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日本の法人税は、本当に重いのか?不明確な実効税率、実はアジア諸国より低い場合も
http://toyokeizai.net/articles/-/14560
2013年07月08日 東洋経済オンライン
前回、法人税率は法人の行動に影響を与えないと述べた。これは理論上の問題だが、法人負担の現状についての事実認識にも、大きな誤りが見られる。それは、「日本の法人課税の負担が、諸外国に比べて重い」というものだ。
こう言われる根拠として持ち出されるのが、「法人の実効税率」と呼ばれるものだ。これは、法人税等(日本の場合は、国税としての法人税と、地方税である住民税及び事業税の合計)の法人所得に対する比率である(地方税負担の一部が国税で損金算入されることを調整してある)。
2011年当時、「日本の実効税率は40.69%(国税27.89%、地方税12.80%)であり、アジア諸国(中国25%、韓国24.2%)はもとより、ヨーロッパ諸国(フランス33.33%、ドイツ29.41%、イギリス28%)より高い」と言われた。そして、こうした重い負担は、日本企業が負う「6重苦」の一つであり、国際競争力低下の大きな原因であるとされた。
こうした議論があったため、法人税率の引き下げが行われた(12年4月1日以後に開始する事業年度について、法人税率を30%から25.5%へ4.5%引き下げ。中小法人に対する軽減税率を18%から15%へ3%引き下げ)。
その結果、日本の実効税率はかなり低下した。財務省の資料によると、13年1月における日本の実効税率は、事業所が東京都にある場合、35.64%だ(国税が23.71%、地方税が11.93%)。これは、アジアやドイツ、イギリスなどと比べれば高いものの、アメリカ(40.75%)よりはかなり低く、フランスと同じくらいである。
実効税率が40%を超えるアメリカにおいて、企業の業績が順調にのびていることを考えれば、法人税負担の高さが企業活動の障害になっていないことは明らかだ。
しかも、ここで用いられている「実効税率」という指標は、国際比較を行うには不正確なものだ。その理由はつぎのとおりだ。
実効税率とは、分母に課税上の所得をとり、税法上の標準的な税率によって計算した税額を分子にとったものだ。ここには二つの問題がある。第一に、課税上の所得は、会計上の利益とは一致しない。そして、税法は国によって大きく違うため、国際比較にはなじまない。国際比較をするのであれば、国際的に統一された基準で計算される会計上の利益を分母にとるべきだ。
第二に、さまざまな特別措置によって、実際の課税額は標準的な税率による課税額とは異なる。多くの場合、少なくなる。とくに、「試験研究費税額控除」という制度があり、製造業の大企業の場合には、かなり大きな効果を発揮している。
■実際の法人税の負担率はかなり低い
以上で述べた問題を考慮にいれた上で法人税負担を見るには、いくつかの方法がある。もっとも直接的な方法は、個別企業について、決算書の数字から負担率を計算することだ。表は、日産自動車についての法人税等の負担を示したものである。
表のb欄が「法人税等」(法人税と住民税及び事業税)で、cにあるのが、「法人税等調整額」と呼ばれるものだ。後者の意味は後で説明するが、まず、
税引き前利益−(法人税等+法人税等調整額)=税引き後利益
の関係が成り立つことに注意しよう。つまり、「法人税等+法人税等調整額」(表のd)が、企業会計の観点から見て、その期に支払うべき法人税等の額であるわけだ。
そこで、「法人税等+法人税等調整額」の税引き前利益に対する比率を見よう。これが会計的な観点からの税負担率と考えられる。この値をfに示す。
日産の場合は、11年3月期以降は、20%台の後半だ。つまり、財務省資料にある法人実効税率よりはかなり低くなっているのである。リーマンショックの影響で利益が大きく変動した期間以前(08年3月期以前)を見ても、30%台の前半だ。
このように現実の負担率が低くなる原因が何であるかは、決算書の数字からは明らかにはならない。法人税上益金に導入されない利益の影響が大きいと考えられる。
日産自動車の法人税等負担
http://img.asyura2.com/us/bigdata/up1/source/14874.jpg
■「法人税等調整額」とは何なのか?
ここで、「法人税等調整額」について説明しよう。
例えば、ある年度に貸倒引当金として、税法で定められた限度額を超えた額を計上したとしよう。超過分は、会計上は損金となるが、税務上は、相手が倒産して回収不可能になるまでは損金にならない。したがって、超過額に税率を掛けただけの額を法人税等として支払うことになる。これは会計上の観点から言えば、「税の前払い」だ。次年度に貸出先が倒産して回収不可能になれば、税務上損金として認められて超過額に税率を掛けただけ税金が減少する。
こうした場合、最初の年度では超過額に税率を掛けた額だけマイナスの法人税等調整額を計上し、次の年度で同額のプラスの法人税等調整額を計上する。
また、赤字会社の場合には、当期の納税額は発生しない。しかし、繰越欠損金は、通常一定期間(通常7年間)を限度として将来の課税所得と相殺することができる。このため、繰延税金資産を認識し、それに見合う額をマイナスの法人税等調整額として当期の損益計算書に計上する。それを利益と相殺させる年度でプラスの法人税等調整額を計上する。
なお、一定限度を超える交際費や寄付金についても、会計上の取り扱いは税務上の扱いと異なる。ただし、これらについて税務上は永久に損金に算入されないので、以上で見たような処理の対象とはならない。
日産の場合、法人税等調整額はほとんどの年でプラスだ。つまり、企業会計上の観点から言えば支払うべき法人税等を、将来に繰り延べていることになる。
法人税の負担を表のb(現実に支払った法人税等)で見るべきか、それともd(会計上の観点から本来その年度に支払うべきだった法人税等)で見るべきかは、客観的な答えが出ない問題である。法人税等調整額に計上できるのは一時的なものだから、本来からいえば、一定期間の間にはプラスとマイナスが打ち消し合うはずだ。そうであれば、ある程度の期間を平均して見れば、どちらで見ても同じはずである。
しかし、日産のようにプラスの数字が続くようだと、どちらの指標で見るかによって、税負担率は大きく変わる。仮に現実に支払った法人税等であるbをとって、そのaに対する比率を見れば、負担率は一部の年度を除いて20%程度となる(表のe)。これは、最初に見た実効税率とは大きく異なるものだ。「法人税の負担が低い」と言われるアジア諸国の数字(中国が25%、韓国が24.20%)よりも低い。
このように、法人税負担をめぐる問題は、簡単ではない。少なくとも、実効税率の数字のみを用いて「6重苦の一つ」などとは言えない問題なのである。
(週刊東洋経済2013年7月6日)
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