02. 2013年6月28日 08:35:39
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【第6回】 2013年6月28日 大本 綾 デンマーク人に学ぶ最高の結婚と、 最高のパートナーの見つけ方 晩婚・少子化と、今日本では結婚に対する価値観が揺らいでいる。とかく世間体に左右されたり、周りからの圧力が生まれやすいこの国において、そもそも幸せな結婚とは何なのだろうか?大好評の「留学ルポ」連載第6回は、現地インタビューを通して、幸福大国デンマークの結婚観からパートナーの見つけ方、日々の幸せの感じ方までを浮き彫りにする。出産してもすぐに結婚しないカップル デンマーク人夫婦のクヌッドとグリートの家にホームステイをさせてもらっていたときのことです。コペンハーゲンで働いている長女のトーラさんが帰ってくるというので、週末に皆で一緒に昼食をすることになりました。 トーラさんと食事をしながら話しているうちに、結婚の話題になりました。そのとき、彼女のある言葉に耳を疑いました。「そういえば、子どものころ両親の結婚式に出席したときのことを覚えているわ」 クヌッドとグリートにはトーラさんを含め4人の子どもがいますが、全員揃って彼らの結婚式に参加したと言うのです。 日本であれば結婚してから妊娠、または妊娠したとわかった時点ですぐに結婚するのが主流であることに対して、夫婦円満なクヌッドとグリートがなぜ子どもが4人産まれるまで結婚しなかったのか、また、周りの人々がそのことについてどのように考えていたのかとても気になりました。 彼らのケースが特別なのか疑問に思い、オーフス大学の教授でデンマークの結婚市場について研究されているミケル・スバーさんに話を聞きました。 「今デンマークでは、ほとんどの第一子は両親が結婚する前に産まれます。彼らは同棲をしている場合が多く、こういった自由な考え方は北欧の特徴で1960年代の左翼、ヒッピーのムーブメントから広まり、現在は特にデンマークの若者世代では主流になっているのです」 デンマークでは法律上婚姻に必要な書類は提出せずに、一緒に住み生活をする事実婚というスタイルが一般的です。事実婚の人が実際に結婚する場合は、パートナーのどちらかが亡くなった場合の財産相続を考慮するなど現実的な理由によることが多いようです。出産や子育てを、結婚よりも優先するデンマーク人にとって結婚とは一体何を意味するのでしょうか。 デンマーク人の結婚観 私が通うビジネスデザインスクール「カオスパイロット」で秘書をしているマリーナさんに話を聞きました。国内外のプロジェクトに取り組み、3年間ある意味カオスな学生生活を送る中で、マリーナさんは私たちにとって安心して頼れるオアシスのような存在です。 そんなマリーナさんは、6歳の息子と2人目の子どもを妊娠していますが、パートナーがいるものの結婚はしていません。結婚していない理由について聞くとこう答えます。 「結婚するかどうかは重要ではないの。未婚か既婚かで社会は私たちを判断することはないわ。子どもがいることの方が大切で、それが私たちの絆を深めるの。結婚とは他の人に見せるための表面上のことに過ぎない。毎日感じる愛の方が結婚のための書類やセレモニーよりも重要なのよ」 また13歳のときに出会って以来、11年間彼女と交際している友人のサイモンさん(26歳)にも話を聞きました。彼は6年間アパートを借りて同棲したあと、去年ローンを組んで一軒家を購入しました。周囲からみれば、11年間交際して家まで購入するのであれば、当然結婚することを期待される仲でしょう。 ところが、サイモンさんと彼女は、彼女が大学を卒業したら子どもを生む計画を立てているにも関らず、今後結婚する予定はまだないと言います。何歳で結婚したいと考えたことはある?と聞くと、「それは自分にプレッシャーをかける馬鹿げた考え方だと思う」とはっきり彼は答えます。 「30歳になったら結婚しなければいけないなんて、そんな風に実際物事は進まない。大きなプレッシャーだし、ひどいことになる。結婚は、外の世界に対して見せるもの。僕は、それなしでもコミットできるとわかっているんだ」 彼女との関係についての満足度を10点満点で評価すると、満点だというサイモンさん。彼女と良い関係を築く上で大切なことは何か聞いてみました。 「お互いに幸せであること。朝、起きたときに幸せだと感じること。他人が自分たちのことをどう考えているかと思わない。自分が置かれた現状にまずは幸せを感じることが大切なんだ。他人が何を考えているかなんて考えると、人生が台無しになってしまうからね」 連載2回で、「デンマーク人は本当に幸せなのか?」というタイトルの記事を書いたときに、デンマーク人は他人と比べることで幸せを感じるのではなく、自分自身の価値観で幸せを感じていると書きました。その価値観が、恋愛にもゆるぎないものとして表れていたのです。結婚するかどうかは、個人の意思が尊重される自由がデンマークにはあるのです。 性格重視のデンマーク人の出会いの場 デンマークでは、高負担の税金で小学校から大学までの教育費や医療費が無料になり、ある程度の生活が国によって保証されています。そのような状況があるからか、パートナーには経済力以上に、性格を重視する人が多い印象を受けます。 男女が出会う場も性格がよくわかる場所が好まれているようです。「ランニングディナー」というデンマーク人の間で人気の男女の出会い系のイベントを立ち上げ、現在デンマークで注目されている女性起業家のミシェル・ビッドさんに話を伺いました。 ミシェルさんのアイディアで始まったランニングディナーはレストランや決まった会場があるわけではありません。事前に申し込んだ人々が、ホストとゲストの役割を持ちます。 ホストは8人の男女が集まって食事をする場所を提供します。ゲストは、事前に参加登録した情報をベースにマッチングされた相手とファーストコース、メインコース、デザートのいずれかを用意し、ホストの家に一緒に向かいます。 それぞれのコースを提供する場所が決まっているため、一度のイベントでペアになった人と一緒に合計3軒のホストの家をまわり、それぞれで新たに新しい3組のペアの人と出会うことになります。 ランニングディナーでは、ペアになった人と一緒に買い物に出掛けて料理をします。出会ったこともない人とこういったことをするのは、日本人からすると不思議な感覚です。 プライベートな環境であるものの、会話を楽しみながら早くお互いを知ることができるのが人気の理由のようです。それにしても、これは共食の精神のあるデンマーク人らしい出会いの場だと感じました。 ミシェルさんによると、ランニングディナーに参加する上で絶対必要なのは、「オープンマインドであること」。ちょっとした立ち話がその場でできるかどうかがポイントだそうです。私も時々パーティーに出掛けることがありますが、ヨーロッパではユーモアのある会話ができるかどうかがとても重視されているように思います。 充実した福祉制度のあるデンマークでは、皆が中流階級だと言われています。肩書きよりも中身が重要視されます。会話の中で教養や頭の回転の良さを感じてもらうことが、素敵な人とさらに仲良くなるための重要なステップであるといっても過言ではないでしょう。 ランニングディナーは、28歳から42歳の男女が集まり、多いときは一度のイベントで1000人ほど参加するそうです。成功を収めたミッシェルさんですが、実は過去に2度起業してどちらも上手くいかず、プライベートでは離婚も経験しています。過去の失敗を隠すことなく、そこで学んだこと、幸福とは何か語ったミシェルさんの本は、デンマークではベストセラーです。 そんな彼女に結婚とは何か聞いてみると、「たくさんの愛、尊敬、優しさ」であると言います。「それが一つ、二つと長い間欠けていると、もうそこにいることはないわ」と言います。つまり、そのときは別れを選択するようです。
パートナーと幸せになるためのモットーを聞いてみました。「常に私たちには選択があることを覚えておくことよ。自分の今のあり方に幸せでないと感じるのであれば、それを解決するための選択肢はいくらでもある。同じことに2週間も文句を言ってはだめ。もしそうするなら、変化を起こさなくてはいけないの。 アインシュタインは、“狂気とは、同じことを何度も繰り返しているだけなのに、違う結果を期待することである”と言ったわ。多くの人が、朝起きて仕事に対して幸せでなかったり、妻にキスしたいと思わない人がいる。彼らは、自分に選択肢があること、そしてその選択肢に責任があることを忘れていると思うわ。 私は正しいことを選んだのではないの、自分にできるベストなことをやってきただけ。嫌なことは起きるけど、それでもまたトライしてみることが大切なの」 デンマーク人に学ぶ 最高のパートナーの見つけ方 ミシェルさんは現在、新しいパートナーと一緒に暮らしています。結婚の予定はないそうですが、今とても幸せだと言います。最高のパートナーを見つける上で重要なことは何ですか?と聞くとこんな答えが返ってきました。 「とにかく、できる限り、正直であること。パートナーや自分自身に正直ではない人を見かけるわ。私もそうだった。でも正直であるほど、すべてが上手くいくの。もっと多くの助けを得ることができるのよ。今の彼と関係を持つようになってから、ありのままの姿を見せようと思った。何も隠さないって。 不細工でも、怒っていても、自分自身についてよく思っていなかったとしてもね。そうしたら、とっても大きな自由を感じることができたの。そしてもし同じことを両親、子ども、友人にやってみればどうなるのかなって思ったの。それはとても大きな冒険だった。今はもう失敗したことを話すのは恐いことではないわ」 そんなミシェルさんは、ブログでも普段の生活で上手くいったこと、そうでないことの両方を見せるそうです。「人は、自分をよりよくするために、戦うべきだと思うの。世界で最も幸せな人は、彼ら自身や持っているリソースを最もシェアした人だと学んだのよ」 「自分をよりよくする」というのは外見や持ちものにお金をかけたり経済力のある人と生活できることを他人に見せることではなく、ありのままの自分を受け入れてそれを信頼している人たちに見せることなのです。 恥を隠すために覆っているものを一枚、一枚、はがしていくことは恐いことでもありますが、それは周囲の人に“誰もが完璧な存在ではない”という安心感と信頼を与え人を惹き付ける魅力となります。 FacebookやTwitterで充実した生活ぶりを一生懸命アピールする人はたくさんいます。私もときどき、自分のことをよく思われたいと思って書いていないか自分に問いかけます。 実際にそうしているときはないとは言えません。自然にやってしまうこともあります。ただしそういう内容ほど、本当の意味で他人の共感や信頼を得ることはできないと感じています。 2010年のTEDxHoustonでスピーカーとして登壇したヒューストン大学の教授で研究者のブレネー・ブラウンさんは、“傷つく心の力”というタイトルで、それが帰属意識や愛情に溢れた人が共通して持っているものであると説明しています。彼女は最後にこんな言葉でスピーチを締めくくりました。 「もっとも重要だと考えるのは、自分はよくやっていると信じることです。なぜなら、自分はよくやっていると言える立場を信じてそこから働きかけるときに、叫ぶのをやめて傾聴し、もっと優しく穏やかに周りに接し、自分自身にも優しく穏やかになれるからです」 理想のパートナーや理想の自分のイメージに捕われず、自分や相手のレベルを量るための物差しがない、不確かな状況をまずは受け入れる勇気を持つことでお互いにとって本当に意味のあるライフスタイルが段々見えてくるのではないかと思います。 さらに、デンマーク人のように、子どもができて10年たってから結婚してもそれがその人の幸せであればいいじゃないかと、個人の意思を尊重する寛大な心を持つことがこれからの日本人のライフスタイルの可能性を広げ、より豊かにするのではないでしょうか。 次回の第7回は9月27日掲載予定です。 (7・8月はお休みとなります) 大本綾(おおもと・あや)
1985年生まれ。立命館大学産業社会学部を卒業後、WPPグループの広告会社であるグレイワールドワイドに入社。大手消費材メーカーのブランド戦略、コミュニケーション開発に携わる。プライベートでは、TEDxTokyo yz、TEDxTokyoのイベント企画、運営に携わる。2012年4月にビル&メリンダ・ゲイツ財団とのパートナーシップによりベルリンで開催されたTEDxChangeのサテライトイベント、TEDxTokyoChangeではプロジェクトリーダーを務めた。デンマークのビジネスデザインスクール、The KaosPilotsに初の日本人留学生として受け入れられ、2012年8月から留学中。 ■連絡先 mail 9625909@facebook.com Facebook http://facebook.com/ayaomoto7 Twitter https://twitter.com/AyA_LVPC |