04. 2013年7月10日 14:47:39
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JBpress>海外>欧州 [欧州] クロアチアのEU加盟は繁栄か破綻か 移行プロセスで経済疲弊〜北欧・福祉社会の光と影(17) 2013年07月10日(Wed) みゆき ポアチャ クロアチアとセルビア、その数年前まではユーゴスラビアという1つの国であったが、すでに分離していたこの2国に最初に足を踏み入れたのは、1999年6月、米国・北大西洋条約機構(NATO)連合軍によるセルビアへの空爆が終結した数週間後だ。なぜそんな時期に行ったのかというと、隠すほどのことでもないので言うが、新婚旅行だったからだ。 スウェーデンから車で出発、まずフェリーでデンマークへ渡り、その後はひたすら南下した。ドイツという国は予想以上に広大で、アウトバーンをかなりの速度で飛ばしても、抜けるのに1日かかった。オーストリアにたどり着き、そびえ立つ山々の絶景をながめながらホテルに1泊した。 初めて訪れたクロアチア、セルビア 翌日にはクロアチアの首都ザグレブに到着した。 義父の妹の家に立ち寄り休憩して後、山がちの内陸部を通過して、セルビアの首都ベオグラードに向かった。道中は崩れた家と瓦礫が交互に現れる殺伐とした風景で、過去何世紀にもわたり、1990年代に入ってからも何度も戦われた戦闘の痕跡が生々しかった。 ベオグラードは日本の夏と同じくらい暑かった。街の人は歩きながらコカ・コーラを飲んでいたし、マクドナルドの看板も破壊されたりすることなく、世界中のマクドナルドと変わりなく営業していた。 が、市民はもちろん市街や住宅への爆撃を遂行した米国に対して憤っていたし、この戦争により多大な損失を受け、あらゆる物資が不足し、経済的には非常に困窮していた。夫のいとこの1人は、ガソリンを売って何とか生計を立てていると言ったが、恐らくヤミ取引なのだろう。 日が落ちた後のレストランでは、通りにしつらえたテーブルで、夫のいとこたちと一緒にチェバプチチと呼ばれる俵型肉だんごを食べ、ビールを飲んだ。多くの人通りでにぎわい、音楽隊が路上でアコーディオンやバイオリンを奏で、お祭りのようだった。通りや広場には屋台のように出店が立ち並び、キティちゃんの風船や人形なども売っていて、私を何がしかほっとさせてくれた。 ベオグラードには、義父の親戚縁者がいる。義父はセルビア人で、ポアチャという姓もセルビア系だ。彼の一族は、もともとクライナという辺境の出身だが、20歳ほど年が離れた義父の兄が出世し政府に要職を得た縁で、義父一家はクライナを出、一気にベオグラードという大都会に住めることになったのだ。義父はそこで、働きながら夜間高校を出ることができた。 義父はある時、スウェーデンに移民していた別の兄を訪ね、その地に魅せられそのままスウェーデンに住むことを決めた。何よりスウェーデンにはまともな職があった。 クロアチアの海岸 私と夫は、その後クロアチアへ向かった。義母はクロアチア人で、アドリア海に浮かぶ小島の出身だ。
ベオグラードからクロアチアの海岸まで、間に挟むボスニア・ヘルツェゴビナを通過すれば数時間なのだが、それはできないという。「何で?」と聞くと、それは政治的な理由などでは全くなく、「車が走れるような道路はすでに存在しない」からだ。なので到着まで十数時間かかったように記憶している。 義父母は、旧ユーゴ時代にスウェーデンへ移民したが、将来的にはクロアチアに戻るつもりでアドリア海沿いに家を建てていた。窓からすぐ見える海は青く透明で、小さい頃家族で毎夏訪れていた伊豆の海を思い出させた。 クロアチアでは何年か前に、日本アニメ「キャンディ・キャンディ」が日本語のまま放映されていたという。私は夫のいとこたちに、くり返しくり返しこのテーマソングをせがまれ、歌う羽目になった。 それから後はほぼ1〜2年おきにクロアチアで夏を過ごしている。 EU加盟に対する国民感情の変化 クロアチアの幹線道路沿いに「2013年7月1日、EU(欧州連合)加盟実現を!」といった看板が立ち始め、あらゆる場所に「クロアチアのEU加盟!」というポスターが見かけられるようになってきたのは、筆者が覚えている限りでは2009年頃だっただろうか。 当時は政府と国民がEU加盟の実現に向け、一致団結して頑張ろう、というすさまじいほどの熱気があった。世論調査でも加盟支持は80%に上り、反対は10%以下だった。 スウェーデンでの加盟時は、賛成と反対がほぼ拮抗し、反対派が大キャンペーンを展開していたのとは対照的だ。少なくともクロアチア国民は、EU創設の原理原則が今も50年前と変わらず意義があると信じていた。EUに加盟しその一員となることは、クロアチアの人にとって戦争と一切の暗い時代の終わりであり、もはやクロアチアはバルカンの戦争ゾーンではなくなることだ。 セルビア人もクロアチア人もセルブ=クロアチア語と呼ばれる言語を話しているのだが、クロアチア政府は「クロアチア語辞典」を編纂し、無理やりセルビア語との違いを作り出していた。「我々はもはや旧ユーゴとは違う!」のだ。 こうしてクロアチアは、新しい欧州の一員となり、フランスや英国と同じ通常の欧州の一国になろうとしていた。これはほとんど全国民の悲願だ。 そういった気運が、次第に冷めてきたような気がしてきたのは、いつ頃からだっただろう。 政府だけは依然として熱狂的に「加盟の実現を目指そう!」と言い、「加盟は国家に繁栄をもたらす」という空気を作り続けていたようだが、クロアチアに行くたびに雰囲気がさびれ、人がどんどん貧しくなってきているような印象を受けた。 端的に言うと、泥棒に入られてモノが盗まれたり、ということがとにかく頻繁に起きるようになった。特にここ数年は、何だかひどかった。 年々悪化する生活実感 義父母は、1年の半分をスウェーデン、半分をクロアチアで過ごしているのだが、クロアチアの家に帰るたびに窓が破られていたり門が破壊されていたりなど、いろいろな被害を受けていた。 クロアチアの義父母の家に住み着いていたカメ 庭にいつの間にか住み着いたカメの一家がいて、毎年子ガメが生まれ、子供たちがレタスやトマトをやってかわいがっていたのだが、2年前にはそのカメすら盗られてしまった。
しかも子供たちの話では、皆が見ている前で庭にズカズカ入り込み、さっとさらって行ったのだという。 義母の妹はクロアチアでブドウやオリーブ畑を作っており、私たちが行くたびに、義母は妹が自作したワインやオリーブ油をたくさん分けてくれる。最近知ったことは、その見返りに義母は多大な金銭を妹に渡しているということだった。わが家がぱーぱー使っているオリーブ油は、恐らく世界一高い値がついていると思われる。 夫のいとこ、つまりこの義母の妹の息子なのだが、先年行った時には彼は失職した直後で、会った時にはひどく落ち込んでいた。 クロアチアの家のバルコニーで そして、クロアチアの物価は高い。年々モノの値段が高くなっている印象を受ける。所得は低いはずなのに、物価だけはフランスや英国と同じ通常の欧州国家並みだ。値段の割に品質が悪いので、義父母は食料品から洗濯機まで、いろんなものをスウェーデンから持ち込んでいる。
EU加盟の前年、つまり昨年行われた国民投票では3分の2が加盟に賛成票を投じたと報道されたが、政府が「歴史的に重要な投票だ」と宣伝していたにもかかわらず、全体の投票率は43.5%だ。ちなみにその前月に実施された議会選挙の投票率は54%である。 つまり積極的に足を運んで「加盟賛成!」を表明した人は、有権者の30%に満たないということになる。支持する国民が3割以下という状況で加盟国になって、大丈夫なのか。というより、これは合法なのか? EU加盟が繁栄をもたらすのか 正式に加盟した7月1日の翌日、クロアチアのいとこに電話して聞いてみた。 「そっちはどういう感じ? 街に出てみた? 加盟のお祝いとかしてるの?」 「いやー、ボクはそれほどEUのニュースはフォローしてないんだけど・・・それほどお祭り騒ぎ、という感じでもないみたいだよ。マスコミも割と静かだし、投票率も低かったとか言ってるし・・・でも、何年も不況が続いてて失業してる人も多いから、加盟後には国内投資が増える、という期待はあるみたいだ」 ザグレブでEU加盟を祝って打ち上げられた花火〔AFPBB News〕
報道によると、一万数千から2万人の市民が首都の広場に集い、加盟を祝ったとなっている。2008年には、同じ広場に6万人が集まって、最低賃金制の導入とインフレ率に見合った賃上げを要求する声を上げている。 加盟がクロアチアにとって繁栄をもたらすのかは疑問だ。 加盟の数日前、ゾラン・ミラノビッチ首相はブルームバーグのインタビューでこう言っている。「多くの、過剰なほどの新たな市場、新たなチャンスの可能性がたくさんある」「一生懸命働いてよく準備する場合は、それらを得るかもしれないが、また敗者となることもある」 さらに「我々は圧力の下にいる・・・支出を削減し、人々への政府の給付、社会保障の余裕はない」と発言している*1。 縮小する経済、ほぼ60%の若年失業率は欧州最悪 このほぼ10年間、加盟実現のために借金を減らし市場経済を安定させるとして、政府はEUが要求する厳格な緊縮予算を受け入れて支出を削減し、大量の解雇者を出す「移行」プロセスを遂行してきた。このプロセスが国民を窮乏化させ、国の経済をここまで疲弊させた元凶であることは明らかだ。 米ニューヨーク・タイムズ紙は「EUとIMF(国際通貨基金)が提唱する危機への新自由主義対策により、失業率の悪化は必然だ」と書いている。IMF自身が、公式のリポートで自分たちの政策が「所得の低下を促し、特に賃金労働者が他より大きい影響を受ける。また、特に長期失業を発生させる」と書いている*2。 さらに、政府は1月から付加価値税を2%から25%へ引き上げた。EUではハンガリーの27%に続く最高率だ。 国際資本に大きく依存していたクロアチアの経済は、2008年の金融危機によって大きな打撃を受けて以来、何年も深刻な不況に入ったままだ。 国の国内総生産(GDP)は現在、2008年に比べてほぼ12%低くなっており、今年もさらなる縮小が見込まれている。 外国直接投資は2008年以来80%減少しており、昨年は1999年以来の低水準だった。 スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)とムーディーズの両方はこの数カ月の間に、クロアチアの信用格付けをジャンク債へ格下げした。 政府の意図 政府は「市場経済の正常化」を声高に呼びかけているが、その内実は東欧の他の「共産主義」国家群で起きたことと同様に、EUと国際資本が旧国営産業を解体・民営化し、ごく少数の特権者を豊かにすることだ。この間クロアチアでは製造拠点の80%が失われた。 公式の失業率はほぼ20%、若者の失業率は5月には59%と、ギリシャ、スペインをも超え欧州での最悪値を記録した。 クロアチアのEU加盟実現キャンペーンは結局、EU主導の厳しい改革により国内経済を破壊し、国民の大多数を窮乏化させただけだ。 *1=http://www.bloomberg.com/video/croatia-pm-determined-to-tap-funds-after-eu-entry-EPHoqRbMQl6lXaYlPCj4mg.html *2=http://www.nytimes.com/2013/05/14/business/global/14iht-youthjobs14.html , http://www.imf.org/external/pubs/ft/fandd/2011/09/ball.htm 付加価値税の25%への引き上げを実施したスラフコ・リニッチ財務相は、「クロアチアの金利は外部の市場よりもはるかに低いということを国際市場に認識させよう。我々は、経済的利益が何であるかを明確にする必要がある」「まず2万件から3万件の企業を倒産させれば、クロアチア経済の問題が半年で解決する。それは迅速で効率的な洗浄になるだろう」とも言っている。 加盟国になったことで、クロアチアは2020年までに140億ユーロのEU資金を受け取ることになっている。すでに中欧と南部バルカンを結ぶ大陸横断道路や鉄道回廊の建設が計画されている。 これにより多少の雇用は創出されるのかもしれないが、結局大部分の利益は国民には還元されないのだろう。これまでクロアチアでは元首相をはじめ何人もの政治家が汚職容疑で逮捕されている。汚職と腐敗は、ほとんどクロアチア政界の文化であり、伝統だ。 この経済的誘因が、政府がひたすら宣伝し、EU加盟にこぎつけた理由であり原動力だろう。 加盟により、国民はさらなる社会的不平等と貧困を押しつけられる結果になると思われる。 http://epp.eurostat.ec.europa.eu/statistics_explained/index.php/Unemployment_statistics EU内の温度差
クロアチアのいとこは、加盟に関して「(国内の)マスコミは割と静かだ」と言った。これが、受け入れ側であるEU加盟国全体にも共通する雰囲気のようだ。大げさに歓迎するわけでもなく、露骨にいやな顔をするわけでもない。スウェーデンもそうだが、多くの国でとりあえず「加盟を歓迎する」が、クロアチアの経済状態に言及し、ちょっと当惑している、といった状況だ。 が、各国で温度差もある。 英フィナンシャル・タイムズ紙は社説で「歓迎する」と書いているが、同紙のインタビューで、ドイツ議会議長のノルベルト・ランメルト氏は「クロアチアは加盟するための十分な準備ができていない」と述べている。ドイツ議会は先月、最終的に加盟条約に批准した。EU国間で一番最後だ*3。 独シュピーゲル誌も「EUは、もう一つのルーマニアを必要としていない」と書き、独ビルト・ツァイトゥン紙もクロアチアを「債務、腐敗や失業」の国であり、ドイツの「何十億ものカネを埋葬する次の墓場はクロアチアだ」と書いている。アンゲラ・メルケル首相は、1日の記念式典を当日ドタキャンした*4。 *3=http://blogs.ft.com/beyond-brics/2012/10/17/croatia-german-warning-over-eu-bid/?Authorised=false#axzz2XskrENQ7 *4=http://www.spiegel.de/international/europe/leading-german-politicians-are-skeptical-about-croatian-eu-accession-a-862675.html , http://www.bild.de/geld/wirtschaft/europaeische-union/kroatien-naechstes-milliarden-grab-30506248.bild.html クロアチアの加盟により一番影響を受けるのは、域内最大の経済国ドイツだ。だが、多かれ少なかれ、EU加盟国全部が実は同様な本音を持っているのだろう。クロアチアの膨大な国家債務の額は、加盟国全体を戦慄させるのに十分だ。 EUが不承不承ながらクロアチアの加盟を承認した背後には、EUの政治的・地理的な意図があるという指摘もある。 EUの地理戦略的意図 フィナンシャル・タイムズ紙は25日に、クロアチアのベスナ・プシッチ外相のインタビューを掲載した。この中で同外相は「EUがソフトパワーを失った場合、南東ヨーロッパを安定させる力を失うことになる。そして南東ヨーロッパを安定できなければ、南東ヨーロッパやヨーロッパ南部地中海から、中東からの不安定の危険性が拡大する」と言っている。 さらに、「EUがクロアチアの加盟を承認しなければ、不公平だけではなく危険だ。南東ヨーロッパは、中東へ続く大陸の移行帯であり、政治的に動揺するトルコと戦争状態のシリアのすぐそばだ」と言う。 彼女が言うソフトパワーというのはクロアチアのことだ。つまりEUは地理戦略的な観点から、南東ヨーロッパを安定させ、中東からの不安定の危険性がEU域内に及ばないようにするためにクロアチアが必要だ、ということである*5。 米ニューヨーク・タイムズ紙によると、昨年12月から今年2月を通じてクロアチアからヨルダンへの武器輸送が36回行われており、この武器の内容は「特別仕様のユーゴスラビア製の無反動銃、アサルトライフル、グレネードランチャー、機関銃、迫撃砲や対戦車やその他の装甲車両に対するロケット砲」である。 英テレグラフ紙によると総量3000トンになるこの兵器はクロアチアからヨルダンへ空輸された後、トラックでシリア国境へ運ばれてシリアの反政府軍へ供給される。 クロアチアは、EUの公式な武器禁輸措置がまだ発効していた間にも、旧ユーゴ製の武器を供給し、こうしてEUにとって便利な武器調達および輸送の拠点になっていたということだ*6。 *5=http://www.ft.com/intl/cms/s/0/d0b8e790-d800-11e2-9495-00144feab7de.html#axzz2Xu9hMrhQ *6=http://www.nytimes.com/interactive/2013/03/25/world/middleeast/an-arms-pipeline-to-the-syrian-rebels.html?ref=middleeast , http://www.nytimes.com/2013/03/25/world/middleeast/arms-airlift-to-syrian-rebels-expands-with-cia-aid.html?pagewanted=all&_r=0 , http://www.nytimes.com/2013/02/26/world/middleeast/in-shift-saudis-are-said-to-arm-rebels-in-syria.html?pagewanted=all , http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/middleeast/syria/9918785/US-and-Europe-in-major-airlift-of-arms-to-Syrian-rebels-through-Zagreb.html
JBpress>海外>The Economist [The Economist] 中国人留学生:海亀族の苦境 2013年07月10日(Wed) The Economist (英エコノミスト誌 2013年7月6日号)
海外留学から戻ってくる学生は現代中国の発展を支えてきた。では、今なぜ彼らは労働市場で憂き目に遭っているのだろうか? 「私は1980年にポケットに3ドルしか持たずに中国を出た」。こう振り返るのは李三g氏。文化大革命の暗い時代の後、海外で学ぶことを許された最初の留学組の1人だ。 このエリート集団の大半がそうであるように、李氏も優れた成績を収め、複数のハイテク企業を起業しながら、テキサス大学で誰もが望む地位に上り詰めた。そして世界に通用する多国籍企業の創設・育成に携わるチャンスに引かれて帰国し、現在、中国の通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の役員を務めている。 李氏は「海亀(ハイグイ)」(北京語では「海帰=海外から戻ってくる」という語句の発音が、海亀の発音と似ている)の見本のように思える。海亀族は中国で長年、先端技術を持ち帰ることで称賛され、確実に国内の労働市場で相場を大幅に上回る報酬を得ていたが、もはや、そうではなくなった。 エリート集団だった海亀族、今や就職もままならず 海亀族が押しなべて称賛されるようなことはなく、賃金格差も縮まり、就職できない人さえいる。今は海亀族を「海帯(ハイダイ、昆布の意)」と呼ぶべきだと陰口を叩く向きもある。海亀族の過去の貢献を考えると、驚くべき変わりようだ。 中国の帰国留学生団体で、今年創立100周年を迎える欧美同学会の王輝耀氏は、海亀族の帰国には5つの波があったと言う。 19世紀の最初の波は、中国初の鉄道建設業者や最初の大学総長を生んだ。1949年以前の2番目と3番目の波は、中国国民党と中国共産党の多くの指導者を輩出した。1950年代にソ連圏に留学した4番目の波は、江沢民や李鵬のような指導者を生み出した。 現在の波は1978年に始まり、断トツに大きな波になっている。1978年以降、約260万人の中国人が海外に留学した。海外への大量脱出は最近一段と増え、年間約40万人に達している。留学生の過半数は外国にとどまるが、帰国した110万人は中国に変化をもたらしてきた。 王氏は、最初の3つの波が中国に大変革をもたらし、4番目の波が国を近代化させたのに対し、5番目の波は中国をグローバル化させていると論じている。 海亀族は、中国経済を世界と結び付けることに一役買っている。彼らは百度(バイドゥ)のような有力ハイテク企業を創業した。海亀族の多くは多国籍企業の中国部門の経営幹部になっている。彼らは海外の商業的、政治的、大衆的な文化と中国を繋げることに貢献している。 それではなぜ、留学組の重要性が薄れてきたのか? いくつかの研究によると、海亀族は平均して、国内の新規採用者と比べた報酬格差が以前より小さく、職位が低い仕事に就くにも長い時間待たねばならばならなくなっている。大卒者の就職が一様に厳しくなっていることも理由の1つだ。 もう1つの理由は、中国の国内市場が本格的に離陸するに従い、電子商取引などの産業が、長年海外で過ごした人にとっては馴染みのない形で発展を遂げたことだ。 ベンチャーキャピタル、啓明創投(チミン・ベンチャーズ)のギャリー・リシェル氏によると、10年前にはシリコンバレーから戻ってきた人だけに資金を出していたような投資家が、今では中国の大学を卒業した起業家を支援しているという。こうした起業家の方が、中国国内の消費パターンやゲームの習慣、「微博(ウェイボ)」や「微信(ウェイシン)」といったソーシャルメディアに詳しい。 中国経済が急成長するにつれ、中国の経営者は劣等感を克服し始めている。中国のソーシャルメディア大手、騰訊控股(テンセント)の上級幹部は、いまだに外国企業から海亀族を引き抜いているが、彼らは国内のエンジニアを使うのに苦労していると言う。 欧州のある投資銀行家は、海亀族は透明性や実力主義、道徳規範というような古臭い欧米の概念に固執することが多く、猛烈なダーウィン主義経済においては、それが不利に働くと話す。国内の人材は上司や顧客が望むことなら何でも喜んでするからだ。 中国に事業所を置く外国企業でさえ、採用する人材を選り好みするようになってきた。ドイツの経営コンサルティング企業ローランド・ベルガーのヤニーク・グルムロン氏は、海外駐在員に対する気前の良い報酬体系を葬り去った多国籍企業の利益圧迫が海亀族に与えられる優遇給与の大幅削減にもつながったと見ている。 凡庸な海亀たち さらに別の説明もある。直近の波で帰国した学生の多くは資質が低いというのだ。以前は本当に優秀な学生のみが留学を許可されており、そのため政府奨学金の獲得競争が熾烈を極めた。しかし所得増加に伴い、凡庸な学生を抱える多くの家庭が、就職見通しを改善しそうにもない怪しげなレベルの大学の学位に多額のカネをつぎ込んでいる。 さらに悪いことに、欧米経済が低迷していることもあり、多くの留学生が就業経験のないまま帰国している。 雇用条件を満たさないような留学生が大量に帰国する一方で、聡明な人たちは海外にとどまっている。米国国立科学財団(NSF)が出資した調査では、米国で博士号を取得した中国人の92%が、卒業後5年経った時点で米国にとどまっていることが分かった。インド人では、その割合が81%、韓国人は41%、メキシコ人は32%だ。 こうしたスーパースターを呼び戻すために、中国政府は多額の補助金やその他の厚遇措置を与える「千人計画」に大金をつぎ込んでいる。強大な権力を持つ中国共産党中央組織部は、地方の共産党幹部や大学の上層部に対し、エリート獲得ノルマの達成を要求している。 前出の王氏と、香港科技大学の崔大偉氏は近く発表される論文で、優秀な人材を獲得する努力において、中国は「恐らく世界一積極的な国だ」と論じている。 この取り組みはうまくいくだろうか? 効果のほどは疑わしい。一連の政策にもかかわらず、帰国する起業家は多くの問題に直面する。人件費と地価は高騰しており、依然として知的財産の盗用が横行し、汚職が蔓延している。トップクラスの科学者が帰国する例は、ほとんどない。 中国政府が本当にすべきこと 王氏と崔氏の論文が、その理由を説明している。もし中国が最高級の頭脳を本国に呼び戻したいのなら、採用や予算を担当する政治色の強い役人の権力を打破するために「学術や科学の制度機構を抜本的に改革する必要がある」という。 厳しい真実は、海外に暮らす中国人が概して、母国に対してどっちつかずの態度を示しているということだ。ファーウェイの李氏は一見すると典型的な海亀族だが、妻子は今も米国に住んでいる。 中国当局者はただ補助金をばら撒くだけでなく、むしろ法の支配を徹底し、汚職を根絶し、中国の空気と水と食品の汚染をなくした方がいいかもしれない。そうすれば、海亀族は間違いなく気付くはずだ。
JBpress>海外>アジア [アジア] 日本人が世界一住みたい国、マレーシアの“黒い霧” 世界最長民主政権の足元に押し迫る政治の津波(1) 2013年07月10日(Wed) 末永 恵 「イランは、イラン!」と外交関係を絶っている米国も含め、全世界が固唾を呑んで見守った先月のイラン大統領選挙。その結果に「え、本当・・・」と驚きを隠せなかったのは私だけではないように思う。 大半の予想を裏切り、保守穏健派のロハニ師が決戦投票を待たずに圧勝、“民主主義が死んだ”と称されたイランでの「過激、強権主義政治に対する勝利」と世界のメディアが一斉に報じたのは記憶に新しい。 東南アジア経済の「優等生」は、民主化では「劣等生」? 時を同じくして、これまで中東・イスラム教国で唯一の民主国家としてEU加盟交渉中のトルコは民主国のリーダーとして存在感を示してきたが、強権主義的で派閥を超えた独裁者と批判されるエルドアン首相の退陣を求める民主化運動が続いている。 2010年12月のチュニジアの抗議活動、ジャスミン革命が発端でアラブ世界(イスラム圏)の民主化活動に発展したアラブの春――。あれから3年半。その民主化の動きは、アジア諸国へと波及している。2013年は“アジアの春”をも呼び起こすかもしれない機運が高まっている。 民主化要求の強い中国では、中国広東省の地元紙、「南方週末」の記事を当局が改竄した問題で、国内メディアだけでなく、大学教授等の知識人も政府批判を展開。米国務省も中国政府のメディア検閲を非難している。 当局が事態収拾を図り、現在、事態は一応“消炎”したように見えるが、根底のマグマは根強くくすぶっており、メディアや国民の不満は払拭されるどころか、今後、“火山爆発”が起きる可能性もゼロではない。 「東南アジアの優等生」、リッチな国のマレーシアを象徴するペトロナスツインタワーは、1998年から2003年まで世界最高峰のビルとして知られた。世界30カ国以上で事業展開する国営石油公社「ペトロナス」の所有(著者撮影、以下同) 他のアジア諸国はというと、とりわけ、韓国、台湾、フィリピン、インドネシア、タイは民主化を積極的に進めてきた。
一方、1人当たりの名目GDP(国内総生産)がアジア一の超リッチなシンガポールや、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国ではシンガポールとブルネイに次ぐお金持ちのマレーシア(2012年)は、1990年以降、年率5%を超える経済成長を続け、1人当たりのGDPが1万ドルを超え、「東南アジアの優等生」の名をほしいままにしてきた。 マレーシアの1人当たりのGDPはASEANで第4位のタイの2倍近くで、石油や天然ガスなど天然資源にも恵まれ、東南アジア屈指のリッチな国。しかし、その目覚しい経済発展の影で、同2カ国はASEANのツートップでありながら、”真の”民主化は出遅れている。 シンガポールは、一般的なイメージでは政治も街中もクリーンで、今年5月末に発表されたIMD(国際経営開発研究所、スイス・ジュネーブ本部)の国際競争力指標ランキングでは世界5位(2010年1位、2011年3位)。世界の投資誘致ではエリート的存在で、アジア屈指の人気観光スポットでもある。 しかし一方では、50年近くの長期にわたり単独与党政権が存続し、デモ行進や反政府行動は原則禁止制限され、主要メディアは政府系で、政府批判は国外退去となる場合が通例。5月には、マレーシアの選挙結果を不当とし集会を開催したマレーシア人ら21人が逮捕され、起訴された。また、別件で、一部、就労ビザの取り消しも行われたという。 世界的にも厳格な死刑制度を実施している国でもあり、数々の罰金制度も設けられ、諸外国にとっては“不思議な”法律が実際に施行されているのも、また、シンガポール。経済的にはアジアの超先進国でも、民主的には“後進国”なのだ。 また、外貨を落とす観光客にはフレンドリーだが、いざ長期滞在してみると、日常生活だけでなく、不動産投資、車の購入等々、外国人には規制がかけられるダブルスタンダードで、外国人や外国投資を巧みに操る二面性を併せ持っている。 オーチャード近くにあるシンガポールの五つ星高級ホテル「Goodwood Park Hotel」。コロニアルスタイル建築で特にアフタヌーンティーが日本人に大人気 加えて、今年の6月からニュースサイトの免許制度を導入。そこには政府が大株主の新聞やテレビ局のサイトだけでなく、ヤフー等も含まれ、2015年にも予定される総選挙を意識し、メディア統制を強めている。
免許取得には400万円が課され、当局が「好ましくない内容」と判断した場合は24時間以内の削除や、違反には罰金や免許停止も義務付けられた。 こうしたシンガポールの現況は、主要メディアの全てが政府系の「御用メディア」であり、皮肉にも“怪我の功名”で「世界一独立系のインターネットメディア」が発達したマレーシアにも後れを取る。 絶対安定のはずの長期単独一党支配に“異変” マレーシアから独立した1965年以降、一党単独政権を長期継続してきたシンガポールだが、ここに来て、その綻びが少しずつ見え始めてきた。2011年5月の総選挙では、リー・シェンロン首相率いる与党、人民行動党(PAP)が定数87議席に対し81議席を獲得したものの、同党の得票率は60.1%と、独立以来46年ぶりで過去最低得票率に甘んじた。複数候補者擁立のグループ選挙区でも史上初めて野党に敗北し、現職閣僚2人が落選。 また、今年1月末の国会補欠選挙でも、野党労働者党(WP)候補が約55%の得票率を獲得、PAPの候補らを破り、独立以降、過去50年近くPAPが圧倒多数で牛耳ってきた国会で、野党勢力が過去最多を更新するという異変が起きている。 1人当たりGDPがASEAN諸国第3位のマレーシア。首都・クアラルンプールには高級ブランドが立ち並ぶハイエンドなショッピングモールが数知れない 2015年には総選挙を迎えるシンガポール。そのシンガポールだけでなく、国際社会がここ数年、固唾を呑んで注目してきたのが、マレーシアでの総選挙。
とりわけ旧マラヤ連邦から独立したシンガポールは、その歴史的背景などから、マレーシアとは人種、領土、開発問題、諸外国との外交、とりわけ欧米諸国への姿勢などで外交上、衝突してきた。 地理や文化・心理的には緊密だが、関係は決して良好ではなく、複雑な関係を維持してきたとも言える。 しかし、特にマレーシアのマハティール元首相退陣後は、開発、経済関係の再構築がなされ、ジョホール州の大規模開発「イスカンダル計画」に加え、今年2月には“両岸”の経済ブームを引き起こす2020年の建設を目指す東南アジア初の新幹線構想でも、両国首脳間で最終合意に至った。 実現すれば、クアラルンプール−シンガポール間を90分以内の「”夢”の陸の旅」で満喫できることになる。受注には、日本を含め、ドイツ、中国などの鉄道会社が熱い視線を注いでいる。 このように地理的、経済的に切っても切れない関係の両国にとってのアキレス腱は、政治・政権の不安定。 しかし、1957年の英国からの独立以来、56年間の半世紀以上にわたって一党支配を続ける“世界最長の民主政権(選挙投票で選出された政権)”を維持してきたマレーシアでもここ数年、政治的異変が続き、世界有数の親日国で、エネルギーや貿易分野の重要なパートナーであるマレーシアの動向は、日本を含めた周辺地域や欧米社会の注視を集めてきた。 日本にとって中国牽制でも重要なパートナーのマレーシア 日本は安倍晋三首相が参院戦後、7月末にもマレーシアを訪問予定。前回の首相時代にもキヤノンの御手洗冨士夫会長(当時、経団連会長)など財界人らと同国を訪問した安倍政権にとって、日本は中国、シンガポールに次ぐマレーシアの重要な第3の貿易相手国。 また、マレーシアは、南シナ海の南沙(英語名:スプラトリー)諸島領有権において中国と対立しており、「利害共有の戦略的パートナー」として認識される。南シナ海で中国と領有権問題を抱える関係国と連携を強化することは、「日本の安全を“外交”で」「デフレ脱却で“経済”を」、との政権使命において重要課題の1つ。 7月23日から3日間、マレーシア・ボルネオ島で開催される環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉(交渉全期間は15日から25日)に、日本は初参加する。日本企業の国際的競争力増強を促すTPP参加実現は、安倍政権の成否を占う試金石になるのは必至。安倍首相とマレーシアのナジブ首相の首脳会談(予定)では、アジア圏の安全保障の問題を含め、TPP問題などの経済連携についても話し合われる見通しだ。 ホスト国のマレーシアは日本の交渉初参加を後押しし、日本のTPP参加歓迎を早々に表明しており、日本は、安全保障だけでなく、経済連携の両面から、中国を牽制するのが狙い。 2012年までの7年間連続で「世界一人気のロングステイ国」のマレーシア。日本食の食材から、生活日用必需品に至るまで日本関連の物は調達に困らないほど、日本系ブランドや百貨店が多いのもロングステイでの人気の一つ 日系企業進出も30年以上の安定成長を続け、経済成長が著しくインフラも整備されているマレーシアは、2015年の経済統合を目指すASEANの中でも、「チャイナリスク」を抱える日本経済の再生を目指す上で重要なパートナーである。
特筆すべきは、マレーシアは日本人の長期滞在(ロングステイ)で、2006年から2012年の連続7年間、世界で一番人気の国となっている(ロングステイ財団発表)。 特に最近は、子供の教育移住を目的に30代、40代の家族での長期滞在が急増していることも新しい傾向だ。 政権交代を狙う“黒い霧”、マレーシアで勢いを増す民主化潮流 そんな日本にとって重要な近隣国である「東南アジアの優等生」が目下抱える最大の課題が、“黒い霧”。黒い霧と言っても、インドネシアでの焼畑等が発端でマレーシアで被害拡大の環境大気汚染、「ヘイズ(Haze、煙害)」の話ではない。 本原稿の大見出しにもある“黒い霧(Black Fog)”とは、今、起きているマレーシア政治史で最も活発化している民主化潮流のこと。では何故、“黒い霧”? それは、与野党伯仲の中、56年ぶりの政権交代が予測された5月5日実施の第13回総選挙(マレーシア連邦下院=定数222)で、ナジブ首相率いる与党連合、国民戦線(BN)が過半数を上回る(133議席)を獲得し政権維持を果たした結果を受け、野党連合・人民同盟(PR)のカリスマ的指導者、アンワル元副首相が「勝利は不正手段によるもの。『民主主義の死』だ」と、選挙結果の受け入れ拒否を表明。多くの不正があったと主張し、民主主義の死を悼むため、自らもそうだが、支持者に黒い服を着て抗議行動に参加するよう呼びかけているためだ。 アンワル元副首相は、不正追及の事実として、バングラデシュ人など外国人に投票させる*1という“慣例的工作”や、二重投票回避の有権者に塗られる“インクの消滅”で1人が複数回投票したケース、投票箱運搬の際に野党側の監視が認められなかった等、具体的な不正を列挙。 *1 主に海外に在住し、選挙権を行使しないマレーシア人の名前を外国人等に貸与する、“替え玉工作”疑惑が浮上。独立系メディアは、“The Phantom Voter=幽霊投票者”と呼称。実際、中国系の名前で投票に臨んだバングラデシュ人がその明らかな容姿の違いで摘発されたという、思わず笑いを呼ぶ工作も。 野党連合のカリスマ指導者、アンワル元副首相(写真中央)。国民の絶大な人気を誇る 結果、独自調査により、25選挙区で不正があったと最終確認し(その証拠資料は9月末公表予定)、投開票を含め、選挙戦の運営を実施する首相直轄の選挙管理委員会(EC)の総辞職を求め、長年与党に有利に仕組まれているゲリマンダー*2の選挙制度改革を求めている。
*2 特定の政党や候補者に有利なように選挙区を区割りすること また、選挙結果の白紙撤回を求め、25選挙区における不正に抗議する陳情書と申し立てを裁判所にも提出。野党支持者らは、米国のホワイトハウスなどにも同様の陳情書を送り、マレーシアでの「公平、公正な選挙制度実現」への協力と理解を国際社会にも求めている状況だ。 実際、今回の選挙における全体の得票数は、野党連合が約562万票、与党連合が約524万票で、全体の51%が野党、47%が与党(他は独立系政党票、無効票など)で、民意を反映する結果は明らかに「政権交代」。マレーシア国民は、野党による新政権を求めていたことになる。 つづく
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