02. 2013年7月01日 16:32:52
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コラム:新興国の政治リスク、ブラジル・トルコは「序章」か 2013年 07月 1日 15:40 JST トップニュース ドル99円前半、月初のフローに押され伸び悩み 日経平均1万3800円回復、中国株底堅く上値試す 日銀短観のプラス転換、アベノミクスの背中を押す=甘利再生相焦点:日銀短観で見えてきたデフレ脱却、課題は雇用・設備投資への流れ 国際政治学者イアン・ブレマー 筆者が率いるコンサルティング会社ユーラシア・グループは今年の年頭、「2013年に予想される10の政治的リスク」を発表した。その中では、CIA元職員が米当局の個人情報収集を暴露することは予見できなかったが、「新興市場」での混乱拡大は1位として挙げていた。 政治的ショックに耐性の低い経済を持つ国々への依存度が深まっている今のグローバル経済では、新興市場が新たな経済的支点になっている。では、新興国における最近の情勢不安は何によってもたらされているのだろうか。そして、新興国はどの程度までのストレスなら耐えられ、世界のバランスを崩さないでいることができるだろうか。 ブラジルやトルコといった国での抗議デモは、「アラブの春」の民衆蜂起とは違い、新たに生まれた中間層や下位中間層の怒りや不満が表面化したものだ。デモ参加者は、経済成長の立役者かつ受益者である消費者でもある。新興市場では、政治的要因は、少なくとも基礎的経済状況と同じぐらい大きなインパクトを市場にもたらす。そのため、この手の抗議デモは一見突如として起こり、経済活動をまひさせかねない。 ブラジルやトルコでの抗議行動および政府の対応を、「反ウォール街」デモの時と比べてみよう。米国など先進国の政治システムはこうした反動に対し、主流となるか失速するかの二者択一を迫る形で確立している。一方、劇的かつ急速な変化を経験している新興国では、政府は市民の変化する要求についていけていない。抗議デモは、経済的影響を伴う大きなうねりとなる可能性が極めて高い。 トルコやブラジルでなぜ抗議デモが起きているのか。直接的なきっかけはある。ブラジルではバス料金の値上げであり、トルコでは公園の再開発計画だ。しかし、これらは単なる引き金にすぎず、その本質は国レベルで広がりを見せ、世界経済全体の傾向でもある「もっと大きな不満」の発露と言えるだろう。では、新興国を不安定化させる「より大きな要因」とは一体何か。 金融危機を経験した世界市場は、先進国での危機に過敏になった。欧州ではユーロ圏崩壊、日本では多額の債務や福島原発事故問題、米国では債務上限や財政の崖が心配された。しかし、こうした危機は心配していたほど市場には影響せず、得てしてわれわれは先進国市場の回復力を過小評価していた。今では先進国の見通しは以前ほど暗くはない。欧州は依然もがいているものの、ユーロ圏は無傷で生き延びており、厳しい緊縮策の大半は過去のものとなりつつある。米国は回復傾向にあり、日本の「アベノミクス」は現状維持に比べれば歓迎すべきサプライズだ。これら先進国政府は、広く考えられていたよりはるかに強力な混乱回避能力を備えている。 現在、これらの不安は新興国に向かいつつある。それは、発展途上国の多くで成長が鈍化するなど、新興市場が逆風にさらされているからだ。さらに、米連邦準備理事会(FRB)は量的緩和縮小の考えを示している。量的緩和の余命が短くなり、米国債の利回りが上昇すれば、新興市場に流れ込むマネーは少なくなる。 新興国自身も内部に別の要因を抱える。過去数十年の間、われわれは新興市場の中間層を国の推進力だと考えてきた。企業が新興市場に投資する理由も、新たに豊かさを手にする消費者にあった。しかし、トルコやブラジルなどでは中間層が要求し始めている。彼らは成長の量より質を問い始めた。それなのに成長の量さえ減ってくるとすれば、抗議デモの舞台は整っていると言えるのではないか。 中間層が求めているのは単なる成長だけではなく、説明責任や透明性、社会福祉や生活の質の向上など、欧米的視点からはどれもなじみ深いものだ。今われわれが目にしているのは、新興国の成熟の印だ。何に抗議しているかは国によって違うが、底流に共通しているのは、国民の権利強化を求める声であり、変化に対する政府の不十分な対応への不満だ。これは新興国が先進国になる過程と言える。民主主義が強化される前の試練だ(もちろん、政府が弾圧ではなく改革で対応することが前提だが)。 一方で、ようやく広く理解されつつあることが1つあるとすれば、それは新興市場はひとくくりにできる資産クラスではないということだ。こうした国々が成長期の苦しみを共有しているとしても、個々の課題と対応能力にはかなり差がある。抗議デモがどう発生し、政府がどう対応しているかも極めて異なる。 ブラジルとトルコを比べてみよう。トルコでの抗議デモは主として、エルドアン首相という個人に向けられた反感や敵意だ。エルドアン首相の権威主義が市民の怒りをかき立て、高圧的な姿勢が事態を一層悪化させている。これがエルドアン首相のデモ対応がことのほか難しくなっている背景だ。 ブラジルでは、怒りの矛先がルセフ大統領に特に向かっているわけではない。抗議デモ参加者は政策に不満をぶつけている。中間層や下流階層の基本的ニーズが満たされていないのに、サッカーのワールドカップに巨額の資金が投じられているのに納得がいかず、教育やインフラ、治安の向上、そして政治家の説明責任の強化を求めているのだ。 さて、この先はどう展開していくのだろうか。われわれは新興市場でさらに多くのリスクが発生するのを目の当たりにすると思われる。ブラジルとトルコは始まりにすぎない。これらの国での抗議デモは予測するのが非常に難しい。 ガバナンスの強化やバランスの取れた効率的な歳出、汚職の減少など、中間層を幸福にするであろう諸々を政治的に実行に移すのは、国民がそれを要求し、その後に外国人投資家が声を挙げるまでは難しい。実際には至難の業であり、骨の折れるプロセスだ。そこに至るまでの道筋も明瞭ではない。つまずいたり、転んだりすることもあるだろう。ギリシャがいい例だ。MSCIは最近、同国の分類ステータスを先進国市場から新興国市場に引き下げた。 われわれはこれまであまりに長く、新興国を発展への片道切符を手にした経済成長の象徴として考えてきた。だが、新興国は政治的リスク要因でもあるのだ。われわれの新たなグローバル経済は新興国によっても支えられている以上、こうした国が時として不穏になるのにも慣れておいた方がいい。 [27日 ロイター] *筆者は国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社、ユーラシア・グループの社長。スタンフォード大学で博士号(政治学)取得後、フーバー研究所の研究員に最年少で就任。その後、コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所などを経て、現在に至る。全米でベストセラーとなった「The End of the Free Market」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう闘うか』など著書多数。 *本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。 関連ニュース アングル:過激派の通信手段に変化、「スノーデン問題」の余波広がる 2013年6月27日 CIA元職員の亡命申請、エクアドル外相「決定に数カ月」 2013年6月27日 プーチン大統領がCIA元職員の引き渡し拒否、空港滞在を認める 2013年6月26日 ブラジル大統領が国民投票や公共輸送投資など提案、デモに対応 2013年6月25日 |