02. 2013年7月04日 21:04:55
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アングル:関西経済に出遅れ感、回復基調も円安・電気料金がアキレス腱に 2013年 07月 4日 18:38 JST [大阪 4日 ロイター] - 国内総生産の2割弱を占める関西経済は、円安効果などで回復基調にあるものの、輸入品の値上がりでコストが増加し、中堅・中小企業の利益をひっ迫する恐れがある。関西電力(9503.T)が値上げに踏み切った電気料金の負担も、企業と家計に重くのしかかる。首都圏に比べ中小企業のウエートが高い関西経済が直面する苦悩は、アベノミクス効果にわく首都圏や中部圏とは違った日本経済の断面を浮き上がらせている。 日銀が4日に発表した地域経済報告では、全9地域のうち東北を除く8地域の景気情勢が、前回(4月)と比較し上方修正となった。好調な自動車産業の恩恵が比較的少ない近畿地域も「緩やかに持ち直している」と、4月から上方修正された。 ただ、「持ち直している」となった関東甲信越、東海に比べ幾分、出遅れた印象が否めない。日銀の櫛田誠希・大阪支店長(理事)は4日の会見で、中国向けの輸出は弱く、先行きは慎重な見方が多いと指摘した。 <再建シナリオに影> 「鋼材の需要が強くない。値段が思うように上げられない」──。経営再建中の国内電炉大手、中山製鋼所(5408.T)の森田俊一社長は、苦渋に満ちた表情で話す。電気を大量に使う電炉各社にとって、今年4月の関電による電気料金の値上げが経営に及ぼす影響は大きい。同社の場合、電気コストは3月に比べ30%上昇したという。 同社は2013年3月期に4期連続の営業赤字を計上し、債務超過に陥った。取引金融機関による債権放棄などで、財務体質の健全化を図り、今期の営業・経常黒字化を目指す。 一方、主力の建築用鋼材は、東北地方での復興需要が遅れたことで需要が伸びず、顧客への価格転嫁は一筋縄にはいかない。 黒字確保には数十項目に及ぶ利益改善策の着実な実行が求められている。電気料金の価格転嫁が進まない状況が続けば、再建のシナリオに狂いが生じかねない。「値段が上がらない場合でも、影響を抑える努力はしなければならない」(森田社長)と、徹底したコストダウンに取り組みつつ、安倍政権が掲げる国土強靭化策に伴った鋼材需要の拡大に望みをかける。 <設備投資に踏み切れない> 中小企業庁によると、大阪府内の常勤雇用者・従業者のうち、中小企業の勤務者数は全体の約62%に上る(09年時点)。東京都の約36%を大きく上回る水準だ。また、2010年の製造品出荷額等における中小事業所の割合は約58%。国内の景気動向に大きく左右されがちな中小企業の業況が、大阪をはじめとする関西経済に及ぼす影響は決して小さくない。 大阪湾周辺に拠点を構える中堅冷蔵倉庫業者のフリゴ(大阪市此花区)は、関電による電気料金の値上げを機に、取引先に対し倉庫保管料の価格改定を要請した。大掛かりな値上げはオイルショック以来、約40年ぶりになるという。 同社の倉庫業務における電気代は年5000万円程度増加する見通し。「これだけ大きな値上げになると、自助努力では難しい」と、西願廣行社長(日本冷蔵倉庫協会副会長)は苦しい胸の内を明かす。 追い打ちをかけるのが、食材などの輸入元となる中国経済の動向だ。現地では人件費高騰で食品加工工場を閉鎖する動きが相次ぎ、品目によって供給がタイトになっているという。 一方で急激な円高是正を背景に、日本国内の取引先は輸入食材の調達を抑えるようになり、同社の倉庫保管収入は伸び悩みを見せ始めている。 国内の人口が減少し、食品需要の増加が見込めない中で、中小冷蔵倉庫業者が設備投資に踏み切るには困難な状況にある。冷蔵倉庫の築年数は業界平均で30年だが、多くの企業はすでに償却期間を超えて運用しているのが現実。「各社、設備の更新をしたら真っ赤になることを分かっている。借り入れの金利負担に耐えられない」(西願社長)という。 <中小のコスト転嫁は困難> 円安・株高を背景に関西に本社を置く大手各社は、軒並み業績回復を予想する。農機大手のクボタ(6326.T)、空調首位のダイキン工業(6367.T)、電子部品大手の村田製作所(6981.OS)などは海外需要の増加などで、今期は大幅な営業増益となる見通し。前期に巨額の最終赤字を計上したパナソニック(6752.T)、シャープ(6753.T)など電機大手も業績回復を見込む。 対照的に経営体力の乏しい中小企業に対する「アベノミクス」の波及には、時間がかかりそうだ。大阪信用金庫(同天王寺区)が取引先1796社を対象に6月上旬に実施した特別調査(回答率67.8%)によると、アベノミクス効果について「ほとんど影響はない」と回答した企業が62.1%に上った。 関西財界のシンクタンク、アジア太平洋研究所(同北区)の稲田義久・研究統括は、株高と円安は企業や消費者の「センチメントの改善に寄与する」と指摘する。 他方、中小企業には円安によるコストアップを「価格に転嫁しにくい」という構造があると述べる。そのうえで「設備投資に動くには、企業側が(収益拡大に対する)確証を得られない状況にある」とし、持続的な経済成長を達成するには解決すべき課題が多いと見る。 <投資・消費マインド好転できるか> 日経平均.N225が1000円以上値下がりした5月23日の夜、「街の中は本当に深閑としていた」と、大阪商工会議所副会頭の小嶋淳司・がんこフードサービス(同淀川区)会長は語った。小嶋副会頭が足を運んだ大阪の二大繁華街であるキタとミナミでは、株価下落の影響をまともに受けて客足がサーと引いていくのを肌で感じ、消費は繊細なものだとの思いを強くしたという。 関電によると、今年8月の家庭用電気料金は平均モデルで7691円。基本料金の値上げに加え、円安、原油高を背景にした燃料費調整の加算分の影響で、昨年8月比で781円の負担増となる。 特に影響が大きいのは低所得者層だ。大阪市立大学大学院の福原宏幸教授(労働経済論・社会政策)は、専門性を持たない労働者の雇用環境は厳しい状況にあるとし、低賃金を強いられる非正規雇用者に対して、アベノミクスの効果は「あまり波及すると思っていない」と話す。 パナソニック、シャープ、関電といった地元の有力企業が相次いで経営不振に陥ったことから、関西地方の今夏の賞与は全国平均と比較して低い水準になる公算が大きい。消費増税を前に、所得環境の改善が進まなければ、景気回復は一時的なものとなりかねない。 大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働から1年。同原発については、9月中までの運転を事実上容認されたことから、関西のこの夏の電力供給の不安は後退しつつある。 半面、高浜原発3、4号機(同高浜町)など現在、定期点検中の原発の再稼働が進まなければ、関電の財務体質は燃料費負担増の影響でさらに悪化し、電気料金の再値上げに追い込まれる可能性も高まる。出遅れ感の残る関西経済の先には、狭く険しい道が広がっている。 (長田 善行 編集;田巻 一彦)
豪最大の運用会社、6月末から日本株買う−安倍変革に期待感 7月4日(ブルームバーグ):豪州で最大の資産運用 ユニット、AMPキャピタル・インベスターズは、安倍晋三首相が7月の参院選で勝利すれば、規制緩和が進むとみており、日本株を買い増している。 同社の資産配分責任者、ネーダ・ナイエミ氏(シドニー在住)がこのほど行われたブルームバーグ・ニュースの取材で明らかにした。年末までに日本株は20%上昇すると予想、6月末から再度買い始めたと言い、小売 や不動産 、金融 、輸出 関連セクターは株価が十分に調整し、投資対象として利益が見込めるとしている。同氏は、日本株相場の5月後半の調整の深さや2009年春のボトムを過去に言い当てた。 ナイエミ氏は6月に3日間の日程で日本を訪問、上場企業や日本銀行、財務省の担当者らと会談し、安倍首相が衆参両院で力を得て、3年間は自由に政治をコントロールできるとの認識に至った。「彼はこの3年間を使って日本経済を変える。日本株に悲観的になるのは早過ぎる」と指摘、7月21日の参院選後は「日本株のエネルギーが出てくるだろう」と予測する。 日本の有力者と会い、「われわれはより短いターゲットが見えた」とナイエミ氏。10年や20年に及ぶ政策では誰も自信が持てないが、「これからはもっと短い期間に関する政策が出てくるはずだ」と言う。 投資・消費刺激策が重要、為替は円安予測 中でも、企業や家計の投資・消費を増やす改革の優先順位が最も高くあるべきと強調。これら政策は、ニュースのヘッドラインを飾り注目されるものではないが、「日本の家計や企業はバランスシートが健全なため、お金を使わせる政策が必要」としている。このほか、消費を増やす方法としては、女性の就業率向上を手助けする政策もあるとした。 一方、為替市場についてナイエミ氏は、年末までに1ドル=110円まで円安が進むと予想。米国の金融政策が出口戦略を模索する半面、日本銀行は金融緩和を継続するため、実質金利が米国で上昇、日本で下落するという金利差の読みがシナリオの背景にある。 相場が弱含む中で多くの日本株を買ってきた同氏は、5月以降の下げ について「ただの調整で、悪い下げではない」と回顧。参院選後には「新たな政策のアナウンスメントがたくさん出るだろう」とみているが、仮に期待された政策が出なければ、日本株のウエートを下げていく引き金になるとも話した。 AMPキャピタル・インベスターズは運用資産13兆円以上を管理している。ナイエミ氏は昨年10月、日本株の投資スタンスを「オーバーウエート」に引き上げた。ただ、5月にかけての日本株急騰は「泡だって行き過ぎていた」とし、押し目局面を待っていた。 参院選は4日に公示され、21日の投開票日に向けた選挙戦が正式にスタートした。定数242のうち、121が改選される。安倍首相は3日の党首討論会で、「われわれは参院選に勝ち、ねじれを解消し、政治の安定を手に入れ、まさに実感を皆様の手にお届けしたい」と述べた。 4日の日本株は、TOPIX が前日比0.3%安の1170.71と6日ぶりに反落。一時プラス圏に浮上する場面もあったが、米国の祝日休場、重要統計の発表を前に様子見姿勢が強く、ポルトガル、エジプトなど国際政治情勢の混乱も買い控えに拍車を掛けた。 記事に関する記者への問い合わせ先:東京 長谷川敏郎 thasegawa6@bloomberg.net;東京 Anna Kitanaka akitanaka@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先:Nick Gentle ngentle2@bloomberg.net 更新日時: 2013/07/04 16:51 JST
ゴールドマン:日本で公募増資を積極提案−海外マネー関心高く 7月4日(ブルームバーグ):米ゴールドマン・サックス は、最近の市場の乱高下にもかかわらず海外投資家の日本株への投資意欲は引き続き旺盛だとして、今週から事業会社など日本企業の経営幹部と積極的に会い、公募増資など株式市場での資金調達を呼びかけていく方針だ。 ゴールドマン・サックス証券の伊藤真理資本市場本部共同本部長はブルームバーグ・ニュースの取材に応じ、先週米国とアジアの大手機関投資家を複数訪問したことを明らかにした。その上で、日本の株式市場が5、6月の波乱を経験した後でも、海外投資家の日本企業に対する関心は依然として高く、投資意欲が確認できたと述べた。 ブルームバーグ・データによれば2013年上期(1月−6月)の日本の新規株式公開(IPO)や公募増資の合計は2兆7000億円とアベノミクスの効果もあり前年同期比で5倍に拡大した。しかし、中国の経済や金融システム対するリスクへの警戒感から世界で株安が連鎖、日経平均株価 も5月下旬から3週間で20%下落するなど、日本の発行体や証券会社の間では下期の見通しについて悲観論が広がっていた。 ゴールドマンの伊藤マネジングディレクターは1日のインタビューで、「日本は乱気流に取り込まれ視界不良だったが、海外機関投資家は日本に対してまだまだかなりコンストラクティブだ」と述べた。日本経済も政府や日銀の強力な後押しで上向いていくとみて、投資家の「アペタイトは十分にある。飛行状態がジェット気流に乗り安定すれば企業の公募増資などがアクティブになる可能性がある」と語った。 日本企業を訪問 伊藤マネジングディレクターは、先月27日、28日にシンガポールと香港を訪問、世界での運用資産が合計100兆円を超える米国やアジアのソブリン、ヘッジファンド、資産運用会社など10社と面会。これを受け今週、株式市場での資金調達に関心のある日本企業15社以上の経営幹部を訪問し、海外の投資家動向を報告するとともに、さらなる成長戦略を描くための公募増資を積極的に提案し始めている。 ゴールドマンは日本企業の株式引き受けランキングで13年上期は3位。日本たばこ産業 (JT)など7グローバル案件で主幹事などを務めた。トップは野村ホールディングス で、2位には大和証券グループ本社がつけている。 成長に向けた資金調達 ゴールドマンは13年下期(7−12月)の日本でのIPOや公募増資について、M&A(合併・買収)など成長に向けた日本企業の資金調達意欲が高いことから、昨年同期を上回ると見通している。12年下期には日本航空 (JAL)のIPOやANAホールディングス の大型公募増資などが複数あった。 国内広告最大手の電通 は3日、国内外で公募増資などを実施して最大約1201億円を調達すると発表した。英イージス・グループ買収に関する短期借り入れ約2000億円の一部返済に充当するという。 記事についての記者への問い合わせ先:東京 日向貴彦 Takahiko Hyuga thyuga@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先:Chitra Somayaji csomayaji@bloomberg.net 更新日時: 2013/07/04 18:13 JST
コラム:債券から株へグレートローテーション加速の根拠=嶋津洋樹氏 2013年 07月 4日 13:28 JST 嶋津洋樹 SMBC日興証券 債券ストラテジスト(2013年7月4日)
インフレの時代が来る。そう言ってもピンと来る人は少ないだろう。新興国が主導する世界景気の回復を受けて「資源インフレ」という言葉が流行ったこともあり、「またか」と思われるかもしれない。 確かに、主要中銀が積極的な金融緩和政策を継続しているにもかかわらず、そのなかにインフレの脅威にさらされている国は見当たらない。日本やスイスの消費者物価指数(CPI)は依然としてマイナス圏で推移している。こうした事実の前では、中期的なインフレ率は主に金融政策で決まるという主張も霞(かす)んでみえるだろう。 もっとも、「債券の時代が終わった」という見方には、多少の賛同が得られそうだ。少なくとも関心は高いだろう。 市場では折しも、景気回復に伴う債券などの安全資産から株式などのリスク資産への資金シフト(いわゆるグレートローテーション)に焦点が当たっている。実際、米独の長期金利は、米連邦準備理事会(FRB)が現行の資産購入(いわゆるQE3)のペースを減速させるとの見方が強まったこともあり、大幅に上昇。世界景気の先行き不透明感が完全に払拭されたわけではないが、内外投資家の債券に対する姿勢は従来に比べて慎重さが目立つ。 一方、株式市場は当初、金融緩和策が縮小方向で見直されるとの観測から大幅に調整。しかし、その後は徐々に落ち着きを取り戻し、「流動性相場」から「業績相場」への転換を指摘する声も聞こえる。株式、債券、通貨のトリプル安に見舞われた新興国市場にさえも、安定の兆しがあることは、グレートローテーションが今後、一段と加速する可能性を示しているといえるだろう。 <「QE3縮小=新興国危機」は誤解> さて、今回の新興国市場での混乱を、FRBの過去の引き締め局面と関連付け、「新興国危機」と捉える見方もあるが、筆者は懐疑的だ。 そうした見方は、過去の危機の多くが、FRBの引き締め開始時ではなく、フェデラルファンド(FF)金利が景気に中立的な水準近辺に達する局面で発生していた事実を軽視しているように思える。米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者は景気に中立的なFF金利水準を4%程度と認識しており、そこまでの道のりは遠い。 しかも、QE3の購入ペース減速は、伝統的な金融政策に置き換えるならば、FF金利の引き上げではなく、引き下げ幅の縮小を意味しているに過ぎない。今回の「新興国危機」の発生によって、グレートローテーションが阻害されるシナリオは想定し難い。 それどころか、今回のブラジルやメキシコ、インドネシアなどでのデモは、債券の時代が終わる前触れにすらみえる。というのも、その背景には物価の高騰や、物価の上昇率に比べて抑制された賃金の上昇率に対する不満があると考えられるからだ。それは、中国に進出した日本企業が近年、相次いで最低賃金の引き上げを迫られている要因とも重なるだろう。 また、2010年末から北アフリカ、中東で拡大したアラブの春や、トルコでの反政府デモの広がりにも同じ構図があると考えられる。この分析の正しさは、アラブの春の拡大を警戒したサウジアラビアなどの中東諸国が、選挙制度の見直しなどと共に賃上げや減税などへ踏み切ったことでも裏付けられるだろう。 こうした賃金の引き上げは労働分配率の上昇と、その逆数にあたる資本分配率の低下を通じて、新興国経済の投資から消費へのシフトを促す。それによって従来のような高い成長率を維持することは難しくなるが、経済の安定度は高まる。 ただし、新興国経済の投資から消費へのシフトは、従来は資源や資本財でみられた需給逼迫の構図を消費財の市場にも持ち込む可能性が高い。それは、これまで主に川上でみられたインフレ圧力が、川下へも拡大することを意味する。しかも、新興国では上述した賃上げ要求とその実現により、期待インフレが不安定化。その分、インフレには上振れリスクがあるといえるだろう。 筆者は新興国のインフレ圧力について、沈静化させるには中銀の引き締めや通貨高の容認など、政治的な困難を伴う決断が必要だと考えている。しかし、新興国の中銀は一般的に先進国に比べて独立性が弱い。新興国の経済が移行期に差し掛かっていることを踏まえると、インフレの鎮静化には時間がかかりそうだ。 <コンドラチェフサイクルの教え> このような新興国の状況は、いずれ先進国にも及ぶと予想される。実際、リーマンショック以降、新興国の世界経済への影響は目に見えるほど高まっている(ただ、今後しばらくは上述したような理由から成長率が鈍化し従来ほどの存在感は発揮できないだろうが)。 FRB、イングランド銀行(BOE)、欧州中央銀行(ECB)など、主要先進国の中銀が物価安定よりも景気回復を優先しつつあることも、新興国のインフレが先進国に波及する可能性を高めるだろう。その先進国では最近、物価の総合とコアの連動性が強まっている。企業はシェアや稼働率を優先するため、原材料価格などの仕入れコストが上昇しても、販売価格には転嫁できないとの見方は揺らいでいるようにみえる。 そもそも物価や金利の循環を反映するとされる「コンドラチェフサイクル」は片道が約30年と非常に長い。人類は過去200年強の間に少なくとも、5回の下降局面と4回の上昇局面を経験している。直近でも、米国ではリーマンショック前まで、日本では1990年代初頭まで、株式や不動産が安全で確実な投資先との見方が幅を利かせていた。過去20年程度の経験は確かに、インフレの脅威が過去の遺物となった可能性を示すが、永遠に通じる真理と結論付けるほど十分な時間は経過していない。 また、バーゼル銀行監督委員会の自己資本規制上では、自国通貨建て国債のリスクをゼロ(標準的手法の場合)とみなすことが可能とされている。このことは特に金融機関が国債投資を積極化することを正当化するだろう。しかし、欧州債務問題は自国通貨建て国債のリスクが必ずしもゼロではないことを明らかにした。 こうしたなかで、日米の中央銀行は償還期間の長い国債を積極的に購入し、金融機関に国債以外のリスクテイクを促している。筆者は、投資家が資金を安全資産からリスク資産へシフトさせることについて自然な流れだと感じている。米国で住宅市場の回復が続き、世界経済のけん引役としてカムバックする可能性が高まっているとすれば、なおさらだ。債券が投資対象として最も魅力的にみえた時代は短期的にも、中長期的にも転換点を迎えた可能性がある。 *嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントを経て2010年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとして、日米欧の経済、金融市場の分析に携わる。
バーナンキ議長の異例会見、FRBの言葉への信頼揺らぐ 2013年 07月 4日 18:45 JST [ワシントン/ニューヨーク 3日 ロイター] - 注意を要する微妙な計画を公の場で説明する試みは、勇敢な決断だったかもしれない。ただ、ウォール街の場中の会見でメッセージが誤解されるリスクは高かった。そしてまさにその誤解が起こった。
6月19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)会見後、バーナンキFRB議長は、生中継のテレビカメラを前に、精緻に構成された声明文の文言に頼ることなく、大規模な景気刺激策の縮小を開始し、最終的に終了する計画を説明した。しかし、FOMC声明文よりもかなり踏み込んだ政策指針を示すことを認めた当局の異例の判断は、完全に裏目に出た。 会見を受け、金融市場はFRBが来年後半に利上げを開始すると予想。それはFRBの想定時期よりも早く、FRB当局者は先週、火消しに奔走した。 それは、金利や債券買い入れ縮小開始時期に関する期待を管理するFRBの能力の限界を露呈したコミュニケーション上のつまづきを最も印象付けるものとなった。 ニューヨーク連銀のダドリー総裁は6月27日、意思疎通の失敗について記者に問われると「FRBとしては率直かつ非常に明確に市場に意思を伝えようとしており、それがヒントと誤解されるのはわれわれの意図するところではない」と答えた。 ここ1週間でロイターが取材した複数のFRB当局者は、市場がFRBのメッセージを誤解したと考えていることを認識していると述べ、歓迎されないメッセージを発信したことへの批判を甘んじて受ける姿勢を示した。ただ、経済の転換期におけるコミュニケーションの難しさを踏まえると、今後のボラティリティについては避けられない部分もあるとの見方を示した。当局者らは氏名の公表は拒否した。 一部の人々には、こうした発言は懸念すべきものだ。金利がゼロに近いなか、コミュニケーションは経済活動支援に向けて借り入れコストを抑えるための中心的なツールとなる。間違ったシグナルは市場の金利を上昇させ、経済成長を失速させるリスクがある。 <タカ派バイアス> 2006年のバーナンキ議長就任以来、メッセージの明瞭さを誇りとしてきたFRBが最近、意思疎通でつまづくケースが相次いでいる。 当局者は5月1日のFOMC会合後の声明文で、現行月額850億ドルの債券買い入れペースについて「加速もしくは減速させる用意がある(prepared to increase or reduce the pace of its purchases)」という文言を追加。この変更は当初、FOMCのスタンスがハト派的、量的緩和の継続あるいは緩和拡大にさえ向かっていると受け止められた。しかし、3週間後の5月22日に公表されたFOMC議事録では、よりタカ派色の強い政策協議がなされていたことが明らかになった。 この5月22日に、FRBはコミュニケーションで再びつまづくことになる。 バーナンキ議長はこの日、議会証言に臨んだ。議長が読み上げた原稿は金融刺激策の解除が早すぎる場合の危険性を警告する内容で、明らかにハト派的なコメントだった。しかし、議員との質疑応答セッションに入ると議長の姿勢は一転。「今後数回の会合で購入のペースを減速させることは可能」と述べたことで、世界に衝撃が走った。金融市場では大規模な資金の巻き戻しが起こり、世界の株式市場で5月末までに時価1兆ドル超が消失。市場が落ち着きを取り戻した先週初めまでに、消失額は2兆7500億ドルに達した。 米10年債利回りは大幅に上昇。先週は2年ぶり高水準の2.6%を記録し、5月初めの水準から1%ポイント上昇。住宅ローンなど消費者の借り入れコストも押し上げられた。米債券市場の損失はここ4週間で7500億ドルを超えた。 当然ながら、FRBは2008年の金融危機以降、国債およびエージェンシー(政府機関)発行モーゲージ債(MBS)の異例の規模での買い入れを通じて国内経済に大量の資金を供給してきたため、供給ペースを落とす動きは何であれ、その伝達方法にかかわらず、市場の乱高下をもたらす運命にあるのかもしれない。 実際に、今回起きた市場の急落は、ニューヨーク連銀のダドリー総裁をはじめとするFRB当局者がFRBの一連のメッセージに過剰反応した投資家の説得に努めたことで先週ようやく落ち着いた。 ウェストパック銀(シドニー)の為替・金利ストラテジストのショーン・キャロウ氏は「微妙なメッセージを望まない市場に対して微妙なメッセージを伝えようとしたことが今回の問題の一要素だ。ヘッジファンドのマネジャー、あるいは他の投資家も、次回は大型トレードを望んでいる」と述べた。 バーナンキ議長が予想通り来年1月の任期満了をもって退任した場合の後継者をめぐる憶測が飛び交うなか、今回の混乱で、着実な判断で知られるFRBの評判にも傷が付いた。 来週10日公表される6月のFOMC会合の議事録では、FOMCの見解について正式な投票を行ったうえで、会合後に出す声明文にそれを明記する方法を取らず、バーナンキ議長に会見の場であれほど複雑なメッセージを伝えさせた当局の判断過程が明らかになる可能性がある。それと同時に、議事録でFOMCメンバー内の深刻な意見対立がさらに鮮明になった場合、市場は一段と混乱する可能性がある。 <市場への理解> 市場は債券買い入れ縮小と利上げを関連付けているため、将来同じ事態が起きた場合、低調な景気回復を台無しにするリスクがある。金利の急上昇と株価と債券価格の急落は投資家や消費者、企業の信頼感を揺るがしかねず、新築住宅から工業用設備に至るあらゆるものへの消費が減退する可能性がある。 リッチモンド地区連銀のラッカー総裁は先週、「より良い意思疎通は可能だったと思う」と振り返り、「市場が(FRBの)今後の資産買い入れについて考えを見直すときに、利上げ時期については再考しないように期待することは求めすぎだった」と述べた。 バーナンキ議長は、6月19日のFOMC会合後の記者会見で、「FOMCは現時点で、年内に月次の資産買い入れペースを緩めることが適切と考えている。その後の指標が現在のわれわれの経済見通しに引き続きほぼ沿った内容となれば、来年上期を通じて買い入れを慎重なペースで縮小していき、年央頃に停止するだろう」と発言。議長はまた、低金利を2015年まで維持するFRBの見通しのほか、FRBの3兆4000億ドルのバランスシートの縮小に向けたより長期の計画を示した。 ブラックロック・インベストメント・インスティチュートのシニアディレクター、ピーター・フィッシャー氏は、これについて「将来に関するガイダンスの3つの異なる要素だ」と述べ、「この業界に長くいるが、債券市場の関係者はそこまで賢くない。われわれはガイダンスのすべてを織り込むことはできない」と指摘。「議長が意思疎通に失敗したとは思わない。彼らは野心的すぎたのだと思う」と述べた。 セントルイス地区連銀は6月21日、19日のFOMCでブラード総裁が反対票を投じたことに関連して声明を発表。この中で、バーナンキ議長に資産買い入れの縮小計画を示すことを認めたFOMCの決定を「不適切なタイミング」として批判するとともに、FRBは物価安定の擁護者としての信頼を損ねる恐れがあるとする総裁の考えを明らかにした。また、「経済が力強さを増し、インフレが目標水準へ回帰しつつあることを示す具体的な兆候がより多く確認できるまで、そうした発表は控えることがより慎重なアプローチだと総裁は感じた」と説明した。 失業率が予想より早く低下した場合に米金融界に何が起こるかは未知数だ。最近のロイター調査では、少なくとも4人の著名エコノミストが、FRBの予想よりも約6カ月早い2013年末までに失業率が7%に低下するとみている。現在の失業率は7.6%。 ナイト・キャピタルのマネジングディレクター、イオアン・スミス氏は 「FRB当局者は市場の誘導にそこまで力を入れるべきではないのかもしれない、なぜならこれに関しては市場への精通ぶりを全く示せていないのだから」と述べた。 (Alister Bull/Jonathan Spicer記者;翻訳 高橋恵梨子;編集 佐々木美和) |