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ブラック企業というと、「何かと理由をつけて無理矢理辞めさせる」というイメージが一般的。だが近頃、会社員が辞めたくても「辞めさせない」企業が増えている。
誰でも入れる労働組合「全国一般東京東部労働組合」(以下、東部労組)の須田光照書記長が語る。
「従来は派遣切りのような『働きたいのにクビにされる』事例への対処が大半でしたが、ここ1、2年は会社の辞め方の指南が増えた。まるで“辞めさせ屋”ですね」
2011年の東部労組への相談件数は7624件。その内容はさまざまだが、なかでも「辞めさせてもらえない」という相談は、2010年の236件(約4%)から556件(約7%)に増加している。須田氏は多くの相談を受けるうち「この現象は出るべくして出てきた。ブラック企業被害の最終形態だ」と理解するようになった。
例えば、事務職のAさん(男性)は連日の長時間サービス残業だけでなく、ワンマン社長の私用や社長の飼い猫の餌やりまでやらされていた。嫌気の差したAさんは退職届を出そうとするが、ワンマン社長は「おまえが辞めたら、いったい誰が猫に餌をやるんだ!」と受け取らず、辞められなかった。
須田氏によれば、こうした事例が後を絶たないという。しかし、そんなにヒドい会社なら、なぜ「辞めない」のか?
「すでに相談者はそうできない心理状態に追い詰められているんです。ブラック企業は労働者を“従順な奴隷”にするため、あらゆる手口を講じています」(須田氏)
前出のAさんもそうだが、ブラック企業ではパワハラが強烈。東順子さん(仮名・20代)は一昨年、厳しい就活を乗り越え、中堅進学塾に事務職として新卒入社した。ところが、入社後すぐ、生徒たちの前で突然、上司に「なんだ、その声は! しっかり返事をしろ!」と罵倒された。以来、何事につけても怒鳴られる東さんは、サービス残業といった上司の理不尽な要求にも黙々と従うようになった。
そんな彼女の様子に「危ない」と直感した母親は、入社翌月に退職を進言。東さんは会社に辞意を伝えた。ところが、上司は「生徒の合格も見ないで辞めるのは無責任だ。そもそも引き継ぎ者がいない。年度末までいろ!」と退職届を不受理。東さんもその言葉に負い目を感じてしまった。
東さんはその後、若者の労働問題を扱うNPO法人「POSSE」に相談し、会社を辞めることができた。しかし、こうした「辞められない」事例の中には、犯罪としか言えないものもある。
数年前、子供用品を扱う会社で、社員が金属バットで殴打されていたことが発覚した。社員寮と称したアパートの一室に社員3人を実質監禁し、日中は飛び込み営業をさせ、ノルマに達しない分は自腹を切らせる。3人は何百万円もの借金を背負わされていた。
ここまでされながらも、「3人は逃げても追いかけてくるのではという恐怖心を植えつけられた」(須田氏)ために、逃げることができなかった。常軌を逸したパワハラで社員の心を支配する。これが「辞められない」企業の常套手段の一つとなっているようだ。
(取材/樫田秀樹)
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