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2013年07月04日 伊藤 信悟 :みずほ総合研究所アジア調査部中国室長 東洋経済オンライン
中国の金融市場が、一時かなりの荒れ模様となった。6月20日、上海銀行間取引金利(SHIBOR)翌日物は、終値ベースで13.444%にまで上昇した(図)。
2013年5月の平均値は2.921%、過去最高値は8.528%(2007年10月26日)。これらの数値と比べても、その高騰ぶりは際立った。それほどまでに、中国のインターバンク市場の流動性は逼迫したのである。
流動性不足を中国では「銭荒(チェン・フォアン)」と呼んでいるが、「銭荒」はなぜ起こったのだろうか。
■米国のQE3縮小観測がきっかけ
第1に、海外からの資金流入の減少である。今年の初頭は、元高観測を背景に海外からの資金流入が活発であったが、その後、米国のQE3(毎月850億ドルの証券購入策)の規模が縮小されるという観測が広がったことで、元高期待が弱まった。
また、中国経済の回復力の弱さを示す指標の発表も相次いだ。その結果、海外からの資金流入が細ることになった。中国人民銀行、商業銀行が購入したネットの外貨額(人民元換算)は、今年1月の6837億元から5月には668億元に縮小している。
第2に、季節要因も流動性の逼迫をもたらした。5月末には前年度の企業所得税の納付期限が到来、6月に入ると端午節の連休(6月10〜12日)前の現金ニーズの高まりなどで資金需要が高まった。
こうした環境下、6月6日になると、一部の中堅銀行が決済不能に陥ったとの情報が流れ始めた。それが市場の動揺を生み、SHIBOR翌日物は終値で6%近くにまで上昇した。さらには、6月19日になると、資金の出し手役を務めてきた大手商業銀行までもが資金の取り手に変わったとの観測が流れ、翌20日には中国銀行が決済不能に陥ったとの風評、中国工商銀行が中国人民銀行(中央銀行)から資金供給を受けたとのうわさまで飛び交った(中国銀行、中国工商銀行に関する風評については直後に間違いだと発表されている)。
市場の動揺は大きく、その結果、冒頭でみたように、6月20日にはSHIBOR翌日物が13.444%にまで上昇したのである。
それを契機に、中国の代表的な株価指数である上海総合指数が急落した。6月24日には前日比5.3%の大幅下落を演じ、27日まで下がり続けた。国債利回りの上昇や人民元安も起こり、一時はトリプル安の様相を呈した。中国の金融市場でパニックが生じていたといっても過言ではない。
■金融市場健全化の好機ととらえた中国政府
こうした中、中国政府は、パニックの広がりによる金融機関の破綻とその連鎖による金融市場の機能不全(システミックリスク)を防ぐ一方で、この「危機」を金融市場健全化の「好機」ととらえて、インターバンク金利の上昇をそのために利用しようとしたように映る。こうした中国政府の姿勢が流動性逼迫の第3の理由だと考えられる。
6月25日に発表された中国人民銀行の声明から、こうした中国政府の姿勢が透けてみえる。この声明の中で、中国人民銀行はまず金融市場の安定維持を図っていることを強調した。
具体的には、すでに流動性不足に陥った一部の金融機関に対して流動性を供給して支えたこと、流動性の豊かな銀行に金融市場のスタビライザーとして資金を供給させたことが明らかにされ、これらの措置を通じてパニックを収束させたと中国人民銀行は述べている。
さらに今後についても、流動性を適時に調節すること、流動性管理に失敗した銀行が現れた場合には、金融システム「全体」の安定維持を重視し、しっかりと策を講じることが声明にはうたわれている。
■銀行への融資規制をかいくぐる「理財商品」
しかし、システミックリスク回避を大前提としたうえで、中国人民銀行は銀行に対して流動性管理、資産負債管理の健全化も強く求めている。とりわけ「理財商品」に対する管理強化が目指されているようにみえる。
「理財商品」とは、小口の資産運用商品である。ここ数年で急速に財テク手段として人気を博するようになったが、その背景は次のとおりだ。中国の銀行は貸出残高を預金残高の75%以下に抑えなければならない(預貸率規制)。こうした中、銀行融資以外の資金調達手段として急拡大したのが、この「理財商品」のスキームである。
たとえば、銀行は債券、貸し出し、手形、信託商品などで構成される「資産プール」を小額投資可能な形に分割し「理財商品」として販売しているが、その利回りは、規制で金利が低く抑えられている預金よりも高い。それが個人投資家などを引き付けている。
他方、「理財商品」を通じて調達された資金は、不動産開発会社や「地方政府融資平台(インフラ建設などの資金を調達するために地方政府が出資し設立した会社)」など、規制により銀行融資が受けにくくなっている企業などにも流れている。ここに企業からみた「理財商品」のメリットがある。銀行からみれば、預貸率規制により貸し出しができないことで失われた収益機会を、「理財商品」の販売手数料で補うことができる。
ただし、「理財商品」には「流動性リスク」があると指摘されている。「理財商品」の償還期間は数カ月と短く、償還時に必要となる資金はインターバンク市場での短期借り入れによって手当されることが多いが、投融資先である不動産開発会社などからの資金回収期間は、一般に中長期だからだ。
このように期間構造にミスマッチがあると、インターバンク市場で短期金利が高騰した場合、銀行はコスト高で償還資金を調達できなくなるおそれがある。さらには、「理財商品」を通じて「信用リスク」が高い先に資金が流れていることも懸念の種とされている。
これらのリスクがあることから、中国の金融当局は野放図な「理財商品」の拡大を警戒し、規制を強化してきた。しかし、規制をかいくぐる動きが出たりするなど、関係当局は「理財商品」に対する監督管理に手を焼いてきた。
■短期金利はやや高めの水準が続く
そしてその最中に短期金利が上昇し、流動性リスクが高まったわけだが、中国人民銀行は2%台というパニック前の水準にまで短期金利を急いで抑えようとしているようにはみえない。短期金利が高騰した6月第3週にあっても、公開市場操作による資金放出量が6月第1週、第2週より絞られているなど、中国人民銀行がなりふり構わず流動性を大量供給しているわけではないからだ。
折しも6月下旬は、「理財商品」の大量償還期であった。フィッチ・レーティングスによると、その償還額は6月最後の10日間だけで1.5兆元に達したもようである。その時期に金利を高めに据え置くことは、経営管理の甘い銀行に対して流動性リスクの怖さを強く印象づけることになる。中国人民銀行、中国政府が危機を逆手にとって一種の教育効果を狙った可能性は否めない
こうした姿勢から判断して、当面、インターバンク金利はやや高めの水準で推移し、5月以前の低水準に回帰する可能性は低いように思われる。中国人民銀行は金融システム全体の混乱を招かない範囲で、流動性管理の強化を今後も銀行に求めていくとみられる。それゆえ、一部銀行が流動性不足に陥る可能性は残るかもしれない。中国人民銀行も6月25日の声明の中で、重大な突発性の問題が起こった場合には、すぐに報告するようあらためて銀行に求めている。
今後、システミックリスク防止と銀行健全化のための流動性管理強化という2つの目標を、同時に達成できるかどうか。中国人民銀行、中国政府が市場とのコミュニケーションをいかに丁寧かつ適切に行い、パニックの再燃を防げるかどうかがカギだ。
■成長率鈍化は容認も
では今回の「銭荒」は、中国の景気にどのような影響を与える可能性が高いだろうか。
資金調達が難しくなることで、投資の伸びが鈍化することが予想される。ブルームバーグによると、中国の6月の起債額は2012年1月以来、最も少ない額となるようだ。金利上昇により少なくとも22社が起債を中止または延期したためである。「理財商品」に対する管理強化と相まって、投資の下押し圧力となることは必至だろう。中国政府は経済の持続的発展のために成長率の鈍化を容認したと評価できそうだ。
ただしその過程で、暗黙の政府保証があるとみなされやすい国有企業に、低利の資金が流れやすい状況が続くとすれば問題だ。民間企業、とりわけ中小企業が資金難にあえぐことのないようにしなければならない。景気下押し圧力下で「国進民退」が起き、生産性改善に逆行する動きが出ないよう、習近平政権が速やかに手を打てるかが試されている。
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