や自己資本に関する規制に適合するために利用された。 従来の規則の下では、銀行は銀行間融資に多額の資本を向ける必要はなかった。だが、中国が今年から準拠し始めたバーゼル3規制の下では、同様の取り引きを行うのに、より多額の資本が求められる。中国の銀行は既にこのような資産の圧縮に備え始めていた。先月の金利ショックを受けて、銀行は資産圧縮の動きを加速させると思われる。 中国はやみくもな信用供与を引き締める必要がある。だが、ウー氏は銀行の対応によっては、民間企業とりわけ中小企業が打撃を受けると懸念する。大規模な国営企業は長期の融資を受けられるし、長期債の発行も可能だ。これらの企業は長期融資や長期債の借り換え時期が来るまで、借入コスト上昇の影響は受けないだろう。だが、中小企業は違う。中小企業は短期の資金を借り入れており、頻繁な借り換えが必要だ。中小企業は運転資金を調達する必要があるし、販売と支払いのタイムラグも埋めなければならない。彼らにとって割引手形は重要な資金調達手段なのだ。 中国中央銀行は資金需要が逼迫した後に公式声明を出し、中小企業を中心に「実体」経済への融資を増やすよう、銀行に要請した。中央銀行は、金融緩和を過剰に享受している銀行に対して信用を絞り込むことができることを証明した。だが中央銀行は、金融緩和の恩恵に十分与っていない企業や産業に資金を向けることができるのか、これから証明しなければならない。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130709/250878/?ST=print
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