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北米向け「ヤリス」を製造するフランスにあるトヨタの工場 [Photo] Bloomberg via Getty Images
日本車の5台に3台は海外産 法人税を大幅に引き下げても自動車産業の空洞化は止まらない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36286
2013年07月02日(火) 町田 徹 :現代ビジネス
参院選の公約として自民党が打ち出した「法人税の大胆な引き下げ」は、産業空洞化を食い止める切り札になるのだろうか。
主要な輸出産業のひとつである自動車の最近の動きをみると、海外生産の占める割合は上昇の一途を辿っており、すでに"日本車"の5台に3台が"海外製"になっている。しかも、その勢いは加速する一方だ。
そこで、今週は、国内で雇用を維持・拡大して、アベノミクスが標榜する経済成長を実現するために、本当に有効な手立ては何なのかを探ってみたい。
まず、確認する必要があるのは、自動車の生産台数の実情だ。
最新のデータは、日本自動車工業会が4月に公表した「暦年累計海外生産」だ。
それによると、2012年は前年比18.2%増の1582万5398台と、年産1600万台に迫る記録を残した。リーマン・ショック後の2009年の1011万7520台を底に、3年連続の増加を成し遂げたことになる。
■自動車製造の海外シフトは今年に入って加速している
対照的に、国内生産は、前年比18.4%増と減少にこそ歯止めがかかったものの、生産台数は994万2793台と4年連続で1000万の大台を割り込んだ。
同じくリーマン・ショック後の底(2009年の793万4057台)に比べれば持ち直したものの、2010年に前年比21.4%増、2011年は同12.8%減という一進一退から依然として抜け出せていない。
この状況は、ブランドとして日本車を掲げる車を無作為に5台抽出すれば、そのうちの3台以上が海外製で、純粋に日本で作られた純日本車は2台にも満たないということを意味している。
日本経済にとって深刻なのは、こうした海外シフトが今年に入って一段と加速しているとみられる点である。
日本自動車工業会によると、今年5月の四輪車の国内生産台数は前年同月比6.2%減の73万2714台と低水準であり、9カ月連続で前年同月を下回った。
個別のメーカーをみても、最大手のトヨタ自動車が昨年12月に決定した「2013年の世界生産計画」で、「トヨタ」「レクサス」両ブランド全体の生産台数を2012年並みに据え置くとしていたが、その内訳は、海外生産を前年計画比で34万台増の560万台と着実に増やす一方で、国内のそれは36万台減の310万台に減らすとしている。
■トヨタは北米輸出用の車種をフランスの工場で生産開始
さらにショッキングなことに、トヨタは今年5月、フランスの工場で、北米輸出用の「ヤリス」という車種の生産を開始した。その規模は年産2万5000台。トヨタが北米に輸出する自動車を欧州で生産するのはこれが初めてのことである。
リーマン・ショック後に顕著になった自動車生産の海外シフトの加速は、日本の製造業が歴史的な転換点にあることを示している。
そもそも日本車の海外生産が本格化したのは1980年代のこと。2度の石油危機を経て燃費の良い日本車が急速に米国市場での販売シェアを伸ばし、これを米自動車メーカーや労働者が「失業の輸出だ」と非難して日米貿易摩擦が激化したことから、日本メーカーが相次いで米国での現地生産に乗り出したのがきっかけだった。
1986年には海外生産台数が112万3386台と、初めて100万台の大台を超え、その後10年で5倍に拡大した。
1990年台後半に500万台代で推移していた海外生産は、2002年から毎年100万台ペースで増えるようになり、リーマン・ショック前の2007年には、海外生産が1185万9709台に対して、国内生産が1159万6327台と初めて内外逆転が起きた。そして、リーマン・ショック後はこの格差が広がる一方となったのだ。
学者の間では、生産の海外シフトについて、海外需要の拡大に対応した動きに過ぎず、国内の雇用の減少や生産縮小に伴う研究開発能力の低下を招いているわけではないので、センセーショナルな「空洞化」という言葉を使うべきではないという意見が依然として根強い。
しかし、前述のように、国内生産は今年5月に9カ月連続で前年同月を下回ったほか、2012年の生産台数もピーク時の水準(1990年の1348万6796台)には遠く及ばない。こうした状況は、意図的に国内生産を減らして海外にシフトする「空洞化」の本格化と捉えるべき状態と思われる。
海外への生産シフトが大きく進んでしまったとはいえ、依然として自動車産業の日本経済に占める地位、重要性には大きなものがある。
このところ原子力発電所の運転停止に伴う化石燃料の輸入増加で赤字定着が懸念されている。財務省の貿易統計を見ても、自動車は2012年に完成車と部品を合わせて12兆4000億円を輸出しており、輸出全体の19.5%を占める稼ぎ頭だ。
■注目される自民党の参院選向け公約
また、日本自動車工業会の雇用に関する統計をみても、自動車の製造、販売、整備、部品・素材部門は合計で226万人を雇用しており、全就業人口の3.6%を占めている。今なお大きな雇用機会を創出している基幹産業と言える。旅客、貨物、給油所、保険などの利用・関連部門も含めると、雇用者数は548万人に達し全体の8.8%に及ぶという。
こうした中で注目されるのが、自民党が今月21日投票の参議院選挙の公約として打ち出した「思い切った投資減税を行う」とか「法人税の大幅な引き下げを実行する」といった施策だ。
「今後10年間の平均で名目3%、実質2%の経済成長を実現する」というアベノミクスの3本目の矢の成長戦略の積み残し分として、今年秋の税制改正論議を通じて実現するのだという。
確かに、投資減税は、リーマン・ショック後、手元資金が不足して設備投資を手控え設備の老朽化が進んでいた中小企業などにとっては福音かもしれない。
しかし、自動車の生産に関して言えば、法人税の引き下げが海外に流出した生産の国内呼び戻しの切り札になるとは考えにくい。というのは、自動車メーカー各社は、必ずしも法人税率の高低に着目して生産地を決めているとは言えないからだ。
ここで再び2012年の自動車の海外生産に目を向けると、アジア、中近東、欧州、中南米など世界7地域のうち台数、伸び率ともにトップだったのは、北米地域の425万3871台、前年比38.6%増だ。中でも生産台数が多いのは、米国の332万4705台、同37.3%増である。
ところが、米国の法人税の実効税率は国・地方合わせて40.75%(カリフォルニア州の場合)と、日本のそれ(35.64%)を大きく上回っているのが実情だ。つまり、現在でも法人税率の高い米国での生産を強化している自動車メーカーが、税率が下がったからと言って生産の国内回帰を進めるとは考えにくいのである。
■自動車メーカーは成長力のある市場の近くに生産地をおく
それでは、自動車メーカーは、いったい何を基準に自動車の生産地を決めているのだろうか。
トヨタ、ホンダ、日産などがまるで合言葉のように唱えているのは、「需要のある地域で製造する」という戦略だ。つまり、各社は成長力のある市場により近いところで生産し、輸送コストなどを押さえて競争力を確保したいとしているのだ。
となれば、2100年代初頭には人口が4000万人台に落ち込む見通しでユーザー数の減少に歯止めがかからないうえ、20、30歳代の平均収入が下がる一方で一人当たりの購買力も低下するのが確実とされる日本市場は、各メーカーにとって生産地としての魅力が極めて薄いことになる。
これでは、再び国内生産を拡大するという経営戦略は出て来ないだろう。
もちろん、一部で報じられている自動車保有税の増税などは論外である。
2015年10月の消費増税にあわせて、ユーザーが自動車購入時に自治体に納付する自動車取得税が廃止されることに対応して地方税収が落ち込むと予想されることから、総務省が検討しているというが、そもそも消費税と取得税の二重取りがおかしかったのであり、財源が必要ならば国と地方の間で話合うべきだ。消費税と保有税のダブル増税では、ますますユーザーにとって自動車が高嶺の花になって需要が落ち込むことになりかねない。
さて、結論だ。
真に成長戦力を考えるならば、法人税の引き下げといった小手先の対応では明らかに不十分である。人口の拡大や所得の増進といった抜本策が不可欠なのである。
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