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世界原油供給の3%が危機に、エジプト政情不安で原油高が続く
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kosugetsutomu/20130708-00026284/
2013年7月8日 16時44分 小菅努 | 大起産業(株)情報調査室室長/商品アナリスト
国際原油価格の上昇に歯止めが掛からない状況になっている。NY原油先物相場は、先週1週間のみで1バレル=96.56ドルから103.22ドルまで、累計6.66ドル(6.9%)もの急伸地合になっている。終値ベースでは2012年5月2日以来の高値を更新しており、約14ヶ月ぶりの高値圏での取引になっている。年初からの累計上昇幅は11.40ドル(12.4%)に達しており、当然に今後の国内ガソリンや軽油価格などに対しても上昇圧力が強まることが確実視される状況になっている。既に末端のガソリン小売価格は1リットル=150円台前半の高値圏にあるが、少なくともこの価格水準は最低レベルと見ておく必要がある。
実際に、東京商品取引所(TOCOM)のガソリン先物相場は、決算期間が最も短い当限で、3月21日以来の高値を更新している。足元では再び円安圧力も強まる中、今後は徐々に原油価格高騰の転嫁が小売レベルでも進むことになるだろう。
原油価格高騰の背景にあるのは、エジプト情勢の緊迫化である。軍の「クーデター」でムスリ大統領は失脚したものの、7日にはカイロ近郊で全大統領の復権を求める大規模なデモが展開されている。一方、反大統領派は対抗デモを展開しており、依然として先行きが見通せない状況になっている。
こうしたエジプト情勢の先行きは中東問題の専門家に任せるとして、今、原油市場が注目しているのはスエズ運河における原油輸送の安全性を確保できなくなる事態である。
世界地図をみれば一目瞭然であるが、エジプトはアフリカ大陸とシナイ半島を結び付ける位置にあるため、原油輸送ルートとしても極めて重要な意味を有している。スエズ運河は中東から欧州向けの原油輸送のみならず、北・西アフリカや北海油田からアジア向けの原油輸送ルートとしても重要性が高いため、この地域の政治・軍事的な紛争は原油供給懸念に直結することになる。
現段階では具体的な供給障害は発生しておらず、エジプトのスエズ運河庁長官は5日、スエズ運河の船舶の運航に支障は無いとの声明をわざわざ発表している。しかし、国営アルアラム紙が、エジプト軍がスエズ県に非常事態を宣言したと報道したこともあり、マーケットはこのままエジプトの騒乱が続いた場合には、原油供給にも影響が生じかねないとの懸念を強めている。エジプト軍は非常事態宣言を否定しているが、マーケットの関心が「エジプトの政情不安」という漠然とした懸念から、「スエズ運河の原油輸送停止」といった具体的な懸念に発展していることが、原油価格の上昇を加速させている。
(出所)画像の出所はEIA。筆者加工。
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■スエズ運河は、国際原油輸送のボトルネック
少し古くなるが2011年のデータだと、スエズ運河は年間1万7,799隻の船舶が運航しており、その内の20%が石油タンカー、6%が液化天然ガス(LNG)タンカーとなっている。
原油に限定すると、世界の原油海上輸送の概ね5%前後がこの地域を通過すため、原油輸送に若干の障害が発生するだけでも、消費国の原油調達計画は大きな変更を迫られることになる。加えて、この西側にはSUMEDパイプラインも走っており、スエズ運河と合計すると11年時点で日量223.5万バレル(スエズ運河53.5万バレル、SUMEDパイプライン170万バレル)、現在は300万バレル相当の原油輸送が危機に晒された状況にあると言える。ちなみに、この日量300万バレルは、イラクやクウェートの産油量に匹敵する規模である。世界総供給の3〜4%相当がエジプト情勢次第では危機的状況に陥る可能性がある。
スエズ運河庁によると、ロッテルダム(オランダ)から東京までの輸送距離は、アフリカ南端を通るケープタウン・ルートと比較して23%も短縮できることになる。シンガポールだと29%の短縮であり、単純に輸送コストという意味でも国内原油調達価格に対しては深刻な影響が生じることになる。
(画像出所)Suez Canal Authority
http://rpr.c.yimg.jp/im_siggRl7375VUPol5c793b9bOKQ---x540-n1/amd/20130708-00026284-roupeiro-002-5-view.gif
このため、最終的に原油価格がどこまで上がるか分からない状況に対して、需要家やファンド筋は危機感を強めている。イランがホルムズ海峡の封鎖を示唆した11年には、地政学的リスクのみで114.83ドルまで急伸した「実績」もあるだけに、「先物市場での買い(=原油価格の値上がり時に利益が出る取引、調達コストの高騰を相殺できる)」や、「コール・オプションの買い(=原油を一定価格で買う権利の取得、一定のコスト負担で値上がり時も原油調達価格を固定できる)」などの対応が急がれている。
日本の原油調達先は、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、クウェートなど、スエズ運河を経由しないものが殆どのため、仮にスエズ運河の運行トラブルが発生したとしても直接的なインパクトは限定される。しかし、アフリカや北海油田からアジア向けの原油供給が困難になれば、当然に中国や韓国などとの原油争奪戦は激化することになる。既に原油価格高騰の影響は確実視される状況にあるが、今後のエジプト情勢次第では価格のみで解決しない問題に発展する可能性もあることは認識しておきたい。
小菅努
大起産業(株)情報調査室室長/商品アナリスト
1976年千葉県生まれ。筑波大学卒業後、大起産業(株)に入社。営業本部、米同時テロ直後のニューヨーク事務所等を経て、現在は情報調査室室長。ほぼ一貫してコモディティやFX市場の調査・研究・分析業務に従事。商品アナリストとして、金、プラチナ、原油、ゴム、穀物などコモディティ・マーケットの需給分析レポートを社内外に発表中。
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