03. 2013年7月02日 05:45:31
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中国人の「財テク」失敗事情 「今がチャンス!」に飛びついた投資家の今 2013年07月02日(Tue) 姫田 小夏 「中国人の財テク」と聞いて皆さんは何を連想するだろうか。目を見張る経済成長を成し遂げた中国のこと、札束を積み上げてニンマリとほくそ笑む勝者が大勢いるに違いない。そうイメージしている人も多いのではないか。 だが、すべての中国人が商売や財テクの勝ち組であるとは限らない。そんなラッキーな人は中国でもほんの一握りに限られている。むしろ今中国では国民の大半が大損を抱えて悶々としているのが現状である。 例えば、2007年に光大銀行が発行した財テク商品「同享二号」は、およそ30%の元本割れである。当時、10万元でこの商品を買った顧客は3万元が消えてなくなった。 また中国工商銀行が発行した「2007年第1期基金股票双重精選人民元理財産品」は、中国の銀行の中で最も損失が大きい商品だ。これは2007年11月に100億元を募集した財テク商品で、2013年1月時点で44%の損失を出している。 招商銀行では、2009年に売り出された財テク商品が償還を迎えたが、元本の20万元が13万元に目減りした。怒った顧客が武漢市の支店前でメガホンを持って大騒ぎするという一幕があった。 株式から財テク商品へ 中国語で「理財商品」と言われる財テク商品は、上海では魅惑的な響きを持って一般大衆に広く受け入れられている。財テクもまた1つの自慢話。食事会などの席では「いまどき、財テクは常識だよね」とばかりに、投資話に花が咲く。 2007年に上海で開催された財テク商品説明会。多くの人が詰めかけ大盛況だった 中国で大衆の財テクといえば株式投資がその花形だった。2000年代の驚異的な経済成長を受け、上海株は空前の株式投資ブームをもたらした。富裕層は本業そっちのけでのめりこみ、世界中からホットマネーが集中した。一般庶民もなけなしの資金を株式に投じた。
しかし、2007年10月16日、上海株は6124ポイントの史上最高記録に到達したが、その直後に急落し、株式市場に翳りが見え始める。10月22日、上海総合指数は3カ月ぶりに5000ポイントを割り、11月に入ると同指数は18%下落した。 株価がピークに達してから1カ月後の11月17日、上海で「第5回理財博覧会(財テク見本市)」が開催された。殺到したのは、下落し始めた株式相場に不安を覚えた個人投資家だった。主にサラリーマンやOL、そして年金生活者を含む一般生活者たちである。見本市とはいえ、入り口では、10元(当時約160円)の入場料を課金する。それすら払えない初老の男性がムリヤリ侵入しようとして警備員と揉みあいになる一幕もあった。 なぜ庶民が財テクに走ったのか。背景にあったのはインフレである。2007年当時、上海の消費者物価指数は10月に5・1%を記録した。食品のみならず、飲食や服飾までもが価格を吊り上げた。 「銀行に預けても利率はたかが知れている。このなけなしの金をいかにして増やすか」――。こうして財テク博覧会では、ハイリスク・ハイリターンの投資信託などの金融商品にも庶民が群がった。また、投資成功者を演壇に立たせた講演会には群衆が殺到した。会場は異様な熱気に包まれていた。 だが、そんな中で「このまま株や投信に資金をつぎ込んでいいのか」という不安を抱く人々もいた。「ファンド財テクシリーズ」と銘打ったウェブサイトには、専門家が回答するコーナーがあるが、その年の11月末にはか、例えばこんな切羽詰まった声が寄せられていた。「妻の反対を押し切ってすべての資金を4つのファンドにつぎ込んだが、このまま預けていて大丈夫だろうか」 そして償還を迎える数年後、多くの人が損失を出し、悲嘆に暮れることになる。 財テク商品を売りまくって恨みを買う銀行員 上海在住の李さん(仮名)は、2000年代に入ると外国人向けビジネスで小金を儲けた。李さんはそれを資金に財テク商品を購入する。2007年、高利回りをうたう金融商品が流通するようになると、李さんは家の近くの銀行で財テク商品を勧められるがままに購入したのだ。 李さんはそのときの心境をこう振り返る。「株価が6124ポイントをつけた2007年末、当時はまだ、余熱が残っていました。そのため私は銀行の営業担当の『株価はまだまだ上がる。金融市場もチャンスが広がる』という言葉をすっかり鵜呑みにしてしまいました。そして契約書にサインしたのです」 数年後、李さんはこの財テクは失敗だったと覚る。「保険商品」に投じた金額は100万元、だが、それは5年経った今、80万元に減ってしまった。 李さんの恨みは、自分に保険商品を売った銀行の営業担当者に向けられる。多くの顧客に財テク商品を売り込んだその担当者は今では支店長に出世していた。 彼と同じ職場だった女性スタッフは「彼に恨みを持つお客さんは少なくありません」と打ち明ける。彼の携帯電話にはクレームの電話がしょっちゅうかかり、ひどいときには自宅前で待ち伏せられることもあると言う。彼が身の危険を感じる日々を過ごしていることは想像に難くない。 だが、この支店長はまだマシだと言える。顧客の中にはもっと直接的な方法に訴える人々もいるからだ。ある上海市民は「上海の銀行のフロアで取っ組み合いや殴り合いが起きるのは決して珍しいことではない」と語っている。 外資系銀行も「グレーゾーン」で商売 上海では2013年4月、財テク商品の販売が一時的に過熱した。当コラム(5月)でも触れたが、筆者のところにも1日何本もセールスの電話やショートメッセージが入ってきたものだ。 中国の花旗銀行(シティバンク、日本のシティバンクとは別会社)からは次のような電話がかかってきた。「保本保息(元本、利子保証)で5%以上の利子を毎月確保します。リスクなしの安定した商品ですよ」 日本人からすると恐ろしく魅力的な高金利だ。興味がないと言えば嘘になる。だが、契約書を見たところ、そこには2.5%と書かれているだけで、どこにも5%の表記はない。営業担当に確認してみると「銀監会(中国銀行業監督管理委員会)から指導が入るため5%とは書けない」と苦しそうに回答した。 別の銀行では別の外国人客が同行の中国人と一緒になって行員に詰め寄っていた。この外国人は大損したと見える。中国人が行員にこう言う。「複雑な契約書を読めない外国人相手にサインを迫り、こんなハイリスク・ハイリターンな商品を売りつけるなんてあまりにひどい」。いくら詰め寄っても後の祭りである。だが、少なからぬ上海在住の外国人も中国の財テク商品の犠牲者となったことは事実だろう。 ちなみに、2012年末、華夏銀行の行員が行った“投信商品密売事件”が発覚した。この 事件によって、銀行が販売する財テク商品ですら非正規商品が存在するという事実が暴かれた。銀行の信用はますます失墜するばかりだ。 ところで、中国ではシャドーバンキングが問題になっている。シャドーバンキングとは、金融監督当局の規制を受けている銀行の融資以外の金融取引である。銀行が受けるような厳しい監督は受けないため、銀行に預けるより高い利回りを得ることができる。 中国のネットには財テク専門のサイトがあり、一般投資家はそうしたサイトで申し込むことができる。その専門サイトの「信託商品」のタブをクリックすると、投資信託商品がズラリと出てくる。 1口100万元で、償還期限は2年、年利8.3%をうたうインフラ投資がらみの投資信託もあれば、年利9.2%をつける地方の不動産開発の商品もある。資金は資本金の基準を満たさない地方の中小不動産デベロッパーなどに流れるケースも多く、不良債権化が懸念されている。銀監会はシャドーバンキングから投資信託商品を切り離したい意向だ。 新たな社会不安を生み出すのか 2013年第1四半期までに、中国国内の財テク商品の規模は13兆元(1元=約16円)に達したと言われている。2011年、中国の商業銀行だけでも8.91万の財テク商品を発行し、同年末時点の発行残高は4兆5900億元にも上った。また、全国233行の銀行と金融機関が取り扱う財テク商品は7兆1000億元だともいう。そのうち、一般個人は6割以上も占める。 6月下旬には、総額1兆5000億元(約24兆円)の財テク商品が償還満期を迎えたと言われている。だが、銀行の資金不足で償還が困難になるとの憶測もあり、財テク商品の焦げ付きが心配されている。 上海在住の王さん(仮名)は、数年前、投資信託に手持ちの資金の多くを投じた。投資信託は、元本保証がないハイリスク・ハイリターンの商品であることも知っていた。動機は「息子が結婚するため、家を購入する資金を作りたかった」から。息子の面子のためには、なんとしても短期のうちに頭金を稼ぎ出す必要があった。しかし、投じた資金が収益を上げることはなく、3割減にも近い惨憺たる結果に終わった。王さんは病に倒れ、床に伏したままの生活を送っている。 上海では王さんのように財テクで失敗した人が無数に存在している。株にも裏切られ、「財テク商品」で大損しと、行き場を失った個人マネーと恨み節。これがまた新たな社会不安を生むことを想像するとますますやりきれない思いだ。
JBpress>海外>エコノミスト・カンファレンス [エコノミスト・カンファレンス] 2%を超えるインフレは日本に何をもたらすか 日本に迫る“もしも”の近未来〜ベルウェザーシリーズ2013 2013年07月02日(Tue) JBpress エコノミスト・カンファレンスは、東京で第4回目となる「ベルウェザー・シリーズ 日本〜成長の糧として:アジア金融の挑戦」を5月30日に開催した。 欧州、中国をはじめとしたグローバル金融の動向と日本への影響、アベノミクスで注目される日本経済の先行きなどについて、金融セクターや学界などの有識者による議論が交わされた。その中から3つのセッションをピックアップし、今日から3日連続でリポートをお送りする。 第1回は、『シナリオ検証:日本に迫る“もしも”の近未来』と題されたセッション。登壇者は、JPモルガン証券 マネジングディレクターのイェスパー・コール氏、メリルリンチ日本証券 調査部 銀行セクター担当アナリストの大槻奈々氏。司会はエコノミスト誌アジア経済ディレクターのサイモン・コックス氏。 日銀のインフレターゲット2%がオーバーシュートしてしまったら? コックス このセッションでは、日本経済に影響を与える要素を3つ選び、それぞれどのようなシナリオが考えられるかを議論します。 まずは、日銀の黒田(東彦)総裁が2%のインフレターゲットを達成し、さらにそのインフレが上がり続けてオーバーシュートした場合です。今回は新しい試みとして、各テーブルにお座りの参加者の方々に、それぞれ財務省、年金生活者、労働組合といった立場に成り代わってまとめた意見を提出していただきました。 まず財務省の立場からですが、オーバーシュートが穏やかなもの、つまりインフレ率が2%より少し上であるということであれば大丈夫、財務省としては何もしないという意見が出ています。ただし、インフレ率がそれ以上ならば増税し、そして支出をカットすると。 メリルリンチ日本証券 調査部 銀行セクター担当アナリストの大槻奈々氏(撮影:前田せいめい、以下同) 大槻 財務省としてはそういうことになると思いますが、物価が上昇して、増税もあるという時に、どれだけ世論をコントロールして政治的に安定を保てるかというところの勝負になると思います。 コックス 年金生活者の立場からは、インデックス運用をする、また、例えば豪ドルなどの外貨や金などに分散するという意見が出ています。 私が興味深いのは、年金生活者が貯蓄を増やすか減らすかということです。インフレ率が上がるならば、今後物価が上がる前に使ったほうがいいと思うかもしれない。その一方で、年金が減っていくので、貯めておいたほうがよいと思うかもしれない。 たとえば、5%のインフレになった時に、日本の年金生活者はどういう反応をするでしょうか。 大槻 少なくとも過去のデータ的には、短期的にボラティリティが出ることもありますが、預金はほぼ一貫して増え続けています。ですから、どれだけリスクマネーに振り分けられるかというのがポイントです。 いまも少し動きが出ていると言われながらも、それほど増えていない中で、どれだけリスクアペタイトが過去と違ったトレンドで増えてくるか次第かと思います。 コックス 次に、労働組合の立場からの意見では、オーバーシュートしなくても常に賃上げ要求はするとのことです。 JPモルガン証券 マネジングディレクターのイェスパー・コール氏 コール 労働組合は常に賃上げ要求をするものだと思います。ただ、インフレ議論になるともう少し複雑になります。すなわち英国になるのか、日本になるのかということです。
英国になるということは、通貨を切り下げて、コストプッシュのインフレにする、そして全員が貧しくなるということです。それがいま英国で起きていることです(笑) 日本では、うまくいけばそれが回避できるかもしれません。すなわち、労働力不足が起きている結果として、自然に賃上げのプレッシャーとなっている。政府も税制優遇などを言っています。 インフレの予測をする際に、一番いいトラッキング方法は賃金です。日本では、賃金の伸びと、消費者物価指数の連動というのは明確です。これは卵が先かニワトリが先かという問題ではなく、デマンドプルという形の景気拡大であれば非常にいいと思います。 大槻 「1.5の矢」とでも言いますか、「第1の矢」の金融緩和に加えて、ちょうどバーゼルIIIも導入され、日本の金融機関がこれをうまく通過していて、過去まれに見るくらい金融システムも貸し出しをしやすい、おカネを供給しやすい状況になっています。 そういうことも含めて考えると、今回のアベノミクス、クロダノミクスについては、そういった後押しもあるのかなというのが金融システム側からの感想でもあります。 コール ちょっと楽観的なシナリオを提示しましょう。インフレ率がマイナス1%からプラス2%に移行する中で、規制緩和の判断がされることが考えられる。例えば、農業や食品の分野での規制緩和があるかもしれません。 そうすると、いまは儲かっていないから難しいですが、インフレになって少し利益が出てくると、大企業がより大規模な効率のよい農業ができるようになってくる。エネルギー政策も同じだと思います。 コール コストプッシュのインフレは、規制緩和をスピードアップさせることになります。そういうことによってディスインフレ経済になりやすくなるということです。これは楽観的すぎるかもしれませんが、インフレになると、規制緩和もできるようになるということです。 ユーロ圏が崩壊したら? コックス 次のシナリオはユーロ危機に関するものです。もしユーロ圏が崩壊したら、日本に対する影響、世界経済に対する影響はどうなるでしょうか。 コール 最初はリスクオフが起き、米国であれ日本であれ投資家は資金を引き揚げて本国に戻すと思います。 しかし、ユーロ圏の崩壊は日本企業にとっては朗報だと言えると思います。なぜなら、日本企業はドイツ企業と競争しているからです。資本財とハイエンドな消費財の競争です。 もしユーロ圏が崩壊したら、一番あり得るのはドイツマルクが強くなるということだと思います。ですから構造を見ると、一番勝ち組となるのが日本の企業だと思います。 大槻 財政危機あるいは金融危機というのは一定期間のサイクルでテクニカルに起こります。私はかつて格付け会社におりましたから、その経験として確実なのは、危機は10〜15年に1度は必ず訪れるものであるということです。 エコノミスト誌アジア経済ディレクターのサイモン・コックス氏 そういう意味では、「もしも」ではなく、そろそろかなと思っていたほうがいいかもしれません。ちょっと悲観的かもしれませんが。 コックス 2010年にソブリン危機があったわけですが、ユーロ圏が崩壊した場合、日本の公的債務についてはどうでしょうか。 大槻 欧州と日本の財政について、どこが違い、どこが共通で、何がリスクかということは相当議論されて、そこで得た結論というのは、日本については安全性が高いということです。特に国内で消化されている割合が90%以上と非常に高いので大丈夫というのが、マーケットが落ち着いている理由です。 ただ、我われが最近ちょっと気になっているのは、確かに国内消化というのは安心材料ではありますが、逆に言えば、均一な投資家で支配されているマーケットというのは、ある一方向に動き始めた時には、異なるポジションを取る投資家が極端に少ないマーケットということになります。 そういう意味では、特にメディアがどういう解釈をするかということが相当な影響を持つのだろうと思います。そして、その時に90%以上を占める均一な投資家がどういうふうに理解するかが、少し気になるところです。 コール 解釈はとても重要だと思います。ここ数週間を見ても、債権のイールドは上がっている。その解釈については複数あるわけです。日本でも、債権の利回りがきちんとした理由から上がっても、悪く解釈されることがあります。 コックス ユーロ圏が崩壊した場合、ヨーロッパの金融機関は再編の努力をすると思いますが、日本の金融業界はどういう対応をするでしょうか。
コール 割安な資産を買おうという動きが見られると思います。しかし日本の投資は対米や対アジア・太平洋、特にASEANにかなり分散していますので、突然ヨーロッパに集中するということは考えられないと思います。 ユーロ圏の崩壊というのは、リーマンブラザーズの崩壊よりも大きな意味合いがあると思います。つまり、ガバナンスのシステムにまったく新しいものが必要になるということです。 それを一からつくり直さなければならなくなりますから、割安な資産を買う、あるいは割安な銀行を買うようなことは、当分は誰もしないでしょう。しばらくは法的な側面もはっきりしないからです。 大槻 確かにこの1年半くらい、アジアのマーケット、レンディングマーケットが主ですが、日本の金融機関にとっては相当な好機だと言われていました。しかしそれはあくまでマーケットがこれ以上クラッシュしないという前提です。 貸し出しにしても、エクイティ投資にしても、やった時点ではコストが分からないわけです。どれくらいのクレジットリスクが出て貸し倒れてしまうのかが分からないので、最初の反応としては、しばらくはショックで動けなくなってしまうと思います。 そのあとで、どこにチャンスがあるのかというのは、マーケットがある程度落ち着いてきてからということで、だいぶ時間差があるのではないかと。日本の銀行なり金融機関がすぐにクラッシュ、クライシスを生かせるということは少ないかと思います。 日中間で貿易戦争が勃発したら? コックス 最後は日中関係に関するシナリオです。日中間の貿易戦争は確率としてないわけではありません。この1年でもその小さいバージョンが起きています。 大槻 すでに尖閣の問題以降、中国から香港やASEANへのシフトが始まっているように見えていました。ですので、当初言われていたほど、いまのところは大きな影響を金融システム的には感じていないのではないかと思います。 今後の機会という意味で考えると、インフラ投資やインフラに対する貸し出しなども含めて、一番ポテンシャルを当て込んでいたところを考え直さなければいけないということでは、曲がり角に来ているなというところではあります。 コール 日中間で貿易戦争が勃発した時には、例えば中国から日本へ輸出している中間財が滞ってしまうことになると、インフレショックが発生することになります。 自動車やエレクトロニクスなどほとんどすべての産業が影響を受けるでしょう。そうすると世界経済全体にも大きな影響が出てきます。ですからすぐに国際的な反応が起きることになると思います。アメリカもアクションを起こすことになるでしょう。
中国の資金逼迫:リーマンショックとは違うが・・・ 2013年07月02日(Tue) The Economist (英エコノミスト誌 2013年6月29日号)
最近の資金逼迫は、中国版のリーマン・ショックではないが、中国経済の動きの変化を予感させる。 本誌(英エコノミスト)も例外ではないが、多くのメディアや評論家は好んで、中国経済を世界最大の米国経済と比較する。
このままいけば中国経済は、洗練度では米国と肩を並べられないとしても、規模の点では米国経済に匹敵するようになる。 しかし最近、両国経済の対比は不穏な色彩を帯び始めた。中国がにわかに、ちょうど5年前の米国に重なって見えてきたのだ。 中国の金融機関は、数年前から過剰な融資を行ってきた――その多くは「影の銀行」によるもの――が、6月に入ると相互の融資に急ブレーキがかかった。銀行間金利は同20日、一時25%にまで急騰した。この信用逼迫は、2008年の米国の金融危機を恐ろしいほどに連想させた。米国はまだ、あの危機から完全には回復していない。 ここから2つの疑問が生じる。中国経済は、2008年の米国経済と同じレベルの苦境に立たされているのか? そして、中国当局は正しい対策を取ってきたのか? どちらの疑問に対する答えも、「そうとは言い切れない」だ。 今、改革を推し進めようとしている中国に、多くのことがかかっている。 既にバッドバンクを所有していることの長所と短所 確かに、中国経済については、いくつかの行き過ぎが懸念される。信用の伸びは国内総生産(GDP)の伸びをはるかに上回り、不動産価格が、特に沿岸都市部で急騰し続けてきた。それは問題の前兆であることが多い。不動産ブームを伴う融資の急増が、2008年の米国の危機など、多くの危機の土台を作った。 これらの危機では、性急な投資が不良化すると、銀行が倒産し、融資が滞り、信頼が失われた。政府が介入し、一部の銀行については資本を注入し、それ以外の銀行には融資を再開するよう促さなければならなかった。 しかし、現在の中国の状況は、いくつかの重要な点でこれらの危機とは異なっている。貯蓄率は極めて高い。2008年の米国とは違い、国全体としては分相応の暮らしをしている。 中国の銀行はかなり厳格なルールに従わなくてはならない。融資額は預金の75%を超えてはならないし、バーゼルIIIと呼ばれる、多くの国がまだ準拠していない国際的な銀行自己資本規制を既に施行している。 さらに、国内最大規模の複数の銀行を、国家がはじめから所有している。これには短所もある(あまりに多くの融資が、政府がひいきする企業に流れている)。しかし、それらの融資が焦げ付いても、国が銀行を国有化する必要がないという利点もある。政府は、損失をいつどのように誰に負担させるかを決めるまでの間、銀行に融資を継続するよう命令できるからだ。 中国政府は、経済にとって事実上の破産裁判所判事の役割を果たし、債権者を抑え、整然と損失を分散することができる。何よりも、そうすることで、継続的活動体としての中国経済の価値を維持できるのだ。 中国で資金逼迫が生じた理由も、米国とは異なる。2008年に米国で銀行間取引市場が停止したのは、銀行同士が互いへの貸し出しを拒んだからだった。今年6月の中国では、中央銀行自身が資金供給を拒んだ。四半期末が近づいて一部の銀行が現金を必要としていたにもかかわらず、中央銀行はあえて何もせず、金利の急騰を許し、無謀な信用の伸びを抑制する決意を示した。 銀行間金利の急騰を許すというのは、過度に融資を拡大した貸し手を罰する方法としては、乱暴かもしれないが、非常に効果的なやり方だ。さらには、浪費を続ける地方政府に有効なメッセージを送ることもできたかもしれない。 中国が優先すべきこと しかし、それ以外のすべての人々に痛みを与えることにもなりかねない。中央銀行の自制の結果、銀行が破綻して、ATMの現金がなくなるのではないかという噂が渦巻いた。 6月24日、中国の株式市場は何年かぶりの下げ幅を記録した。上海総合指数は5.3%下落した。中央銀行が何もしなかったことで、金融そのものを可能にしている信頼感が危うくなった。幸いにも、当局はやがて危険に気づき、翌日には市場を落ち着かせる措置を講じた。 現在優先すべきは、金融システムを整理して、経済のリバランスを図ることだ。銀行に預金金利の引き上げを許可すれば、今は影の銀行システムに流れ込んでしまっている資金を招き寄せるのに役立つだろう。預金保険の導入も、保護された銀行預金を、影の銀行による保護されない代替預金と差別化するのに役立つだろう。 政府は、一部の過熱した産業を沈静化し、一部の産業を自由化する必要もある。重慶と上海で試験的に導入している不動産税制を拡大して、毎年、住宅の市場価格に応じて固定資産税を課すことで、不動産に対する投機的需要を抑制すべきだ。 そして、鉄道や通信など、今は国有企業が支配している様々な産業への民間投資を奨励するために、さらなる対策を講じるべきである。そうすれば、中国の銀行は自由に、これまでとは違う企業に資金を貸し出せるようになるだろう。 バブルの拡大を許したら危険も そうした改革が機能するには時間がかかるし、短期的には経済を減速させる。調査会社ドラゴノミクスによると、中国の来年の成長率は、わずか6%にとどまるかもしれない。これは、中国では当たり前になっていた2ケタの成長率からすると大きな落ち込みで、政府が2013年の目標としている7.5%をかなり下回る。そうなると、にわかに北京で不安の嵐が吹き荒れるかもしれない。 しかし、この改革を進めなければ、今後もさらに無駄な融資と非生産的な支出を続けることになる。中国経済の回復力は強い。過去には成長を続けることで様々な問題を解決してきた。だが、バブルの拡大を放置すれば、かつての米国との類似性はさらに高まるかもしれない。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38124
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