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電気料金高騰で内閣総辞職のブルガリア(WEDGE)
http://www.asyura2.com/13/hasan80/msg/780.html
投稿者 会員番号4153番 日時 2013 年 7 月 06 日 18:05:28: 8rnauVNerwl2s
 

電力は典型的な設備産業だから、簡単に供給が増えて料金が下がるなんてことにはならない。

また自由化して安定供給に対する責任は誰が持つのか?

カリフォルニアでは業者が供給を絞って電気料金が高騰し、あまつさえ、大停電を引き起こした。


日経で竹中平蔵が電力自由化を主張しているようだが、奴の後ろには誰がいるのだろうか?

WEDGEから
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2623


ブルガリアは東を黒海に接し、西をセルビア、マケドニア、南をトルコ、ギリシャと北をルーマニアと接する人口700万人の国だ。日本ではヨーグルトで知られている程度かもしれない。そのブリガリアでは2月上旬、電気料金高騰に抗議する街頭での活動が始まり、2月17日には全国20都市以上に広がった。

 18日には混乱の責任を取り財務大臣が辞任したが、抗議活動は収まらず、19日夜の首都ソフィアのデモでは警官隊との衝突があり負傷者が出る騒ぎになった。20日になりボイコ・ボリソフ首相が内閣総辞職の申し出を議会に提出した。21日の議会では209対5という圧倒的多数で総辞職が認められ、総選挙が4月あるいは5月に行わるとの観測が広がっている。

 ブルガリアで2007年に行われた電力自由化がこの料金高騰の遠因としてある。ブルガリアの電力市場自由化により発生した問題点は、いま日本でも議論されている電力システム改革を考える際の参考になる。ブルガリアと日本では経済情勢など異なる点が多い、しかし対岸の火事とばかり言えない身につまされる点も多い。電気と言う特殊な商品を市場に任せるリスクはどの国でも同じだ。

欧州委員会から問題の指摘も
ブルガリアの電力事情

 2007年1月に欧州連合(EU)に加入したブルガリアは、2003年のエネルギー市場自由化に関する欧州委員会の指令に基づき2007年7月に電力市場を自由化した。当初国内の供給は海外企業4社が行っていたが、現在では次の3社が行っている。

 首都ソフィアを含む西部:CEZ(中欧で最大のチェコ企業。プラハ、ワルシャワで上場。2原子力発電所、18石炭火力発電所、35水力発電所などを保有。発電、配電、トレードなどをチェコ、ブルガリアなど8か国で展開)

 北東部:Energo-Pro(自社の水力発電所からの電力供給を主体にするチェコ企業。ブルガリアでも8水力発電所を保有。5カ国で電力事業を展開)

 北西部:EVN(オーストリア企業。電力供給に加え、ガス、熱、水などの供給事業、廃棄物処理事業も展開。14カ国で事業を展開しているが、電力についてはブルガリア、マケドニアが主体)

 2009年7月に欧州委員会に提出されたブルガリアのエネルギー市場自由化に関するブルガリア政府のレポート(http://www.energy-regulators.EU/portal/page/portal/EER_HOME/EER_PUBLICATIONS/NATIONAL_REPORTS/National%20Reporting%202009/NR_En/E09_NR_Bulgaria-EN.pdf)では、自由化は成功裏に進捗しているとされていた。一方、2011年9月に欧州委員会は国内エネルギー市場について透明性が完全には確保されていないとしてブルガリア、エストニア、英国の3カ国に通知を出している。現時点では欧州委員会は次の2点をブルガリアの問題と指摘している。(1)ブルガリアの卸電力市場が寡占化されている(2)小規模需要家に対する規制料金を決定するエネルギー・水規制委員会の独立性に疑問あり。

電気料金高騰に対する国民の怒り

 ブルガリアの平均賃金はEU27カ国中最低の月387ユーロだ。基礎年金額は76ユーロ、年金の平均額は150ユーロだ。2013年1月の電力料金は寒波の影響により高くなり、平均的な家庭の電気料金は100ユーロを超えると報道されている。ブルガリアの電気料金は2012年7月に再生可能エネルギーによる電力料金の負担のために13%上昇したが、それでも欧州最安値のレベルだ。

 多くのブルガリア国民は電気料金の上昇の原因は電力供給を行っている海外の電力会社3社が棚ボタの利益を不当に上げているためと思い、街頭で抗議活動を行う事態となった。ブルガリア政府は海外電力会社との契約書を非公開としているが、15%の収益を保証しているとの報道もあり、国民は非公開であることに胡散臭さを感じている。また、規制委員会の委員長人事でも賄賂の噂があり、腐敗撲滅に消極的なボリソフ首相に対する怒りも背景にあると言われている。

 極右政党は、電力の再国有化を主張し、電気料金の請求書を焼き捨てるように呼びかけたが、街頭の抗議行動では実際に請求書を焼き捨て、首相をマフィアと呼ぶ動きも出た。

 事態収拾のために、17日にはエネルギー大臣が電力会社との契約書を公開すると述べ、18日には財務大臣が辞任し、同日電気料金引き下げ策が関係閣僚により議論され、19日夜にはボリソフ首相がCEZの免許剥奪も検討し、3月からは再エネに代え原発からの電気を規制料金対象の需要家に提供することで電気料金を8%引き下げると発表したが、国民の怒りは収まることがなかった。

規制委員会も機能せず
ブルガリアの電力自由化から考えるべきこと

 電気料金高騰が、空手の指導者であり、旧共産党指導者のボディーガード業からソフィア市長を経て首相に上り詰めた強面のボリソフ首相を引き摺り下ろすことになった。

 首相辞任を伝えたインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙は「共産政権崩壊以降、ブルガリアではマフィアによる犯罪があったが、1989年の共産党崩壊時の独裁者ジフコフ追放時でも政治的な暴力はなかった。今回の首相辞任は政治的な暴力によるものだ」と伝えている。

 電気料金高騰が首相辞任とブルガリアの政治的な混乱を招くことになったが、その遠因は自由化にある。むろん自由化すればブルガリアのようになるということではない。しかし、総括原価主義を離れれば、電力会社は料金を自由に設定できる。ブルガリアのように競争がなくなれば料金設定は自由だ。ブルガリアでは規制委員会を作り料金をチェックすることになっていたが、その委員会は機能していなかったようだ。

 電力自由化により料金上昇の影響を大きく受けるのは貧困層ということも、ブルガリアの出来事は示している。所得の低いブルガリアの人達は何故収入に合わせた電気の使用をしなかったのだろうか。寒波が来たから我慢できなかったのだ。電気代が上がっても、節約するには限度がある。所得が低い家庭ほど節約する余地は少ないが、寒波が来れば、必需品の電気は使わざるを得ない。

電気料金上昇の影響
「カリフォルニア電力危機」原因の誤解

 いま議論されている電力自由化論を、現実の経営の立場で考えると、あり得ないような想定が行われていることに驚くことがある。例えば、電力市場が自由化されていれば震災後の計画停電を避けることができたとの主張がある。

 東電以外の会社の発電設備があれば供給できたという説は、発電所の所有者が変わっても発電所の場所が変わる訳ではなく論理的でないので議論に値しないが、自由化の主張は「自由化市場では供給が少なくなれば電気料金が高騰し、節電が進み、さらに自家発などの余剰設備から供給が出てくるので、需給がバランスした」というものだ。

 この説もかなり疑わしい。震災後に東電管内で発電可能だが使っていなかった設備がどれほどあったのだろうか。また、電気料金が上がると使用を止める人がどれほどいたのだろうか。料金に関係なく、供給できる人はし、節電できる人はしていただろう。

 震災と言う緊急時でなければ、電力料金の高騰は節電を促進する可能性はある。しかし、料金がどの程度上昇すればよいのだろうか。この実験はできない。突然ある地区の電気料金だけ上げて需要の変化を調べることはできないからだ。

 カリフォルニア州が自由化の結果電力危機に襲われた2000年の夏に、期せずして電気料金上昇の影響が分かる出来事があった。カリフォルニア州では卸料金は自由化されたが、小売り料金は価格上昇を恐れた州政府が凍結していた。「カリフォルニアでは小売価格が凍結されていたために、市場の利用ができず需要が減少しなかった。つまり自由化が中途半端だったのが、カリフォルニア電力危機の原因」とよく説明される事態だが、実態は違う。 

 実際には、サンディエゴ地区だけ小売価格の凍結が溶けていたために、料金は上昇した。2000年の夏、電気料金は3か月で2.4倍になった。140%の上昇だ。電力需要は前年比で増えた。暑い夏だったからだ。気温を平年並みに調整すれば13%減だったという論文がある。140%の上昇で13%減。弾性値は‐0.1以下だ。

 電気料金が上昇すれば需要は減少するだろう。しかし、料金以上に大きい要因があるということだ。寒いブルガリアと同じだ。支払いができないと思っても電気を使わざるを得ないということだ。

工場のコストは電気料金以外にも多くある

 自由化でもう一つ言われるのが「料金が高騰すれば、工場などが操業を止め余った電気を売る」という説だ。工場の操業のコストのうち電気料金はどれほどを占めるのだろうか。人件費、設備費のほうが普通の工場であれば大きいだろう。明日は電気料金が上がりそうだから操業を止めると突然決めたら、従業員、取引先はどうするのだろうか。

 コストに占める電気料金の比率が操業を止めるまでの影響を持つほど高い企業がそれほどある筈がない。第一、電気料金がいくらになるかは、当日まで分からない。予想が外れれば、大損かもしれない。工場を止めて、そんなギャンブルをする経営者が日本にいるのだろうか。

送電料金を変えれば地産地消が進むのか

 自由化論、発送電分離論の主張は、送電線を自由に使用できるようにすれば発電設備が増える、さらに送電線の混雑が少ない場所の送電料金を安くすればその場所に発電所ができるというものだ。例えば、東北から首都圏への送電は多いが、首都圏から東北への送電は少ないから、首都圏に発電所を建設すれば送電料が安くなり地産地消が進むという説だ。

 発電設備のように長期に亘り償却が行われる場合には、将来の不確実性が少ないことが投資の条件なので、自由化により設備の建設が進むかどうかが疑わしいことは『停電の恐怖に怯えるドイツは日本の将来像か 発送電分離で脱原発は可能?』(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2473)で説明した。それならば、送電料金が安ければ発電所建設のインセンティブになるのだろうか。

 発電コストに占める送電料金の割合より、建設に必要な土地代、環境対策費用などが建設場所決定の要因としては大きいだろう。送電コストが建設場所の選定に大きな影響を持つのであれば、都市圏を持つ電力会社はわざわざ遠い場所に発電所を建設していないはずだ。送電コストよりもっと大きな要因があったということだ。送電費用に差を付けることで地産地消が進むというのも眉唾だ。

電力自由化理論
理論だけでなく現実を見極める必要性

 経済学の電力自由化理論を現実の経営の視線でみると、おかしなことが多い。今の総括原価主義には無駄なコストも含まれることがあるだろう。しかし、ブルガリアで言われているように電力会社の不当な利益により料金が高騰することはない。電気料金の査定に利用されるヤードスティック方式は経営の効率化を図る指標だ。

 我々が必要なのは安定的で競争力のある電気料金だ。自由化の結果、電気料金が下がる可能性は、欧米のように国外、州外からの電力供給がない日本ではないだろう。供給の安定性が阻害される可能性のほうが大きいのではないか。安定的で競争力のある電気料金をどのように得るのかをよく考えるべきだ。社会実験を行う余裕は今の日本経済にはない。


<参考リンク>

◆消費増税の陰で忘れられる2つの「自由化」  (竹中平蔵の眼)
 http://opi-3rd-riku.blog.so-net.ne.jp/2012-07-04

6月26日の衆院本会議で消費税の増税を含む一連の法案が可決された。消費増税の決定とそれをめぐる政局の混乱で、ニュースは埋め尽くされている感がある。しかしその陰で、重要な問題の決定が引き延ばされていることが懸念される。一つは環太平洋経済連携協定(TPP)、つまり貿易、そしてもう一つは電力。2つの重要な「自由化」が忘れられている・・・


※経済政策の問題であり、反原発派批判ではありません。
 

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コメント
 
01. 2013年7月06日 18:26:02 : 2SZ9h8Nw3I

発送電分離ちゅうのは必要ないね。

既存の電力会社は電力会社で今まで通り、発電と送電をして仕事を続ければよい。
それとは別に新興の電力会社は、既存の電柱に新たに電線を張って勝手な価格で一般消費者に売ればよい。

そこには自然と自由競争が生ずるから、必ず電気料金は安くなる。

既存の送電網を共用するのはちと難しい課題がある。
流し入れた電力とその会社と契約した消費者の総消費量。
絶対に合わんよ。
上手く調整しないと既存の電力会社の電力を勝手に拝借することになる。
 中小の電力会社がダウンしたら大停電間違いなし。
だから、電柱は共用で、新興の電力会社は数社で共有して新たに電線を張ることがもっとも合理的だ。
それなら既存の電力会社の利用者に迷惑を掛けない。



02. 2013年7月06日 18:52:44 : mHY843J0vA

電力などを自由化すると、それまで国家が負担していた、いろいろなコストが表面化します

また自由化の際、民間会社が高い価格でインフラを購入するなら、それもまた価格上昇要因になります

ですから、かなり注意深く行わない限り、失敗するリスクも低くはありません

ただ日本の場合、JRなど幾つかの成功モデルがあるので、きちんと監視されているのであれば、必ずしも悲観的になる必要はないでしょう


03. 2013年7月06日 19:26:50 : dojoRteDDQ
どうでもいいが 
都合のいいときだけ「公共のための企業」」と言って税金を注入してもらい
都合の悪いときだけ「私企業」を主張して介入を拒む
国営化でも民営化でもいいが
今のキメラ状態をなんとかしてくれ

04. 2013年7月07日 12:20:21 : e9xeV93vFQ


 


焦点:移民受け入れで人口拡大、豪経済にもたらす「成長の果実」
2013年 07月 6日 16:07 JST
[シドニー 4日 ロイター] - オーストラリアでは他国をしのぐ経済成長が続いているが、毎年約25万人に上る移民の受け入れが同国の成長要因の一つであることは見過ごされがちだ。移民受け入れにより、住宅や自動車、教育から医療に至るまで、あらゆる分野での需要が支えられることになる。

最も人口の多いニューサウスウェールズ州は、拡大する需要を満たすため、向こう4年間で600億豪ドル(約5兆5000億円)をインフラ整備に投じる方針を明らかにしている。

人口増加は全ての問題を解決する万能薬では決してなく、環境面でも多くの問題を伴う。しかし、オーストラリアはこのような問題への取り組みにおいても他国に比べて優位に立っている。

内陸地域の大半は未開発だが、2万6000キロメートルに及ぶ肥沃(ひよく)な沿岸部には居住可能な地域が十分にある。沿岸部の都市は、同国の総人口約2300万人の大半が住んでいるにもかかわらず、世界で最も人口密度が少ない水準を保っている。

<移民受け入れが成長後押し>

堅調な経済と低い失業率を受け、オーストラリアは高学歴で高いスキルを持つ移民を受け入れ続けてきた。今年6月までの1年間に技術ビザで入国した移民は約12万9000人に上り、向こう1年間でも同程度の技術移民が迎えられる見通し。近年の技術移民は、中国、インド、英国、ニュージーランドの出身者が多くを占める。

統計局の発表によると、2012年の移民の純増数は前年比17%増の23万6000人だった。同年の人口増の6割以上は移民から成り、それに応じて新たな住居の確保も必要とされる。

移民と資金の流入が住宅価格の押し上げにつながる国がある一方、オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)のスティーブンス総裁は今月3日、同国の住宅価格は緩やかに上昇しており、深刻な問題にはならないとの見方を示した。

同国の人口増加率は年1.8%に上り、増加ペースは米国の2倍、英国の3倍、ドイツの9倍となる。2002年のオーストラリアの人口増加率はわずか1.1%だった。

<日欧は人口減少へ>

国連は、2050年までにオーストラリアの人口が50%増加する見通しを発表。これに対し、同年の欧州の人口は6700万人減少(9%減)、日本の人口は2600万人減少(20%減)と予想されている。

オーストラリア政府によると、同国の人口増加は国連の見通しを上回る可能性もあり、現在の増加ペースが続けば2050年の人口は4000万人に達することもあり得る。それが現実となれば、同国は経済成長で他の先進国よりも優位な状態が続くだろう。

人口減が続く日本のような国では、経済成長は生産性の改善などによってもたらされる必要がある。しかし成熟した経済にとってこれは困難な課題となる。

オーストラリアが重視するのは若い年代の技術移民で、彼らの平均年齢は国民の平均年齢を下回る。また、同国では政府の出産奨励策が出生率の上昇に貢献し、2012年の出生率は高い水準を記録した。

<政治指導者も支持>

米国とは異なり、オーストラリアでは移民の流入はそれほど大きな議論を呼んではいない。技術移民が同国の採掘ブームに必要不可欠だったことも理由の一つだ。ただ、鉱山投資がピークを迎え、失業率が徐々に上昇を続ける中、移民政策をめぐる反対意見が増える可能性もある。

しかし、主要政党の指導者らは移民受け入れの継続に前向きな姿勢を示している。

数カ月以内に行われる総選挙では、野党の中道右派、自由党の勝利が予想されているが、同党は技術移民の受け入れを強く支持する経済界の人物らとつながりが深い。

自由党のトニー・アボット党首は先月、ノーザンテリトリー(北部準州)の人口を大幅に拡大させる考えを提案した。ノーザンテリトリーは米テキサス州の2倍の面積を持ちながら、居住者数は23万7000人にとどまっている。

一方、6月26日に行われた与党・労働党の党首選に勝利し、首相の座を奪還したケビン・ラッド氏はこれまで、人口増加を想定した「大きなオーストラリア」政策を掲げたこともある。

ラッド氏は首相復帰初日に議会に対し、「われわれは多文化国家の成功例だ」と指摘。「過去数十年にわたって受け入れてきた移民により、オーストラリアには活力がもたらされてきた」と移民の重要性を訴えた。

(原文:Wayne Cole記者、翻訳:本田ももこ、編集:橋本俊樹)

*一部語句を追加して再送します。


 

 


 
焦点:満たされぬブラジル中間層、政府と国民の深い溝
2013年 07月 6日 11:47 JST
[サンゴンサロ(ブラジル) 3日 ロイター] - ブラジル南東部サンゴンサロに住むアンドレ・タマンダレさん(33)には、本来なら怒る理由などあるはずもない。高校中退ながらこの10年で安定した仕事を手にし、交際している女性とその息子2人と一緒に暮らせるだけの収入を得て、小さいながらも自分の家を持っている。

しかし、タマンダレさんは政府が「満足している」と思い込んでいる国民の1人で、同国ではこうした人たちが100万人以上も抗議活動を行っている。

不満の矛先は粗末な公立学校や病院、交通機関に向けられているほか、物価上昇や犯罪、汚職にも抗議の声は上がっている。政治家が自己満足に浸っているだけで、国民の間で高まっている不満を直視していないとの批判は高まるばかりだ。

こうした抗議活動は、「先進国の仲間入りを果たす」という政府の公約が守られていないことに、国民約2億人の間で不満が増大していることの表れと言える。

「少し歩けば、われわれの地域がいかに成長していないかがよく分かる。バスや病院はぼろぼろで、サービスも遅く、腹立たしい限りだ」。たばこの煙を吐きながら、タマンダレさんは憤る。

ブラジルのデモは、公共交通機関の運賃値上げが引き金となって起こった。初めデモに参加したのは、ほとんどが伝統的な中間層出身の教育を受けた若者だった。彼らは歴史的に見て、最近まで貧困層にいた1億人近いの国民よりも、裕福なエリート層と多くの共通点を持っていた人たちだ。こうした「新・中間層」とも呼べる人たちが声を上げたことで、デモの勢いは一気に拡大した。

輸出の急増、購買意欲の拡大、大規模な社会福祉プログラムのおかげで、過去10年間の経済は安定的に保たれ、3500万人が貧困層から抜け出すことができたのは事実だ。しかし経済が停滞する今、「新・中間層」の多くからは、満たされていないことが数多く残されているとの声が上がっている。

<中間層の定義>

そもそも標準的な欧米の国々とブラジルでは、中間層の定義が全く異なる。中間層という言葉は幅広く使用されており、家賃や食費、冷蔵庫やテレビなどのローンを支払える人であれば、ほとんどの人が中間層に属していると言える。

ただ中間層の底辺にいる人たちの月収は1730レアル(約7万9000円)程度で、同じ中間層でも上位にいる人たちとは違って、公共の交通機関や病院、学校などに依存するところが大きい。

問題は、ブラジルの公共サービスへの投資規模が他の経済大国と比べてはるかに小さいという点だ。約20年間の軍による独裁体制を経て民主主義国家となったブラジルは、1988年に制定した憲法で欧州式の年金制度やその他の社会保障制度を、決して冒されることのないものとして法制化した。このため、スイスやカナダのように国民に高い税率を課しても、税収はインフラや学校の整備にまわされることはなく、年金や公的機関で働く人の給料として使われる仕組みになっている。

クレディ・スイスの調査によれば、2012年のブラジル政府支出のうち、投資に充てられたのは5%以下に過ぎなかった。

<生活の実態>

かつて勢いに乗っていた経済も今では活気を失い、同国政府は必要な支出にも消極的だ。ある監視団体によれば、政府が昨年、都市交通プロジェクトに拠出した資金は、割り当てられた予算の10%にも満たなかった。

その結果が粗末な公共交通機関となって表れている。公共交通機関をよく使う人にとって、日々の生活はイライラの連続であり、時に危険な目に遭うことすらある。2時間以上の通勤は、サンパウロやリオデジャネイロといった大都市ですら珍しいことではない。電車やバスは見た目も薄汚れ、時間に遅れたり、運賃が高かったり、過労状態の運転手がハンドルを握っていたりすることなど日常茶飯事だ。

家路につく時も、人々は犯罪に巻き込まれないかを気にかけている。同国の犯罪率は世界で最も高い水準にあり、国連の統計によれば、2010年に殺人事件で死亡した人の割合は10万人当たり21人。米国が4.8人、中国が1人であることを考えれば、非常に高いことが分かる。

子どもたちは学校で多くの物事を学べるわけではなく、ブラジルの識字率や学業成績は、先進国どころか他の途上国にも後れを取っている状態だ。また、国民の多くは民間の医療保険に入る金銭的余裕がなく、こうした人たちは公立の病院に頼らざるを得ない。しかし公立病院は設備が乏しく、医師の数も少ないという現実がある。

ただ、この国が今にも崩壊してしまうというわけではない。デモ活動は概ね平和的に行われているし、ルセフ大統領は一部のデモ隊と面会し、わずかながら公共投資を増やすと約束した。デモ隊は特定の政党を支持しておらず、政治的に結束しているわけではないため、大統領の支持率急落が直ちにルセフ氏の選挙での敗北につながることはない。

<疲弊する人と国>

冒頭のタマンダレさん一家に話を戻そう。息子2人は地元の学校に入ったが、そこでは1日当たりの授業時間が5時間以下だ。私立の学校に通わせる金銭的余裕もなく、タマンダレさんと同居する女性は「理想じゃないけれど仕方がない」と肩を落とす。

市役所での職を得たタマンダレさんは、修理工の仕事は副業として続け、女性もランジェリーの販売をしながら、台所用品などを扱う店の店員として働き始めた。

ただ彼女の職場は「遠い」場所にある。距離にすれば10キロ程度だが、通勤には1時間半かかる。バスは近くの停留所に到着した時にはすでに満員で、帰宅する時間帯もやはり満員だ。「バスで立ち、仕事でも立ち、帰りも立つ。自宅に着く頃にはくたくたに疲れている」とこぼした。

ブラジルの経済も同じく疲弊している。鉄鉱石などの原材料は(輸出先である)中国の需要が縮小している。また、債務不履行が昨年増えたことで、銀行の貸し渋りにもつながっている。

ルラ前大統領の時代には、平均で年4%超の成長率を遂げたブラジルだが、ルセフ現大統領の在任期間中は成長率が2%を超えることはないとみられている。長きにわたって懸念材料とされてきたインフレ率は年6.5%に戻している。こうした低迷は、「遂にブラジルは成し遂げた」などとうそぶく政府に厳しい現実を突きつけている。

タマンダレさんが住むサンゴンサロは、勤勉な人たちが暮らすベッドタウンとして栄えてきたが、今では五輪に向けた警察の取り締まりを逃れてリオのスラムから流れ込んだ犯罪者らの潜伏場所になりつつある。

荒廃した地元の病院は、患者やその家族らであふれかえり、例えば蛇口は水道管をそのまま切断したような粗雑な造りになっている。負傷した知人の付き添いで病院に来たという男性は昨年、発熱と腹痛、嘔吐を繰り返すという深刻な症状で、自分もその病院を訪れた。ところが8時間待たされた上に、結局医師の診察を受けることはできなかったという。「今日も1日中待たされるかな」。男性はそうつぶやいた。

(原文執筆:Paulo Prada、翻訳:梅川崇、編集:橋本俊樹)

 


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