03. 2013年6月28日 10:38:47
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中国市場の混乱は習近平体制の演出?「理財商品」の償還に戦々恐々の“影の銀行” 2013年6月28日(金) 深谷 幸司 このところ、中国の短期金融市場で金利が急騰し、金融不安から株式相場が大幅に下落するなどの混乱が著しい。翌日物金利は5月下旬には概ね3%台で推移していたが、6月に入ると急激に上昇し始め、20日には13%台をつけた。 声明発表に追い込まれた中国人民銀行 これに対し、中国人民銀行(中央銀行)は25日に緊急声明を発表し、複数の政策手段を駆使して短期金融市場の安定を守ると表明。一時的に資金不足に陥った銀行に対して、必要なら流動性を供給する考えを示した。 これにより流動性懸念は沈静化に向かっている。しかし、なお金利は5%台の高い水準にとどまっており、資金繰りが困難となった一部企業などの信用不安は根強く残っている。 上海銀行間取引金利の推移 混乱の背景には、大きく見て2つの要因があるようだ。1つは中国独自の問題だ。中国人民銀行が銀行融資の枠外で膨張してしまった「影の銀行(シャドーバンキング)」を抑制し、金融システムの正常化を図ろうとしていることが直接の原因だ。そのため、季節要因で資金需給が逼迫するこの時期にあえて流動性の供給を絞り、懲罰的に金融機関に流動性管理の強化や不採算融資の抑制、不健全貸出の抑制を促したとの見方ができる。
もう1つはグローバルな要因だ。5月22日に米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長が米量的金融緩和の縮小について言及して以降、投資家の多くがリスク資産から資金を引き揚げ、基軸通貨であるドル建ての資産に戻す動きが強まっている。 これを受け、各新興国市場で株価が下落し、その国の通貨も安くなった。中国についても同様の流れの中で、海外から流入していた「ホットマネー(短期資金)」が引き揚げられ、金融市場の流動性が逼迫し始めた可能性がある。 習近平体制による構造改革が根底に そもそも中国人民銀行が金融システムの健全化に動き始めた背景には、習近平国家主席による新体制の下での経済構造改革、バブル抑制方針がある。 中国の課題は「爆食経済」からの脱却であり、生産性の向上や生産物の高付加価値化、さらにサービス産業の拡充である。 中国政府は従来のような「大量かつ安い労働力を投入し、安価な製品による価格勝負を拡大する」という構造からの転換を図ろうとしている。中国が多量の労働投入で高成長する段階は過ぎつつある。今後、急速に進展すると予想される少子高齢化をにらみ、構造改革は必要だ。その中で、不健全、不採算な企業は淘汰されるのが自然だ。 また中国では、不動産開発やインフラ投資の過熱感がまだ収まっておらず、投機的な開発案件もまだ散見されるようだ。農地を接収して不動産デベロッパーに売却することで資金調達する地方政府の動きも問題視されてきた。 こうした経済構造改革に中国政府と中国人民銀行による金融政策面での協働は不可欠である。つまり、両者が一体となって改革に動き出したことが、皮肉にも今回の混乱の背景にあると言える。 景気減速もお構いなし 中国景気は減速したまま、なかなか底入れの兆しがみえない。従来であれば、財政出動や金融緩和など景気浮揚策がとられてもおかしくないはずだ。しかし、現時点で政府のスタンスからその兆しは見えない。「今、景気対策を打てば、不健全な企業や事業体の延命、バブルや不動産投機を再燃させかねない」との警戒感があるようだ。財政政策においては、リーマンショック後には4兆円規模の景気対策が打たれたが、今回はそうした動きはないだろう。 金融政策においても、12%に高止まりさせている預金準備率の引き下げなどは実施されそうにない。基準貸出金利も横ばいが続いており、中国人民銀行は手綱を引き締めたままだ。 これらは習体制による「景気を犠牲にしてでも構造改革を優先しよう」という強い意志を感じさせる。 こうして見ると、市場金利の急騰を伴った今回の金融市場の混乱は、言ってみれば、ある程度の「犠牲」も覚悟の上での「あぶり出し作戦」と映る。その意味では、「政府によって意図され、演出された混乱」という見方もできる。 「上に政策あれば、下に対策あり」 今回、中国人民銀行は市場金利の急騰を放置し、すべての金融機関を「恫喝」したわけだ。市場金利が高水準で推移し続ければ、経済全体に影響を及ぼしかねない。問題のシャドーバンキングのみならず、全ての銀行が同様に影響を受けることになる。 従来の政策手法は、かつて日本で用いられていたのと同様に、個別の銀行に貸し出しの内容やボリュームについて“注文”を付ける「窓口指導」や、個別銀行に対する流動性供給を絞るなど、言わば“ミクロ的な手法”だった。 確かに、25日の声明発表の後、当局は特定の金融機関に対する流動性供給に動いており、個別行への管理手法がなくなったわけではない。しかし、かつて、これほど中国の市場金利が変化したことはなく、今回は市場金利そのものに働きかけたところが際立っている。 そうせざるを得なかったのは、現状の問題点が通常の金融機関の融資から乖離したシャドーバンキングにあるためだ。これらに個別で指導するのでは足りず、市場メカニズムに働きかける方法を取るしかなかったのだろう。 シャドーバンキングは「理財商品」という高利回り商品を販売し、それによって集めた資金を高利で企業に貸し付ける。その間で利ざやを抜いて収益を上げてきた。 高利の資金が向かう先は、そうしたコストでしか資金融通のできない不採算企業や不健全企業、不動産投資資金だ。当然、そこにはかなり大きなリスクが潜んでいる。シャドーバンキングは、通常では融資できないような取引先に対して、個人投資家からファンドの形で資金を集め、それを融資に回してきた。中国のことわざで言う「上に政策あれば、下に対策あり」を地で行ったようなものだ。 過去、様々に発生した「バブル」においても同様の事態が見られる。今、中国で膨れ上がっている「理財商品」の販売を資金源とした不健全融資は、新たなバブルの温床となりかねない。 これは米国で問題となった「サブプライムローン」のようなものだ。事業そのものが行き詰まった場合、個人投資家が直接損失を受ける。これは信用不安を招き、混乱を生じさせかねない。そもそも、政府の構造改革路線によれば、そうした企業や事業は淘汰されて然るべきであり、金融政策・金融監督の目の行き届かない「資金供給ルート」は絞られることになるだろう。 混乱沈静化でも残る「取り付け」懸念 金融市場の混乱そのものは、中国人民銀行が流動性を供給することで沈静化しうるものだ。実際に、金利は低下し始めている。個別金融機関に対し、必要な支援も実施され、金融システム全体が破たんするような事態にはならないだろう。また、中国の金融機関がグローバル金融システムに占める割合は小さく、リーマンショックや欧州債務危機のように、直接的に中国の外の投資家に損害が及ぶグローバルなリスクイベントとなる可能性も小さいと見られる。 だが、習体制の政策の方向性を踏まえれば、今後は不健全企業や不採算事業、不動産関連投資の行き詰まりなどが散発的に発生することが懸念される。そうなれば、中国の株式相場はさらに下振れリスクを強める可能性がある。 上海総合株価指数の推移 そもそも習体制は構造改革を推進する中で、こうした事業主体が淘汰されることを想定していると見られる。金融機能の健全化、金利自由化などによって、市場メカニズムの中で健全な企業・事業が生き残り、それによって経済そのものが健全化し、強化されるというのが理想だろう。
当面は、シャドーバンキングに資金を供給してきた「理財商品」の償還や、その後の資金調達が混乱を来さないか気がかりだ。これらは短期の金融商品であるため、償還が頻繁に到来する。その都度、商品そのものへの不安感が高まり、償還金の再投資がなされず、いわば「取り付け」のような事態に至れば、それによって資金調達してきた事業体は、たちまち金繰りに窮することになる。 ハードランディングが生じるのか、何らかのソフトランディングが用意されているのか。中小金融機関や中小企業の信用問題にまで発展しないかどうか、今後の中国市場はさらに注意深く見守る必要がある。 深谷幸司の為替で斬る! グローバルトレンド
円安進行の加速が目立つ為替相場。1ドル=100円を超え、さらに円安は進むかどうか、市場関係者にとどまらず、企業、そして国民の注目が集まっている。今後の円相場の行方は?また日本、さらには世界の経済はどう動いていくのか?国内外の銀行で為替ストラテジストを長らく務めてきた深谷幸司・FPG証券社長が、各国通貨のパワーバランスに垣間見えるグローバル経済の胎動をとらえたホットな話題を提供する。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130627/250288/?ST=print 「アグラ化」する?中国のシャドーバンキング
「理財産品」はこんな商品 2013年6月28日(金) 張 勇祥 「你不理財、財不理你」 「你」は、あなた。「理」は、ここでは管理する、くらいの意味だ。 「あなたが資産をしっかり管理しないと。資産は、あなたのことなんか構ってくれませんよ」といった訳になる。 中国の大学で金融論を聴講したときのこと。ぼんやり最後列に座っていたら、20代とおぼしき女性講師がこの諺から授業を切り出して驚いた。十数回の講義すべてが資産運用の話だったから、投資のことで頭がいっぱいなのだな、と感じたことを覚えている。 以前、低迷する中国の株式相場のことを取り上げたとき(関連記事「株バブル崩壊と共に萎む中国人の夢」)にも指摘したが、中国の人は概して投資に強い関心を持っている。「山っ気」が強いということもあるが、豊かになる方法が限られる社会情勢こそが、人々を無謀とも言える投資、投機の世界に誘う。 中国で資産運用の王道は不動産だ。北京や上海、広州などの大都市では土地の供給は限られ、上昇ペースが鈍化したとは言ってもほとんど負け知らず。地方も都市化の恩恵を受けてきた。しかし、少なくとも数十万元から100万元(1600万円)のまとまった資金が必要だ。それに、さすがに今から不動産を手掛けるのは勇気がいる。株式相場は2007年に天井をつけてからは、小さなリバウンドこそあったが基本的に底ばいだ。海外投資はルートが限られ、預金金利はインフレ率とほぼ同じか、より低い水準にとどまる。 じゃあ、どうするの? こんな庶民の声に応えるように残高を増やしてきたのが「理財産品」と呼ばれる運用商品だ。産品という言葉は日本語ではやや堅いので、理財商品と呼ばれることが多い。一言で言えば、元本保証もなく運用の縛りも緩い投資信託のようなもの。ただ、投資家保護の枠組みがほとんどないので、法的な根拠は異なるが日本の「匿名組合出資」に近いかもしれない。 理財産品が「シャドーバンキング」の原動力 この理財商品がここに来て注目を集めているのは、リーマンショックで落ち込んだ世界経済を救った中国バブルの原動力となり、今またバブル崩壊の引き金になりかねないと目されているためだ。 2008年12月に中国が打ち出した4兆元(64兆円)とも言われる経済対策。ただ、中央政府が拠出したのは1兆元余りで、残りは地方政府が賄うこととされた。当然、そんなカネはない。そこで「融資平台(プラットホーム)」という第3セクターのようなものを作り、銀行融資を受けたり債券を発行したりして不動産投資やインフラ整備に必要な資金をかき集めた。「融資」は、中国語では資金調達を指す。 とはいえ、中国では銀行融資の総量規制を実施しているので、銀行借り入れを起こすにも限界がある。そこで融資平台(すなわち地方政府)が縋ったのがシャドーバンキング。シャドーバンキングは誤解を恐れずに簡略化すれば「銀行を介さない借り入れ、資金調達」を指す。政府系企業が銀行から借り入れた資金を又貸しすることと、理財商品に集まった資金の運用先が2大供給源。シャドーバンキングは30兆元(480兆円)規模とされ、確かにこの金額が空きビルや入居者のいないマンション、ガラガラのショッピングセンターに化けたとしたら中国バブルも崩壊やむなしだろう。 理財商品の具体的な商品設計はどうなのか。 何本かの理財商品の「風険掲示書(リスク説明書)」に目を通す機会があったので、かいつまんで特徴を挙げてみる。 (1)運用期間はごく短い 「点貸成金2316号理財計画」と名付けられた理財商品の運用期間は45日。ほかにも60日から90日くらいのものが多く、運用期間は3カ月以内のものが過半だ。個人投資家にとっては「預金代わりに、ちょっと利回りの良いものを」という感覚だろう。 (2)元本保証ではないが、なぜか目標利回りがある 上記の商品の場合、コスト控除後の「予期最高到期年化収益率(年換算した予想利回りの上限)」を6%と明記している。リスクがあって元本保証ではないと至る所に書いてあるのに、だ。 6%と言えば聞こえはいいが、これは投資家に還元する利回りにキャップ(上限)を付けたものと考えられる。今となっては6%もなかなか大変そうだが。 投資先は「何でもあり」 (3)運用に縛りはほとんどない この商品、1から5で示されるリスク度は2。最も値動きの激しいものが5なので、2は安全志向といえる(この説明書にも「穏健型」と書いてある)。 投資先は「格付けAA以上の信用力が高く流動性も備えた債券、コール(銀行間で短期の資金を融通する取引)、信託計画、銀行預金、その他の金融資産」とある。信託計画は資産運用会社が提供する機関投資家向けの商品だろう。明らかに、その他の金融資産が曲者だ。 続いてモデルポートフォリオを見ると、 となっている。極端な話、債券(これはAA以上の縛りがある)を30%組み入れておけば、ルール上は問題ない建付けだ。
これとは別の、リスク度3の理財商品の投資先には「債券、マネーマーケット、(中略)……低格付け債、中小企業私募債、法律に符合するその他の投資商品」とある。運用方針、運用スタイルなどの説明はないので、要は「何でもあり」だ。 かつては地方政府の「融資平台」が発行する債券に投資すると明示した理財商品もあった。この融資平台が発行する債券の目論見書も見つけたので読んでみると、要は調達資金で以下のような公共施設を建て、市政府から管理費をもらうというビジネスモデルだ。 インフラプロジェクトの一例 このようなプロジェクトを年に100以上も受託しているのだという。管理費は市から受け取るので回収できないことはない、という理屈のようだ。ショッピングセンターなど明らかな不動産開発がない分、マシなようにも見える(開示していないだけかも知れないが)。 それでも、10年で受け取る管理費は建設費の6割だ。管理にはコストがかかるし、修繕も必要になる。10年後、再び市と契約を結ぶのか売却するのかは分からないが、その時の価格によっては債券の元利払いに影響が出るだろう。経済も、資産価格も右肩上がりの時代なら問題はなかっただろうが…。そして、中国には、このような融資平台が山ほどある。 理財商品の投資期間がごく短期であることを思い出してほしい。投資先の融資平台は期間10年といった長期、一方で資金調達を担う理財商品は数カ月でロールオーバー(資金の乗り換え)を繰り返す仕組みだ。痺れを切らした個人投資家が理財商品から資金を引き揚げれば、資金繰りはすぐに行き詰まる。銀行間取引の金利が10%を超えたのは、恐らくはこんな経緯だろう。 融資平台も、理財商品も、最初からデフォルトを前提にしていたり、投資家を欺くことを想定していたりする訳ではないだろう。ただ、かなり無邪気に危ない橋を渡ろうとしていたのは間違いない。そして今、中国の高成長時代が終わり、彼らが描いた絵は色あせてしまった。 ここで無理に安全性を謳い、破綻まで突き進んでしまっては、どこかの和牛商法と同じになってしまう(見方によっては既に同じか、より悪質かも知れないが)。その意味で、李克強首相が中央銀行に安易に資金供給を許さない姿勢を見せていることは正しい。需要を先食いしてしまったのなら、そのツケはどこかで払わないといけない。 あとは、足元の金融政策がオーバーキル(過度に金融を引き締めて経済を失速させること)にならないことと、地方政府の債務問題が手遅れでないことを期待するのみだ。内政に行き詰った場合、中国がまず矛先を向けるのは日本だろうから。 記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130626/250246/?ST=print |