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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130704-00010003-newsweek-bus_all
ニューズウィーク日本版 7月4日(木)18時24分配信
7月2日付で、厚生労働省の事務次官に村木厚子氏が就任した。文書偽造事件で逮捕されて話題になったが、安倍内閣の「女性活用」路線のシンボルとして選ばれたらしい。
しかし女性の雇用をめぐる環境はきびしい。日本の女性の労働力率は60%前後で、OECD平均の70%に比べて低いが、特に問題なのは、20歳代後半から30歳代にかけて労働力率が落ちて40代で上がる、いわゆるM字カーブを描いていることだ。次の図のように、結婚・出産・育児等のために労働市場からいったん退出し、育児が落ち着いたあと労働市場に復帰するときにはパートタイマーの仕事しかないため、賃金が低い。
このため、非正社員の半分以上は主婦のパートである。私の妻の友人でも、東大を卒業して電機メーカーで総合職として働いていたのが、夫の転勤でやめると、次の職はスーパーのレジしかない。それではあほらしいので専業主婦をやってようということになる。
この原因は、夫の転勤にともなって妻も転居すると、最初に就職した会社を辞めざるをえず、再雇用されるときは正社員として採用されないためだ。さらに子供が大きくなると、今度は夫だけが転勤する「単身赴任」という世界にも類をみない生活形態が増える。
このように転勤が多いのは、長期雇用や年功序列を守りつつ市場の変化に対応するため、職場を転々と異動する企業システムになっているからだ。日本の労使関係は協調的だが、配置転換だけは絶対だ。裁判所も、解雇については労働者を保護するが、配置転換については会社側に付く。転勤拒否は許さない。
この背景には、社員を長期雇用して会社のためには身を粉にして働く労働倫理がある。日本の長期雇用システムは、高度成長期のように一つの会社に一生をささげることによって最終的に全員が利益を得られる時代には機能したが、その利益が枯渇すると中高年の正社員の既得権を守るために若年労働者や女性を労働市場から排除する、不公正で非効率なシステムになる。
そして企業が世帯主である男性に長時間労働を強要する一方、専業主婦を養える「生活給」を払うという形で家族ぐるみの雇用が行なわれてきた。しかし90年代以降、賃金の上昇が止まる一方、女性の就業率が上がると、総合職の女性が専業主婦になる機会費用が大きくなり、労働のじゃまになる子供をつくらない夫婦が増える。
だから少子化を止める根本的な対策は、児童手当のような「産めよ殖やせよ」ではなく、労働者を定年まで一つの会社にしばりつける雇用慣行を変え、転勤の必要を減らすことだ。労働者が同じ職種で別の企業に移れるようになれば、女性も結婚退職する必要がなくなり、夫婦ともに一つの地域で暮らし続けることができる。
このためには保育所など女性の労働を支援するインフラ整備も必要だ。高度成長が終わったのだから、雇用とともに家族の姿も変わることは避けられない。この変化を雇用規制やバラマキ福祉で止めることはできないので、労働者が変化に対応できるようにする制度設計が必要だ。女性の比率をアファーマティブアクション(格差是正策)みたいなもので増やすより、雇用慣行を見直さないと根本的な是正はできない。
厚労省の発想は、いまだに高度成長期のように「企業は一家」で、経営者が定年まで雇用責任をもつべきだという「日本型福祉社会」である。社会保険料を負担する正社員は公的年金を支える重要な財源だから、何としても正社員という身分を守り、それ以外の労働者を「非正規」として排除したいのだ。
これまで女性は、その企業戦士を支える「銃後」だったが、これから生産年齢人口が減ってゆく中では、女性自身が戦力になる必要がある。そのためには、結婚や出産や年齢に関係なく、女性の能力にふさわしい処遇をする雇用慣行の改革が必要だ。刑事事件という大きな試練をくぐり抜けた村木氏には、今度はこうした厚労省の古い発想へのチャレンジを期待したい。
池田信夫(経済学者)
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