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中国、独自の国家資本主義に限界:だからと言って、欧米先進国モデルに優位性があるわけじゃなし
http://www.asyura2.com/13/hasan80/msg/671.html
投稿者 あっしら 日時 2013 年 6 月 30 日 16:39:20: Mo7ApAlflbQ6s
 


 ここまで思考力がない(もしくは政治的な)日経新聞の記者に唖然とするだけだが、中国の金融システムを批判するのはいいとしても、日本のバブル形成・崩壊とその後「失われた20年」や欧米諸国に激震が走ったサブプライムローン絡みの金融危機とその後の経済低迷を考えれば、先進国の金融システムに優位性があるわけではないことは歴然である。

 中国は、図体=GDP総額は世界第2位とでかいが、一人当たりのGDPは5000ドルしかない中進国すなわち発展途上国中位の国民経済でしかない。

 日経新聞の記者は、「人民銀は預金金利と貸出金利を規制して銀行に厚い利ザヤを保証している。銀行を手厚く保護する「発展途上国モデル」だ」と書いているが、日本は、既にジャパン・アズ・ナンバーワンと言われるほどの先進国に達していた80年代まで、「護送船団方式」で金利規制がきっちり維持されていたことを知らないのだろうか。

 日本の経済史を考えれば、今なお発展途上国である中国が、金融システムで「発展途上国モデル」を活用するのは当然だと言える。

 シャドーバンキング問題については詳細を別の機会に投稿したいと考えているが、問題は、金融システムではなく、経済成長の低迷にあることを指摘しておきたい。


 昨日投稿した「中国は世界3位の対外投資国に 投資先では世界一:データの虚実は無問題、買ってくれるか儲けられるかが問題」( http://www.asyura2.com/13/hasan80/msg/638.html )で、「金融家資本主義」と「国家資本主義」の対立という話を書き、コメント欄でも少しやり取りをしたので参照していただければ幸いである。


※ シャドーバンキング問題の基本についての参考投稿

「中国「影の銀行」の高利回り商品、残高130兆円に:甘い!預金者リスクの「証券化融資」残高は2倍のおよそ250兆円」
http://www.asyura2.com/13/hasan80/msg/664.html


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中国、独自の国家資本主義に限界[日経ヴェリタス]
大国になっても「途上国銀行モデル」捨てられず
2013/6/30 15:52

 「銀行がカネを貸してくれない」。上海市の鉄鋼商社経営者は不満を募らせる。中国で鉄鋼商社は不動産やノンバンクと並ぶ経営不振業種の代表格。問題は同社が金利をいくら払うと言っても銀行が融資に応じないことだ。

 中国を揺さぶる影の銀行の膨張は同国の硬直的な金利規制(キーワード参照)抜きには語れない。人民銀は預金金利と貸出金利を規制して銀行に厚い利ザヤを保証している。銀行を手厚く保護する「発展途上国モデル」だ。この結果、銀行は貸出金利が低くても利ザヤは稼げる国有企業に資金を優先配分し、焦げ付く恐れのある民営企業にあえて融資する必要がなかった。

 金利規制のない影の銀行では市場メカニズムで柔軟に金利が決まる。経営不振企業でも高金利ながら資金を調達でき、個人や企業も理財商品などに投資すれば10%超の運用益を得るのは珍しくない。預金金利がインフレ率を下回る状況だけに、影の銀行にマネーが流れ込むのは自然なことだった。2005年に645本だった銀行が販売する理財商品は12年に3万3000本を超えた。13年はさらに増える可能性が高い。

 資金の出し手と借り手を結びつける影の銀行は、硬直的な銀行システムに不満を募らせる双方のニーズを吸収する形で発展してきた。それだけに銀行規制を厳しくしても、金利自由化の大ナタを振るわない限りは影の銀行の膨張を止めるのは難しい。バブルは退治したいが、改革は避けたい。このジレンマの解を見つけるのは容易でない。
 経済大国になった今も「途上国銀行モデル」を捨てない中国。「特色ある社会主義」という名の国家資本主義の限界が、経済と金融の高度化とともに露呈しつつある。
(上海=土居倫之)


<中国金融を読み解くキーワード>

金利規制

 銀行の預貸金利に限度を設け、銀行間の競争を抑える規制のこと。中国では現在、1年物定期預金金利の上限が3.3%、同貸出金利の下限は4.2%。金利を自由化すればリスクに応じた金利設定が可能になるが、銀行の収益力が低下する恐れがある。このため政府は改革に消極的だ。

[日経ヴェリタス2013年6月30日付]

http://www.nikkei.com/money/features/29.aspx?g=DGXNASFZ2701U_28062013K14900&nbm=DGXNASFZ2701M_X20C13A6K14800

 

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コメント
 
01. 2013年6月30日 18:10:24 : mHY843J0vA

>今なお発展途上国である中国が、金融システムで「発展途上国モデル」を活用するのは当然

インフレ率以下の規制金利とは、実質的な資産課税ですから、
富裕層の海外への資産逃避や、バブル目当ての不動産投資により、
健全な資本形成ができなくなります

そして内需産業への効率的な資本投下を妨げ、経済の発展を阻害することになります

ただし改革というのは、どうしても既得権とぶつかりますから、今の中国は難しい時期にさしかかっていると言えます



02. 2013年7月01日 11:19:01 : e9xeV93vFQ
JBpress>海外>Financial Times [Financial Times]
アジア市場に迫り来る危機
試される投資家の「信念」、1997年当時とは違う?
2013年07月01日(Mon) Financial Times
(2013年6月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 証券会社は今、アジアの新興国が1997年当時よりはるかに健全な状態にあり、米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和政策の打ち切りに耐えられるということを示す図表をせっせと印刷している。1997年というのは、7月2日のタイバーツ切り下げによって、アジアの金融危機が本格的に始まった年だ。

 彼らのお気に入りの図表は、16年前に無力だった国々が、今は短期債務の2倍の外貨準備を持っていることを示している。

アジア危機当時より外貨準備は増えたけれど・・・

 いざという時の蓄えがこれだけ潤沢にあるため、インドネシア、マレーシア、フィリピン、韓国、タイといった国々は(そして恐らく不運なインドでさえ)、かつてほど脆弱ではない。少なくとも表面的には、そうだ。だが、この地域は本当にそれほど幸運なのだろうか?

 予想されるFRBの金融引き締めと中国の成長減速が組み合わさった結果、重圧の兆候が既に表面化し始めている。アジアの通貨と、この地域の債券・株式市場はともに下落しており、結果として金融状況がタイトになっている。

 市場の下落に伴い、家計、企業、政府にとって資本コストが上昇し、過去数年間の投資の質が試されている。

 アジア地域の金融大手として事業範囲を広げているシンガポールの銀行、DBSでは、リスクマネジャーたちが、現地通貨が少なくとも10%下落することを前提に、借り手がこうしたより厳しい状況に耐えられるかどうか調べるために融資残高のストレステストを行っている。

 アナリストの中には、その前提が楽観的すぎると考える者もいる。SLJマクロのスティーブン・ジェン氏は、新興国への資本流入が逆転しているため、多くの通貨は少なくとも15%下落すると想定している。

 中国の成長減速は、中国自身にとっては良いことかもしれないが、中国の需要、特にコモディティー(商品)に対する需要から恩恵を受けてきた近隣諸国の経済にとっては有害であることが判明するだろう。

 最も大きな打撃を被るセクターの1つが鉱業。つまり、オーストラリアやインドネシアの大手石炭会社や製鉄会社だ。

 「ここでは誰もが鉱山を持ちたいと思っている」。国際的に事業展開するアジアの大手プライベートエクイティ投資会社のトップはこう言う。「まるで中国の『大躍進』のように、すべての裏庭に鉱山を持とうとした」

 だが、そうした願望は、中国が年10%の成長を示していた時に生まれたものだ。恐らく中国はもう2度と、そんなペースでは成長しないだろう。

苦悩の兆候が見えるオーストラリア、「中国暴落リスクに対する保険」

 通貨の下落が特に劇的なオーストラリアでは、最初の苦悩の兆候が既に現れている。前回の金融危機で特に大きな利益を上げたファラロンは既に、オーストラリアの鉱業会社ホワイトヘイブンへの救済資金の提供に乗り出している。

 オーストラリアの政府高官らは、経済のバランスが以前より良くなり、製造業は景気減速から恩恵を受けると話しているが、オーストラリアは人口が少なく、労働力も高価であるため、こうした主張は希望的観測だ。

 一方、多くのヘッジファンドは、中国について楽観的であるためか、あるいは中国について悲観的で、オーストラリアを中国本土の見通し悪化の犠牲者と見なしているために、ヘッジとしてオーストラリアでショートポジションを取っている。

 「これは中国の暴落リスクに対する保険だ」とシンガポールのあるヘッジファンドは指摘する。実際、オーストラリアは外国資本への依存を減らしてきたが、現在の状況では十分とは言えない。オーストラリアについて言えることは、インドネシアのような他の国々についても言える。

 この地域が1997年のトラウマから教訓を学んだと考えるのは、素晴らしいことだ。例えば、韓国は(同国では当時の悪夢がいまだに「IMF危機」として語られる)、資本収支が大幅な黒字になっており、外貨準備も増えた。それでも、外国人は、韓国の株式市場と国債市場から資金を引き揚げている。

 資金引き揚げは、外国人投資家が、円の対ウォン相場を押し下げる日本の取り組みと、韓国にとって最大の市場である中国の減速の双方から打撃を受ける韓国に神経を尖らせているからなのだろうか? それとも、韓国が東南アジアの他の市場よりもはるかに流動的であるため、外国人がアジアへの投資を減らしたいと思った時に、韓国市場は手を引くのが一番簡単だからなのだろうか?

 そして、どちらにしても悪影響が同じであることを考えると、その理由はどれほど重要なのか?

 今回は前回とは違うし、アジアにとって状況はましだという自信が生まれる1つの理由は、この地域のドルの借り入れが少ないという確信だ。

 だが、そうした自信は正当化されないかもしれない。ここ数カ月間、FRBが低利資金という万能薬の供給を減らすことを公然と考慮すると予想していた人はほとんどいなかったし、ドルが上昇すると予想していた人はさらに少なかった。

再び増え始めたドルの借り入れ

 銀行関係者や投資家によると、インドネシアやインドのような国では、一部のグループ、特に民間企業が利払い負担を抑えるためにドルを借り始め、こうしたドルのエクスポージャーをわざわざヘッジしていないという。もちろん、前回の危機で非常に多くの企業を災難に巻き込んだのは、そうしたドルの借り入れだった。

 この事実は、事態が今後悪化する可能性があることを示唆している。隠れたレバレッジ(借り入れ)の厄介な点は、いつまでも隠れたままではないことだ。

By Henny Sender


03. 2013年7月02日 05:45:31 : xEBOc6ttRg
中国人の「財テク」失敗事情
「今がチャンス!」に飛びついた投資家の今
2013年07月02日(Tue) 姫田 小夏
 「中国人の財テク」と聞いて皆さんは何を連想するだろうか。目を見張る経済成長を成し遂げた中国のこと、札束を積み上げてニンマリとほくそ笑む勝者が大勢いるに違いない。そうイメージしている人も多いのではないか。

 だが、すべての中国人が商売や財テクの勝ち組であるとは限らない。そんなラッキーな人は中国でもほんの一握りに限られている。むしろ今中国では国民の大半が大損を抱えて悶々としているのが現状である。

 例えば、2007年に光大銀行が発行した財テク商品「同享二号」は、およそ30%の元本割れである。当時、10万元でこの商品を買った顧客は3万元が消えてなくなった。

 また中国工商銀行が発行した「2007年第1期基金股票双重精選人民元理財産品」は、中国の銀行の中で最も損失が大きい商品だ。これは2007年11月に100億元を募集した財テク商品で、2013年1月時点で44%の損失を出している。

 招商銀行では、2009年に売り出された財テク商品が償還を迎えたが、元本の20万元が13万元に目減りした。怒った顧客が武漢市の支店前でメガホンを持って大騒ぎするという一幕があった。

株式から財テク商品へ

 中国語で「理財商品」と言われる財テク商品は、上海では魅惑的な響きを持って一般大衆に広く受け入れられている。財テクもまた1つの自慢話。食事会などの席では「いまどき、財テクは常識だよね」とばかりに、投資話に花が咲く。


2007年に上海で開催された財テク商品説明会。多くの人が詰めかけ大盛況だった
 中国で大衆の財テクといえば株式投資がその花形だった。2000年代の驚異的な経済成長を受け、上海株は空前の株式投資ブームをもたらした。富裕層は本業そっちのけでのめりこみ、世界中からホットマネーが集中した。一般庶民もなけなしの資金を株式に投じた。

 しかし、2007年10月16日、上海株は6124ポイントの史上最高記録に到達したが、その直後に急落し、株式市場に翳りが見え始める。10月22日、上海総合指数は3カ月ぶりに5000ポイントを割り、11月に入ると同指数は18%下落した。

 株価がピークに達してから1カ月後の11月17日、上海で「第5回理財博覧会(財テク見本市)」が開催された。殺到したのは、下落し始めた株式相場に不安を覚えた個人投資家だった。主にサラリーマンやOL、そして年金生活者を含む一般生活者たちである。見本市とはいえ、入り口では、10元(当時約160円)の入場料を課金する。それすら払えない初老の男性がムリヤリ侵入しようとして警備員と揉みあいになる一幕もあった。

 なぜ庶民が財テクに走ったのか。背景にあったのはインフレである。2007年当時、上海の消費者物価指数は10月に5・1%を記録した。食品のみならず、飲食や服飾までもが価格を吊り上げた。

 「銀行に預けても利率はたかが知れている。このなけなしの金をいかにして増やすか」――。こうして財テク博覧会では、ハイリスク・ハイリターンの投資信託などの金融商品にも庶民が群がった。また、投資成功者を演壇に立たせた講演会には群衆が殺到した。会場は異様な熱気に包まれていた。

 だが、そんな中で「このまま株や投信に資金をつぎ込んでいいのか」という不安を抱く人々もいた。「ファンド財テクシリーズ」と銘打ったウェブサイトには、専門家が回答するコーナーがあるが、その年の11月末にはか、例えばこんな切羽詰まった声が寄せられていた。「妻の反対を押し切ってすべての資金を4つのファンドにつぎ込んだが、このまま預けていて大丈夫だろうか」

 そして償還を迎える数年後、多くの人が損失を出し、悲嘆に暮れることになる。

財テク商品を売りまくって恨みを買う銀行員

 上海在住の李さん(仮名)は、2000年代に入ると外国人向けビジネスで小金を儲けた。李さんはそれを資金に財テク商品を購入する。2007年、高利回りをうたう金融商品が流通するようになると、李さんは家の近くの銀行で財テク商品を勧められるがままに購入したのだ。

 李さんはそのときの心境をこう振り返る。「株価が6124ポイントをつけた2007年末、当時はまだ、余熱が残っていました。そのため私は銀行の営業担当の『株価はまだまだ上がる。金融市場もチャンスが広がる』という言葉をすっかり鵜呑みにしてしまいました。そして契約書にサインしたのです」

 数年後、李さんはこの財テクは失敗だったと覚る。「保険商品」に投じた金額は100万元、だが、それは5年経った今、80万元に減ってしまった。

 李さんの恨みは、自分に保険商品を売った銀行の営業担当者に向けられる。多くの顧客に財テク商品を売り込んだその担当者は今では支店長に出世していた。

 彼と同じ職場だった女性スタッフは「彼に恨みを持つお客さんは少なくありません」と打ち明ける。彼の携帯電話にはクレームの電話がしょっちゅうかかり、ひどいときには自宅前で待ち伏せられることもあると言う。彼が身の危険を感じる日々を過ごしていることは想像に難くない。

 だが、この支店長はまだマシだと言える。顧客の中にはもっと直接的な方法に訴える人々もいるからだ。ある上海市民は「上海の銀行のフロアで取っ組み合いや殴り合いが起きるのは決して珍しいことではない」と語っている。

外資系銀行も「グレーゾーン」で商売

 上海では2013年4月、財テク商品の販売が一時的に過熱した。当コラム(5月)でも触れたが、筆者のところにも1日何本もセールスの電話やショートメッセージが入ってきたものだ。

 中国の花旗銀行(シティバンク、日本のシティバンクとは別会社)からは次のような電話がかかってきた。「保本保息(元本、利子保証)で5%以上の利子を毎月確保します。リスクなしの安定した商品ですよ」

 日本人からすると恐ろしく魅力的な高金利だ。興味がないと言えば嘘になる。だが、契約書を見たところ、そこには2.5%と書かれているだけで、どこにも5%の表記はない。営業担当に確認してみると「銀監会(中国銀行業監督管理委員会)から指導が入るため5%とは書けない」と苦しそうに回答した。

 別の銀行では別の外国人客が同行の中国人と一緒になって行員に詰め寄っていた。この外国人は大損したと見える。中国人が行員にこう言う。「複雑な契約書を読めない外国人相手にサインを迫り、こんなハイリスク・ハイリターンな商品を売りつけるなんてあまりにひどい」。いくら詰め寄っても後の祭りである。だが、少なからぬ上海在住の外国人も中国の財テク商品の犠牲者となったことは事実だろう。

 ちなみに、2012年末、華夏銀行の行員が行った“投信商品密売事件”が発覚した。この 事件によって、銀行が販売する財テク商品ですら非正規商品が存在するという事実が暴かれた。銀行の信用はますます失墜するばかりだ。

 ところで、中国ではシャドーバンキングが問題になっている。シャドーバンキングとは、金融監督当局の規制を受けている銀行の融資以外の金融取引である。銀行が受けるような厳しい監督は受けないため、銀行に預けるより高い利回りを得ることができる。

 中国のネットには財テク専門のサイトがあり、一般投資家はそうしたサイトで申し込むことができる。その専門サイトの「信託商品」のタブをクリックすると、投資信託商品がズラリと出てくる。

 1口100万元で、償還期限は2年、年利8.3%をうたうインフラ投資がらみの投資信託もあれば、年利9.2%をつける地方の不動産開発の商品もある。資金は資本金の基準を満たさない地方の中小不動産デベロッパーなどに流れるケースも多く、不良債権化が懸念されている。銀監会はシャドーバンキングから投資信託商品を切り離したい意向だ。

新たな社会不安を生み出すのか

 2013年第1四半期までに、中国国内の財テク商品の規模は13兆元(1元=約16円)に達したと言われている。2011年、中国の商業銀行だけでも8.91万の財テク商品を発行し、同年末時点の発行残高は4兆5900億元にも上った。また、全国233行の銀行と金融機関が取り扱う財テク商品は7兆1000億元だともいう。そのうち、一般個人は6割以上も占める。

 6月下旬には、総額1兆5000億元(約24兆円)の財テク商品が償還満期を迎えたと言われている。だが、銀行の資金不足で償還が困難になるとの憶測もあり、財テク商品の焦げ付きが心配されている。

 上海在住の王さん(仮名)は、数年前、投資信託に手持ちの資金の多くを投じた。投資信託は、元本保証がないハイリスク・ハイリターンの商品であることも知っていた。動機は「息子が結婚するため、家を購入する資金を作りたかった」から。息子の面子のためには、なんとしても短期のうちに頭金を稼ぎ出す必要があった。しかし、投じた資金が収益を上げることはなく、3割減にも近い惨憺たる結果に終わった。王さんは病に倒れ、床に伏したままの生活を送っている。

 上海では王さんのように財テクで失敗した人が無数に存在している。株にも裏切られ、「財テク商品」で大損しと、行き場を失った個人マネーと恨み節。これがまた新たな社会不安を生むことを想像するとますますやりきれない思いだ。

 


 

JBpress>海外>エコノミスト・カンファレンス [エコノミスト・カンファレンス]
2%を超えるインフレは日本に何をもたらすか
日本に迫る“もしも”の近未来〜ベルウェザーシリーズ2013
2013年07月02日(Tue) JBpress
 エコノミスト・カンファレンスは、東京で第4回目となる「ベルウェザー・シリーズ 日本〜成長の糧として:アジア金融の挑戦」を5月30日に開催した。

 欧州、中国をはじめとしたグローバル金融の動向と日本への影響、アベノミクスで注目される日本経済の先行きなどについて、金融セクターや学界などの有識者による議論が交わされた。その中から3つのセッションをピックアップし、今日から3日連続でリポートをお送りする。

 第1回は、『シナリオ検証:日本に迫る“もしも”の近未来』と題されたセッション。登壇者は、JPモルガン証券 マネジングディレクターのイェスパー・コール氏、メリルリンチ日本証券 調査部 銀行セクター担当アナリストの大槻奈々氏。司会はエコノミスト誌アジア経済ディレクターのサイモン・コックス氏。

日銀のインフレターゲット2%がオーバーシュートしてしまったら?

コックス このセッションでは、日本経済に影響を与える要素を3つ選び、それぞれどのようなシナリオが考えられるかを議論します。

 まずは、日銀の黒田(東彦)総裁が2%のインフレターゲットを達成し、さらにそのインフレが上がり続けてオーバーシュートした場合です。今回は新しい試みとして、各テーブルにお座りの参加者の方々に、それぞれ財務省、年金生活者、労働組合といった立場に成り代わってまとめた意見を提出していただきました。

 まず財務省の立場からですが、オーバーシュートが穏やかなもの、つまりインフレ率が2%より少し上であるということであれば大丈夫、財務省としては何もしないという意見が出ています。ただし、インフレ率がそれ以上ならば増税し、そして支出をカットすると。

メリルリンチ日本証券 調査部 銀行セクター担当アナリストの大槻奈々氏(撮影:前田せいめい、以下同)
大槻 財務省としてはそういうことになると思いますが、物価が上昇して、増税もあるという時に、どれだけ世論をコントロールして政治的に安定を保てるかというところの勝負になると思います。

コックス 年金生活者の立場からは、インデックス運用をする、また、例えば豪ドルなどの外貨や金などに分散するという意見が出ています。

 私が興味深いのは、年金生活者が貯蓄を増やすか減らすかということです。インフレ率が上がるならば、今後物価が上がる前に使ったほうがいいと思うかもしれない。その一方で、年金が減っていくので、貯めておいたほうがよいと思うかもしれない。

 たとえば、5%のインフレになった時に、日本の年金生活者はどういう反応をするでしょうか。

大槻 少なくとも過去のデータ的には、短期的にボラティリティが出ることもありますが、預金はほぼ一貫して増え続けています。ですから、どれだけリスクマネーに振り分けられるかというのがポイントです。

 いまも少し動きが出ていると言われながらも、それほど増えていない中で、どれだけリスクアペタイトが過去と違ったトレンドで増えてくるか次第かと思います。

コックス 次に、労働組合の立場からの意見では、オーバーシュートしなくても常に賃上げ要求はするとのことです。


JPモルガン証券 マネジングディレクターのイェスパー・コール氏
コール 労働組合は常に賃上げ要求をするものだと思います。ただ、インフレ議論になるともう少し複雑になります。すなわち英国になるのか、日本になるのかということです。

 英国になるということは、通貨を切り下げて、コストプッシュのインフレにする、そして全員が貧しくなるということです。それがいま英国で起きていることです(笑)

 日本では、うまくいけばそれが回避できるかもしれません。すなわち、労働力不足が起きている結果として、自然に賃上げのプレッシャーとなっている。政府も税制優遇などを言っています。

 インフレの予測をする際に、一番いいトラッキング方法は賃金です。日本では、賃金の伸びと、消費者物価指数の連動というのは明確です。これは卵が先かニワトリが先かという問題ではなく、デマンドプルという形の景気拡大であれば非常にいいと思います。

大槻 「1.5の矢」とでも言いますか、「第1の矢」の金融緩和に加えて、ちょうどバーゼルIIIも導入され、日本の金融機関がこれをうまく通過していて、過去まれに見るくらい金融システムも貸し出しをしやすい、おカネを供給しやすい状況になっています。

 そういうことも含めて考えると、今回のアベノミクス、クロダノミクスについては、そういった後押しもあるのかなというのが金融システム側からの感想でもあります。

コール ちょっと楽観的なシナリオを提示しましょう。インフレ率がマイナス1%からプラス2%に移行する中で、規制緩和の判断がされることが考えられる。例えば、農業や食品の分野での規制緩和があるかもしれません。

 そうすると、いまは儲かっていないから難しいですが、インフレになって少し利益が出てくると、大企業がより大規模な効率のよい農業ができるようになってくる。エネルギー政策も同じだと思います。

コール コストプッシュのインフレは、規制緩和をスピードアップさせることになります。そういうことによってディスインフレ経済になりやすくなるということです。これは楽観的すぎるかもしれませんが、インフレになると、規制緩和もできるようになるということです。

ユーロ圏が崩壊したら?

コックス 次のシナリオはユーロ危機に関するものです。もしユーロ圏が崩壊したら、日本に対する影響、世界経済に対する影響はどうなるでしょうか。

コール 最初はリスクオフが起き、米国であれ日本であれ投資家は資金を引き揚げて本国に戻すと思います。

 しかし、ユーロ圏の崩壊は日本企業にとっては朗報だと言えると思います。なぜなら、日本企業はドイツ企業と競争しているからです。資本財とハイエンドな消費財の競争です。

 もしユーロ圏が崩壊したら、一番あり得るのはドイツマルクが強くなるということだと思います。ですから構造を見ると、一番勝ち組となるのが日本の企業だと思います。

大槻 財政危機あるいは金融危機というのは一定期間のサイクルでテクニカルに起こります。私はかつて格付け会社におりましたから、その経験として確実なのは、危機は10〜15年に1度は必ず訪れるものであるということです。

エコノミスト誌アジア経済ディレクターのサイモン・コックス氏
 そういう意味では、「もしも」ではなく、そろそろかなと思っていたほうがいいかもしれません。ちょっと悲観的かもしれませんが。

コックス 2010年にソブリン危機があったわけですが、ユーロ圏が崩壊した場合、日本の公的債務についてはどうでしょうか。

大槻 欧州と日本の財政について、どこが違い、どこが共通で、何がリスクかということは相当議論されて、そこで得た結論というのは、日本については安全性が高いということです。特に国内で消化されている割合が90%以上と非常に高いので大丈夫というのが、マーケットが落ち着いている理由です。

 ただ、我われが最近ちょっと気になっているのは、確かに国内消化というのは安心材料ではありますが、逆に言えば、均一な投資家で支配されているマーケットというのは、ある一方向に動き始めた時には、異なるポジションを取る投資家が極端に少ないマーケットということになります。

 そういう意味では、特にメディアがどういう解釈をするかということが相当な影響を持つのだろうと思います。そして、その時に90%以上を占める均一な投資家がどういうふうに理解するかが、少し気になるところです。

コール 解釈はとても重要だと思います。ここ数週間を見ても、債権のイールドは上がっている。その解釈については複数あるわけです。日本でも、債権の利回りがきちんとした理由から上がっても、悪く解釈されることがあります。


コックス ユーロ圏が崩壊した場合、ヨーロッパの金融機関は再編の努力をすると思いますが、日本の金融業界はどういう対応をするでしょうか。

コール 割安な資産を買おうという動きが見られると思います。しかし日本の投資は対米や対アジア・太平洋、特にASEANにかなり分散していますので、突然ヨーロッパに集中するということは考えられないと思います。

 ユーロ圏の崩壊というのは、リーマンブラザーズの崩壊よりも大きな意味合いがあると思います。つまり、ガバナンスのシステムにまったく新しいものが必要になるということです。

 それを一からつくり直さなければならなくなりますから、割安な資産を買う、あるいは割安な銀行を買うようなことは、当分は誰もしないでしょう。しばらくは法的な側面もはっきりしないからです。

大槻 確かにこの1年半くらい、アジアのマーケット、レンディングマーケットが主ですが、日本の金融機関にとっては相当な好機だと言われていました。しかしそれはあくまでマーケットがこれ以上クラッシュしないという前提です。

 貸し出しにしても、エクイティ投資にしても、やった時点ではコストが分からないわけです。どれくらいのクレジットリスクが出て貸し倒れてしまうのかが分からないので、最初の反応としては、しばらくはショックで動けなくなってしまうと思います。

 そのあとで、どこにチャンスがあるのかというのは、マーケットがある程度落ち着いてきてからということで、だいぶ時間差があるのではないかと。日本の銀行なり金融機関がすぐにクラッシュ、クライシスを生かせるということは少ないかと思います。

日中間で貿易戦争が勃発したら?

コックス 最後は日中関係に関するシナリオです。日中間の貿易戦争は確率としてないわけではありません。この1年でもその小さいバージョンが起きています。

大槻 すでに尖閣の問題以降、中国から香港やASEANへのシフトが始まっているように見えていました。ですので、当初言われていたほど、いまのところは大きな影響を金融システム的には感じていないのではないかと思います。

 今後の機会という意味で考えると、インフラ投資やインフラに対する貸し出しなども含めて、一番ポテンシャルを当て込んでいたところを考え直さなければいけないということでは、曲がり角に来ているなというところではあります。

コール 日中間で貿易戦争が勃発した時には、例えば中国から日本へ輸出している中間財が滞ってしまうことになると、インフレショックが発生することになります。

 自動車やエレクトロニクスなどほとんどすべての産業が影響を受けるでしょう。そうすると世界経済全体にも大きな影響が出てきます。ですからすぐに国際的な反応が起きることになると思います。アメリカもアクションを起こすことになるでしょう。

 


 


中国の資金逼迫:リーマンショックとは違うが・・・
2013年07月02日(Tue) The Economist
(英エコノミスト誌 2013年6月29日号)

最近の資金逼迫は、中国版のリーマン・ショックではないが、中国経済の動きの変化を予感させる。


 本誌(英エコノミスト)も例外ではないが、多くのメディアや評論家は好んで、中国経済を世界最大の米国経済と比較する。

 このままいけば中国経済は、洗練度では米国と肩を並べられないとしても、規模の点では米国経済に匹敵するようになる。

 しかし最近、両国経済の対比は不穏な色彩を帯び始めた。中国がにわかに、ちょうど5年前の米国に重なって見えてきたのだ。

 中国の金融機関は、数年前から過剰な融資を行ってきた――その多くは「影の銀行」によるもの――が、6月に入ると相互の融資に急ブレーキがかかった。銀行間金利は同20日、一時25%にまで急騰した。この信用逼迫は、2008年の米国の金融危機を恐ろしいほどに連想させた。米国はまだ、あの危機から完全には回復していない。

 ここから2つの疑問が生じる。中国経済は、2008年の米国経済と同じレベルの苦境に立たされているのか? そして、中国当局は正しい対策を取ってきたのか? どちらの疑問に対する答えも、「そうとは言い切れない」だ。

 今、改革を推し進めようとしている中国に、多くのことがかかっている。

既にバッドバンクを所有していることの長所と短所

 確かに、中国経済については、いくつかの行き過ぎが懸念される。信用の伸びは国内総生産(GDP)の伸びをはるかに上回り、不動産価格が、特に沿岸都市部で急騰し続けてきた。それは問題の前兆であることが多い。不動産ブームを伴う融資の急増が、2008年の米国の危機など、多くの危機の土台を作った。

 これらの危機では、性急な投資が不良化すると、銀行が倒産し、融資が滞り、信頼が失われた。政府が介入し、一部の銀行については資本を注入し、それ以外の銀行には融資を再開するよう促さなければならなかった。

 しかし、現在の中国の状況は、いくつかの重要な点でこれらの危機とは異なっている。貯蓄率は極めて高い。2008年の米国とは違い、国全体としては分相応の暮らしをしている。

 中国の銀行はかなり厳格なルールに従わなくてはならない。融資額は預金の75%を超えてはならないし、バーゼルIIIと呼ばれる、多くの国がまだ準拠していない国際的な銀行自己資本規制を既に施行している。

 さらに、国内最大規模の複数の銀行を、国家がはじめから所有している。これには短所もある(あまりに多くの融資が、政府がひいきする企業に流れている)。しかし、それらの融資が焦げ付いても、国が銀行を国有化する必要がないという利点もある。政府は、損失をいつどのように誰に負担させるかを決めるまでの間、銀行に融資を継続するよう命令できるからだ。

 中国政府は、経済にとって事実上の破産裁判所判事の役割を果たし、債権者を抑え、整然と損失を分散することができる。何よりも、そうすることで、継続的活動体としての中国経済の価値を維持できるのだ。

 中国で資金逼迫が生じた理由も、米国とは異なる。2008年に米国で銀行間取引市場が停止したのは、銀行同士が互いへの貸し出しを拒んだからだった。今年6月の中国では、中央銀行自身が資金供給を拒んだ。四半期末が近づいて一部の銀行が現金を必要としていたにもかかわらず、中央銀行はあえて何もせず、金利の急騰を許し、無謀な信用の伸びを抑制する決意を示した。

 銀行間金利の急騰を許すというのは、過度に融資を拡大した貸し手を罰する方法としては、乱暴かもしれないが、非常に効果的なやり方だ。さらには、浪費を続ける地方政府に有効なメッセージを送ることもできたかもしれない。

中国が優先すべきこと

 しかし、それ以外のすべての人々に痛みを与えることにもなりかねない。中央銀行の自制の結果、銀行が破綻して、ATMの現金がなくなるのではないかという噂が渦巻いた。

 6月24日、中国の株式市場は何年かぶりの下げ幅を記録した。上海総合指数は5.3%下落した。中央銀行が何もしなかったことで、金融そのものを可能にしている信頼感が危うくなった。幸いにも、当局はやがて危険に気づき、翌日には市場を落ち着かせる措置を講じた。

 現在優先すべきは、金融システムを整理して、経済のリバランスを図ることだ。銀行に預金金利の引き上げを許可すれば、今は影の銀行システムに流れ込んでしまっている資金を招き寄せるのに役立つだろう。預金保険の導入も、保護された銀行預金を、影の銀行による保護されない代替預金と差別化するのに役立つだろう。

 政府は、一部の過熱した産業を沈静化し、一部の産業を自由化する必要もある。重慶と上海で試験的に導入している不動産税制を拡大して、毎年、住宅の市場価格に応じて固定資産税を課すことで、不動産に対する投機的需要を抑制すべきだ。

 そして、鉄道や通信など、今は国有企業が支配している様々な産業への民間投資を奨励するために、さらなる対策を講じるべきである。そうすれば、中国の銀行は自由に、これまでとは違う企業に資金を貸し出せるようになるだろう。

バブルの拡大を許したら危険も

 そうした改革が機能するには時間がかかるし、短期的には経済を減速させる。調査会社ドラゴノミクスによると、中国の来年の成長率は、わずか6%にとどまるかもしれない。これは、中国では当たり前になっていた2ケタの成長率からすると大きな落ち込みで、政府が2013年の目標としている7.5%をかなり下回る。そうなると、にわかに北京で不安の嵐が吹き荒れるかもしれない。

 しかし、この改革を進めなければ、今後もさらに無駄な融資と非生産的な支出を続けることになる。中国経済の回復力は強い。過去には成長を続けることで様々な問題を解決してきた。だが、バブルの拡大を放置すれば、かつての米国との類似性はさらに高まるかもしれない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38124


04. 2013年7月02日 05:52:36 : e9xeV93vFQ
中国工商銀行、世界の銀行ランキング首位に躍進=英誌
2013年 07月 1日 23:35 JST

トップニュース
EUが関連施設点検へ、米国によるEU施設への監視報道受け
米建設支出、5月は約4年ぶり高水準
ユーロ圏5月失業率は12.1%、過去最悪を更新
ポルトガルのガスパル財務相が辞任


[ロンドン 1日 ロイター] - 英ザ・バンカー誌が発表した世界の銀行ランキングで、中国工商銀行(ICBC)(601398.SS: 株価, 企業情報, レポート)が米国の2行を資本力で追い抜いて首位に躍進した。

同誌では銀行の融資能力やショック耐性をはかる指標として基本的自己資本項目(Tier1)を採用し、上位1000行をランキング形式で発表している。

ICBCが初めて首位になった一方で、米バンク・オブ・アメリカ(BAC.N: 株価, 企業情報, レポート)は首位から3位に後退し、米JPモルガン・チェース(JPM.N: 株価, 企業情報, レポート)は2位にとどまった。英HSBC(HSBA.L: 株価, 企業情報, レポート)は4位、中国建設銀行(CCB)(601939.SS: 株価, 企業情報, レポート)は5位だった。


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世界の6月製造業統計で中国さえず、米は小幅改善・欧州安定化
2013年 07月 2日 01:42 JST
[ニューヨーク/ロンドン 1日 ロイター] - 1日発表された6月の世界各国地域の製造業関連統計は、中国がさえない内容となり、米国では小幅改善したものの雇用部分で不安を残す結果となった。一方、欧州では安定化の兆しも見受けられた。

中国の国家統計局が発表した製造業購買担当者指数(PMI)は50.1となり、前月の50.8から低下。PMIは50を上回ると景況の改善を示し、下回ると景況の悪化を示しており、この節目をわずかに上回る水準だった。最後に50を割り込んだのは9月。

またHSBCの依頼でマークイットが実施した製造業PMI改定値は48.2となり、5月の49.2から低下。2012年9月以来、9カ月ぶり低水準となった。速報値は48.3。節目の50を2カ月連続で下回り、第2・四半期の中国経済の減速の兆しが浮き彫りとなった。

一方、マークイットが発表したユーロ圏製造業PMI改定値は48.8で、速報値の48.7から小幅に上方修正され、16カ月ぶり高水準となった。欧州全体で製造業が安定してきており、規模の小さな国にも上向きの兆候がみられた。

ただ、BNPパリバのストラテジスト、エブリン・ヘルマン氏は「中国の勢いが力強いとはいえない状況で、ユーロ圏の底堅い動きがどれほど長続きするかは微妙だ」と話している。

IHSのエコノミスト、シャンファン・レン氏は、中国経済について「まったく不安から抜け出していない」と指摘。PMIの内訳をみても、経済を取り巻く環境の厳しさがうかがえると述べた。

こうしたなか、米供給管理協会(ISM)が発表した6月の製造業統計はまちまちの内容となった。景気指数は50.9と、前月の49.0から上昇し、判断の分かれ目となる50を再び上回ったものの、内訳では雇用が48.7と前月の50.1から悪化、2009年9月以来約4年ぶりの低水準となり、景気の底堅さに不安を残す格好となった。

ナロフ・エコノミック・アドバイザーズのジョエル・ナロフ社長は「景気指数が再び50台を回復したことは評価できるが、雇用に関して企業の採用がはかどっていない状況はよくない兆しだ」とした上で、欧州や中国からの輸入が今後増える見通しは立っていないと語った。

マークイットが発表した米製造業PMI改定値は51.9と、8カ月ぶりの低水準となった。外需の低迷に加え雇用ペースが約3年ぶりの低水準となったことが重しとなった。

マークイットの首席エコノミスト、クリス・ウィリアムソン氏は、「製造業部門で毎月約3万人の雇用が失われている実態と一致する」とし、「受注懸念が増大するなか企業は雇用抑制で対応している」と述べた。

米連邦準備理事会(FRB)は経済の改善が続けば年内に資産買い入れ縮小に着手するとの方針を示しているが、雇用情勢が悪化すれば難しい舵取りを迫られる可能性がある。

 


05. 2013年7月02日 07:12:57 : e9xeV93vFQ
【第284回】 2013年7月2日 真壁昭夫 [信州大学教授]
「中国事変」は米国サブプライムショックの再来か?
未熟な経済大国に募る金融危機不安の背景と現実味
ついに顕在化した中国の「異常事態」
不安定な経済大国の短期金融市場

 6月初旬、上海の銀行間貸出金利(SHIBOR)が大きく跳ね上がった。それまでのSHIBOR金利は、2%台半ばから4%台で比較的安定した動きとなっていたのだが、中国国内の中堅銀行の決済不能の噂によって、一挙に9%台まで上昇した。

 その後、やや落ち着きを取り戻していたものの、6月下旬には一時13%台まで急騰した。そうした金利の乱高下を見ると、一部の銀行が資金繰りの悪化などによって、銀行間の市場で資金をなりふり構わず取りまくった構図が浮かび上がる。

 金融市場の専門家の間では、従来から懸念された中国の金融不安の問題が顕在化し始めたとの観測が流れ、中国上海株式市場には売り注文が殺到し、株価は大きく下落することになった。

 中国経済に関する懸念の台頭は世界の主要金融市場にも影響を与え、わが国の株式市場は大きく売り込まれる局面もあった。

 もともと高成長を達成してきた中国経済は、輸出や設備投資主導のいびつな経済構造であることに加えて、金融市場が未整備で国内の不動産市場にバブルが発生しているなどの重要な問題を抱えている。現在の習政権が、これらの問題を解決することは容易なことではない。いずれ、どこかの段階で中国経済に大きな変動が訪れることは避けられないと見る。

 銀行間の貸借レート(SHIBOR)が、これほど大きく振れることは一種の異常事態と言える。そうした事態によって、影響力の大きい銀行が破綻するようなことがあれば、そのインパクトは経済全体に及ぶことは避けられない。それを見て、株式市場が大きく下落したのは当然の結果だ。

資金減少、政府の黙認、未熟なシステム
金融市場の混乱を読み解く「3つの背景」

 短期金融市場が大きく混乱した理由は、3つのことを考えるとわかり易い。1つは、海外からの投資資金の流れだ。それまで、主に香港などを経由して、海外から貿易取引などを装って投資資金がかなり流入していた。ところが、人民元の先高観の低下や、中国経済の減速などの要因によって、6月以降、投資資金の流入が極端に減少したようだ。

 海外からの資金流入が減ると、国内の資金需要は大きく変化する。それは、銀行の資金繰りにも影響を与え、一部の銀行の決済不能説が流れたこともあり、大手銀行が資金の貸し出しを絞ったという。

 その結果、もともと資金繰りに余裕がなかった銀行は、我先にと資金の借り入れを急いだ。それが、尋常ではない金利の急騰につながった。

 2つ目は、中国の政策当局の対応だ。通常、金融市場で金利が急騰すると、中央銀行が資金の供給を行って金利上昇圧力を緩和する。ところが今回、中国人民銀行は何もせず、金利急上昇を容認した。それを見た金融関係者の間には、中央銀行が資金繰りの厳しい一部の銀行に対して、意識的に罰を与えているとの観測が流れた。

 実際には、中国人民銀行がどのような意図を持って金利上昇を黙認したかは定かではないものの、今後もそうしたスタンスを取ることが懸念されたこともあり、短期金融市場の混乱が続く結果となった。

 もう1つの要素は、中国の未成熟な金融システムそのものだ。中国の金融制度は、基本的に政府が決める金利によって預金を集め、貸し出しを行う規制金利体制だ。一年物の定期預金の上限金利は3.3%、貸出金利の下限は4.2%になっている。

 しかも、中国国内で資金を貸し付けることができるのは銀行に限られている。つまり、資金の流れをほとんど銀行にだけ依存している状況だ。そのため、金融システムは自由化の前の段階で未成熟なのだが、一方で経済はすでに世界第2位にのし上がっている。それが現在の中国だ。つまり、金融制度と経済規模がアンバランスなのである。

“シャドーバンキング”と結び付く地方政府
大手企業や富裕層が財テクに飛びつく現状

 そうした状況下、2012年の中国のインフレ率は2.65%であったことを考えると、定期預金の金利はかなり低い。そのため、一部の大手企業や富裕層の個人はかなりの資金を持っており、高金利商品に対するニーズは大きい。企業も個人も、より高い金融商品を求めるのは、ある意味では当然だ。

 そこで発生したのが、規制の厳しい銀行を通さない金融取引(シャドーバンキング)の仕組みだ。具体的には、一部の銀行やノンバンクなどが、地方政府のつくったトンネル会社である融資平台に高金利の債券を発行させて、それを集めて金利の高い“理財商品”を組成して富裕層に売る。こうしてつくられた“理財商品”の中には、金利が15%というものまであるという。

 あるいは、銀行が資金需要の旺盛な借り手を見つけて、大手企業などの資金運用ニーズを結びつける「委託融資」という手法がある。ここで無視できないのは、“シャドーバンキング”によって供給される資金の多くが、地方政府が中心となった不動産投資などに使われていることだ。

 中国では、地方政府の資金調達には厳しい制限が課されているため、多くのケースでトンネル会社(融資平台)を通している。それは、地方政府の借り入れとして表面に出ないことが多い。

 こうして見てくると、現在の中国は、未成熟な金融制度の裏道である“シャドーバンキング”を通して、多くの企業や個人が財テクを行っている姿が浮き彫りになる。しかも、そのベースになっているのが、地方政府の不動産開発などのインフラ投資なのである。

「まるで米国のサブプライムのよう」
世界が不安を募らせるデフォルトリスク

 そうした構図は、1980年代に起きたわが国の資産バブルや、2000年代半ばに欧米諸国で起きた不動産バブルを彷彿とさせるものがある。著名投資家であるジョージ・ソロス氏は、「米国のサブプライム問題によく似ている」と指摘している。その通りだろう。

 地方政府の共産党幹部にとって、そこで中央政府から指示された高い成長を達成することが、さらに立身出世のための近道だ。経済成長させる最も手っ取り早い手段は、多額の資金を調達して不動産開発を行い、住宅を建設して売りさばくことだ。それを支えているのは、“シャドーバンキング”であり、人々の財テク意識だ。

 問題は、不動産価格は永久に上昇し続けることができないことだ。不動産の価格は、必ずどこかでピークを打って下落し始める。そのとき、高金利で集めた資金の利払いや返済を続けることができるだろうか。

 もちろん、その時点の経済情勢などに依存する面は大きいが、おそらくかなりの融資平台はデフォルトになると見られる。その影響は無視できるものではないはずだ。

 中国政府の債務残高は、公表ベースでGDPの約20%と言われている。しかし、地方政府関連の融資平台の借金を加えると、その比率は60%近くに跳ね上がる。さらに、年金や旧鉄道省などの債務を考えると、GDPの90%に達するとの試算もある。また別の試算によると、中国政府関連の債務残高はGDPの100%をゆうに超える水準にあるとの悲観的な見方もある。

 中国経済は短期間に目覚ましく成長し、世界の中で大きな存在感を示すに至ったものの、本来の社会インフラが未整備で、それが大きなリスクに結びつく可能性が高まっている。その中国リスクは、今後直接、我々の生活に影響を与えることになるかもしれない。

 


 


【第7回】 2013年7月2日 加藤嘉一 [国際コラムニスト]
もはや“胡錦濤路線”での統治は困難
習近平が「公正」を優先すべき3つの理由
習近平政権がとるべき
重要思想&指導原理とは

 2011年秋のことだった。

 私は北京で、中国共産党内でイデオロギーと政策決定をつなぐための「理論武装」を担当する当局が主催した内輪の会議(以下「会議」)に参加していた。「紅い政権交代」の起点となる第18党大会を一年後に控えていた当時、その舞台となる北京では「胡錦濤政権の“科学的発展観”に取って代わる中国共産党の重要思想&指導原理をどう設定するか?」をめぐる議論が加速していた。

 部分的にではあるが、私もそのプロセスにコミットさせていただいた。私以外にも、欧米出身の投資家、起業家、学者などが一連の会議に参加したようである(同席はしなかった)。

「中国の国家主席ほど難しいポジションは世界で類を見ない」

 これまで多くの日本人、アジア人、欧米人の口から聞かれた言葉だ。そのとてつもない難しさを自ら認識しているからこそ、「国家の方向性」という極めて重大なイシューを決めていく過程においてさえ、中国共産党指導部は外国人からの意見に積極的に耳を傾ける戦略と習慣を堅持してきた。

 国内外におけるすべてのパワーを国家建設という果てしない道のりに凝縮しようとする中国の為政者たち。「したたかさ」・「貪欲さ」・「学ぶ精神」という3つの姿勢に体現されるその統治スタイルを、この10年間、私は肌身で感じてきた。

“国家”、“人民”の問題解決には
“社会”というバッファーが不可欠

「加藤さんが私の立場だったら、何を政策のキーワードに設定しますか?」
「加藤さんが中国人だとしたら、指導者に何を一番求めますか?」
「加藤さんが国家主席だとしたら、何をどう国民経済に訴えますか?」

 会議ではこうしたピンポイント、かつマクロ的な質問が主催者側から投げかけられた。私と同じくらいの年齢のエリート官僚がディスカッションの内容を淡々とメモにとり、整理していた。

 私は会議で以下のようなコメントを発表した。

「改革開放を全国的に推し進める貴国には文化大革命の時代には存在し得なかった尺度が生まれていると感じています。それが“社会”というファクターです。文革時代には原則“国家”と“人民”という二者しか存在し得ませんでした。国家の指導者は両者の利益を無理やり一致させるべく、人民の思想や価値観を縛り付け、洗脳もしました」

 過去を振り返った上で、近年起こっている構造的変化について述べた。

「ただ昨今は事情が異なります。国民国家におけるプレイヤー、利害関係、価値観などが多様化し、インターネットが急速に発展するなかで、政府と対立する意見や、外国からの情報やカルチャーもかつてないほど目に見える形で出現しています。中国経済が世界経済にとっての一部であるという認識は普遍的で、グローバリゼーションの時代に“多様化”という傾向を力で抑圧する政策は実行可能性に乏しいです。なにより、それは賢明ではありません」

 ここからが私の述べたかったキラーメッセージ。力を込めて言った。

「貴国がいわゆる“市民社会(シヴィル・ソサエティー)”に到達するには規制緩和や自由化を大胆に進めていく必要があると理解していますが、貴党が近年しきりに強調する“民生”という観点から言えば、国家の問題も、人民の問題も、“社会”というフィルターを通さなくては解決できない状況になっています。教育、医療、雇用、格差など、“民生”を形成するどの分野をとっても、ルールメイキング、法の支配、知的財産権、コンプライアンス、言論の自由などソーシャルな緩衝地帯が不可欠になってきています。よって、私はこの“社会”という言葉を入れた重要思想&指導原理を次期国家主席が提唱されることを強く勧めます。そうすることで、国内社会だけでなく、国際社会も貴国が本気で改革開放を推し進めていく意思を感じ取ることでしょう」

安定・成長・公正・人権のうち
習近平氏はどれを最重要視すべきか

 会議に同席していた中国の民間エコノミストは私の発言後に「“社会体制改革”なんていう言葉がいいね」とコメントを残した。実際、2011年秋から2012年春にかけて、私は“社会体制改革”という文言を、次期政権の重要思想&指導原理に関するいくつかのディスカッションで耳にした。

 多くの有識者がポスト胡錦濤・温家宝時代の戦略・政策が“ナショナル”よりも“ソーシャル”に実行される必要性を訴えていたし、期待すら抱いていたということだ。

 前回コラムにおいて、2003〜2022年という胡錦濤(第四世代リーダー)・習近平(第五世代リーダー)の20年間においては、(1)安定(2)成長(3)公正(4)人権という4つの物差しが共産党によるガバナンス力を図る鍵になると述べた。

 リーダーが民主的に選出されない中国においては「ガバナンスにおける結果・業績」こそが「政府の正当性」(Accountability)を担保する。それが担保されて初めて、人民は政府という統治者の存在を承認し、被統治者という立場に甘んずることに納得する。さもなければ、暴動や一揆が勃発し、人民が政府を集団的に、暴力で転覆させる。激動の中国史が立証してきたとおりだ。

「安定第一、成長第二、公正第三、人権第四」という具合に優先順位をつけ、政策を実行し、党をガバナンスし、国家を統治した胡錦濤氏からたすきを受け取った習近平氏は、これからの10年間、安定・成長・公正・人権という4つの軸をどのようにリバランスしていくのだろうか。

 会議でもコメントしたように、習近平氏は3つ目の「公正」を第一に掲げるべきであると考えている。

 理由を3つ挙げる。

 第一に、中国社会がこれから“ポスト安定&成長時代”に突入するという時代的背景がある。当たり前だと思われていた二桁成長が望めなくなり、第十二時五ヵ年計画が終了する2015年までの目標は7.5%と設定された。

 温家宝首相が社会の安定の前提となる雇用を吸収するために掲げていた8%というボトムラインにすら届かない状況が、これからは当たり前になる。“当たり前”の前提が変更されるということだ。

“安定”という観点から現状を俯瞰しても、これからは胡錦濤時代のように公権力で“絶対安定”を保証できるような局面ではなくなってくる。反政府・反権力集団暴動・ストライキは1日平均で500件を上回るという統計もあるほどだ。引き締めることが社会を逆に不安定化させる構造がより顕著になりつつあるのが昨今の中国である。

「安定」と「成長」がこれまでのように担保されなくなるからこそ、「公正」の部分を強化することを通じて、党の正当性を維持していくことが求められるのだ。

変化する共産党指導部の“体温”
その象徴が「民生」重視の姿勢

 第二に、胡錦濤・温家宝政権の末期からすでにその前兆は十二分に見られたが、共産党指導部がかつてないほど「民生」、即ち「国民の生活」に直接関わるファクターを重視するようになってきたことだ。

「社会の絶対安定」や「経済の高度成長」が国民の生活水準や幸福指数の向上に還元されなくなってきた状況を、指導部は懸念し、環境改善の必要性を感じている。「民生」を提唱するようになったのは、そうした共産党指導部の“体温”の変化と見ていいだろう。

「民生」と私が定義する「公正」とは相互補完的、正比例的、且つ必要十分条件の関係にある。前者を伸ばすには後者が必要であり、逆に、後者が必要とされるためには前者の存在が充分でなければならない。

 前回コラムで定義したように、「公正」とは教育、医療、社会保障、就業機会など、社会が公正に機能し、人民が公平に義務と権利の関係にコミットしているかを指す。市場メカニズムが公正に機能しているか、すべての企業が法律の下に平等で、必要な資金を市場で公平に調達できるかなど金融面の公平性もここに含まれる。

 こう考えると、6月下旬に世界中のメディアを騒がせた中国での金融不安を巡る一連の動きの根底にも、「公正」の問題が存在することが見て取れる。

 通貨供給量(M2)が他国に比べても高い(この数ヵ月は前年同期比約15%増で推移)状況下で、中国の銀行が“突如”カネ不足(中国語で「銭荒」)に陥り、株価が暴落した。それにもかかわらず、中国人民銀行(中央銀行)は当初静観し、「流動性は十分足りている」と言い張った。

 その後、中国人民銀行は世論の圧力に屈する形で「一部銀行に流動性支持を行使した」。背景には、「公正」に関わる深刻な構造的体制問題が横たわっている。銀行への規制が厳しいが故に生まれる、銀行を経由しない金融取引の象徴である「影の銀行」(シャドーバンキング)が、中国人民銀行による金融政策と成長モデルの転換を前提とした実体経済の繁栄の邪魔をしているということで、共産党指導部は中銀を通じて、銀行の自助努力を促そうとした。

「構造改革のためには痛みを感じてもらわなければ困る。お上が常に助け舟を出してくれると勘違いしてもらっては困る」(中銀幹部)というのが“お上”の論理である。しかしながら、そもそも「影の銀行」が蔓延したり、そこから生まれたマネーが不当に不動産市場に流れてバブルが形成されたりという状況の源泉となっているのは、紛れもなく党指導部の体制や体質が遠因である。「身から出た錆」ということだ。

 金利の自由化を含め、トップダウンによる改革が金融システムの健全化・透明化には必要不可欠であるにもかかわらず、自らがそれを先延ばしにしつつ、下部組織に自助努力を求める指導部のやり方は説得力に乏しいし、世論の支持も得られない。税収や雇用において、中国経済に実質的に貢献している民間企業、中小企業が如何にして公平な競争環境の下融資を得られるか、コーポレート・ガバナンスを徹底できるかは基本的には「公正」の問題であり、党指導部の覚悟が求められる課題でもある。

社会安定を維持するためのコストは巨額
財政危機誘発の可能性も

 最後の理由に、これからの10年間で起こりうる政策を先読みする場合、4つ目の「人権」が後回しにされる可能性が高く、よって「公正」の充実と行使がますます重要になるものと予測される。

 胡錦濤氏が統治した10年間、中国の「人権状況」は悪化した。私は、特に2008年に祖国開催した北京五輪の前後あたりから言論・報道統制があからさまに強化され、国家の統合(ウイグル、チベット問題など)や社会の安定(党の支配にノーを掲げる言論人や人権活動家)を脅かす“分裂主義者”や“異端分子”が国家権力によって抑圧される過程を身体的に感じてきた。

 そして、習近平体制になっても“この傾向”が維持されることはあっても、緩和される兆候を(少なくとも現段階では)見出すことができないという一点において、中国国内における多くの有識者たちと意見を同にしている。特に、インターネットの台頭(5.5億以上のユーザー)や情報化、国際化という不可逆的な傾向が進行するなか、共産党指導部は「国内の一部知識人たちが外国の敵対勢力と結託して国家を転覆しようと企んでいる」という懸念をかつてないほど深刻に抱いている。

 日本、米国を含め、対外関係の悪化が内政の不安定化につながるようなケースも多発しており(尖閣問題、グーグル撤退事件など)、台頭するナショナリズムに政治のポピュリズムがかぶさる一方で、政府の社会全体に対する監視・検閲・統制は強まるばかりだ。

「“維穏”(社会の安定を維持すること)のために必要とされる経費は国防費よりも多く、このまま無制限に上昇を続ければ、それが原因で財政危機が勃発する可能性すら否定できない」(公安部幹部)との声もある。

外国人や識者の議論を踏まえて
習近平氏が発表した重要思想とは

 習近平政権が「公正」を重視しなければならない3つの理由を説明してきた。

 安定・成長・公正・人権という中国のリーダーが「政府の正当性」を担保するために保持する4つの軸は、均衡が取れるほどバランス良く、相互補完的に行使されるべきものだ。理論的に言えば、4つの軸がどれも平等に重視され、同レベルで行使された状況において、中国共産党の「正当性」は最大化する。ただ実際はそうスムーズに事は運ばないから、為政者は優先順位をつけ、同時進行を意識しつつも、取捨選択をしながら政策決定をしていく。

 習近平政権に関して言えば、「安定」と「成長」に極度に傾いた胡錦濤時代のパターンはもう取れない。かといって、政治体制改革を推進する上で避けては通れず、かつ西側発の民主化をも彷彿させる「人権」マターには現段階では取り組めそうにない。

 国内には「いま民主化すれば社会は逆に混乱する」、「いま仮に国家主席を選挙で選んだとしたら、とんでもない人間がこの国を支配することになる」、「政治の自由よりも経済の繁栄や社会の安定のほうが大切だ」という大衆世論は社会の至るところに深く根付いている。

 一方で、「民生重視」という意味では、統治者と被統治者のあいだで基本的コンセンサスが得られており、私は「今の中国にとって民生は必要ない」と主張する中国人に会ったこともなければ、そういう論点を耳にしたこともない。現代中国における数少ない“社会的合意”と言えるであろう。

 だからこそ、習近平・李克強両氏は「公正」を政権の要に据えることで政府の正当性を担保していくべきである。実際、2013年3月17日、国務院総理として初めて記者会見に挑んだ李克強氏は、(1)経済の成長(成長モデルを転換し、内需を生かす)(2)民生の改善(中産階級を拡大する)(3)社会の公正(法治主義を徹底する)という3点を掲げ、「公正重視」を前面に押し出した。時の政権リーダーは自らが取り組むべきミッションを明確に認識し、公に主張している。

 問題は、認識と主張が、政策としてどこまで実践されるかの一点に絞られる。それを判断するための物差しのひとつが冒頭で言及した重要思想&指導原理であるが、名実ともに中華人民共和国ナンバーワンとなった習近平氏の口から出てきたのは、2011年秋以降、私を含めた外国人や国内の識者たちが口にしていた「民生」や「社会」、「公正」を意識した「社会体制改革」ではなく、「中国夢」(チャイナ・ドリーム)という産物であった。

 果たしてチャイナ・ドリームの登場は、「公正」を促進するのか。それとも、抑圧してしまうのか。次回コラムで議論していきたい。

<加藤嘉一氏の新刊>


『「不器用」を武器にする41の方法』


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