http://www.asyura2.com/13/hasan80/msg/780.html
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電力は典型的な設備産業だから、簡単に供給が増えて料金が下がるなんてことにはならない。
また自由化して安定供給に対する責任は誰が持つのか?
カリフォルニアでは業者が供給を絞って電気料金が高騰し、あまつさえ、大停電を引き起こした。
日経で竹中平蔵が電力自由化を主張しているようだが、奴の後ろには誰がいるのだろうか?
WEDGEから
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2623
ブルガリアは東を黒海に接し、西をセルビア、マケドニア、南をトルコ、ギリシャと北をルーマニアと接する人口700万人の国だ。日本ではヨーグルトで知られている程度かもしれない。そのブリガリアでは2月上旬、電気料金高騰に抗議する街頭での活動が始まり、2月17日には全国20都市以上に広がった。
18日には混乱の責任を取り財務大臣が辞任したが、抗議活動は収まらず、19日夜の首都ソフィアのデモでは警官隊との衝突があり負傷者が出る騒ぎになった。20日になりボイコ・ボリソフ首相が内閣総辞職の申し出を議会に提出した。21日の議会では209対5という圧倒的多数で総辞職が認められ、総選挙が4月あるいは5月に行わるとの観測が広がっている。
ブルガリアで2007年に行われた電力自由化がこの料金高騰の遠因としてある。ブルガリアの電力市場自由化により発生した問題点は、いま日本でも議論されている電力システム改革を考える際の参考になる。ブルガリアと日本では経済情勢など異なる点が多い、しかし対岸の火事とばかり言えない身につまされる点も多い。電気と言う特殊な商品を市場に任せるリスクはどの国でも同じだ。
欧州委員会から問題の指摘も
ブルガリアの電力事情
2007年1月に欧州連合(EU)に加入したブルガリアは、2003年のエネルギー市場自由化に関する欧州委員会の指令に基づき2007年7月に電力市場を自由化した。当初国内の供給は海外企業4社が行っていたが、現在では次の3社が行っている。
首都ソフィアを含む西部:CEZ(中欧で最大のチェコ企業。プラハ、ワルシャワで上場。2原子力発電所、18石炭火力発電所、35水力発電所などを保有。発電、配電、トレードなどをチェコ、ブルガリアなど8か国で展開)
北東部:Energo-Pro(自社の水力発電所からの電力供給を主体にするチェコ企業。ブルガリアでも8水力発電所を保有。5カ国で電力事業を展開)
北西部:EVN(オーストリア企業。電力供給に加え、ガス、熱、水などの供給事業、廃棄物処理事業も展開。14カ国で事業を展開しているが、電力についてはブルガリア、マケドニアが主体)
2009年7月に欧州委員会に提出されたブルガリアのエネルギー市場自由化に関するブルガリア政府のレポート(http://www.energy-regulators.EU/portal/page/portal/EER_HOME/EER_PUBLICATIONS/NATIONAL_REPORTS/National%20Reporting%202009/NR_En/E09_NR_Bulgaria-EN.pdf)では、自由化は成功裏に進捗しているとされていた。一方、2011年9月に欧州委員会は国内エネルギー市場について透明性が完全には確保されていないとしてブルガリア、エストニア、英国の3カ国に通知を出している。現時点では欧州委員会は次の2点をブルガリアの問題と指摘している。(1)ブルガリアの卸電力市場が寡占化されている(2)小規模需要家に対する規制料金を決定するエネルギー・水規制委員会の独立性に疑問あり。
電気料金高騰に対する国民の怒り
ブルガリアの平均賃金はEU27カ国中最低の月387ユーロだ。基礎年金額は76ユーロ、年金の平均額は150ユーロだ。2013年1月の電力料金は寒波の影響により高くなり、平均的な家庭の電気料金は100ユーロを超えると報道されている。ブルガリアの電気料金は2012年7月に再生可能エネルギーによる電力料金の負担のために13%上昇したが、それでも欧州最安値のレベルだ。
多くのブルガリア国民は電気料金の上昇の原因は電力供給を行っている海外の電力会社3社が棚ボタの利益を不当に上げているためと思い、街頭で抗議活動を行う事態となった。ブルガリア政府は海外電力会社との契約書を非公開としているが、15%の収益を保証しているとの報道もあり、国民は非公開であることに胡散臭さを感じている。また、規制委員会の委員長人事でも賄賂の噂があり、腐敗撲滅に消極的なボリソフ首相に対する怒りも背景にあると言われている。
極右政党は、電力の再国有化を主張し、電気料金の請求書を焼き捨てるように呼びかけたが、街頭の抗議行動では実際に請求書を焼き捨て、首相をマフィアと呼ぶ動きも出た。
事態収拾のために、17日にはエネルギー大臣が電力会社との契約書を公開すると述べ、18日には財務大臣が辞任し、同日電気料金引き下げ策が関係閣僚により議論され、19日夜にはボリソフ首相がCEZの免許剥奪も検討し、3月からは再エネに代え原発からの電気を規制料金対象の需要家に提供することで電気料金を8%引き下げると発表したが、国民の怒りは収まることがなかった。
規制委員会も機能せず
ブルガリアの電力自由化から考えるべきこと
電気料金高騰が、空手の指導者であり、旧共産党指導者のボディーガード業からソフィア市長を経て首相に上り詰めた強面のボリソフ首相を引き摺り下ろすことになった。
首相辞任を伝えたインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙は「共産政権崩壊以降、ブルガリアではマフィアによる犯罪があったが、1989年の共産党崩壊時の独裁者ジフコフ追放時でも政治的な暴力はなかった。今回の首相辞任は政治的な暴力によるものだ」と伝えている。
電気料金高騰が首相辞任とブルガリアの政治的な混乱を招くことになったが、その遠因は自由化にある。むろん自由化すればブルガリアのようになるということではない。しかし、総括原価主義を離れれば、電力会社は料金を自由に設定できる。ブルガリアのように競争がなくなれば料金設定は自由だ。ブルガリアでは規制委員会を作り料金をチェックすることになっていたが、その委員会は機能していなかったようだ。
電力自由化により料金上昇の影響を大きく受けるのは貧困層ということも、ブルガリアの出来事は示している。所得の低いブルガリアの人達は何故収入に合わせた電気の使用をしなかったのだろうか。寒波が来たから我慢できなかったのだ。電気代が上がっても、節約するには限度がある。所得が低い家庭ほど節約する余地は少ないが、寒波が来れば、必需品の電気は使わざるを得ない。
電気料金上昇の影響
「カリフォルニア電力危機」原因の誤解
いま議論されている電力自由化論を、現実の経営の立場で考えると、あり得ないような想定が行われていることに驚くことがある。例えば、電力市場が自由化されていれば震災後の計画停電を避けることができたとの主張がある。
東電以外の会社の発電設備があれば供給できたという説は、発電所の所有者が変わっても発電所の場所が変わる訳ではなく論理的でないので議論に値しないが、自由化の主張は「自由化市場では供給が少なくなれば電気料金が高騰し、節電が進み、さらに自家発などの余剰設備から供給が出てくるので、需給がバランスした」というものだ。
この説もかなり疑わしい。震災後に東電管内で発電可能だが使っていなかった設備がどれほどあったのだろうか。また、電気料金が上がると使用を止める人がどれほどいたのだろうか。料金に関係なく、供給できる人はし、節電できる人はしていただろう。
震災と言う緊急時でなければ、電力料金の高騰は節電を促進する可能性はある。しかし、料金がどの程度上昇すればよいのだろうか。この実験はできない。突然ある地区の電気料金だけ上げて需要の変化を調べることはできないからだ。
カリフォルニア州が自由化の結果電力危機に襲われた2000年の夏に、期せずして電気料金上昇の影響が分かる出来事があった。カリフォルニア州では卸料金は自由化されたが、小売り料金は価格上昇を恐れた州政府が凍結していた。「カリフォルニアでは小売価格が凍結されていたために、市場の利用ができず需要が減少しなかった。つまり自由化が中途半端だったのが、カリフォルニア電力危機の原因」とよく説明される事態だが、実態は違う。
実際には、サンディエゴ地区だけ小売価格の凍結が溶けていたために、料金は上昇した。2000年の夏、電気料金は3か月で2.4倍になった。140%の上昇だ。電力需要は前年比で増えた。暑い夏だったからだ。気温を平年並みに調整すれば13%減だったという論文がある。140%の上昇で13%減。弾性値は‐0.1以下だ。
電気料金が上昇すれば需要は減少するだろう。しかし、料金以上に大きい要因があるということだ。寒いブルガリアと同じだ。支払いができないと思っても電気を使わざるを得ないということだ。
工場のコストは電気料金以外にも多くある
自由化でもう一つ言われるのが「料金が高騰すれば、工場などが操業を止め余った電気を売る」という説だ。工場の操業のコストのうち電気料金はどれほどを占めるのだろうか。人件費、設備費のほうが普通の工場であれば大きいだろう。明日は電気料金が上がりそうだから操業を止めると突然決めたら、従業員、取引先はどうするのだろうか。
コストに占める電気料金の比率が操業を止めるまでの影響を持つほど高い企業がそれほどある筈がない。第一、電気料金がいくらになるかは、当日まで分からない。予想が外れれば、大損かもしれない。工場を止めて、そんなギャンブルをする経営者が日本にいるのだろうか。
送電料金を変えれば地産地消が進むのか
自由化論、発送電分離論の主張は、送電線を自由に使用できるようにすれば発電設備が増える、さらに送電線の混雑が少ない場所の送電料金を安くすればその場所に発電所ができるというものだ。例えば、東北から首都圏への送電は多いが、首都圏から東北への送電は少ないから、首都圏に発電所を建設すれば送電料が安くなり地産地消が進むという説だ。
発電設備のように長期に亘り償却が行われる場合には、将来の不確実性が少ないことが投資の条件なので、自由化により設備の建設が進むかどうかが疑わしいことは『停電の恐怖に怯えるドイツは日本の将来像か 発送電分離で脱原発は可能?』(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2473)で説明した。それならば、送電料金が安ければ発電所建設のインセンティブになるのだろうか。
発電コストに占める送電料金の割合より、建設に必要な土地代、環境対策費用などが建設場所決定の要因としては大きいだろう。送電コストが建設場所の選定に大きな影響を持つのであれば、都市圏を持つ電力会社はわざわざ遠い場所に発電所を建設していないはずだ。送電コストよりもっと大きな要因があったということだ。送電費用に差を付けることで地産地消が進むというのも眉唾だ。
電力自由化理論
理論だけでなく現実を見極める必要性
経済学の電力自由化理論を現実の経営の視線でみると、おかしなことが多い。今の総括原価主義には無駄なコストも含まれることがあるだろう。しかし、ブルガリアで言われているように電力会社の不当な利益により料金が高騰することはない。電気料金の査定に利用されるヤードスティック方式は経営の効率化を図る指標だ。
我々が必要なのは安定的で競争力のある電気料金だ。自由化の結果、電気料金が下がる可能性は、欧米のように国外、州外からの電力供給がない日本ではないだろう。供給の安定性が阻害される可能性のほうが大きいのではないか。安定的で競争力のある電気料金をどのように得るのかをよく考えるべきだ。社会実験を行う余裕は今の日本経済にはない。
<参考リンク>
◆消費増税の陰で忘れられる2つの「自由化」 (竹中平蔵の眼)
http://opi-3rd-riku.blog.so-net.ne.jp/2012-07-04
6月26日の衆院本会議で消費税の増税を含む一連の法案が可決された。消費増税の決定とそれをめぐる政局の混乱で、ニュースは埋め尽くされている感がある。しかしその陰で、重要な問題の決定が引き延ばされていることが懸念される。一つは環太平洋経済連携協定(TPP)、つまり貿易、そしてもう一つは電力。2つの重要な「自由化」が忘れられている・・・
※経済政策の問題であり、反原発派批判ではありません。
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